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サロメちゃんと

友達のサロメちゃんが大学を辞めてしばらく経つ。私とサロメちゃんは学部もサークルも違うけど、何故か一緒に講義を受けたり、ご飯を食べたりすることが多かった。だから自分は特別仲のいい友達だと思ってもらえてるんだって、勝手に勘違いをしていた。そう思っていたのは、私だけだったらしい。

今日も彼女のいない大学で講義を受ける。友達が他にいない訳では無いけど、無意識にサロメちゃんを探してしまい、日々虚しさを感じていた。こんなに好きだったのに、彼女が大学を辞めてから、1度も連絡を取れていない。何を言っても傷つけてしまいそうで、日和っていたのだ。喪失感を手放せないままの私に追い打ちをかけるように、世間は冬を迎えつつある。

彼女のことを忘れてしまった方が良いのかもしれない、そう思いバイトに明け暮れていたある日。突然LINEが届いた。通知なんか来なくたって毎日見ていたアイコン。サロメちゃんだ。

「ごきげんよう✨あなたの金曜日の夜の時間を4週分、わたくしにくださらない?わたくしのお家で一緒に過ごしましょう🏠🥤お返事お待ちしておりますわ❣️」

お互いの家に遊びに行ったことはあるが、それも随分前の話だ。どうして私を誘ってくれるのだろうと疑問に思うのと同時に、もし会わなかったらもう二度と彼女とは会えないだろうと悟った。この機を逃す手はない。私はすぐに「空けておくね」と返信をし、金曜日のバイトを友達に代わってもらった。

待ちに待った金曜日。可愛いけど気合いが入りすぎてない服を選んだつもり。メイクも頑張ったし、髪も切った。完璧。手土産にシュークリームと苺ミルクのお酒を持ち、彼女の家のインターホンを押す。遠くから「はーい!」と明るい声が聞こえる。長い間聞けていなかった、大好きな人の声だ。

ドアを開けて出てきたサロメちゃんを見ると、思い出の中の彼女よりも小さく見えた。少しやつれたように見えるし、本当に小さくなったのかもしれない。それでも彼女は極めて明るい声で、今まで通り話してくれた。

不自然に薄暗いリビングのクッションに腰掛けると、サロメちゃんが私に向き合った。私もつられて良い姿勢で座り直す。なぜ私を呼んでくれたのか、その理由を聞かせてもらえるのだろう。

「今日は来てくださってありがとうございます。実はお願いがあって……。」

彼女は手に持っていたものを固く握りしめた。

「今夜の金曜ロードショーは、4週連続ハリーポッターの最初の週だから……。今週から4週間、わたくしの感情がどうにかなっちゃうのを助けて?」

言い終わるや否や、持っていたペンライトをブンブン振っているサロメちゃん。可愛い。

そう、彼女は【名前を呼んではいけないあの人】の夢女なのである。2人でお酒を飲みながら、妄想全開で映画のシーンを語ったり、時々ツッコミを入れたりしながら映画鑑賞をした。

ヴォ○デモート卿が出てくるシーンは、小声で「やばい」と呟いたり、かと思えば、大声で「キャー!」や「助けて!!」とオタクの模範解答のようなリアクションではしゃいだり、コロコロ変わる表情に彼女の本気の想いを見た。

私にその表情を向けてくれることは無いと知っているから、しばらくは隣でその表情を見させてもらえる幸せに浸らせてね、サロメちゃん。叫びすぎてむせている彼女に水を渡しながら、こんな日がずっと続きますようにと願った。

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