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guilty-A 第1話

[あらすじ]
『不思議の国のアリス症候群』
知覚された外界の物の大きさや自分の体の大きさが通常とは異なって感じられる事を主症状とし、様々な主観的イメージの変容を引き起こす症候群

主にエプスタイン・バール・ウイルス(EBウイルス)の感染による脳の炎症が幻覚などの精神症状を引き起こすと考えられる

2045年
新型のEBウイルスが発見され、人の脳内で変異したアリス症は世界中に蔓延

従来の症状であった主観的イメージの変容は個人の枠を超え、有機物・無機物問わず強制的に周囲の物体を脳内のイメージへ引きずり込む

5000万年の時を経て
人が種の域を超えた時
暗然の扉が開かれ
新たな世界が創造されるであろう

それは罪

神の領域に踏み込んだ人の過ち

[主な登場人物]
主人公
エリー・ヴァイオレット(25歳)
精神保健福祉センター・メディエルセブン
心理医療部・臨床心理士
アリス症 脳波周波数αアルファ10Hzヘルツ
特徴・茶髪に天パーのミディアムヘア
口調は優しく温厚な性格

ノア・マーヴェリック(25歳)
精神保健福祉センター・メディエルセブン
心理医療部・作業療法士 医長
アリス症 脳波周波数αアルファ13Hzヘルツ
特徴・黒髪短髪のツーブロック
冷静さと柔軟な思考を持つ

レナス・オルティーヌ(17歳)
メディエルセブンアリス症開放病棟患者
アリス症 脳波周波数δデルタ1Hzヘルツ
特徴・黒髪ボブ
普段は明るく振る舞っているが心に闇を抱える

ジェレミー・ビーブラッド(26歳)
精神保健福祉センター・メディエルセブン
医療看護部・精神科医
アリス症 脳波周波数βベータ18Hzヘルツ
特徴・銀髪ロング痩せ型
何を考えているか分からない不思議な人物


第1話[エスタノール航空771便]

2050年

精神保健福祉センター・メディエルセブン

アリス症を専門に扱う医療法人メディエルの7つ目にして最大の施設

メディエルセブンでは、アリス症患者の治療や保護、調査を行っている

・心理医療部、開放病棟
(鍵のかからない病棟、行動を制限する必要のない患者のケアをし、日常生活への復帰を支援する)

・臨床心理士のエリー・ヴァイオレットは、早朝のバイタルチェックを行うため、各部屋を巡回していた

・103号室にて

エリー「やぁ、ダリさん」「今日の気分はどうだい?」
・開放病棟の病室は、扉のある1面がガラス張りで周囲の壁は白く、中央にはベッドが置いてある

ダリ「あぁ…おはよう…エリー先生…」
「昨夜はあまり眠れなくてね…」
「ずっと親指の数を数えとったよ…」
「はて…何本じゃったか…」
・ダリはベッドの上で親指の数を数え始める

・年老いた患者に見えるよう、エリーはガラス越しに自分の両手を見せる

エリー「僕のは何本ですか?」

ダリ「…うむ…3本じゃな…」
・覗き込むようにエリーの手を見るダリ

エリー「おしい!ほら!両手で合わせて2本!」
「親指は2本ですよ!」
・エリーは両手の親指を立てて再度ダリに見せる

ダリ「おぉ…そうじゃったな!」
「今度はちゃんと数えよう…」
・そう言ってダリは自分の小指を数え始める

エリー(ダリさんはまだ脳波が安定しないか…脳波周波数δデルタ2Hzヘルツ…)
(薬の量は今のままで大丈夫そうだ…様子を見よう)

・エリーは診療録を記入しながら次の部屋へ

・104号室にて

エリー「レナス、おはよう」「もう起きる時間だよ」

・ベッドに寝ていたレナスは布団を蹴り上げて起きる

レナス「うーん…まだ眠い…」「あ、エリー先生…今何時?」
・レナスは目を擦りながらヨダレを垂らしている

エリー「もう午前10時!しかし、よく寝るねレナスは…」
・エリーは呆れたように、笑いながら頭をポリポリかく

レナス「寝る子は育つーー!ほら見て!」「育ってるでしょ??」
・レナスは上着のボタンを外しエリーに胸を見せる

エリー「おーこれは…まぁまぁかな!」

レナス「なんでよ!よく見て!Eだしっ!」
・レナスはガラス張りの壁に向かって走りだし、両手を広げて胸をガラスに押さえつける

エリー「大人をからかうな…」
・目線を逸らすエリー

レナス「あはは!照れた?」「ねぇエリー先生!彼女いるの?」「私が彼女になってあげようか!?」
・レナスは目をキラキラさせてエリーを誘惑する

エリー「レナスはまだ17でしょ?」「未成年に手出したら犯罪」
・エリーはガラス越しに人差し指でレナスにデコピンをする

レナス「ひーふーみー」「でも先生、まだ私の8つ上じゃん!イケルイケル!」
・レナスは指で歳を数えながら、部屋の中央に向かって歩き出す

エリー「だから…大人をからかうんじゃないって」
・エリーはレナスの診療録を書き始める

レナス「本気だよ?」「退院して…私が大人になったら、お嫁さんにして下さい」
・振り向いたレナスは腕を後ろに組み、エリーを見つめる

エリー「いや…嫁って…」

レナス「エリー先生は…恩人で…私を暗い部屋から救ってくれた人…」「でも、それだけじゃない…」
「エリー先生になら、私の全てをあげてもいいの…」
・部屋の中をウロウロしながら、エリーに想いを伝えるレナス

エリー「…頑張ったのはレナスだよ…」「僕は少し手を差し伸べただけ…」
「だから気を抜かずに治療を続けるんだ」
「順調にいけば3ヶ月後には退院できる」

レナス「そしたら結婚!?」「なら私頑張る!!」
・再びガラスの壁に向かって走るレナス

エリー「さ…次の患者…っと」

レナス「こらぁーー逃げるなー」「エリーぃーーー」

・ガラスを叩くレナスをよそ目に振り返るエリーは微笑んでいた

エリー(レナス・オルティーヌの脳波は安定している…)
(脳波周波数δデルタ1Hzヘルツ…)
(投薬もないし…3ヶ月後には退院させてあげたいな…)

・レナスの診療録を記入しながら歩くエリーは、見慣れない心理士とすれ違う

エリー(……?誰だろう?初めて見る顔だな)

先輩心理士「エリー先生!作業療法士のノア医長がお見えになってるよ!」

ノア「よ!エリー、ちょっと付き合えよ」

・先輩心理士とノアの声に反応したエリー

・再び振り返ると、先程すれ違った心理士は姿を消していた

エリー「??…………あ、すぐ行くよ!」
・エリーはノアに誘われ、病棟のある建物の屋上へ

エリー「ぷはぁー染みるぅー」
「なんか久しぶりだね!ノア」
・2人は缶コーヒーを飲みながらベンチに座る

ノア「お互い忙しいからな…」「どうだ調子は?」

エリー「うーん、退院患者の数は昨年に比べて20%程増えてるけど…」
「新規の受け入れ患者が倍以上に増えてるから、毎日カツカツ…」

ノア「ここ半年で脳波周波数θシータ4Hzヘルツ以上のアリス症が増えてるな…倍とはいかないが…」
「とにかく感染者が多過ぎる…」

エリー「ノアも大変だね…」
「この先どうなるんだろ…世界は…」

ノア「さぁな…ジェレミーのヤツも医療部で頑張ってる…」
「俺たち3人の夢も、諦めた訳じゃないが…」

エリー「……この世からアリス症を消し去る」
「でも…なにか突破口がないと…」
「このままじゃジリ貧になる…」

ノア「……例のモノは…見つかったか?」
・立ち上がるノア

エリー「…いや…手がかりはないよ、今のところは…」
・エリーも立ち上がり、缶をゴミ箱に捨てる

ノア「そうか…俺も何か情報があれば教える」
「…それより、勘付かれるなよ?・・・・・・・・

エリー「……わかってる」

・そう言って2人はお互いの業務に戻る


・その日の夕方、開放病棟の配電室で白衣を着た者が何者かと連絡を取っていた

謎の人物「えぇ…はい…仕込みは完了しております」
「はい…では、手筈通りに…」
・連絡を終え、謎の人物はその場を立ち去る


・その夜

・突然の地響きと共に、開放病棟に設置中の警報が鳴り響く

・当直のエリーは警報の原因を確認すべく病棟に向かい、途中で倒れている後輩心理士を見かけた

エリー「何が、何があったのです!?」

・周囲の様々な物は床に落ち、通路の壁は所々に亀裂が入っている

後輩心理士「うぅ…体が…重い…」「脱走者が…」
・後輩心理士は起き上がれずにいた

エリー「過重力・・・が発生している…」
「誰かが4Hzヘルツ以上に!?」

後輩心理士「…ヴァイオレット先輩…どうして動けるのですか?」「私は…体が…」

エリー「この程度なら・・・・・・大丈夫!」「君は…もし動けるようになったら、応援を呼んで患者の安否を確認してくれ!」

後輩心理士「…は、はい…先輩もお気をつけて…」

・エリーは壁の亀裂が濃くなる方へ向かった

エリー(この病棟に4Hzヘルツ以上の患者はいない……一体誰だ!?)

・104号室
・レナスの病室の壁ガラスが吹き飛び、向かいの通路には直径2m程の穴が空いているが、彼女の姿はない

エリー「……レナス!?」
「そんな…彼女の脳波は1Hzヘルツで安定してた!…暴走はありえない!」

・エリーは今朝すれ違った見慣れない心理士を思い出す

エリー「…あの男…」

・エリーにノアからの無線が入る

エリー「ノア!」

ノア「エマージェンシーだ、エリー!」
「レナス・オルティーヌが脱走した!」
「今、俺が追ってる!」

エリー「僕も今確認したよ!彼女は今どこに!?」

ノア「エスタノール航空771便をハイジャックして、空の上だ!」

エリー「!?…空だって!?」「行ける・・・のか!?」

ノア「副部長のアリス・・・・・・・を発動して頂く…問題ない」

エリー「………」
・拳を握りしめるエリー

ノア「エリー…こうなった以上、わかってるな?」

エリー「…僕も行く!」

ノア「お前!何言って…」
エリー「頼む!君の邪魔は絶対にしないから!」

ノア「ちょ…」
エリー「ノア、レナスは…自分で暴走するような子じゃないんだ!」

ノア「…………ったく」
「…………」

「…………おっけ…」
「…わかったから、1分で準備しろ」

エリー「!!」「ありがとう!」

・エリーはノアと合流すべく走った


無線「エスタノール航空771便は現在、高度を約3000フィートまで落とし飛行中」
「過重力の影響により時速640Kmの速度でもなお、機体は高度を上げる事ができていません」

・飛行中の771便の機体先頭、コックピットの先(レドーム)に立っているレナス

・レナスはレドームで両手を広げ風を感じていた

レナス「はぁ…気持ちいい風…」
「みんなで…一緒に…逝こう…」

・機長らは必死に舵を握り、乗客は皆頭を屈めていた

・771便の機体上部の中腹に次元の穴が開き、エリーとノアが姿を現す

無線「転送完了、771便が墜落するまでの猶予は約5分よ」「ノア、頼んだわ」

ノア「了解…副部長、転送ありがとうございます」

エリー「2年ぶりだよ…白衣じゃなくて…」
黒衣を着るのは・・・・・・・

ノア「エリー、脳波を調整して物体との慣性力を中和しろ」
「気を抜いたら一瞬でふっ飛ばされるぞ!」

エリー「もうやってるよ…」
「さすがにキツいけど…」

・アリス症の症状である主観的イメージの変容

・本来であれば慣性力により凄まじい風圧で吹き飛ばされるであろう肉体を、逆の慣性力・・・・・を働かせる自身の脳内イメージに引きずり込む事で、2人は普段と変わらない動きを再現する

ノア「…ふっ、さすがだな…行くぞ!」

・レナスを追って機体の先頭に向かう2人

・風を感じているレナスは、奴隷として囚われていた過去を思い出す

[回想]
・薄暗く狭い部屋
・顔もよく見えない大男に、幼い頃のレナスは暴力を振るわれていた

大男「オラぁ、このドブ虫が!」
「くせぇんだよ!オラ!」

・鉄の棒で何度も殴打されるレナス

レナス「いやっ!…っぐっ!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「やめて!やめてよぉ!…っ!」

大男「飯食えてるだけでもありがたいと思え!」
「お前が死んでも誰も困らねぇ…」
「その辺の虫と同じだからなぁ!!」

・血だらけのレナスは意識が遠のいていく

レナス「痛い…よ…もう…………」

・途切れそうな意識の中…薄暗く狭い部屋の扉が開き、小さな光が差し込む光景をレナスは見た…

[回想終了、舞台は再び771便へ]

・背後に気配を感じるレナス

レナス「やっぱり…来てくれたんだ…」
「エリー先生…………」
「……待ってた…」

・エリーとノアは、771便のコックピット上まで到着

ノア「レナス・オルティーヌ大人しくしろ」
「拘束に応じなければ、容赦はしない」
・ノアはレナスに銃を向ける
・その銃は、銃体が赤い金属で覆われ、銃口の形状も通常とは異なり、縦に細長くなっている

レナス「作業療法士か…下がってなよ」
「私はエリー先生と一緒に死ぬんだから…」

エリー「!!」
ノア「なに?」
・振り返ったレナスはノアを睨みつける

レナス「ほら…先生…こっち」
「一緒に逝こ…」
・人が変わったかのように、レナスは笑顔でエリーを見つめる

エリー「………」
ノア「お前の要求は聞かん!」
・先程よりも強く、ノアはレナスに銃口を向ける

・エリーはノアの前に手を出し、彼を制止する

ノア「!!?」「エリー!邪魔はしない約束だぞ!」

エリー「…ごめん、ノア」
「やっぱり…1分だけ時間をくれないか?」
・レナスの方へゆっくり歩き出すエリー

レナス「ほらぁ!アンタは下がって」
・レナスは嬉しそうにノアを睨む

ノア「…………」

レナス「下がれっつてんだろが!!」
「このドブ虫が!!下がれよ!!!」
・動かないノアに対し、激昂するレナス

ノア「………1分だぞ…エリー」
「…それ以上は待たない」
・ノアは少しだけ2人から距離をとる

エリー「…ありがとう」
・レナスに歩み寄るエリー

レナス「…先生…エリー先生…」
・レナスはエリーを抱きしめた

エリー「レナス…」
・そしてエリーは悲しそうな表情でレナスを見つめる


『エスタノール航空771便の墜落まで…あと4分…』


第2話へつづく

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