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0010 憲法と私

〇 奈良で弁護士をしています

 私は、1963年生。 奈良で育ち、京都で学生生活を送った後、奈良に戻り、弁護士をしています。

〇 全面改憲案と安倍晋三氏の登場

 司法試験の受験科目として憲法を勉強しましたが、本格的に憲法の問題に取り組みはじめたのは2004年からです。
 このころ、イラク戦争を契機に、いろいろなところから憲法改正案が出されていました。それも9条だけではなく、条文を総入れ替えする全面改憲案です。
 そして、自民党も、全面改憲案を出すという。その準備作業についての情報も入ってきていました。
 当時の総理大臣は小泉さんでしたが、既に(今は亡き)安倍晋三氏が頭角を現していました。
 そして、2005年10月に自民党が「新憲法草案」を公表し、2006年に憲法改正を公約に掲げる安倍晋三氏が総理大臣となりました。
 

〇 人権大会 -大見得切ったツケを20年かけて払う


弁護士会はどうすべきか


 さて。これに対して日弁連(日本弁護士連合会)はどのように対応すればよいのだろうか? 非常に厳しい選択を迫られました。
 実は、弁護士会は、弁護士であれば必ず入会しなければいけない「強制加入団体」という特殊な組織です。
 ですから、会員の中には、自民党の代議士さんも含めて、実に多様な考え方の人たちがいます。当然、護憲派の人もいれば、改憲派の人もいる。無関心な人もいる。
 舵取りを一歩間違えれば弁護士会が分裂しかねない・・・というピリピリした緊張感につつまれていました。
 

大見得を切る


 当時、日弁連人権擁護委員会の副委員長だった私は、憲法改正問題について、「人権擁護大会」というイベントの中で、全会あげて取り組むべきだ-という意見でした。

 それを聞きつけた当時の副会長から呼び出され、
「無責任なことを言いふらしているようだが、改憲問題はデリケートな問題だ。もし、これをきっかけに日弁連が分裂したらどうする?」
と問い詰められました。

 それに対して、
この問題については『沈黙』も一つの態度です。日弁連はどういう意見なのか?-と世間の注目を浴びている中で、何も意見表明しなければ、それを不満に思う人たちが弁護士会を分裂させますよ。」
と大見得切ったことを思い出します(少しお酒も入っていました)。

 その後、「アホたちは止められない」ということで、企画が採用されたのですが、言い出しっぺの責任が・・・。
 それから1年間は、「言い出しっぺの仲間達」と一緒に、準備に忙殺され、地獄を見ました(苦笑)。

2005年人権大会

 ただ、そのかいあって、2005年11月に鳥取で開催された日弁連人権擁護大会は大成功をおさめました。
 空前絶後の2600人を集めたシンポジウム「憲法は何のために、誰のためにあるのか」が開催され、翌日の大会で「立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を求める宣言」が採択されました。

キーワードとなる立憲主義

 このときキーワードとなったのが「立憲主義」です。
 今でこそ、政党の名前に入るほどポピュラーな言葉となっていますが、実は、戦後、この言葉は、憲法の教科書以外では、ほとんど使われていませんでした。
 しかし、「憲法は何のために、誰のためにあるのか」という点をとことん追究すると、「個人主義」と「法の支配」という聞き慣れない言葉が出てくるのです。
 これこそが「立憲主義」と呼ばれる憲法の基本理念の正体であり、自民党の改憲案はそれを根こそぎ否定するものだ-という点で、ほぼ全会一致で宣言が採択されたのです。
 これは、私の60年余の人生の中で、一つのピークとなったビッグ・イベントでした。
 

憲法に取り組んだ20年

 ただ、大見得切ったツケは1年では終わりませんでした。
 その後も、憲法改正問題は、常に政治課題の一つであり続けました。
 今でもそうです。
 安倍氏も、私が住む奈良の地で非業の死を遂げられるまで、手を変え品を変え、憲法改正を訴え続けられました。
 それゆえ、私も、約20年にわたり、主として弁護士会を活動拠点として、憲法、特にその基本理念の問題に取り組んできました。
 
 その中で、いろいろな勉強をしてきました。
 本職の憲法学者の皆さんから見れば、憲法学と政治学と哲学がいりまじった変なことをいう弁護士がいるなあということになるでしょう。
 ただ、まあ、とにかく、カネには縁がありませんでしたが、楽しくも充実した20年間でした。
 

〇 ふつうの大人がわかる教材を


 ただ。 安倍元総理も亡くなりました。
 気がつけば、私も還暦も過ぎ、孫の顔も見ました。
 そろそろ、先頭きって難しいことをこねくり回す役割は後輩達に譲り、今まで勉強してきたことを形にして、普通の人たちに還元する時期がきたかな。
 そんなことを考える歳になってきました。
 
 実を言いますと、小中学生を対象に極限まで「わかりやすさ」を追求した教材は、すでにあります。
 これは、2005年の大会後、小中学生むけに弁護士会が作成した「憲法って何だろう?」という絵本です。
 私も作製作業に参加しましたが、おそらく、日本で一番やさしくて、奥が深い憲法の入門書だと自負しています。
 今でも時々マスコミから取材を受けますから、超ロングセラーですね。
 日弁連のHPでも公開されています。
https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/jfba_info/publication/pamphlet/what_pic-book.pdf
 
 ただ、この絵本と、今まで書き連ねてきた小難しい論文とのギャップが大きすぎる。
 それを埋める、「普通の大人」むけの、平易だけれど奥深い文章 を書いてみたい。
 それが、この文章です。
 寝転がりながらでも、読みすすめていただければ、嬉しく思います。
 おお、なるほど!-と思っていただけるのなら、なおのこと嬉しいのですが。
 宜しくお願いいたします。


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