藤崎彩織『ふたご』を読んで思ったこと。をつらつらと。

Saori.ちゃんの書いた歌詞の作品には、『プレゼント』という曲がある。

数年前に多感な10代の学生の課題曲に選ばれて、最近では某ディズニー映画の曲なんかにも使われている。

私は今から4年前の24歳の時、病院の薄暗い隔離病棟の部屋で、この『プレゼント』という曲を時々囁くように、叫ぶように何度も何度も歌っていた。

なんとなく。頭の中に浮かんだ曲だったから歌っていたのだが、あれから数年たって、シェアハウスに入り就労継続支援事業所に通うまでに自分の生活を立て直した今、この歌を口ずさんでいると、自分の部屋の中でも、バスの中でも、喉ぼとけに熱い塊ができて、次第にそれが喉をぐっと登ってきて、ワッと泣き出してしまう。

”気づいたんだ、プレゼントみたいなものなんだって”
”だから楽しみにしながら、ゆっくり開けたらいいんだ”
”ひとりぼっちにさせないから、大丈夫だよ”

歌詞の内容があまりにも優しくて、優しくて。この人はなんて優しい人なんだろうか、と思ってしまう。
こんなに優しい人は、めったにいない。

街の小さな書店で藤崎さんの本を見つけた時、私はあの人気バンドSEKAI NO OWARIのSaori.ちゃんの書いた本だと思い、

『あ、Saori.ちゃんの本だ』
とほくほくしながらその本を手に取っていた。

でもこの本は、どこまで行っても藤崎さんの本で、どうしようもなく夏子の本なのだ、と読みながら思った。
そうして読みながらも、それほどまでに生々しくても、時々朗らかに、呆れたように夏子が笑う時やラジオの登場シーンが多くなったあたりとかで、『あ、Sairi.ちゃんだ』とSEKAI NO OWARIのSaori.ちゃんを見つけてしまう。これは私の知らないSEKAI NO OWARIのみんなの物語なのだ。

頑張れたほうがいい。頑張れないほうがしんどいと言う月島と、それまで頑張る理由なんて考えたこともなかった、頑張る理由が見つからなくても頑張らないほうが怖いように感じる夏子。

私は今までの人生、たぶん、常に頑張ってきた、と思う。頑張らないことのほうが、私には難しい。

それは、たぶん夏子のように頑張らなくなった自分が怖いようにも感じていたし、夏子のように頑張らない自分のことは嫌いになると思うから。
私は夏子ほど若い時から何かに打ち込んで頑張ったことはないけど、完全に夏子タイプだなと思う。だから、夏子に共感しながら本を読んでいた。

バンドが成功して、月島達みんなが成功して、本当に良かった、と思う。
絵描きになりたくて、でも挫折してしまって、それでも描くことをなんやかんやで続けてしまってる自分も、端くれなりに成功の味も、挫折の味も知っているから。

月島と夏子が、ふたごのようでよかった。本当のふたごになれなくて、よかった。

これは藤崎さんの長い長い片思いのお話でもある。けれど、片思いというにはどこか重たくて、どこか叶いそうな片思いでもある。
でも、無理やり叶えようとせず、ふたごとして、時には呆れたり、しょうがないなと言いながら。

ずっと、これからもずっと深瀬さんのそばに居続けるから、藤崎さんは優しい人なんだと思う。


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