夢で会えたら

今回は中学生の頃の思い出を書こうと思います。

長いですがお付き合いして頂けると嬉しいです。

『夢で会えたら』

中学生の僕はバスケットボールに夢中になっていた。

きっかけは、たまたまテレビで観たアメリカのプロバスケットボール(NBA)の試合。

「すげぇー…」

気が付けば僕の視線はあるプレイヤーに釘付けになっていた。

マイケル・ジョーダン。

ブラウン管に映し出された華麗なプレー、ものすごいダンクシュート。

とにかく全てがかっこいい!

一瞬で彼のファンになってしまった。

ジョーダンみたいになりたい!

なれるワケないのに本気でそう思ったのを覚えている。

それから学校の昼休みは体育館でバスケの練習を始めた。

ジョーダンのプレーを見よう見真似でマネしてみる。

学校から帰ってもバスケがしたくてしたくてしょうがない。

たまたま家にあったバレーボールで

空に向かってシュート練習をする。

こんなんで上手くなれるはずがない。

僕はバケツの底をくり抜いて、それを庭にあるキンモクセイの木にロープでくくりつけた。

家の庭がバスケットコートに早変わりした。

バケツに向かってシュート!

ガコン。

バレーボールは、キンモクセイの木の枝に少し触れて

バケツの中に吸い込まれた。

イエス!

その日からバケツに向かってシュートを打ち続ける日々が始まった。

真っ暗になっても月明かりを照明代わりにして。

それからしばらく経った。

「おいモス!

何ニヤニヤしてんねん!パスパス!」

ドンドンドンドンドンドンドンドン。

最初は一つか二つだけだったバスケットボールを地面につく音は

いつしか体育館いっぱいに響き渡るようになっていた。

第一次バスケブームの到来だ。

僕の学校にはバスケ部が無かった。

しかしある期間中、体育の授業がバスケになったことで、みんなバスケの楽しさに気付いたのだろう。

響き渡るボールの音。

なんか凄い嬉しかったのを覚えている。

バスケブームは一気に熱を帯び、昼休みは体育館全面を占領して試合をするようになった。

試合のメンバーは先生が決めた。

バスケに自信のあるヤツらが試合のメンバーに次々に名乗りを上げる。

メンバーに選ばれなかった人はギャラリーとして参加した。

もちろん僕はメンバーに選ばれた。

ビブスをつける。

番号は23。

ジョーダンとおなじ番号だ。

試合を見つめる大勢のギャラリー。

僕がシュートを決めると歓声が上がる。

テレビで観た憧れのジョーダンになってるみたいで凄い興奮した。

僕はさらにバスケにのめり込んでいった。

*

僕の家にバスケットゴールがあることを知った友人達は学校が終わってから僕の家にバスケをするために集まるようになっていた。

バケツをくり抜いて木に縛り付けただけのお粗末なモノだったが

みんな夢中でバケツに群がってバレーボールを追いかけた。

気がつけばいつも辺りは薄暗くなっていた。

暗くてボールが見えないというので豆電球をキンモクセイの木に吊り下げて見えるようにした。

カチッ。

豆電球のスイッチを入れる。

花がライトアップされてとても綺麗だった。

休憩中は汗を拭きながら秋の夜空に映えるダイダイ色のキンモクセイの花をみんな無言で眺めた。

それからしばらくして、

僕の家に通っていた友人がバスケットゴールを親に買ってもらったという!

しかもボールは本革の公式球!

友人の家は金持ちだったので、親に頼んで買って貰えよ〜。

とか冗談で言ってたのだがまさかホントに買って貰うとは!

ヤッター!ヤッター!

学校が終わり

友人の家まで自転車をフルパワーで走らせる。

それからは友人の家でバスケを目一杯楽しむようになった。

またしばらくたった。

母「もう使わないんやったら、あのバケツ外しといてよ」

あ。忘れていた。

バケツを木にくくりつけたままだ。

たしかにもう必要ない。

「はーい」

しかしめんどくさいので

ほったらかして僕はそそくさとバスケットゴールのある友人の家を目指し自転車に飛び乗った。

それから一年くらいが過ぎた。

中学三年になっていた僕はバスケをする時間を受験勉強に奪われていた。

バスケ仲間達ももちろん僕と同じでバスケを楽しみに集まる回数は少しずつ減っていった。

そしてバスケブームは徐々に終焉を迎えていった。

秋になった。

母が言う。

「キンモクセイの花が咲かへん」

毎年いい匂いで秋の訪れを知らせてくれるキンモクセイの花が一向に咲く気配がないという。

「もうおじいさんやからな。

弱ってるんかな

あのキンモクセイ」

…。

「ふーん」

そのとき僕は思い出した。

バケツ外してない!

急いでキンモクセイの木のところへ走る!

バケツを外す!

バケツをくくりつけていた場所は木の形が変形してボロボロになっていた。

枝もボロボロ。よくボールが当たって折れてたのを思い出す。

花が咲かないのは多分自分のせいだ。

ロープでキツく縛って、

何千回もボールをぶつけて、

枝も折ってしまっていた。

なんてことをしてしまったんだ。

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

僕はキンモクセイに何度も謝った。

その夜。

夢をみた。

目の前にキンモクセイの木があった。

キンモクセイをただ見つめる僕。

そして聞こえたんだ。

「ありがとう」

って。

朝飛び起きてキンモクセイに会いに行く。

すると

ボロボロになった枝に

蕾が顔を出していたのを見つけた。

こんなことを思い出していたら、

あの時言いそびれた言葉を

もう会えないかもしれない、あなたに伝えたいと思い願う自分がいる。

『ごめんなさい

ありがとう』

もしも

夢でまた会えたら。

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