ニューヨーク・タイムズ紙の自負



ニューヨーク・タイムズ紙の有料購読者が1000万件を超えたと、2022年2月3日の東京新聞が伝えている。このうち、デジタル購読件数が800万超という。

米NYタイムズ紙、有料購読者1000万件突破 目標を3年前倒しで達成 :東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

これは、大成功といってもよいのではあるまいか。そして、その秘訣は、裏口を開けたままにしておいて、無銭閲覧を自由に許している点である。

つまり、厳格な課金制というよりは、寄附といったほうがいいのかもしれない。イギリスのガーディアン紙も同じ方針を取っている。

生活にゆとりがなく、クレジットカードに縁のない暮らしをしている人は、どうぞ、裏口からお入りください、という仕掛けである。

ただし、裏口から入る方法は、ネット上から見つけ出す必要がある。クレジットカードを持っていない人にも、この新聞を読む機会を与えたいと考える人がいるのであろう。

英語が母語なら、高校生や大学生、いや小学生でも、タイムズ紙のファンは多い。時間だけは、たっぷりあるから、ネット上に公開されている情報を駆使して、裏口から侵入する。このことに、密かな喜びを感じているのかもしれない。

インターネットの最大の魅力は、世界のどこにいても、だれにでも、オープンという点である。この点を最大限に配慮して、タイムズ紙の幹部は、表向き課金制、実は寄附というシステムに踏み切ったのではあるまいか。

収入のない学生や貧しい人々に裏口閲覧を許したのは、将来の購読者を育てるための投資といえるかもしれない。

立派な納税者になったときは、購読料をきちんと払ってくださいということだ。

ネット版の購読料は、この国の自宅へ配達される新聞と比べて、かなり安い。紙代、インク代、輸送費がかからないせいか、初めての人にとって、1年目だけは年20ドルとかなり安い。これで、100年前の記事を読めるのだから申し分ない。

筆者は4週間ごとに、8ドル20セント払っている。

裏口からの閲覧者をできるだけ多くして、こんな記事が毎日読めるのなら、お金を出してもいいと考えるようになる人を大幅に増やすことが、タイムズ紙の目的である。課金制を厳しくすると、たいていの人々は、そのサイトを再訪する意欲をなくしてしまう。

米国の新聞社がバタバタ倒産の憂き目にあっているなかで、この新聞だけは、なんとしても経営破綻から救いたいと考える人も多いことであろう。

良質なジャーナリズムを提供する限り、世界中の人々は、絶対にわれわれを見捨てることはあるまいという、タイムズ紙の強烈な自負が感じられる。

それと同時に、われわれの良心が試されているともいえよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?