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求められなかったセンスの行方

「どうしてこんなに安くなるんですか?」値下げ幅5万円の今の価格には、青年が疑問を持ちます。
好きなんだけど、「何か不具合でもあるのか?人気がないのか、それとも欠陥があるのか?」お客さんが売れ残った原因を探りたがります。

でもね、販売現場で経験を持って言えることは、「物が良ければ売れるとは限らない」、そして「人気だからと言って物がいいとも限らない」とのことです。
大人になって、スーツを買いに来るお客さんは、社会における自分の配役が分かっていて、その役に期待されているイメージ通りの服を求めています。
例えば、「地味〜なスーツがほしい」と明言したお客さんがいます。だからと言ってそのお客さんが面白味のない人でもないです。動きやすいのがいいということで横幅のあるスーツを着たがっていますが、「これは、にわかにダイエットが成功したときのお洋服みたいですね」と言ったら、笑って認めて体型に合う服を選びました。そう、むしろ快活な方だったです。公務員という職業柄で地味なスーツほど我を忘れて仕事に集中できるでしょうね。
「どうしてこんなに安くなるんですか?」今日この質問をしたのはジャケットを探しに来た青年は20代前半です。非常に気に入ったけれども、見るからに高そうな、生地も縫製も一流のクォリティを持つこのジャケットのお値段に驚いて、説得して欲しかったんですね。

「どうしてでしょうね。このジャケットは、個性が目立ちます。一流ですけれども、それを求めていない人が多いでしょうね。もちろんそれを求めている人もいます。まさかここにあるのか、知られなかったまま、お客さんを待っている間に商品の有効在庫期限が近づいてしまいました。……そうですね、今までわたしの接客でこのジャケットを買った方の印象といえば、クリエイティブな人、おしゃれが好きな人、個人を表に出してもいいような人、そして、夢のある人ですね。」とアリスは言葉を選びながら呟きました。答えになっているのかなぁと、一抹の不安がありました。

「夢のある人ですか。……もう少し考えさせてください。」と言って、青年と友人が店を去りました。アリスは何か余計なことを言ってしまったのですか。良さを認めていたし、似合っていましたし、「これを着ると、おれ、お金持ちに見えるね」と目を光らせて照れ笑いしていましたし。

夢のある人とは、どんな人でしょうか。おそらく、人生の黄金時期、お金を持っていないかもしれませんが可能性と自由がある人、まだ配役に嵌まり切っていない、自由の選択肢のある人でしょうね。そういうとき、思い切って自分の好きを探して、大胆なチャレンジもできるでしょうね。そうしたら、自分も世界もどんどん面白くしていくでしょうね。

結論からいいますと、二時間後、青年は友人と一緒に戻ってきました。持ってきた現金(当初予算)に超過した二千円を友人から貸してもらって、ジャケットと共地のベストを購入しました。

自分の好きに忠実な青年よ、楽しくお金持ちにな〜れ!アリスは祈ります。





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