バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)/BiRDMAN OR(THE UNEXPECTED ViRTUE OF iGNORANCE)

はじめまして、あれはんどろです。

ワタシは映画が好きなのですが、自分で実際に観て面白かった作品を、まだその作品と出会っていない方に知ってもらえたら、面白い映画と出会えるキッカケになれたらいいなと思い、こちらに書かせていただくことになりました。

最初に選んだ映画は、ワタシの尊敬するアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の作品です。

常に新しいアイディアや試み、撮影方法を探求しているイニャリトゥ監督の緻密な映画作り。
斬新で大胆、且つ映画愛に溢れたこの作品に、ワタシは終始圧倒されました。

かつてヒーロー映画で大ヒットを経験し、その後、落ちぶれてしまった役者の再起をかけた物語です。

ストーリー紹介 (-∀-)

20年前、映画 "バードマン" で大スターとなった過去を持つリーガン・トムソンは、"バードマン3" の成功以降、映画俳優として鳴かず飛ばずの日々を送っていました。

リーガンは役者として、あの頃の輝いていた自分を取り戻すべく、私財を投げうって "レイモンド・カーヴァー" の短編小説を舞台化。
自ら脚本を書き上げ、舞台俳優としてブロードウェイ・デビューを果たし、消えかかっている自分の存在をアピールしようと必死でした。

しかし、頭の中に聞こえて来る "声" は、リーガンに語りかけます。

「俺たちの居場所じゃない」

心の奥から語りかけて来る、内なる者の存在。
自分の中に棲む、過去の栄光を知る者…。

一世を風靡したコミック本のヒーロー、自分自身が演じたバードマンの囁く声に、リーガンは悩まされていたのです。

これは幻聴だと…。

プレビュー公演を明日に控えていたリーガンは、予定している出演者の一人、メル役のラルフの演技が気に入らず、何とかして彼を降板させようと考えていました。

今回出演する役者たち、レズリー、ローラ、そしてラルフが、舞台のセットで台本の読み合わせをしていました。 そこへリーガンが加わります。

いきなり、ラルフの演技に注文をつけるリーガン。
ラルフも要望に応えようと演技を続けますが、突如としてラルフの頭上に照明機材が落下。
ラルフは頭から血を流し、その場に倒れ込みます。
スタッフたちは大慌てでラルフに駆け寄りました。

リーガンは静かにその場から立ち去り、一部始終を見ていたプロデューサーのジェイクがリーガンのあとを追いかけます。

「裁判沙汰になるぞ」
「プレビュー公演は中止にする」
「完売だぞ。 返金は…」
「とにかく中止だ」

ラルフが出ていたら芝居は失敗だったと断言したリーガンは、中止の理由を考えておくとジェイクに話しました。 さらに、ラルフの身に起こった事は事故じゃなく、自分の超能力によるものだと言うリーガン。 ジェイクは意味がわかりません。

「酔ってるのか?」
余りにも唐突なリーガンの話を、全く信じていないジェイク。 リーガンは代役となる "上手い役者" を探すように、ジェイクに指示します。

そこへ、共演者のレズリーが代役の俳優が一人いると、リーガンとジェイクに話しに来ました。
その役者はマイク・シャイナー。
レズリーの恋人でもあるマイクは、舞台俳優として人気、実力共に申し分のない人物でした。

マイクが出演することで、客も呼べるし批評家の評価も上がると直感したジェイクは、この願ってもない話に興奮を隠せませんでした。

劇場にマイクが現れ、リーガンも挨拶にやって来ました。 早速、舞台の上でリハーサルをしようとマイクに言われたリーガンでしたが、いきなり自分の書いた脚本に、やんわりと注文をつけられます。

リーガンはハリウッドの映画俳優。
しかし、今は世間から忘れ去られそうな存在。
マイクはこのニューヨークが地元で、舞台俳優として成功していました。 マイクの脚本に対する解釈や演技の実力は本物でした。

台詞を深く掘り下げる演技に圧倒されたリーガンは、代役をマイクに決定しました。
そこへ、リーガンの娘サムがやって来ます。
サムはリーガンの付き人として、舞台の裏方の仕事を頼まれていました。
衣装合わせをするため、マイクを案内するサム。

舞台の裏ではリーガンとジェイクが、マイクと契約するしないで揉めていました。
ただでさえ予算が無い状態なのに、前の役者の4倍のギャラが必要だと話すジェイク。
リーガンは何とかして自分が金を作るから、マイクと契約してくれと話します。

共演女優のローラは、リーガンの恋人でした。
「2ヶ月生理がない」と、リーガンに詰め寄るローラに困惑するリーガン。

そしてプレビュー公演が始まるのですが、マイクは役になりきるため、舞台上で本物のジンを飲みながら演技をしていました。

主役のリーガンが舞台に登場。
さりげなくジンを水に取り替えるリーガン。
しかし、マイクはプレビュー公演中の舞台の上で、リーガンに食ってかかります。

「俺のジンを水にすり替えやがったな?」
「マイク、よせ…酔ってる」
「酔ってる場面だぞ!お前も酔え!」
観客の前でマイクはリーガンに詰め寄ります。

「カーヴァーだぞ!彼は酒浸りで書いてた。 年代やプロットを都合よく変えるな!」
そう言うとマイクは芝居をやめ、舞台のセットをメチャクチャにしてしまいました。

マイクをつまみ出せとスタッフに命令したリーガンでしたが…。《続きは是非本編をご覧下さい》

作品の裏話と個人的な感想 (-∀-)

ワタシの名前「あれはんどろ」の由来となった、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品。 メキシコが生んだ天才監督だとワタシは思っています。

先ず、この映画の凄いところは撮影方法なんです。
撮影監督はエマニュエル・"チヴォ"・ルベツキ。
チヴォもイニャリトゥ監督と同じメキシコ人です。

ブラッド・ピット主演『ジョー・ブラックをよろしく』なども撮影している人物で『ゼロ・グラビティ』と『バードマン』で、2年連続アカデミー賞撮影賞を受賞。 ちなみに、翌年にイニャリトゥ監督作『レヴェナント・蘇えりし者』で、史上初となるアカデミー賞撮影賞、3年連続受賞を達成しています。

今回の撮影方法としてイニャリトゥ監督に指示されたのは、長回しによる撮影でした。
通常、映画というのは短いカットがいくつも繋がっていくものですが、この映画ではワンシーンごとに長回しがなされ、ひとつのテイクがとても長いシーンとして撮影されました。

同じシーンを複数のカメラで撮影することはせずに、ひとつのカメラ、ひとつの目線で人物を追うのです。 ゆえに、リハーサルを何度もこなし、緻密な計算の上で撮影は行われました。

ひとつのシーンで次々と登場人物が入れ替わり、歩く速度や登場するタイミングなど、細かな指示が監督から出されました。 キャストやスタッフの一体感が重要で、ミスが許されない緊張感のある撮影になったようです。

映画を観終わると全てのシーンがひとつに繋がっているように見えて、途中の繋ぎ目が無いような、細かな編集がされています。

もうひとつ、この映画の凄いところが音楽です。
劇中の音楽は全編に渡って、ドラム演奏のみで表現されているのです。

思い返してみると、あまり過去に例がない手法と言いましょうか、とてもインパクトがあり、正直度肝を抜かれました。

ドラムの演奏はイニャリトゥ監督が以前に観たライブで、見事なパフォーマンスを見せたメキシコ人パーカッショニスト、アントニオ・サンチェスです。

突然、イニャリトゥ監督からアントニオに、映画に参加して欲しいと電話連絡がありました。 監督は「映画の音楽をドラムだけで構成してみたい」と伝えました。 アントニオは仕事を受けますが、すぐに疑問に思います。

「本当にドラムだけで(映画音楽を)やるのか?」と。

監督はアントニオに事前に脚本を渡していて、撮影前に何曲か録音をしました。 その録音された曲を編集し、後から撮影されたシーンに振り分け、監督がイメージするドラムの音を付け加えたり削ったりして音を加工。 アントニオに音を合わせた映像を見せ、もう一度最初から全シーンの映像を見ながら演奏をやり直しました。

映画のオープニングから最後まで、とにかくドラムの音が作品にリズムとテンポを付けていて、もっと言えばドラムの音でシーンの感情や温度までも表現しているように感じました。
終始イニャリトゥ・ワールド全開の素晴らしい試みとなったように思います。

とにかくカッコイイの一言です!

映画に出てくるレイモンド・カーヴァーという小説家は実在した人物です。 劇中で取り上げた小説は『愛について語るときに我々の語ること(原題What we talk about when we talk about love)
1981年に出版されたカーヴァーの短編小説です。
この小説はカーヴァーの本として商業的に成功した最初の小説だと言われています。

撮影はマンハッタンに実在するセント・ジェームス劇場で行われました。
撮影中、劇場の入り口には映画用に備え付けられた "リーガン・トムソン" の舞台看板がしばらくの間飾られていました。 通行人の女性数人が看板を見て、こんな会話をしていたそうです。

「リーガン・トムソンは聞いたことがないわ」
「私は知ってる。 英国人よ」
リーガン・トムソンは実在しない映画の中の人物ですが、女性の一人がリーガンを知っていると言い張ったそうです。

リーガン役のマイケル・キートンは、32年前に映画「バットマン(1989年)」で主役のブルース・ウェイン(バットマン)を演じた俳優として知られています。

「バットマン」はティム・バートン監督が「ビートル・ジュース」の成功で掴んだ仕事ですが、主役のバットマン役をマイケル・キートンに推したのはバートン監督でした。

これは「ビートル・ジュース」の主役、ビートル役をキートンが見事にこなした事が大きな理由でしたが、コミックのファンなどからは当初、マイケル・キートンの起用はイメージと違うなどと批判されました。 しかし、「バットマン」公開後はキートンの演技やバートン監督の世界観をファンも理解し、批判は沈静化したそうです。

マイケル・キートン自身が、過去にコミック・ヒーローの主役を演じた事で、「バードマン」への出演はとても意味のあるものになっています。

実際、イニャリトゥ監督は「マイケル・キートンが出なければこの映画は撮らなかった」と言っているくらい、キートンの出演を熱望していたそうです。

俳優の役をやるという本作でのマイケル・キートンの演技は、とてつもなく素晴らしいものでした。

ワタシは「バットマン」でのキートンのイメージが強く残っていたので、「バードマン」のアイディアを聞いた時は飛び上がって驚きました。
元バットマンのキートンが、イニャリトゥ監督作品のバードマンで主役に!

もうそれだけで充分面白そうだと直感しました。

内なる声、バードマンがリーガンに語りかける声は、リーガンを何処へ導くのか? 再ブレイクを目論むリーガンの野望は実を結ぶのか?

最後にリーガンが辿り着く境地…。
そこに全ての答えがあります。

【スタッフ】
監督…アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
撮影監督…エマニュエル・ルベツキ
脚本…アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
脚本(共同)…ニコラス・ヒアコボーネ
脚本(共同)…アレクサンダー・ディネラリス・Jr.
脚本(共同)…アルマンド・ボー
音楽…アントニオ・サンチェス
【キャスト】
リーガン…マイケル・キートン
ジェイク…ザック・ガリフィアナキス
マイク…エドワード・ノートン
サム…エマ・ストーン
レズリー…ナオミ・ワッツ
ローラ…アンドレア・ライズボロー
シルヴィア…エイミー・ライアン
タビサ…リンゼイ・ダンカン
ラルフ…ジェレミー・シェイモス
アニー…メリット・ウェヴァー
《2014年 / アメリカ / PG12》

第87回(2015年)アカデミー賞 監督賞、作品賞、脚本賞、撮影賞の4部門受賞。
その他にも国際的な映画賞を多数受賞。
その数は185部門にも及ぶとのことです。

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