ノクターナル・アニマルズ / NOCTURNAL ANIMALS

ファッション・デザイナーでもあるトム・フォード監督の、長編2作目となる作品です。

再婚後、仕事も成功し、何不自由のない生活を送る女性に、別れた夫が書いたという小説が届きます。
知り得なかった元夫の才能に触れた彼女の心の隙間に、小説の中の世界が静かに入り込みます。

彼女に捧げられたという小説の意図は何なのか…。

ストーリー紹介 (-∀-)

アートギャラリーのオーナーとして成功していたスーザン・モローは、実業家である夫のハットンとロサンゼルスの豪邸に暮らしていました。

金曜日の夜。 スーザンのギャラリーでは、前衛的なアート作品の展覧会初日を迎えていました。
展覧会は高い評価を得て大成功を収めましたが、来る予定だったハットンが姿を見せず、スーザンは寂しい気持ちで帰宅しました。

翌朝の土曜日。 スーザン宛に小包が届き、開けてみると小説の校正刷りが入っていました。
送り主は19年前に別れたスーザンの元夫、エドワード・シェフィールドでした。

小説には "夜の獣たち"(NOCTURNAL ANIMALS)というタイトルがつけられていて、小包には手紙が添えられていました。

小説を書いた
君といた頃とは作風が違う
君との別れが着想となった
校正刷りを読んでほしい
仕事で水曜までLAにいる
ぜひ会いたい
連絡を待つ
エドワードより

エドワードからの手紙に、スーザンの気持ちが少し揺れ動きます。 それはスーザンとハットンの間に、どこかぎこちない空気が流れていたからでした。

週末を二人でゆっくり過ごしたいと話すスーザンでしたが、ハットンは大事な契約を結ぶためにニューヨークへ飛ばなくてはならず、土曜なのに仕事だと言うのです。

会社の状況が思わしくないため、仕方のないことはスーザンも理解していましたが、どこか空虚で満たされない気持ちが、スーザンの心には渦巻いていました。

夫が仕事で不在の夜、エドワードから送られてきた小説を読んでみることにしたスーザン。 表紙をめくると、そこには "スーザンに捧ぐ" の文字が。
スーザンはその文字を指でなぞりながら1ページ目を開き、小説を読み始めました。

~ 小説の内容 ~
父親のトニーと母親のローラ、一人娘のインディアの三人家族は、車に荷物を積み込み、一路マーファという街を目指して走り出しました。

本来なら途中で一泊するほどの長い道のりでしたが、インディアの希望で目的地にノンストップで向かうことに。

テキサスの西部付近を走行する頃にはすっかり日も暮れて、インディアが使っていた携帯電話にも電波が届かなくなり、ラジオすら受信できない土地に入りました。 いつしか後部座席のインディアも眠ってしまい、ローラもウトウトし始めていました。

すると、真っ暗闇だった前方の視界に、二台並んだ車のテールランプが見えて来ました。

本線を走っていたのは赤いオープンカーで、対向車線を並走するように逆走していたのは、緑色の古いポンティアックでした。 ノロノロと走る二台の車は、二車線の道路を塞ぐように走行していました。

「どいてくれよ…」
先を急いでいたトニーはクラクションを鳴らし、その音でローラもインディアも目を覚まします。

すると、対向車線を逆走していたポンティアックが加速し始め、赤いオープンカーを追い越すように大きく前に出て本線に入りました。

トニーの車もそれに追随し、オープンカーを追い越します。 トニーはそのままポンティアックの後ろについて走りましたが、速度が遅く、トニーはポンティアックも追い越して二台の前に出ました。

トニーが車を追い越す際に乗っている人物を確認すると、若い男が三人乗っていました。 運転席の男は酒に酔っているのか、ニヤニヤと笑いながらトニーの車を前に行かせたのでした。

ポンティアックを追い越した時、後部座席のインディアが男たちに向かって中指を立てる仕草を見せました。 すると突然、ポンティアックは速度を上げ、トニーたちの車を猛追し始めたのでした。

「ママ、怖い…」
「速度を上げて」
インディアは恐怖に怯え、トニーやローラも動揺を隠せませんでした。

クラクションを鳴らしながら、猛スピードでトニーの車の横に並ぶと、男たちは家族を睨みつけ、助手席の男は何故か笑い出しました。

「インディア見るな。 刺激するんじゃない」
「なぜ笑っているの?」
「心配するな」

トニーの車を抜き返したポンティアックは前方で減速し、蛇行運転を始めました。 急な減速を繰り返すうちに、トニーの車がポンティアックに追突。
男たちは大声を上げました。

「クソ野郎!止まれ!」
トニーの車に並走しながら、遂には車体をわざとぶつけ始めます。

「よさないか!」
トニーの車はぶつけられながら路肩に押し出され、二台はそこで停車しました……

物語の不穏な展開に引き込まれていくスーザン。
掛けていた眼鏡を外し、天井を見上げると、深く息を吐きました。

……ポンティアックの運転席から男が降りて来ました。 男の名前はレイ。 助手席の男と何やら話した後、トニーの車まで歩いて来ました。

「事故ったら止まれ」
「分かってる…」
「じゃあなぜ無視した?」
言葉に詰まるトニー。

「あなたたちのせい」
ローラがレイに言い返しました。
「何だって?」
「運転が異常だからよ」
するとレイは同乗していた二人を呼びました。

「おいターク!」
降りて来た男たちは懐中電灯を照らしながら、トニーの車の周囲を見回し始めるのですが…(小説の物語は続きます…)

ベッドの上で小説を読んでいたスーザンは、緊迫した物語の展開に思わず原稿から目を逸らし、大きく息をつきました。 小説の中の怯える家族の映像が、スーザンの脳裏にリアルに焼きついていました。

送られて来た小説に、エドワードの非凡な才能を感じ取ったスーザンは、手紙に会いたいと綴っていたエドワードのことが気になり始めていたのですが…。《続きは是非本編をご覧下さい》

作品の個人的な感想 (-∀-)

監督・脚本は、これが長編映画2作目となるトム・フォード。 二刀流を地で行く人物です。

ご存知の方も多いかもしれませんが、トム・フォードはファッション・デザイナーが本職で、GUCCIなどのブランドで活躍。 現在は自分のブランドを主幹するなど、ファッション業界でも有名な方です。

さらに、自身で映画制作会社を立ち上げており、監督業と脚本家、俳優としても活躍しているマルチな人です。

デザイナーという仕事をしていることからも分かるように、トム・フォードが紡ぎ出す映像は美しいの一語に尽きます。 洗練されていてスタイリッシュで、とてもエッヂの効いた映像感覚を持つ監督だと思います。

ちなみに、トム・フォード監督1作目の映画は「シングルマン」(2009年)という作品で、コリン・ファース、ジュリアン・ムーア、ニコラス・ホルトなど、豪華なキャストを起用して作られました。
「シングルマン」に出演した一部のキャストの衣装は、トム・フォードが自らデザインしたそうです。

今回紹介した「ノクターナル・アニマルズ」の面白さは、二つの物語が巧みに絡み合い、ひとつの流れに組み立てられているところです。

実生活でのスーザンの置かれている状況と、元夫エドワードが送って来た小説の中の出来事が、強いインパクトとなってスーザンの気持ちに影響を与えていく過程が、美しい映像と俳優たちの素晴らしい演技で綴られていきます。

19年前、スーザンとエドワードはどんな理由で別れ、なぜエドワードはこのような内容の小説を送って来たのか? 二人の分岐点となった出来事から、物語の結末へと向かう流れは、とても巧妙な作りになっています。

ラストシーンを迎えてもなお、その先の展開を想像せずにはいられない、とても興味深いエンディングになっています。

尚、この映画はレイティングシステム「PG12」が指定されています。 特にオープニングシーン(裸の女性が踊るシーン)は、12歳未満のお子さんには大人の助言が必要かと思われますので、ご覧の際はご注意下さい。

サスペンス色が強いけれど、それとは少し違う…。
ジャンル分けしにくい作品ですが、謎めいた映画が好きな方に是非オススメしたい1本です。

エイミー・アダムスとジェイク・ギレンホールの演技が最高です。

【スタッフ】
監督・脚本…トム・フォード
撮影監督…シーマス・マッガーヴェイ
音楽…アベル・コジェニオウスキ
【キャスト】
スーザン…エイミー・アダムス
エドワード/トニー(二役)…ジェイク・ギレンホール
ハットン…アーミー・ハマー
レイ…アーロン・テイラー=ジョンソン
ローラ…アイラ・フィッシャー
インディア…エリー・バンバー
アン…アンドレア・ライズボロー
カルロス…マイケル・シーン
アンディーズ警部補…マイケル・シャノン
セイジ…ジェナ・マローン
《2016年 / アメリカ / PG12》

第73回(2016年)ヴェネツィア国際映画祭
コンペティション部門 審査員大賞受賞

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