KQおとぎ舞台 カーテンコール

 ※この記事は「KQおとぎ舞台」に登場するキャラクター、華子に関するショートストーリーです。上記村を読んでいる事が前提になりますので、ご注意ください。

 私は、もうすぐ死ぬ。

 最後まで舞台に立ち続ければ願いが叶い、そうでなければ命を奪われる。そういう舞台。私はわかっていてこの舞台に参加した。

 サイオンさんに出会って覚悟を決め、優子と出会って手を取り合い、そしてあの人…ヘクター・ブラックに再会した。彼がこの舞台にいるとは思いもしなかったけど、私の人生最期にして最高の演技を彼に見せる事もできた。この舞台に上らなければ、私はきっと本物にはなれなかっただろう。だから、舞台に参加した事に悔いは無かった。

 それでも…やっぱり死ぬのは怖い。


 ヘクター・ブラックと一緒に来たカーテンコール。これが正真正銘、最期の舞台。私は観客への口上で、自らが彼の物となった事を述べる。

「アンタにはホント参った。この俺をマジにさせるたぁね。」

 ヘクター・ブラックと舞台の上で口づけを交わす。私の想いは彼に届き、彼はそれに応えてくれた。2人は結ばれ、私はヘクター・ブラックと舞台の上で華々しく散るのだ。そして物語として語り継がれる。それで私、暁乃星華子のお話は綺麗に終わる。

 本当に、そうだろうか?

 自分が脱落した後、ヘクター・ブラックだけでも生き延びて欲しいと願っていた。それは嘘ではなかったが、今、彼と一緒に死ねる事を救いにしている自分も確かにここにいた。そんな自分に嫌気が差す。愛する人の死を望む?私は一緒に死ぬ相手を欲してただけに過ぎないのではないだろうか?そもそも1人でも舞台の上で死ぬ事こそ本望、そう思えてこそ本物なのではないのだろうか?

 そんなことはない、彼への想いはずっと存在していたし、この舞台で自分が本物になったのは確かに思えた。けど…じゃあ、どうして死ぬのがこんなに怖いの?舞台の上で散り、皆の記憶に残る事が出来るのに。

 迷いは晴れなかったが、ここは私の最期の舞台。The Show Must Go On。暗い顔を見せるわけにはいかない。華やかに、艶やかに。きっとどこかで観ているであろう観客に手を振っていると、優子のカーテンコールが始まった。

  愛しているよ、華子。
  だいっきらいで、だいすき。

 1人だけでは演じることのできなかった舞台。
 1人だけでは踊ることのできなかった配役。
 命を賭けた舞台のその結末に後悔はない。

 私達がこれからむかうのは、光のない舞台袖<死>だとしても。


 優子の言葉は私の心に少しずつ沁み込んできた。そっか。舞台は1人だけでは演じられないのだ。優子がいて、あの人がいて、そして色々な人がいて、私は本物になった。怖かったけど、それでも皆がいるからやり切る事ができた。

 これから私達が死ぬのも舞台の一部。なら、そこへ向かう覚悟をたった一人で背負う必要は無いのだ。怖くて当たり前。でもそこへの道は皆で創り上げる。最後の最後で優子に教えられちゃった。ちょっと、悔しいな。

「貴女の舞台。羨ましくて、嬉しかった。」

 カーテンコールの終った優子を晴れやかな笑顔で抱きしめる。

 さあ、皆と一緒に…最期の舞台をやり切ろう。

 ◆

 ヘクター・ブラックがカイルを仮眠室から連れてくる。マユミさん、賢人さんとカイルが手をつないで観客の声援に応える。オスカー…いえ、ホリーがユンカーへの想いを告げる。舞台袖でネイサンとデリクソンが語り合い、クラリッサが最期の演技を魅せる。ペラジーはいなくなってしまったけれど、貴女の想いはこのミサンガと一緒に私が運ぶ。

 私はあの人…ヘクター・ブラックと向かい合う。今こそ迷いなく言える。

「貴方を好きになってよかった。ありがとう。」

「……俺も、アンタみたいな女と巡り合えてよかったよ。華子、愛してる。」

 どちらからともなく口づけを交わす。首に触れる冷たい感触が次第に熱くなる。私はあの人の体をきつく抱きしめる。

 そして、私とあの人は…眩い光の中へと歩き出した。

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