KQ学園おとぎ組

 ※この記事は「KQおとぎ舞台」を元にした学園パロです。元ネタを知っている前提で書かれています。なお作者は学園パロを読んだ経験が無いのに書いているので何かがおかしいかもしれませんが、悪しからずご了承ください。

「華子、まってくださ~い!」

 後ろから盛大な駆け足の音が近づいてくる。振り返るとオレンジがかった明るい髪にツインテールの少女。吐く息が外気に触れ白く広がる。

「あら、優子。今日は早いのね。」

「今日はチア部の朝練なんです、こればっかりは遅刻できませんから!」

 普段遅刻が多く松永先生に叱られてばかりの優子だが、部活にだけは真面目だ。部活の朝練に間に合うなら普段も間に合いそうなものだが、それは違うのだと彼女は言う。
 私は暁乃星華子、慶宮学園1年おとぎ組の生徒。彼女は同級生で親友の山本優子。ハロウィンちゃんというあだ名で皆に親しまれているが、私は優子と呼んでいる。

「それにしても華子、朝練もないのにいつも早いです、良く起きられますね!」

「うん、私は余裕をもって通学したいし、朝の時間をゆったり学校で過ごすのも好きなのよ。あと、朝一番で学校にくるのも生徒会の仕事だって、サイオン会長が言うの。何かあった時に言える相手がいるのも大事だって。私、会長の事尊敬してるんだ。」

「華子はマジメですよねぇ…」

 性格は正反対といってもいい二人で、入学当初は言い合いになったりもしたが、その後なんだか気が合ってよく一緒にいるようになった。

「ところで華子知ってますか、静流センパイの噂?華子、生徒会で静流センパイと結構話してますよね!?」

 優子が言うのは2年の静流・ユンカー・コルヴィッツ先輩。日独ハーフのイケメンで人たらし。なのだけど、生徒会で一緒の私とは普通に色々話してくれる。私は彼の琴線には触れないタイプのかもしれない。何となく釈然としないけど、周りの話を聞いていると、その方が被害が無くて良かったのかもしれないと思ってる。

「そうね…静流先輩の「どの」噂の事かしら?ぼくのねこ事件か、高田先輩誑かしてる話か、それとも転校の話か。」

「高田センパイの話です!…けど、他の2つってなんですか?」

「最初のは静流先輩がうちのクラスのクラリッサに会うなり「やあぼくのねこ」って囁いて周りがざわついた事件ね。先輩曰く、クラリッサが昔飼ってたねこに似ててついそう呼んじゃったとか言ってたけど、どうかしてるわよね。」

「えっ…ちょっと引きますね、それ。クラリッサ大丈夫だったんですか?」

「クラリッサはまんざらでも無かったみたい。まあ、クラリッサも男の娘で変わった所あるけど、魔性よね、静流先輩。転校ってのは、静流先輩が2年の終わりに家の都合で引っ越すかもって話。だから今のうちに色んな子に声かけてるみたい。」

「はぁ…まさか、高田センパイもそれで?」

「いや、高田先輩はあまりに胡散臭いので生徒会として放置できず近づいたけど、なんだか面白いから仲良くなって色々話を聞いたとか言ってた。」

 高田先輩は映画研究会の2年生。ホラー専門らしくて、たまに道化のネイサンって名乗ったりしてる変わり者。優子がちょっと仲良くしてるみたいなんだけど、静流先輩から聞く話と優子から聞く話が食い違ってて、私としては心配している。

「静流先輩によれば、高田先輩は最近デリクソン先輩と仲がいいって聞くわね。2人でカラオケ行ったりしてるとか。デリクソン先輩、めちゃ歌上手いらしいわ。」

「あー…そうなんですか。ふうん、高田センパイ…」

「どうしたの、優子?」

「いや、いいんですよ。ワタシ全然そういうんじゃないんで。華子といるのが楽しいですから!」

「ふふ、ありがと。嬉しいわ。」

 高田先輩とデリクソン先輩の事を優子に話したのは、優子が高田先輩に好意を持っても何だか上手くいきそうにないと思ったから。ごめんね、優子。ちなみに静流先輩の本命は同級生のホリー・レイニーだって思ってる。普段は男装してるけど、本当は可愛い女の子。本命ってのは直接聞いたわけじゃなくて、静流先輩とホリーの話聞いてなんとなくそうなんだろうなって私が思ってるだけ。でも、多分合ってる。
 私は、ひとまず高田先輩から話を変えようと思い、優子に話しかける。

「優子はチア部で、この間野球部の応援してたわよね。桧瑠とかどうなの?」

「桧瑠ですか…彼、草食系というか絶食系男子ですよね?真弓美や賢人と仲いいみたいですけど、野球部ではあんまり印象無かったですね。」

 高倉桧瑠、白星真弓美、小日向賢人は1年おとぎ組の同級生。桧瑠は確かにかなりの奥手だけど、真弓美とは普通に話してるように見える。真弓美は一見おとなしい感じの子。だけど、芯は凄く強いと思う。賢人は天真爛漫で太陽のような人。一緒にいるとこちらまで気持ちが暖かくなる。
 三者三様みんな違うのだけど、その三人の気が合って仲良く話しているのを傍から眺めているのも、私は好き。それもあって、私は朝早くから学校に通っている。

「賢人と言えば、華子知ってます?意外な事にヘクター先輩と仲が良いって。ヘクター先輩のこと兄貴って呼んでるらしいです。」

「へえ…そうなんだ。」

 私は平静を装って答える。学園一の不良と恐れられている、3年のヘクター・ブラック先輩。私のひそかな想い人。悪い噂は絶えないのだけど、でもあの人が本当は優しいのを私は知っている。2年前中学生だった私は、下校時に他校の男子生徒に告白され、断ったらその人の仲間が現れ険悪なムードになった。その時に助けてくれたのが彼。見も知らぬ私を助けてくれ、お礼を言っても名乗らずに立ち去っていった。あの人をいつか振り向かせたい、私はそう思ってる。

「ちなみに華子は…気になる男子いるんですか?」

 何かを察したのか、優子がストレートな質問をぶつけてくる。ごめん、優子。ヘクター先輩のことは誰にも言うつもりはないの。私があの人に相応しい存在になるまで、この気持ちは明かさない。そう決めてるから。

「う、ううん…特にいないわ。」

「本当ですか?華子、その辺の馬の骨に引っかかったりしたら絶対駄目ですからね?」

「大丈夫よ、優子。心配しないで。」

 ヘクター先輩は馬の骨なんかじゃない、だから嘘はついてない。優子は懐疑的に私の顔を眺めていたが、ひとまず納得したようだった。優子と話しているうちに校門が見えてくる。まだ早い時間だというのに、担任の松永心愛先生が校門に立っている。ふんわりと優しくて男子にも女子にも人気がある先生だ。

「松永先生、おはようございます。」

「おはようございまーす!」

 私と優子の声が重なって響く。

「暁乃星さん、山本さん、おはようございます。山本さん、今日は早いのですね…いつもこうだと良いのですけれど。」

「今日は朝練なんで!いつもの事は言いっこなしで!」

 優子がペロリと舌をだして、そそくさと校門を通り過ぎる。そのまま私と優子は別れ、私は教室へ、優子はチア部の部室へと向かった。



 校長室。いつ来ても堅苦しい雰囲気のこの部屋は、いつにも増してトゲトゲしさに満ちていた。

「あのねぇ、ヘクター君。わしいつも言っとるでしょ、そういうのは控えてくれって!」

 俺の目の前で小言を垂れている爺さんは校長のウォーレン・ウィーバー。俺はヘクター・ブラック。この慶宮学園、通称KQ学園を占める不良の元締め…と、思われている。別に不良になったつもりはねぇんだが、生来の強面に加え、体を鍛える為に始めたボクシングで降りかかる火の粉を払っていたら、勝手にそう呼ばれるようになっていた。

「だから、他校の生徒ともめごとを起こすのは止めてくれとあれほど言っとるのに…わしの体面もあるんじゃよ!」

「そうは言っても向こうが絡んでくるんだから仕方ねえだろ。それに、俺が相手しなきゃウチが舐められて一般生徒がろくでもない奴らに絡まれるんだぜ。校長はそれでもいいのか?」

「そうは言ってないじゃろ…だから話し合いで解決するとかじゃな…」

「…あー、はいはい、わかりました。お話合いで解決する相手ならそうするよう、せいぜい努力いたしますよ。」

 お話にならねぇ、この爺さんどこの温室育ちだよ。馬鹿馬鹿しくなって来て、さっさと帰ろうかと思っていたその時、校長室の部屋がノックされる。

「校長、校長。ちょっとよろしいですか?」

「あー、いま取り込み中なんじゃが、急用なのかい、ワヤン君。」

「はい、ちょっと…」

 中に入ってきたのは黒尽くめの服に身を包んだワヤン教頭。何もしてない校長の代わりに学校の事を一手に取り仕切ってるとも言われている。得体の知れねぇ所があって、俺は少し苦手だ。

「んじゃ、俺は帰っていいかな。」

 返事も聞かずに俺は校長に背を向けて扉へと歩き出す。

「ヘクター君!話し合いじゃよ、話し合い!」

「校長、実は今日来るはずの転校生が姿を見せないのです。松永先生が朝から校門で待っていたのですが現れず、家に連絡しても誰も出ないとか…」

「あー、なんじゃと…?」

 校長と教頭の会話が漏れ聞こえる中、俺は校長室を後にした。

 昼休みの屋上は俺の憩いの場所だ。面倒臭ぇ奴らは俺を怖がって来ねえし、俺を勝手に頭だと思ってる不良の輩にも来ないように言ってある。ここに来るのは数少ない俺の理解者だけだ。

「兄貴~!校長室に呼びだされたって聞いたけど、大丈夫だった!?」

 その理解者の一人、1年の小日向賢人が屋上に駆け込んできた。こいつは俺の事を見た目で判断せず普通に接してくれる。俺の事を兄貴と呼ぶので、周りからは俺の舎弟と思われているが、それも気にしないらしい。大らかでいい奴だ。もう一人、2年の高田とも馬が合うが、アイツは最近別のやつと仲がいいらしい。それはそれで構わねぇんだが。

「ああ、いつもの小言だよ。…って、何だお前?」

 賢人に続いて現れた女。確か…生徒会の1年、暁乃星華子だったか?

「兄貴、こちらは同級生の暁乃星さん!ちょっと相談されて、兄貴なら力になれるんじゃないかと思って連れてきた!」

「こんにちはヘクター先輩、暁乃星華子です。先輩にお願いがあってきました。」

 美人だがえらく生真面目そうな女だ、どこかで見たことあるような気もするが、気のせいか?生徒会っつーのも、いささか身構えちまう。あの女傑サイオンの手下ってことだろ?とは言え賢人の紹介だ、話くらいは聞くことにしよう。



「…というわけで、転校生が行方不明なんですって。ペラジーちゃんっていう女の子。私、松永先生に内々で手がかりを探すように頼まれたんです、あんまり大事にしてもあとあとペラジーちゃんが困るかもって。で、ヘクター先輩なら顔広そうだし、あんまり大っぴらにせずに何かつかめないかなって。そう賢人さんにお願いいしたら、心よく紹介してもらえました。」

 私はヘクター先輩に一部始終を説明した。

「うん、兄貴ならきっとうまくやってくれるよ。そうだよね、兄貴!」

 賢人がキラキラした眼でヘクター先輩を見つめる。

「賢人、お前なぁ…。華子だったか、お前も何で俺がそんな善行すると思ってるんだよ?」

「えっ、だってヘクター先輩良い人ですよね?」

 私は賢人と一緒にヘクター先輩に笑顔を向けた。私はヘクター先輩が良い人なのを知ってる、そこを心配はしていない。二人して笑顔でヘクター先輩の顔をしばらく見つめていると、ついに先輩は根負けしたようだった。

「あー…わかったよ、聞いといてやる。華子、お前も変わった奴だな。急ぐんだろ?何かわかったらすぐ伝えてやるから、連絡先よこせ。」

「えっ、あ…はい!ありがとうございます、お願いします!」

 いきなりヘクター先輩と連絡先交換なんてすごい!…これは決して公私混同じゃないのよ、顔が広く手伝ってくれそうな人がヘクター先輩だったから、先生からの頼まれごとを全力でこなしてるだけ。ちょっとだけ嬉しい誤算。

「それじゃ、ヘクター先輩、よろしくお願いします!」

「暁乃星さん、俺は兄貴と一緒に手がかり探してみるよ!」

「賢人さんもありがとう、よろしくね。」

 私は2人に頭を下げると、私は私でペラジーを探しに行く事にした。



「ちょっとソージロー、間違いないんでしょうね?」

「お嬢、今調べてる所なんでちょっと待ってください。」

 校庭の片隅にしゃがみ込む男性と、その傍らで彼を見下ろす少女。用務員の皆方宗二朗さんと、同級生で校長の孫、マーガレット・ウィーバーだ。ウォーレン校長が皆方さんを公私混同で使いまくるものだから、孫娘の彼女もすっかり懐いてしまい、いつも一緒にいる。本人は懐いてると認めないかもしれないけど、傍からみてるとそうとしか見えない。

「マーゴちゃん、皆方さん、どうしたの?」

「やあ暁乃星さん、こんにちは。いえね、こんな季節に昨夜校庭で人魂を見たなんて話が舞い込みまして、お嬢が怖いから一刻も早く調べろと…」

「ちょっと、ソージロー!私怖いなんて言ってないから!」

「おっと、そうでしたね、すみません。それで校庭をくまなく探したんですが…こりゃ、焚火の跡ですね。間違いないでしょう。」

「焚火?野外活動部がやった跡かしら?」

 私は不思議に思って聞き返す。校庭で焚火なんてそれくらいしか思いつかないが…

「いえ、あのサークルは報告した上できちんと焚火台を使って後処理もしてますから、こんな跡にはならないでしょう。誰かが入り込んだとなると、ちょっと厄介ですね…」

「そうよね、ソージローの責任問題になっちゃうし。」

「いえ、俺は用務員であって警備員じゃないんで…」

「似たような物でしょ!ソージローには学園の安全を守る責任があるのよ。」

「お嬢、無茶言わんでくださいよ…」

 昨夜何者かが学園に入り込んで、校庭で焚火をした?何のために?と、そこへヘクター先輩からメッセージが入った。

『手がかりがあったかもしれねぇ、体育用具倉庫で待つ』

 私は皆方さんとマーゴちゃんに別れを告げ、体育用具倉庫へと向かった。

「華子、来たか。」

 体育用具倉庫の前にヘクター先輩と賢人が立っていた。ヘクター先輩が私の事をいつの間にか華子と呼び始めてるのは嬉しいのだけど、今は話を聞くのが先決だ。

「ここはまあ、良くねえ連中がたまり場として使ったりしてる場所なんだがよ…今朝から中から鍵がかかってて入れねぇっつーんだ。」

「暁乃星さんの方は、何か手がかりあった?」

 賢人に尋ねられ、私は皆方さんとマーゴちゃんの話をする。昨夜何者かが校庭に忍び込んだらしいという事実。そして開かない体育用具倉庫。この話を総合すると…

『この体育用具倉庫の中に誰かがいる!』

 三人の声がハモる。

「転校生のペラジーがこの中にいるって事もあり得るわよね?」

「そりゃそうだけどよ、普通に不審者が侵入してる可能性だってあるぞ?先生に連絡して任せるのが安全だな。」

 ヘクター先輩の言う事も尤もだ。でも…もし転校生のペラジーがこの中にいて、何か不測の事態で動けなくなっていたとしたら?今朝は結構寒かったし、凍えてる可能性だってある。一刻も早く確認した方がよいのではないか?

 体育用具倉庫の外周を確認すると、裏側、3mちょいの高さに小窓があった。あそこから中を覗ければ、あるいは…

「ヘクター先輩、絶対、絶対上向いちゃ駄目ですからね!」

「うるせえよ、はやく確認しろ!重いんだ。」

「兄貴、女の子に重いとかデリカシーが無いと思うんだ。」

「賢人、おめーもうるせえよ!」

 私はヘクター先輩の肩の上に両足を乗せ、小窓から倉庫の中を覗く。薄暗くて見えづらいので、スマホのライトを使って照らしてみるが、物陰が多く確認できない。

「ペラジー、ここにいるの?ペラジー?」

 その声に反応して、何かがガサっと動いた気がした。けど、それ以上反応は無く、このままでは埒が明かなそうだった。この小窓、ヘクター先輩や賢人は通れ無さそうだけど、私なら何とか通れるはず。

「ヘクター先輩、ゴメン!ちょっと我慢して!」

 私はヘクター先輩の頭の上に足を乗せ、窓に体をねじ込みはじめた。

「おい、待て!確認するだけって言っただろ!」

「ちょっと、上見ないでよ!!!」

「あー、もう無茶しやがるな、お前は!!!」

 私は何とか体育用具倉庫の小窓を潜り抜け、そして、当然のように中へと落下した。

「いたた…マットがあって助かったわ。流石に無茶し過ぎたかしら。」

 打ち身になってないとよいのだが。窓から入る光のみで薄暗い体育用具倉庫。入口は内側から閂がかけてあるようだった。私はスマホを取り出し、改めてライトをつける。再び部屋の隅でガサッと物音がした。私は静かに、そちらの方に近づく。

「ペラジー、ペラジーなの?」

 スマホのライトに照らし出されたのは、堅く両腕で胸を抱えた少女。褐色の肌に黒瑪瑙のような輝く瞳が印象的だった。

「ボクは怖くないから…だから怖がらないで…」

 彼女は誰かに傷つけられるのを恐れていたのではなく、誰かを傷つけるのを恐れていた。どんな生き方をしたらこんな風になるのだろう。

「私は暁乃星華子、同級生よ。あなたを迎えに来たわ。大丈夫、あなたを怖がる人なんてこの学園にはいない。KQ学園おとぎ組にようこそ。歓迎するわ、ペラジー。」

 私は彼女に手を差し伸べる。この学園では、色々な人が色々な人生を生きている。ペラジーがどんな人生を歩んできていたとしても、この学園にそれを蔑んだり馬鹿にしたりする人なんていない。…少しはいるかもしれないけど、そういう人は生徒会で粛清する。私はそんな学園が大好きだ。

「華子さん…?」

 おずおずと手を伸ばすペラジー。

「華子でいいわ。これからよろしくね、ペラジー。」

 私は彼女の手を取り、抱きしめる。

「おい、華子!華子!大丈夫か!!!」

 扉を乱暴に叩くヘクター先輩。ほんと、ヘクター先輩も良い人よね。

「大丈夫よ、今行くわ!」

 私は閂を外し、ペラジーと共に体育用具倉庫から外へと足を踏みだした。

「というわけで、おとぎ組の新しい仲間を紹介します。ペラジーさんよ。皆、仲良くしてあげてね。」

 翌日、改めて松永先生が皆の前でペラジーを紹介した。ペラジーはペコリと頭を下げる。

 ペラジーは今まであまり人と接してこなかったらしく、人と会わないように前日夜に学校に忍び込んで校庭で焚火をし、翌朝になったら怖くなって体育用具倉庫に閉じこもってしまった、というのが真相だった。彼女が今までどんな人生を送ってきたのかはわからないが、これからこの学園で彼女が楽しく過ごせれば、と思う。

 それにしても、昨日一日でヘクター先輩と連絡先を交換して、華子と呼ばれるようになり、そして頭を足で踏みつけてしまった。最後のが果たしてプラスなのかはわからないが、それでもヘクター先輩に振り向いてもらう私の野望は一歩前進した。スマホに登録されたヘクター先輩の連絡先を見て、何とは無しに顔がにやける。

「あれ、華子。何かいいことありましたか?」

 優子が首を伸ばし私のスマホをのぞき込もうとする。

「え、えっと優子。なんでもないのよ。」

「本当ですか~?」

 こういう所、やけに勘がいいのよね、優子。

「山本さん、暁乃星さん、私語は慎んでね。」

『はーい!』

 松永先生に叱られ、二人して元気よく返事をする。今日もまたKQ学園おとぎ組の一日が始まるのだ。

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