タイグ・マクキアン伝

タイグ・マクキアン(Tadg mac Céin)

 タイグはマンスターの雄、アリル・オールムの孫である。タイグの父キアンはマグ・ムクラマの戦いにおいてオーエン・モールを筆頭とする兄弟ともども討ち死にしていた。散逸した物語「カシェルから出発したキアンの移住(Tochomlod Céin a Caisil)」のタイトルから察するに、この時既にキアンはカシェル(一族の拠点)を離れており、タイグもそれに従っていたのであろう。
 さて、コーマック・マクアートは上王の座を奪取した際に宿敵となったアルスターを打倒するために軍勢を集めるべくアリル・オールムを訪問した。その時にアリルは自軍を動かせないが、弟のルーイー・ラーウと孫のタイグを連れていくようにコーマックに勧めた。ルーイーは当代指折りの勇者としてフィン・マックールに並び称されるほどの豪傑であり、タイグは詩人の伝えるところによれば50フィート(=15メートル)もある巨人だったのである。
 ルーイー・ラーウとタイグはアルスター軍を幾度も打ち破ったが、激戦を潜り抜けた彼らは深手を負っていた。しかしコーマックは彼らの戦働きに対して裏切りを以て応え、治療を騙って買収していた医者に毒物を与えさせた。タイグは異変に気付くと、祖父アリルに伝令を送って医師を派遣してもらうことにした。その頃、コーマックは瀕死となっていたルーイーに対して特別な恨みを抱いて(父の仇だったのである)、ルーイーのもとを訪れた。しかしルーイーは激怒し、怒りのあまり毒薬と血と毒虫を全身から噴き出しながら巨石を掴んでコーマックに向かって投げた。石は狙いを外して地面に人の背丈ほどめり込んだというが、ともかくそのような毒抜きによって快癒したという。タイグも国許から呼び寄せた医師たちに治療させ、すなわちふいごによって真っ赤になるまで熱した犂をタイグの腹に押し付け毒虫を追い出すことで回復して、コーマックに恩賞となる土地を要求した。この恩賞がタイグの一族であるキアナハト(キアンの子孫)の所領となったとされる。
 コーマックがタイグに対して戦車を走らせて一周した範囲内の土地を与えると約束していたが、実は御者が買収されていたためタイグはターラまで土地を奪おうと思っていたがそれができなかったという伝説もある。その後、タイグは父祖の地でもあるマンスター地方に所領を広げようとした。この時に海外からやってきた略奪者の一団に家族を拉致されたため海を越えての大冒険に出たという。しかし、タイグの最期は家族……息子であるコーマック・ガレンの裏切りによってもたらされた。そのきっかけはアナグマだった。タイグという名前はアイルランド語では詩人を意味するが、その語源を遡るとアナグマを意味したと考えられている。タイグにとってアナグマが禁忌となっていたのであるが、コーマック・ガレンはタイグの槍を密かに持ち出してアナグマに呼びかけた。
「これは信頼の証であるタイグの槍だから、隠れないで姿を現せ」
 こうして巣から出て来たアナグマをコーマックは殺して、タイグを歓待する祝宴に料理として並べたのである。タイグはすぐに異変を感じ取った。ガレン(Gailenga)という名前は名誉の穢れだとか、裏切りの槍だとかいう意味だとされる。タイグはコーマック・ガレンを追放したが、おそらくその後すぐに死亡したようだ。祝宴が開かれたブレスレフから近いロスナリーで鹿を殺し、鹿に殺されたと詩に伝わっている。


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