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WithCOVID-19の都市計画・まちづくり:国土スケールから街区スケールまで

今年度前半、WithCOVID-19の都市計画・まちづくりのあり方について議論するいくつかの場に参加する機会があり、その一部については中間的なまとめが公表されました。自分の頭の中を整理するために、国土スケールから街区スケールまで、一覧してみます。

国土スケール:企業等の東京一極集中に関する懇談会(国土交通省国土政策局総合計画課)

2019年12月に始まった本懇談会の趣旨は、「東京圏への過度な集中の是正に向けた取組が進められている一方で、企業等の動向が大きく変化するような状況にはなっていない。そこで、『企業等の東京一極集中に関する懇談会』では、企業活動や働き方を含む多角的な観点から諸外国と比較しつつ、企業等の「東京一極集中」の要因等について議論を行う。」ということであった。その後、COVID-19の感染拡大が進み、「新しい生活様式」の実践が求められたが、その中でも「働き方の新しいライフスタイル」は、今後、東京への企業等の一極集中の状況に影響を及ぼす可能性があると認識された。

第2回(2020年7月)、第3回(2020年9月)の懇談会では、COVID-19の感染拡大によって加速化されたテレワークやオンライン会議の普及がオフィスの需要や居住地の選択にどのような影響を及ぼすのか、大学の授業のオンライン化や東京の脆弱性の顕在化が若者の就学・進学や就職にどのような影響を及ぼすか等について、各種データを確認しながら議論している。

個人的には、企業については、これを機にテレワーク、オフィスの縮小や分散化を積極的に進める企業もあれば、そうでもない企業もあり、大学についても、対面授業とオンライン授業の組み合わせ方は大学あるいは学部・学科によって異なる。結局、企業や大学がそれぞれどのような選択肢を採用し、それに流動性の高い若者がどのように対応するかで、企業等の東京一極集中の今後は変わりそうで、「COVID-19で東京一極集中はどうなるか」と聞かれても「しばらく様子を見ないと分からない」としか答えることができない。既に東京に拠点を構えている人は、COVID-19の影響でライフスタイルやワークスタイルは大きく変わっても、すぐにどこかに移住できる人は少数なのではないか。

懇談会では、東京一極集中を是正するために、地方(東京以外)の仕事や住まい、教育の環境を魅力的なものにし、地方から東京への流入を抑制しようという議論が多い。しかし、それと表裏一体の部分もあるが、地方から東京への流入を抑制するのではなく、私のような首都圏出身者が首都圏に留まる・戻る要因を解消することも重要だと思う。それから、第1回の懇談会で発言したが、一極集中しているのは東京都心で首都圏の遠郊外は空洞化しているのだから、東京→地方の移住だけでなく、東京都心→郊外・遠郊外の移住、つまり首都圏内の就業地・居住地の再配置についても検討すべきだと考えている。企業も大学も対面とオンラインの組み合わせが進むのであれば、首都圏内の変化に留まり、国土スケールの変化はかなり限定的なのではないか。

都市スケール1:「新型コロナ危機を契機としたまちづくりの方向性」(論点整理)(国土交通省都市局まちづくり推進課)

これは、国土交通省都市局が、都市再生・都市交通・公園緑地・都市防災・医療・働き方などの様々な分野の専門家へのヒアリングに基づき、「新型コロナ危機を契機としたまちづくりの方向性」の論点整理を行ったもので、「都市の持つ集積のメリットは活かしつつ、「三つの密」の回避、感染拡大防止と経済社会活動の両立を図る新しいまちづくりが必要」という(当然の?)ことが確認されている。

より具体的には、
【論点1】都市(オフィス等の機能や生活圏)の今後のあり方と新しい政策の方向性
【論点2】都市交通(ネットワーク)の今後のあり方と新しい生活の方向性
【論点3】オープンスペースの今後のあり方と新しい生活の方向性
【論点4】データ・新技術等を活用したまちづくりの今後のあり方と新しい生活の方向性
【論点5】複合災害への対応等を踏まえた事前防災まちづくりの新しい生活の方向性
が整理された上で、
・人々の働く場所・住む場所の選択肢を広げるとともに、大都市・郊外・地方都市と、規模の異なる複数の拠点が形成され、役割分担をしていく形
・複数の用途が融合した職住近接に対応し、様々なニーズ、変化に柔軟に対応できるようなまちづくり
という方向性がイメージ図とともに提示されている。

この論点整理は、新型コロナ危機を契機に生じた変化に基づき、今後の方向性を「確認」しているもので、ほとんど異論がない内容になっているが、これからの集合住宅やオフィスの建物のあり方、その集合体である市街地のあり方が十分に示されていないなどの問題も指摘されている。今のところは個別ヒアリングの結果を整理した段階で、不足要素の検討、要素間の関係、量的な検討、施策として考えられる選択肢の洗い出し等はこれからなのだと思う。

都市スケール2:Urban+Planning VISION 2050(中間とりまとめ)(一般社団法人都市計画コンサルタント協会 2050年都市ビジョン研究会)

2020年9月11日、一般社団法人都市計画コンサルタント協会が2019年度に立ち上げた2050年都市ビジョン研究会は、「Urban+Planning VISION 2050(中間とりまとめ)-アフターコロナを見据えた2050年の社会像・都市像と都市・地域計画領域におけるアプローチ(論点)-」を公表した。

40歳台・中堅どころの都市計画コンサルタント、学識経験者、行政職員ら 11名のメンバーとオブザーバー、事務局で構成される本研究会は、2050年の都市と都市計画に関する検討・提言を目的に、都市・地域計画領域の業務・研究経験や知見をもとにフラットな関係で議論している。検討にあたっては、バックキャスティング型(目標となるような社会・都市の状態を想定し、そこを起点に現在を振り返って実現方法を考える)の議論により、理想像としてのビジョンとその実現に向けた都市・地域計画領域におけるアプローチを描くこととしている。

中間とりまとめでは、場所や通勤に縛られない働き方、多様で柔軟な住まいや家庭のかたち、身近で充実した余暇活動や持続可能な観光、リアルとバーチャルが融合したコミュニケーションなど、新型コロナウイルス感染症による前提条件の変化も踏まえて理想と考えられる生活・社会像とその受け皿となる都市像の論点及び仮説(研究会メンバーの考え)を提示している。さらにこれを踏まえ、都心の形成やコンパクトプラスネットワーク、公共交通のあり方など都市・地域計画領域におけるアプローチについても論点を提示している。今後はアンケートの結果も踏まえて研究会としての議論を深め、理想を実現するために我々は何をすべきか(都市・地域計画領域におけるアプローチ)を提言としてまとめていく。

業務時間外の貴重な時間を割いてよくここまでまとめることができたと自画自賛する一方、40歳代のおじさん・おばさん(失礼!)のビジョンがより若い世代にどう映るのかが心配ではある。

なお、このUrban+Planning VISION 2050(中間とりまとめ)は、日刊建設工業新聞でも取り上げられた。

地区スケール:With/Post COVID-19のまちづくりを考える(地区の計画とデザイン2020)(東京大学工学部都市工学科都市計画コース4年生演習)

他の多くの教員とともに担当した東京大学工学部都市工学科都市計画コースの最後の演習課題「地区の計画とデザイン」は、都市計画を学ぶ学部4年生のグループが、これまでの課題で十分に取り上げることのできなかったいくつかの種類の市街地を対象に、2年生後半以降の演習で養った認識力・分析力・構想力・創造力を駆使して、地区スケールの計画・デザイン提案を行うものである。2020年度はCOVID-19感染拡大の影響を受け、本課題の日数が中間発表・最終発表を含めて10日間に減り、現地調査や対面インタビューも実施できないことから、先輩たちの成果を基礎に各地区のケーススタディを行い、WithCOVID-19/PostCOVID-19のまちづくりのあり方について小グループで討論してまとめる提言型の課題とした。

都心商業業務地(歓楽街)、東京23区内等の住宅地、首都圏遠郊外住宅地、地方都市の農住混在地域という全く異なる状況の市街地において、WithCOVID-19/PostCOVID-19のまちづくりをどのように考え、進めていけば良いのかについて検討した成果は、同様の議論をしている全国のまちづくりの現場に多少なりとも参考になるのではないかと考え、提言書とそれをビジュアルにまとめたスライドをウェブサイトにて公開している。

街区スケール:駅まちデザイン検討会(国土交通省都市局街路交通施設課)

昨年度の成果「駅まち再構築事例集」をベースに、まちの中心となる駅・駅前広場・周辺市街地が一体となった「駅まち空間」の作り方をまとめた手引きを作成するための検討会が始まった。新型コロナ危機を契機に、働くにも住むにも快適な環境、ゆとりあるスペースへのニーズが高まり、安全性、快適性、利便性を備えた「駅まち空間」の一体的な整備が期待されていることが背景にある。

個人的には、2020年3月末以降、公共交通機関を全く利用しておらず、「駅まち空間」からすっかり遠ざかってしまったので、これまでとは違う視点を提供できるのではないかと勝手に思っている。先日の検討会では、「公共交通機関を利用しなくても行きたくなる『駅まち空間』を考えるべき」と発言した。これまで「駅まち空間」を利用していたのは、公共交通を利用する「ついで」だったことが多いことに気付いてしまったのである。

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