ウマ娘アニメ3期の感想

これまでアニメを200作品以上観てきて、ウマ娘というコンテンツをそれなりに網羅しているつもりの者です。ちなみに1期2期の円盤は買いましたし、シングレなどのコミカライズも所持しています。
かなり辛口の批評となっているので、気にくわないという方はブラウザバック推奨です。
可能な限り記憶を呼び起こして書きますが、つらつらと書いていくだけで観直したりはしてないのであしからず。観直さないというので察してください。

結論から言うと、「なにがしたかったの?」の一言です。

私なりの解釈だと、1期はスペシャルウィーク世代とサイレンススズカを中心としてウマ娘というコンテンツの世界観や方向性を示しつつスポ根アニメの王道をいく話。2期はトウカイテイオーとメジロマックイーン、ライスシャワーとミホノブルボンといったライバルであり仲間という関係を描きながら、怪我を乗り越えたトウカイテイオーの史実をなぞる話。
では3期はどうかというと、おそらくキタサンブラック世代を中心にウマ娘のピークアウトと引退(ドリームトロフィーに移籍)を描く話だったと思います。

史実ではキタサンブラックの引退はピークアウトとは関係なかったのでは?とも言われていますが、その判断は素人の私にはできないので、単純に「アニメとしての面白さ」「ピークアウトを描けていたか」という点で批評します。

まずざっくりキタサンブラックが菊花賞を勝つまでの話です。第1話でドゥラメンテがウマ娘化したこと、それを放送当日までリークされなかったことはとんでもないことだと思います。1話の最初の数分はレース描写、演出ともに素晴らしかったです。しかし、皐月賞を早めに終わらせたのに2期の映像を流したり(キタサンブラックがトウカイテイオーに憧れているなどの情報は3期を観ている人はたいてい2期を観ているので知っている)、ダービーは逃げが不利と分かっているのにトレーナーが大して作戦も立てなかったり、ダービーは祭り祭り言い出したり、モヤモヤしたままダービーが始まって、あっというまにドゥラメンテが差して「負けちゃった」で終わり。確かに史実で負けているからしょうがないと言えますが、もっと描き方があったのではと思えてうまく飲み込めません。
2期までは「負け」に対してなんらかの答えがありました。それは走法だったり体重管理だったり怪我だったりでしたが、皐月賞の負けからダービーの負けまでに何かあったかというとそれがない。例えば逃げの方法や1000mまでの目標タイム、仕掛けのポイントをレース前に確認する。史実通りの展開にするためにそれが上手くできなかった、となっても視聴者は「作戦がうまく決まらなかったんだな」とダービーの負けに納得ができる。しかし実際はスタミナ伸ばそうくらいしか言わずいつものよくわからないトレーニングだけして、レースになったらトレーナーが「かかってるのか?」の一言。2期までの有能なトレーナーはどこに行ったんだ?
結果的にドゥラメンテ以外にも負けるわけですから、ドゥラメンテが強いというよりはキタサンブラックが弱いという印象だけ残して1話が終了。せっかくの出だしのインパクトが台無しです。
そして問題の2話。なんで史実でも関わりのない、チームメンバーでもない、菊花賞勝ち馬でもないナイスネイチャが相談役に?そもそも逃げ脚質でもないし。精神的な支えということならなおさらテイオーでいい。2期の2話でテイオーが観客席から「走れー!」と叫んだシーンを絡めてドゥラメンテいたらなんて言わせない!ってレースを見せてやれって鼓舞するとかできたのでは?なんのために1話でダービーの映像流したのか……。
まあ、この一度きりならネイチャでも良かったとは思います。
菊花賞のレースは特に言うことがない(良くも悪くも)ので、次は有馬~春天まで。

3話は個人的に一番良かった回でした。ほぼゴルシ回ですが、起承転結、レース描写、終わり方まで完璧だったと思います。ここでしっかりとピークアウトの描写が入ります。ただキタサンがそれを見て「自分がこうなったら…」「自分もいずれ…」といったことはなく、どちらかというとジェンティルドンナとオルフェーヴルの実名を出したことの方が騒がれました。シュヴァルグランとサウンズオブアースの描写は最後にまとめて。
4話の春天に向けての特訓回。外部に丸投げはいかんでしょ。ライスとブルボンを出したかったのか分かりませんが、3期はキタサンブラック世代の話だからキタサンブラックに関するキャラクターとスピカメンバーが話の軸になるべきです。やるのであれば、トレーナーがブルボンに指南を受けてトレーナーがキタサンを特訓するという描写にすべきだった。なんのためのトレーナー、なんのためのスピカ加入なのか。この時点でアニメ3期に対して疑念を持ちました。肝心のレース描写はなく勝ちましたという結果だけ。
はい、問題の5話。サトノダイヤモンドのダービーとサトノのジンクスの話は良かった。それ以外はもう出られなかった菊花賞を勝ったウマ娘をドゥラメンテが覚えていないとか、宝塚記念の「誰!?」とか空いた口が塞がりませんでしたね。だったら宝塚記念は全カットで良かった。というか次の6話までの無駄なエピソードになるから、サトノダイヤモンドのダービーから菊花賞まで飛ばすくらいでも良かった。これで一話分の尺がとれるわけですし。ドゥラメンテの怪我を描きたかったのか分かりませんが、結局それでこの後キタサンブラックと何かあったかと言えば何も無かったので本当に何だったのかという回でした。
6話も3話並に良い回でしたね。サトノのジンクスを打ち破るためになんでもやってみようとするダイヤ、それまで夢破れた先輩たちを映してその重さを示す、ダイヤの憧れで菊花賞を勝ったマックイーンが道を示す。レース描写も、もともとダイヤは勝てる実力はあるのに何故か勝てないという話だから作戦を立てたり特別な描写をする必要がないから、周囲が「行けー!」と叫ぶだけで画になるし、勝ちに納得がいく。キタサンブラックのレースと違う部分はここ。最後にみんな号泣して、良い回だったな…と満足感があります。
7話は有馬でキタサンがダイヤに負けます。レース前のキタサンブラック呼び含めて一緒に走るまでは良かったんですが、肝心のレース描写がここまでと比べて物足りなくて、結局謎オーラだして「うおおおおお」言ってるだけです。レースが盛り上がらないので初めての直接対決なのにもう一度観ようという気になりません。
で、ここまでで半分なんですけどキタサンブラックが主役の回で良かった回がないんですよね。これが致命的で、主人公なのに主人公が出ている方が面白くないという事態になっているわけです。1期は世界観の説明が序盤にあって、サイレンススズカも主人公格と言えるので難しいですが、それでも弥生賞とダービー、サイレンススズカも含めると毎日王冠と秋天と主要メンバーで盛り上がる回が複数あります。2期は言わずもがな、完璧な1話から怪我の2話、春天対決、ライスブルボンと中だるみを探す方が難しいくらい。比べて3期はゴルシ、ダイヤと個別回はいいもののキタサンブラックという主人公がスペシャルウィークとトウカイテイオーという前主人公たちに比べて心理描写や決意・何に情熱をもっているのかという描写が希薄なため、視聴者は7話にしてどういう角度でキタサンブラックを見たらいいのか分かりません。1話でテイオーのようになれない、となった後はゴルシからG1何勝できるか?と次の目標のようなものを渡されるわけですが、それはキタサンブラック自身が定めたものではないですし、日本一のウマ娘になりたいからダービーやジャパンカップを勝ちたいスペシャルウィークや、夢破れる度に自分で次の目標を定め、それが折れても復活したトウカイテイオーに比べるとあまりに根拠として弱すぎます。
8~12話は記憶にもほとんど残っていなくて、秋天のどろんこレース描写、各ウマ娘ファン向けの感謝祭小ネタは良かったと思いますが、とにかくウマ娘というレースを題材にした物語で、勝ち負けに対する執念や目標、ライバル関係に関する描写は生命線と言えるのに、「実はこうだったんだよ!」みたいな後出しや唐突な感情の押しつけが多くて途中から辟易していました。例えばシュヴァルグラン。最初からキタサンブラックに対して感情を持っていたということでしたが、それにしては登場シーンで普通に接しているし、意味深なカットもないし、それまでの対決でレース後にちょっと描写を入れているだけで、まさかそれがキタサンブラックへの歪んだ感情に至っているとは思いませんでした。せいぜいこの後勝つからここから成長する布石なんだなと思っていたら、ここでも特に作戦や技術的な話はなく、うおおおおって気合いを入れて叫ぶだけのレース描写で勝ってしまうので、私は「なんで勝てたんだ…」という感想しか残りませんでした。シュヴァルグラン側の上げがないと、ピークアウトしたキタサンブラックになんとなく勝てたという印象になります。

で最終回なんですが、どうして急に新衣装の準備が始まってるんですか?ここまでそんな話一切無かったのに。ガチャ実装の販促ですよね。レースはこれまでで一番ひどくて勝ちたい勝ちたい何回も言っててリアルに10秒回し押しました。ライブシーンは頑張ってましたね。ドゥラメンテさんは最終回になってもキタサンブラックと関わらず遠くで見ているだけです。

全話の振り返りはこんな感じで、長いので良かった点悪かった点をまとめます。

良かった点
・ゴルシ、ダイヤの掘り下げ
・作画の安定感
・ドゥラメンテなどの新規ウマ娘発表
・バクシンオーとの接触でキタサンブラックのピークアウトを表現したところ
・秋天のレース描写(ただしレース後の「そっかぁ」は除く)

悪かった点
・ナイスネイチャ、商店街メンバーの尺が長すぎる
・レース描写がワンパターン
・勝ち負けに対する説明不足(なぜ勝てたのか、負けたのか)
・ピークアウトを題材にしているわりに、ピークアウトがゴルシと退寮するモブとキタサンブラックくらいしか描写されてない
・ドゥラメンテ、サウンズオブアースを出した割にキタサンブラックと関わらせていない(序盤の関わりは何だったのか)
・スピカメンバー、トレーナーが空気
・小ネタが一部しつこい(シュヴァルグランのフォーク、部屋の提灯、新規どうした急に枠)

細かいところを省いてもこれだけあります。ダイヤの凱旋門賞、クラウンの海外挑戦、ドゥラメンテの海外挑戦を完全カットしたわりにその尺にあてられたのは商店街やネイチャといったピークアウトという本筋に本当に必要なものか?という内容。
ピークアウトという誰にでも訪れるテーマにも関わらず、実際にピークアウトしたのはゴルシ、キタサンと名も無き退寮生だけ(描写的にはおそらくダイヤも入るが明言はされず←これが意味不明)。ピークアウトを描きたいのであれば、同期たちはピークアウトではないのかという描写は必須だと思います。あったとすれば先述の凱旋門賞大敗のダイヤと大食らいをするシュヴァルグランくらい。
私の印象としては、キタサンブラックが勝手に自分がピークアウトだと認識して、一人で立ち向かって、そのまま勝ったり負けたりしたという感じなので最終回の感動など全くないわけです。
商店街やファンのみんなのために走ったという意見もあると思いますが、それであればピークアウトのテーマは邪魔だったと思います。演出にしても、並ばれるところで観客席を見て後続を突き放すような感じではなかったですし。

ではどうすれば良かったかと言うと、大前提としてキタサンブラックの物語を作るというのは難しかったと思います。アニメ1話24分の12~13話という限られた時間の中でG1七勝(つまり負けたレースも含めると…)を描くとなると1話に1レースとしてもキタサン以外の勝ちレースを描く余裕はありません。他のキャラを立たせるという時点で、キタサンを中心に描けるレースは4~5本が限界で、しかも物語の起伏として序盤で勝ち、中盤で負けて勝ち、最終回前で負けて最後に勝つ必要があります。
当てはめるならば初G1勝ちの菊花賞、ダイヤに負けて勝つ有馬と春天、最後は有馬なのでその前の負けは宝塚かJCのどちらかに絞るか半分ずつダイジェストで削るか。
実際はどうだったかというと、
キタサン→ダービー(ドゥラメンテ)、菊花賞、宝塚(誰)、有馬(ダイヤ)、春天(ダイヤ)、宝塚(クラウン)、秋天(クラウン)、JC(シュヴァル)、有馬とキタサンブラックが史実で走ったG1レースのほとんどをフルで描いています。これでは尺が足りるわけが…
案の定、クラウンとシュヴァルについてはキタサンとのレースはフルで描写されたものの、そこに至る因縁や互いの感情、思い、覚悟の描写が希薄で、せっかくのレースシーンが「そうだったんだ」で終わってしまいます。
省きますが2期まではそこがしっかり描写されていたため、レースの熱い展開に説得力があったわけです。
この時点で同期とのライバル関係が薄いのに、さらに走る動機が商店街(ファン)で、師匠枠がネイチャと物語に一貫性がなかったのが一番の問題だと思います。
ようはやりたいことが多すぎて話が散らかっているわけですね。

商店街、ネイチャの尺をなくして、スピカ加入をするにしても関わるのはゴルシとテイオー、トレーナーのみ、菊花賞からスタートにしてドゥラメンテ登場を回想シーンか菊花賞後方王者面、ドゥラメンテに時間を割き、序盤の山場にする。クラウンシュヴァルとの直接の関係をダイヤ有馬後にして春天まではドゥラメンテダイヤとの関係を優先する。宝塚敗戦後、ダイヤと連絡をとってピークアウトの描写をして、秋天JCを経て、有馬前にドゥラメンテと会話をして覚悟完了からの有馬エンディング。これならまあ尺は足りるかという感じ。

そもそもピークアウト、ライバル、商店街(ファン)という要素が相性悪くて全てを同時に描くと歪みが生じると思うのですが脚本作成段階でそういう話は出なかったんでしょうか。

2期までは迷わず円盤買ったんですけどこれはいいかな…ってなります。特にネイチャ関係と、宝塚の誰!?と、トレーナーが無能なのと、ドゥラメンテの存在意義のなさが気になりました。

ここまで散々書きましたが、一視聴者の感想ということで。

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