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エヴァンゲリオンの楽曲とBBC Proms Japan Prom4「Game&Cinema Prom」


注:作品中の用語の詳細は省略します。また、作品について語っている熱量高い部分が多いです。読み飛ばすか雰囲気で感じてください。


新世紀エヴァンゲリオン


新世紀エヴァンゲリオンは、日本アニメを代表する作品。
オープニング映像と主題歌である「残酷な天使のテーゼ」「DECISIVE BATTLE」(ティンパニーから始まるあのアゲアゲの曲)は、誰もが一度は目・耳にした事があるだろう。
『残酷な天使のテーゼ』は2022年10月17日発表された「JOYSOUNDカラオケ30周年ランキング」1位に選出され、この30年間で最も多く歌唱されたカラオケ曲として頂点に輝いている。
それぐらい、国民的な知名度は高く長い歴史を持つ作品である。
テレビ初回放映は、なんと我らがかてぃんさん生後3ヵ月の時!



一方で作品はというと、人間の心奥深くを探るストーリ展開、完全には明らかにされない難解な用語や設定、トラウマとなる残酷な映像表現(これらは、限りなく美しい映像や圧倒的戦闘シーンと共に描かれ、そこがこの作品の何よりの魅力と感じている)がためか、宮崎駿監督のジブリ映画のように幅広く大衆に受け入れられるものではない。
しかし、庵野秀明監督という天才が生みしたこの作品は、アニメ業界へ多大な影響を与え、旧劇場版・新劇場版を経て、現在も世界中の熱狂的ファンから愛されるアニメ作品となっている。

注:庵野監督は宮崎駿監督を師と公言されている。「風の谷のナウシカ」巨神兵のシーンは若き庵野監督が担当された。身を削るようにエヴァ作品を作り続け一時鬱状態となった庵野監督を、宮崎監督が「風立ちぬ」主人公CVに起用した事が、作品作りに復帰するきっかけとなったという。

このエヴァンゲリオンシリーズの音楽を、テレビ放映当時から完結編の劇場版まで、四半世紀に渡り手掛けたのが、作編曲家・音楽プロデューサーの鷺巣詩郎さんである。


BBC Proms Japan Prom4とエヴァンゲリオンの音楽


7月29日、かてぃんさんが、BBC Proms Japan2022のリーディングナビゲーターとして選ばれ、Prom4「Game&Cinema Prom」へ出演される事が発表された。
徐々にその内容が明らかとなり期待が高まる中、10月にアップされたインタビュー動画で思ってもみなかった言葉が発せられる。

彼女(挾間美帆さん)がアレンジに携わっている鷺巣詩郎さんの『新世紀エヴァンゲリオン』のタイトルからもお届けできたらなとそんな風に考えています

BBC  Proms Japan公式HP 動画&メッセージ
「角野隼斗さんへのインタビュー動画
(前編)」

かてぃんさんの口から鷺巣詩郎さんのお名前を聞いた瞬間、嬉しさの余りフリーズした。劇中音楽を担当されている鷺巣詩郎さんの楽曲を、今まで演奏されていた事があっただろうか?
シン・エヴァンゲリオン劇場版のテーマ曲である「One Last Kiss」がかてぃんチャンネルからアップされた時の喜びと感動も相当なものだったが、このお知らせを聴いた時、そして演奏曲目を知った時の喜びといったら言葉にしようがない。

植松伸夫『ファイナルファンタジー』より     
      プレリュード
吉松隆 :ピアノ協奏曲『メモ・フローラ』Op.67
     第1楽章 FLOWER / 第2楽章 PETALS / 第3楽章 BLOOM

挾間美帆ピアノ協奏曲 第1番 より 第1楽章 (東京芸術劇場委嘱作品)
下村陽子『キングダム ハーツ』より     
     Dearly Beloved・・・Arr. Kaoru Wada     
     Vector to the Heavens・・・Arr. Sachiko Miyano
J・Sバッハ
:『主よ、人の望みの喜びよ』カンタータ 第147番 BWV.147 より
鷺巣詩郎『エヴァンゲリオン』より
      Tout est Perplexe・・・Arr. Miho Hazama     
      THANATOS_E13_NAOTO・・・Arr. Shiro SAGISU

植松伸夫『ファイナルファンタジー』より     
    闘う者達 / 更に闘う者達・・Arr . Hayato Sumino / Kimiyo Ishida

BBC Proms Japan 公式ウェブサイト
Prom4 演奏曲目より

J・Sバッハ:『主よ、人の望みの喜びよ』カンタータ第147番BWV.147より


エヴァンゲリオンの作中では、テレビ版~旧・新劇場版を通して、クラシックが物語の鍵となる重要なシーンに数多く使用されている。
『主よ、人の望みの喜びよ』もその一つである。

このバッハの名曲は、1997年7月に公開された『新世紀エヴァンゲリオン 劇場版Air/まごころを、君に』と、2021年3月に公開された『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の2作品で使用されている。

『新世紀エヴァンゲリオン 劇場版Air/まごころを、君に』では実写パートとよばれる部分(Netflix 1:12:05~)で使用されている。エヴァファンに向けたメッセージ性の強い伝説のシーンである。
物語の舞台となった第3新東京市を彷彿とさせる街の映像と、制作途中ながらも公開された『新世紀劇場版エヴァンゲリオン シト新生』上映の際の観客席の映像(新宿ミラノ座)が流され、碇シンジと綾波レイが「夢や虚構と、現実」について対話を進めていくシーン。
そしてラストに、当時庵野監督や制作スタッフに向けネット上で書き込まれた誹謗中傷やメッセージが次々と瞬間挿入され、綾波レイのセリフ「それは夢の終わりよ」と共に実写パートは終了する。(テレビ版最終話2話の衝撃的な終わり方は当時大きな反響を呼び、ネット上の誹謗中傷は、監督に自死を考えさせる程であった

このシーンを見返すと、祈りを込めるように弾くかてぃんさんとPriviaとバッハの音楽だけが存在する、あのはやとちりラジオの演奏(非公開)が思い起こされる。



『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』では、冒頭から「新劇場版:序・破・Q」3作品を総括する約四分弱のパート「これまでのヱヴァンゲリヲン新劇場版」に用いられている。こちらは、コーラス付きとなっている。
庵野監督がいままでの作品を振り返り、この後始まる本編でエヴァを終わらせようとしている、そんな意志が感じられる。

コーラス付きということで、Cateen's Piano Liveの『主よ、人の望みの喜びよ』を聴いた時の私の喜びはこちら。コラールが流れ始めた時は鳥肌が立った。



Tout est Perplexe


この曲は、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(1:23:33~)で用いられている楽曲で、作曲は鷺巣詩郎さん、編曲とピアノ演奏は挾間美帆さんが担当されている。
劇中では、「Qのテーマ」をアレンジした2曲「Kindred Sprits(Thme Q)=3EM30a=」「Tout est Perplexe(Thme Q)=3EM30b=」(2:28~)で構成されている。


エヴァンゲリオンとエヴァチルドレン達、人類補完計画をめぐるこの作品は、テレビ版から劇場版まで、長い円環の物語として連続しており、劇場版はループn回目の設定であるとされている(所説ある)。
この曲は、渚カヲルがn回目の最期を迎えるシーンで使用される。
碇シンジを幸せにするため生まれて(または人類補完計画のために造られて)きた渚カヲルは、円環の物語の中で何回もシンジの手による死を選ぶルートを辿る。新劇場版:Qでは、渚カヲルがシンジに別れと再会の謎メッセージを残して爆死する、美しく凄惨な場面である。
エヴァ史上1・2を争うトラウマシーンとして有名で、物語の鍵となるシーンでもある。

挾間さんとエヴァンゲリオンの楽曲について調べている中で、この曲に関する記事に出会ったので、読んでいただきたい。

エヴァンゲリオンの音楽を手がける作曲家、鷺巣詩郎(さぎす・しろう)さんに誘われ、前作(新劇場版:Q)から参加している。その頃、まだ米国で留学生だったが、鷺巣さんは「エヴァンゲリオンって、総監督の庵野秀明のもとに才能が集まる〝場所〟なんですね。だから、僕もさまざまな才能ある音楽家を集めた。挾間さんもその一人」と振り返る。
(中略)どの音楽をどの場面で使うかを決めるのは庵野総監督。鷺巣さんにも分からない。挾間さんにいたっては、「それが何の音楽かさえも知らされないまま編曲していた」と笑う。「前作(新劇場版:Q)を見たら、非常に重要な場面で自分のピアノ演奏(Tout est Perplexe)が流れてきて、もう真っ青になりました」

産経新聞ニュース
ジャズ作曲家、挾間美帆さん「音楽は生きる源泉」コロナ禍で痛

作曲担当の鷺巣さん・編曲とピアノ担当の挾間さんは、映像に関する情報が何もないまま、まるでこのシーンに合わせて作曲されたような、美しく切なく壮大なこの曲を作り上げたというのだ。
この記事を読んで、お二人の凄さと、この曲にこの映像をあてる庵野監督の才能に、思わずため息が漏れた。


鷺巣詩郎さんは『Shiro SAGISU Music from“EVANGELION 3.0"YOU CAN(NOT)REDO.』のブックレットで「エヴァンゲリオンの音楽は記録の集大成。膨大なアレンジ違いの曲が序・破・Qの3作品で総数2000、そのうち記録に500残している。」と話しておられる。
また、庵野監督の音響手法について、「通常、音楽が絵にスポッティングする所を、真逆の、音楽に画をあわせていくPV感覚」とも話しておられる。
「録音音源を監督に投げ、監督が気に入れば、ここはこうしてと、修正・調整を繰り返す幸せなループ」の中で、長年制作を続けていらっしゃったそうだ。(『Shiro SAGISU Music from “SHIN EVANGELION”』ライナーノーツ)

「才能が集まる”場所”」とは、凄い所だと思った。
かてぃんさんも、近い将来、間違いなくこういった“場所“にお呼びがかる、もしくは告知がないだけで既に、お呼びがかかっているかもしれない。
そう考えただけで胸が高鳴る。


THANATOS_E13_NAOTO


「THANATOS」はテレビ版エヴァンゲリオンから使用されている楽曲で、「DECISIVE BATTLE」と並ぶ名曲の1つ。
「THANATOS_E13_NAOTO」は、テレビ版から新劇場版までヴァイオリニストとして劇中音楽を彩ってこられたNAOTOさんのアルバム『Prism』収録用に鷺巣詩郎さん自らがアレンジされた作品。切なく胸が締め付けられるような原曲を、更にドラマチックに編曲されたものとなっている。
(NAOTOさんは、のだめカンタービレの峰くん吹き替え担当や楽曲提供、ゲスト出演もされている)

「THANATOS」はテレビ版第拾九話「男の戦い」第弐拾参話「涙」、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』で使用される。

1つは、父との確執の末「もうエヴァに乗らない」と決めシェルターに避難していたシンジが、最強の拒絶タイプと呼ばれる使徒vsネルフ・零号機の凄まじい総力戦と惨劇を目の当たりにし、再びエヴァに乗る事を決意するシーン。第拾九話「男の戦い」(14:40~) 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(1:34:16~)

もう1つは、綾波レイが、侵食タイプの使徒と対話するシーン。クローンゆえ無感情のようであったレイが、寂しい・悲しいといった感情を実は持っており涙を流している自分に気づく。そして更に侵食を進めてくる使徒を抑え込むため自爆する。第弐拾参話「涙」(9:30~)


おわりに


エヴァンゲリオンの楽曲が、BBC Proms「Game&Cinema 」の演奏曲目として採用された嬉しさで、長々とエヴァとその音楽の魅力について語ってきたが、決してエヴァンゲリオンを観て欲しいという事ではない。
人間の内面を掘り下げる内容やボリュームの点で、むしろ非推奨なぐらいである。

エヴァンゲリオンの作品には、「残酷な天使のテーゼ」や「ヤシマ作戦BGM」以外にも、こんな素晴らしい音楽が使われているのだという事を知っていただきたかった。そして、かてぃんさんがこのプログラムで取り上げてくださることで、沢山の方にそれが伝わるのが嬉しかったのだ。
更には、推し×推しのコンサートなんて、最高オブ最高だ。


ゲームや映画・アニメの映像にあてられている音楽は勿論、一つ一つの背景や世界観を知っているからこそ感じる喜びや感動というものは大きい(延々と綴ってきたのはそれ)。
しかし、エヴァンゲリオンを知らなくても、ファイナルファンタジーやキングダムハーツのプレイヤーでなくとも、純音楽やクラシックを愛する方も、エヴァ民も、FFガチ勢・キンハーガチ勢も、だれもが音楽自体を楽しんでいる。音楽の楽しみ方・感じ方は自由で人それぞれであっていい、そこがいい。
初めて出会う曲であっても、素晴らしい演奏というものは、沢山の刺激や興奮・感動を与えてくれる。

今日のBBC Proms Prom4に行かれた皆さんの感想を読ませてもらって、そのことを強く感じた。

そして、かてぃんチャンネルで初めて出会った「魔獣ガノン戦 2台ピアノで弾いてみた 」と「ピアノ協奏曲第1番 "蠍火"(beatmaniaIIDX 11 RED より)」を聴いた時の感動と、ゲーム音楽である事を知った時のあの衝撃を思い出した。「え??ゲーム音楽???」

やはりBBC Proms Prom4行きたかった。行けないと分かっていても行きたかった、行きたかった。。。



以下、BBC Promsディレクターのディヴィッドさん、BBCコンサートマスターのイゴールさんとかてぃんさんのインタビュー対談より、刺さったお2人の言葉を抜粋。

「音楽への敷居の低さがコンセプトであること」
「さまざまな層の聴衆にさまざまなタイプの音楽を届けることができるのです」
「さまざまな人々が混じり合っており 皆が自分たちの観点で楽しんでいました」
「私たちは音楽の世界を広げようとしておりBBCはそれに非常に真剣に取り組んでいます」

厳選クラシックチャンネル
【生配信でかてぃんさんもご登場】角野隼斗×BBC Proms ロングインタビュー in London/
ほぼノーカット上映ライブ


これ、普段かてぃんさんがされてる活動・かてぃんチャンネルそのものですよね?
「最上の音楽をより多くの人に届ける」BBC Promsの理念やディレクターさん・コンマスさんが考えておられる事と、かてぃんさんのシンクロ率が400%を超えている。
各種媒体でのインタビューや動画で、かてぃんさんがなぜリーディングナビゲーターに選ばれたかが良く分かった。
次は、本家BBC Promsで日本人作曲家のプログラムを演奏することになるのか、日本のゲーム・映画音楽を取り上げたプログラムを本場英国で届けてくれるのか、ガチクラシックのプログラムで会場を沸かせるのか。
かてぃんさんの音楽が6000人の聴衆を熱狂させる光景は圧巻だろうな。
想像するだけで良すぎる。

今回のプログラムも、ゲーム音楽と純音楽をボーダレスにつなげることによって、聴いた人にとっての、何かしらの「きっかけ」になれたら嬉しいなという思いがあります。
(中略)
「最上の音楽をより多くの人に届ける」というBBC Promsの理念や、イベント自体には、憧れとシンパシーを感じます。BBC Promsには、ロックの夏フェスのような雰囲気もあって、クラシックのカジュアルな楽しみ方も提案しつつ、新たなプログラムも開拓していて、貴重な場になっている。理想的ですよね。その日本バージョンのリーディング・ナビゲーターに選んでもらえたのは恐縮ですが、嬉しい。僕にできることは頑張りたいです。

角野隼斗が愛する「ピアノ協奏曲」と「ゲームへの思い」
『BBC Proms Japan』インタビュー


かてぃんさん、
いつも沢山のきっかけをありがとう!
いつもできる限りを尽くしとてつもない感動をありがとう!
いつも最上の音楽を沢山の人に届けてくれてありがとう!
いつも楽しい音楽の時間をありがとう!


おまけ


その1:エヴァ作中に使用されているクラシック曲一覧をまとめてくださっているサイトです。


その2:鷺巣詩郎さんのエヴァ集大成ともいえるアルバム『EVANGELION INFINITY』があります。
「DECISIVE BATTLE」のアレンジ違い「EM20」シリーズを3枚のCDに集めた、オールヤシマ作戦のようなアルバムです。
劇中の、ここぞ!という戦闘シーン等に使用されている作品群でめちゃくちゃカッコいいです。関心のある方は聞いてみてください。




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