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反復の目的

 皆さんこんにちは。

 緊急事態宣言からひと月ほど。こちらも息苦しい自粛の日々です。みなさま方におかれましては、お変わりございませんでしょうか。

 今回、自主練においてこの自粛期間中にしておくとよい練習を伺いたいとお声を頂戴し、なにかひとつ書いてみようと筆を執りました。

 ただ、わたしもまだ修行中の身の上で、つたなく安定しない自己解釈を書くわけにはまいりません。

 なので、先生方の言葉を、この機会に文章化して、みなさまのご修行の役に立てばと祈念するのみです。

 言うまでもなく Imi Krav Maga ve Hagana Atsmit は、Imi Lichtenfeld先生によってまとめ上げられた練習体系です。

 そのイミ先生が、自分に続く者達に、11条の言葉をのこしてくれています。

 今回は、そのうちから一つを紹介し、それに対するBoaz Hagay先生の和訳と解説をシェアいたします。

 よければ参考にしてみてください。



 さて、この自粛期間中にしておくとよい練習について、結論からいえば、しておくべき事は【今までに習ったことの反復】です。目あたらしいものはありません。

 ですが、目的のみえない反復作業というものは、達成感に乏しく苦痛なものです。

 なのでこの自粛期間中は、反復から達成感を引き出す方法と、それに後押しされる一皮むけるような体験をしてみてほしいなと思います。(ワシもこの休み期間にひとかわむけたい)



 ときに、修行は登山に例えられます。

 登山で言えば、まず頂上の位置を知らなければ、歩むべき方角がわかりません。

 方角が定まったら、目的地たる頂上までの距離をいくつかの段階にわけてペース配分いたします。登山でいえば、行程を一合目から十合目までわけてみるような登山計画ならぬ練習計画をたてるわけです。

 大きくも小さくも【自分が今どこを目指しているのか】が明確になりますと、登山でいえば足を交互に挙げる作業、われわれで言えば手足を同時に働かせる作業の反復を、比較的に飽きることなく楽しめるようになります。

 では、われわれが反復してたどり着くべき目的地とは、どこにあるのでしょうか。


 それについては、イミ先生がこう話しています。

 Practice in away that no move no technique will be un familiar to you.(Imi Lichtenfeld)

 このままを直訳しても、すこし難解な日本語ができあがるかと思いますが、この言葉を文脈ごとを知っているボアズ先生はこれを、

「どんなうごきでもわざでもわかるまでけいこすること。」

 と訳しています。また別の機会にわたしはこれを、

「どんな動きも技も(身体に)なじむまで練習してください。」

 という意味だと、ボアズ先生から説明してもらったことがあります。

 我々の反復は、ここに至るためにあるのではないかなと思います。



 ところで。登山を成功させるためには、重量の制限をうけながらも、さまざまな装備が必要かと思います。

 ザック・ザックカバー・腕時計・雨具・ヘッドライト・タオル・計画書・コンパス・地図・筆記具・スマホ・予備電池・ティッシュ・ゴミ袋・お金・行動食・水分・ロープ・エマーシート・火種・保険証・非常食・ファーストエイドキット・etc…

 ほかにも基礎体力や健康管理や天候や運、装備以外にも要素をあげたらおそらくきりがありませんが、それらを揃えてザックに詰めても、必要に応じて最適な組み合わせが袋から取り出せないようでは、持ってきていないのも同然ですし、取りだすことは出来ても、使用法をそこで一から学んでいてはとてもとても事には間に合いません。

 ゆえに、ひとつひとつの持ち物は、考えなくても収納場所から引きだすことができて、引き出してすぐ目を閉じていても使用できるほどに、道具にはこなれておくことが必要です。

 富士の山に合目があるように、我々の修行には白から黒までの七つの帯があります。

 この階のひとつづつに、身につけるべきカリキュラムがあり、言うまでもなくこれはイミ先生が定めたもので、そこで習得していただいている審査科目はすなわち、登山でいうところの装備品です。

 われわれは、ひとつひとつの動きや技を、事において考えなくても適切に記憶から引き出して組み合わてすぐ使用できるように普段から習熟しておく必要があるわけです。

 つまり、どんな動きも技も、平素から身体になじむまで練習しておく必要がある。ということです。



 さて最後に、具体的な反復の方法について書いておくことにします。

 勘違いしがちなのですが(私自身がそうでした)、審査のため憶えていただいた技は、その順でおこなうものではありません。

 例えばマペックですと、八つの方向がありますが、おつたえした順は便宜上のもので、実際の使用においても・反復練習時においても、1~8の順をなぞる必要はありません。これは単なる技のリストアップであり、脳へと収納する方法です。

 脳に収納し持ち帰ったものは、次にひとりで一つか二つえらび、からだで反復し、身につける作業に入ります。

 正面の水平と垂直と下だけを好きなだけやって構いません。

 それをステップと組み合わせて、また好きなだけやってもらって結構です。
 
 時間は五分でも五時間でもけっこうです。

 最初は目足手すべて同時に要点を守って一致させ動かすことは難しいと思います。

 なので、八つの内からどれかを選んで、反復してみてください。

 そして一つができるようになったら、もうひとつ、そこに組み合わせて、ステップと一致させて反復してみてください。

(このあたりのことは次回以降にしますが、興味がある方はチャンキング(英:chunking)について調べてみてください。)

 

 いきなり本番を想定しない場合でも、ふだんの教室での練習では、ひとり稽古で身になじませた動きと技をつかい、練習仲間にかるく打ってきてもらったものを処理し、その馴染み具合をまた検証し、同時にタイミングや勘を会得していくことになります。

 つまり、身につける動きと技は、武器でもあり、練習道具でもあるわけです。

 野球の練習に、バットとボールとミットをもってこない者がいないように、われわれは家から手入れ済みのステップとマカットを持参するわけです。


 黄帯の方もふえてまいりましたし、マペックをはじめマカットの使い方も、上級者を打っていく役割を練習の中で受け持つうちに今後、実際に目にも肌にもしていくことになるかと思います。

 この自粛期間がおちついて、ふたたび相手をおいて練習できる日がくるまでの時間を、ならった動きと技を使える段階まで押し上げる貴重な熟成期間として活用してみてください。

 わたしも、そのつもりで反復しています。

 ひとかわむけて、皆でまたコーヒーを飲みましょう。

座右の銘おいときます。画・あきまん画伯



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