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本 羊と鋼の森

羊と鋼の森 宮下奈都

久しぶりに本を読んだ。次の旅行先をどこにするか、北海道か青森か四国か、今思えばあほくさいけれど本気で思い悩んでいた時、あの人が貸してくれた本。コンビニのビニール袋にそのまま突っ込んであって、家に持ち帰った後ほんの少しだけ引いて、でも、らしいなって思ってそのままにしておいた本。

北海道の情景が何度も思い浮かんで、あの人がこれを貸してくれた理由がすぐに分かった。大雪山系の山の森、大雪山のどの方角を指すのかまったく分からないけど、その一文を見たとき私が知る北海道の山の景色が思い出されて、そこからはするすると読み進められた。

おもしろかった。本には詳しくないし、他と比較してどうおもしろいとかは言えないけど、文字に表されているのが情景や心情だけではなくて、音の質感や温度や柔らかさ、匂いだったりするので、読み手の自由がきく分、おもしろかったように思う。北海道の植物が出てきたり、実家の山間のようすだったり、山と海とのリンクだったり、北海道の自然にまつわるエピソードが散りばめられていて、私にはとてもうれしい文章だった。

「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」

作家さんの言葉ではなく、原民喜という小説家(授業で習ったんだろうけど知らんかった)の言葉を引用したものらしいけど、これが一番好きだった。志す仕事ぶりへの表現として出てきた言葉だけど、こんな人になれたらと思わずにはいられない、ロマンティックすぎる言葉だな。きれい〜