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下総上総は千葉一族の島  吾妻鏡の今風景09

真鶴から船出した頼朝一行が流れ着いたのは、猟島(鋸南町)であったとされるが、洲崎だったという説もある。
頼朝は安房の地で幾つかの戦いを経て、地元の豪族、千葉常胤、上総広常の元へと使者を遣わし、千葉一族を味方につけた。

頼朝が平野仁右衛門に褒美として与えた島。個人所有。


 
千葉県とは、下総上総、安房。と言われてはいるが、平安時代の下総国は、現在の千葉県北部から、埼玉県の一部まで広がっていた。(現在の流山市のあたりは、下総国である。)そして、西側は隅田川まで。

そもそも、江戸川、利根川の川筋は現在とはかなり違い、渡良瀬からの流れは、手賀沼から霞ケ浦、北浦へと流れ込み、そして海まで繋がっていた。霞ケ浦の向こうが常陸国。
現在の都内葛飾区、及び野田にかけては湿地帯で、千葉県野田市流山という地名は、氾濫によって上流の赤城山から流れてきた土砂が山のように堆積したことが地名の由来であるとする。野田の一帯は、湿地帯で、渡良瀬川、小貝川が氾濫する地域であった。
その湿地帯は隅田川の東側まで広がり、霞ケ浦の内海、渡良瀬の下流にあたる湿地帯によって、隣接国から隔絶されたような、あたかも巨大な島が、千葉一族の土地であったということになる。


 
千葉一族は、妙見菩薩を信仰していた。
妙見(北辰)菩薩の起源は、晋代における『七仏八菩薩所説大陀羅尼神呪経』(妙見神呪経)で、「我北辰菩薩名曰妙見。今欲說神呪擁護諸國土。所作甚奇特故名曰妙見。」(我れ、北辰菩薩にして名づけて妙見と曰ふ。今、神呪を説きて諸の国土を擁護せんと欲す。所作甚だ奇特なり、故に名づけて妙見と曰ふ。)
平安時代の日本では、神が仏教に帰依して菩薩になるとする本地垂迹説が唱えられ、中国でも同じような流れで、道教の最高神である北辰大帝が仏教徒になって菩薩になったものが北辰菩薩(妙見)であるとする。仏教、どんだけ偉いんだか~。なお、妙見信仰は、道教由来なので(つまり純粋な仏教ではなく)、帰化人によってもたらされたと思われる。

上野の花園という寺、妙見寺


 
千葉一族の祖は、桓武天皇の子孫の平高望王の五男の平良文(たいらのよしふみ)。仁和2年(886年)3月18日、京生まれで、東国に下って平将門と共に戦った人物。
 
将門が伯父の上総介良兼(良文の兄)と常陸において合戦、蚕飼河の畔に追いつめられた時に童子があらわれる。(注・蚕飼河は、小貝川。)
童子は落ちた矢を拾って将門に与え、また、将門の弓をひいて(10本の矢を同時に)射る。これを見て良兼は兵を退いたとされる。将門が童子の正体を問うと、「妙見大菩薩なり。汝は正しく直く武く剛なるが故に、汝を守らんため来臨した。吾は上野(こうずけ)の花園という寺に在り。」と答えて姿を消した。
この花園という寺は、すなわち妙見寺で、上野国分寺に隣接している。

広大な敷地に、柱の跡が残っている。


将門はのちに東八ヶ国を従え、下総相馬郡に京を立て将門親王と号するが、仏神の田地を奪い取ったので、妙見菩薩は将門を見捨て、その養子となっていた良文のところへいったとする。
これが千葉氏の妙見信仰の由来で、のちに千葉氏の居住地である千葉に妙見神社が広まる。
上野、下野だけでなく、常陸にも妙見信仰の寺社は多いが、妙見は明神(神仏混淆)なので、明治の神仏分離で星宮神社と名前を変えたり、八幡社に合祀されることとなる。

久留里線、馬来田(まくた)駅

さて、治承四年(1180年)旧暦九月十三日、千葉氏は下総国府(市川市国府台)を襲撃。一方、下総守の判官代である藤原親政(清盛の従姉妹婿)は、千葉氏の本拠地、千葉荘(ちばのしょう)を攻撃。
千葉荘で留守居をしていた成胤(常胤の孫)が、「柏原の天皇の后胤、平親王将門の十代の末葉、千葉の小太郎成胤、生年十七歳に罷り成る」と名乗りをあげて応戦するが、形勢不利。そこへ童子が現れ、敵の射る矢を空中で受け止めて、成胤を護ったとされる。妙見大菩薩の化身が、またまた童子になって姿をあらわし、千葉氏の窮地を救ったということ。

『二中歴』によれば、良文の三男・平忠頼の子孫が千葉氏、上総氏、秩父氏、河越氏、江戸氏、渋谷氏で、五男・平忠光の子孫は三浦氏、梶原氏、長江氏、鎌倉氏となったとされる。つまり、八氏すべての先祖が高望王ということになる。(注・二中歴は、鎌倉時代初期に成立した書物で、中二病とは関係ない。)

千葉氏と上総氏の流れは以下、良文のひ孫の常長までは同じで、その次の代で千葉氏、相馬氏、上総氏に分かれ、相馬氏が再び上総氏となる。

良文→忠頼→常忠→常将→常長→(千葉)常兼→(千葉・下総)常重→(千葉)常胤
良文→忠頼→常忠→常将→常長→(相馬)常晴→(上総)常澄→(上総)広常
良文→忠頼→常忠→常将→常長→(上総)常家→(上総)常澄へ
   (秋月さやか)

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