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ふくせん探偵 日崎マイ子

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note創作大賞2024、お仕事小説部門にエントリー中。 自身の訪問リハビリでの経験と 介護福祉分野への想いを、 創作ミステリーという形で纏めました。 リハビリに縁がある方も…
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#パーキンソン病

第9話『名探偵帰らず』

 その年は早々と梅雨入り宣言が  あったが、雨はまだ降らず。  ただ湿度の高い、  重たい空気だけが満ちていた。  自分の精神状態と同じだなと  思っていたのを、  今でもよく覚えている。  日崎さんの訪問リハビリはあの後、  中止になっていた。  始めは、少し体調が悪いという  連絡があり1週間休んだ。  僕もどんな顔で訪問したら良いか  分からなかったので、丁度良かった。  その時はまだ、そのうち以前のように  戻れる、時間が解決してくれる。  と漠然と思っていた

第8話『迷子の名探偵』

 日崎さんと出会ってから  2度目の春は、  不思議な電話から始まった。  あれは3月下旬頃、春分の日も過ぎて  外の風や空気にうっすらと  春の輪郭が見え始めた頃。  僕が午後の訪問を終え診療所に  戻ってくると、菅ケアマネが  するするっと近づいてきた。 「松嶋君、おかえり!  あなたに電話があってさ。  日崎さんの娘さんから」  日崎さんと聞いてドキッとした。  名探偵は冬の寒さで、  体のこわばりが増していたのが  積み重なって調子が悪かったから、  何かあっ

第1話『名探偵登場』

      あらすじ  就職率に惹かれて資格を取り、  確固たるやりがいも見つからないまま  訪問リハビリを続ける理学療法士が、  福祉領域専門探偵、通称ふくせん探偵  を名乗る女性を担当することに。  難病を抱える彼女が活動できるのは、  1日5時間だけ。  季節毎に舞い込む難事件に対して、 『黄金の5時間』で彼女が起こす奇跡  とその生き様に、  毒舌だけが取り柄だった理学療法士は  心揺さぶられ、  セラピストとしても人間としても  成長していく。  名探偵、日崎マ

第3話『土用に耽る名探偵』

 その年は10年に一度の猛暑で、  7月上旬から始まった真夏が  ずっと続いていた。  訪問リハビリという仕事はその特性上、  天気や気候との闘いという側面も  非常に強い。  軽自動車で訪問できるゴージャスな  事業所もあるらしいが、  僕の勤め先だった診療所の場合、  移動手段は自転車か原付バイク。  入職した時、  真っ白なペーパードライバー  だった僕は、しばらく自転車族だったが  当時の先輩に根気強く指導して貰い、  原付バイクに乗れるようになった。  自転