個人情報は何重にもチェックを

 いったいどこからどのように説明すればよいものやら困ってしまうような、愕然とさせられる経験をした。この記事を綴るにあたっては、大いに恥ずかしい個人的な事情もいくつか明かさねばならない。しかし、折からのコロナウイルスの影響のみならず、さまざまな事情が重なって暮らし向きが苦境に追い込まれている方々にとっていくらかでも注意喚起になればと、あえてあからさまに綴ることにする。

 なお、ここでいう給付とは、現下のコロナウイルス対策としての1人一律10万円の定額給付金や、中小企業、個人事業主対象の持続化給付金などにとどまらず、役所で行うあらゆる給付の申請、受給、貸付等に関わることと捉えていただいてかまわないと思う。

 この記事でお伝えしたいことはひとえに、個人情報は何重にもチェックすることと、油断大敵ということである。

発端

 私は2020年3月20日付でそれまで勤めていた会社から解雇された。米国の酪農関連雑誌の日本語版発行に伴う翻訳・編集作業を担当していたが、販売部数低迷その他の事情により日本語版の廃刊やむなしとなり、担当部署そのものの廃止が決まったためである。

 退職後速やかにハローワークで雇用保険の受給申請をし、待機期間、求職活動(待機期間から認定日までの間に最低1日)、認定日、支給日の告知を経て、支給日を迎えた。

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 この告知にはそもそも腑に落ちない点がある。支給日が◯月◯日「頃」とされている点である。役所にせよ民間企業にせよ、たとえば給料日を「◯日頃」と定めているところなどあるだろうか。どこであれ、「◯日(その日が土・日・祝日にあたる場合はその前日)」などと限定されているはずである。ハローワークでは、システム上「頃」としか明言できないというが、いったいどんなシステムなのやら。

 ともあれ、今回の私のケースでは、支給日は「(4月)30日頃」だった。30日に銀行へ残高照会をしにいくと、振り込まれていない。その足でハローワークへ行き、振り込みがなされていないがどうなっているかと問い合わせた。すると、すでに振り込みの手続きは済んでいるので、そこから先は銀行側の都合ではないかとのことだった。もし翌日になっても振り込まれていなければ再び問い合わせてもらいたいという。そして今日5月1日、朝一番で残高照会をするとまだ振り込まれていなかった。すぐさまハローワークに出向いて調べさせると、信じられない答えが返ってきた。

初歩的にもほどがある

 振り込み先口座番号の入力をミスしていたというのである。初歩的ミスの極みである。受給申請時に私が所定のフォームに記入した番号は間違っていなかった。通帳のコピーも取らせている。処理時に5桁目と6桁目の数字を逆に入力していたのである。

 頭に血が上った。失業給付は、失業後無収入の状態でも安心して求職活動ができるようにとの意義を持ち、その間の生活を支える唯一の手段である。その給付が遅滞なく行われなければ、暮らしが成り立たない。現在私にはまとまった蓄えもなく、給付を受けられなければ今この場で生活は詰む。当然、正しい口座番号を速やかに再指定して一刻も早く給付がなされるようにと抗議した。

 ところが、今すぐに口座番号を再指定しても、実際に振り込まれるまでにはさらに7〜10日「ほど」を要すると言い出した。ここでもまた「ほど」という曖昧な表現を使う。具体的には次のような流れだそうである。

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 頭に上った血が沸騰した。前述の失業給付の意義から考えると、決して悠長に待てる性質のものではない。ましてや、今この瞬間に生活が成り立たなくなる状況である。30日に問い合わせた時には、銀行側の都合として責任を回避したとさえ捉えられかねない発言もあったので、それならば今この場ですぐに口座番号を再指定し、役所の威光で圧力をかけるなり何なりせよとまで口走ってしまった。思わずヒートアップして声も大きくなり、求職活動に来ていた多くの人たちの視線がこちらへ集まった。

 ハローワークの担当者の説明によると、銀行に対しても事情を説明し、正しい口座番号への即時振り込みがなされるようにならないか相談したという。しかしあくまでも銀行側は、上図の通り、東京にあるハローワークの上位機関(厚労省の関連機関?)からの指定に基づいて振り込みを行うので、それがなされない限りどうしようもない。上位機関に対しても、ハローワーク側のミスだったことも含めて事情を話し、迅速に手続きを行えないか問い合わせてみたというが、その上位機関からの回答は、手続きのスケジュールそのものは変更できず、どうしてもさらに7〜10日ほどかかるという。

 そしてこの「7〜10日ほど」というのもクセモノで、銀行の「7〜10営業日」のことを意味するのだという。つまり、2〜6日までの連休はカウントされず、最速5月15日でなければ振り込まれないということである。4月30日に受け取れるはずのものが、2週間以上も遅れることが確定してしまったのである。

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次の一手

 そうと決まれば、いつまでもハローワークでゴネていても何がどうなるわけでもない。そこで、地元の社会福祉協議会(社協)に駆け込んだ。福祉資金貸付制度というものがある。この制度は、現在周知されている、コロナウイルスの影響による休業等で収入減少した世帯への貸付(生活福祉資金〈緊急小口資金〉特例貸付)とは別のもので、通常行われている福祉制度の一つである。「厚生労働省の要綱に基づき、他の貸付制度が利用できない低所得世帯、障害者世帯または高齢者世帯に対し、資金の貸付けと必要な相談・支援により、経済的自立及び生活意欲の助長促進並びに在宅福祉及び社会参加の促進を図り、安定した生活を目指すことを目的とする」と謳われている。

 社協に向かうにあたっては、雇用保険受給資格者証を持参した。この資格者証には、失業給付で受けられる手当の金額が記載されている。それを示して返済の目処があることを明らかにしつつ、上述の事情をすべてありのままに説明し、目下必要な費用としてまずは家賃の支払いだけでもできるように助けてもらいたいと話した。

 社協で示された方法は2つだった。一つは最大3万円までの貸付だが、それを受けるには連帯保証人の同行が必要であること。もう一つは保証人なしでの5,000円の貸付である。連帯保証人としては妹しかいないが、今まさに仕事に出かけているさなかなので同行は不可能。そうすると、5,000円の貸付を受ける以外に選択肢がない。しかしそれでは家賃が支払えず、焼け石に水一滴ほどにさえならないと訴えると、「家主さんに事情を話して待ってもらってください」という。一人の生活者に加え、仲介会社と家主さんを合わせて三者に負担を強いている。通常の福祉政策がこの通りである。遅々として進まない現下のコロナ対策としての給付へのプロセスはいかばかりかと思うと、暗澹たる思いがする。

 社協での受付が済めばその場で貸付を受けられるわけではない。すぐさま市役所の保健福祉部保護課(生活保護を扱う部署)へ出向かなければならない。そこでもさらに何枚かの書類への記入、押印をし、そこで受け取った書類を持って、再び社協へ出向き、やっとそこで5,000円を受け取れるのである。StayHomeを「要請」される中で、ハローワーク、社協、市役所を何度もたらい回しにされる矛盾と情けなさにわなわなと震えた。

 5,000円の貸付を受けるにあたっては、借用書を含む申請書数枚の記入と実印、印鑑登録証明書が必要(返済時の提出可)である。ここまでに至る経緯を思い起こしながら、申請書に書き込む手が怒りや悔しさで震え、文字はミミズが這ったようだった。ともあれ、今はこの5,000円で2週間以上を乗り切らねばならない。ほとほと困り果てている。1日も早くではなく「一刻も早く」10万円の定額給付金を届けてほしいものである。

私のミス

 口座番号の入力ミスは間違いなくハローワークの不手際ではあったが、私の側にもミスはあった。雇用保険受給資格者証には「支払方法」という欄があり、そこには銀行・支店名と口座番号が小さく記されている。資格者証を受け取る時点でここに記載された口座番号を再度確認しておくべきだった。この失敗からできるアドバイスとしては、役所に限らずあらゆる場面で、個人情報の記載内容については二重にも三重にもチェックすべしということである。

 誤記や不具合、不都合は一刻も早く見つけ、速やかに対処しておかなければ、このようなトラブルに巻き込まれてしまう。油断大敵。くれぐれもご注意を。

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