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ANTWERP ROYAL ACADEMY 2

アカデミーに入って驚いたのが、服飾造形に関する授業が無い事だ。東京で専門学校に通っていた時は全てが服作りのベースを習得する為のカリキュラムだったが、アカデミーが教えているのは(教えているというよりも導いているという方が確かかもしれない)自分と向き合う事、境界を超えていく事などもっとそのスタンスや思考、そして達成する為の筋力だった気がする。どう作るかも大切だが何を作るかやどの様に自分らしく作るかがそこでは優先されていた。授業にレクチャーは無く数少ない生徒の一人一人をマンツーマンで指導していく。そしてそれは明確な答えの無いエンドレスなレースに参加しているのと同じ感覚だった。つまりまだ見えない自分とひたすら向き合いながらものづくりをするその姿勢を叩き込まれる時間だった。

いまだに覚えているのは一年の最初の課題で”現存しない全く新しい形のスカート製作”という授業でクラスメイトが作ったスカートだ。自分は螺旋状のプリーツスカートを身頃の途中で折り曲げ、造形的に仕上げたかなりボリュームのあるモノを製作していた。中間審査を受けるために廊下で順番待ちをしていると(審査はひとりひとりのプレゼンで行われる)、自分の前にプレゼンするはずのクラスメートのパトリックがクラスに上がって来ず、何か階下で揉めていると噂が伝わって来た。自分も入り口まで降りていくと彼と友人達がドアの外で彼のスカートを持って立ちつくしていた。スカートが大きすぎて建物に入れないのだ(当時のアカデミーはドリス本店の横に立つ雑居ビルの3階を使用していた)。僕はまずその圧倒的なサイズに驚いた。何メートルあったのかは覚えていないが海外の観音開きのドアを全開にしても入らないサイズだ。スカートの中は確か鉄製の支柱で構築されていたと思う。彼は最終的にプレゼンに来なかった、もちろん教員も降りて確認しにいく事はしない。ただそれよりも何よりもその日に自分が感じたのは、3階に戻った時に見た自分のスカートが本当に本当に小さく見えたという事だ。そしてそれは自分のボリュームというスケールが世界とこれ程までに違うのだと痛感させられる経験でもあった。自分の中にあったスケール(計り)がボキッと折れた気がした。

アカデミーでの生活はそんな経験の連続だった。教師陣から様々な指導を受けると言うよりもクラスメイト達の創り上げるそれぞれの作品のクオリティの高さや、突出した個性に驚かされ、感銘を受け、自分の限界値を広げようともがく…そんな繰り返しだった。
今思うと自分と同じステージ(学生と言う位置)にいる人間の創るモノから直接学ぶと言うアカデミーの教育システムは学生のクオリティーに左右はされるが、素晴らく効果的な教育方法だと今は思う。

学生の間に世界のトップレベルで製作にコミットする仲間の姿を見る事は、その後のモノづくりに大きく影響する。そう言う点に置いてアントワープ王立アカデミーは非常に特別な学びを提供してると言えるだろう。

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