駅の近くの本屋の前

駅の近くに本屋がある。どうってことない普通の本屋で40年近く前くらいからあるらしい。決して流行っているとは言えない。でもずっと潰れることなく営業している。私はここを半年に一回くらいの頻度で利用する。こんな状態でよく営業続けていけるよな、といつも思いながら本屋の前を通って駅に向かっていた。
ただ一つ不思議なのは本屋では珍しくお昼12時から13時の間は昼休憩に入る。律儀にお昼休憩を取るホワイト企業の本屋である。
そんな本屋が少しずつ変わりだしたのは秋の始まりを感じる風が吹きはじめたころだった。

いつものように電車から降り歩いていると、お店が開いている。時間は12時45分。これまで開いていなかったのに。私は入ってみた。
お客さんと店員は誰もいないが、いつもと何ら変わりのない店内。しかし、ある棚に本がなくそこにスポットライトが当たっていた。
近づいてみるが何もなく、ただ光が当たっているだけだ。そこにすっと手を伸ばす。と、一瞬冷たい風が流れ、急にドアが閉まる。そして店内の明かりはそのスポットライトだけになる。

ゴーン、ゴーン

大きな鐘が二回鳴り響き、初めて見る中年の男がやってくる。
「お帰りなさい、ご主人様」

何を言っているんだ。私はこの人を知らない。しかし向こうは知っているのか。とにかく不安になった私はここから出してもらうようお願いしても反応がない。何度も何度もお願いしたが反応がない。
そう、彼には耳がなかったのだ。