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LTspiceで電子回路のお勉強:トランジスタの特性解析

さてトランジスタです.電子回路の主役と言ってもいいでしょう.端子が3つ (場合によっては4つ) あったりしますが,そこまで複雑なものではないのでじっくり解析していくことにします.

1.npnトランジスタの特性

1.1 回路図の作成

LTspice で,コンポーネントから "npn" を選んで配置します.なお,npn2 とか npn3 とかありますがシンボルの見た目が違うだけです.トランジスタの特性はモデルによって決まります.npn4 は端子の数が違うのでちょっと違いますが.

npnトランジスタ

配置したら,ダイオードのときと同じように右クリックから "Pick New Transistor" でモデルを選択します.とりあえず一番上の 2N2222 でいいでしょう.

npnトランジスタのモデル選択

エミッタを接地し,ベースとコレクタにそれぞれ電圧源をつなぎます.電圧はあとでスイープしますが,5 V電源で使うという想定でコレクタ-エミッタ間電圧 VCE (図中 V2)を 5 V,ベース-エミッタ間電圧 VBE (図中 V1) を 2.5 Vにします.ここまでで回路図は下の図のようになります.

npnトランジスタ解析用の回路

このまま解析してもいいんですが,V1 とか V2 が分かりにくいので,分かりやすく名前を変えます.シンボルのラベル ("V1" とか "V2") を右クリックするとコンポーネントの名前を編集できます.V1 を VBE,V2 を VCE に変えます.

電圧源の名前を変更したところ

コンポーネントの名前は自由につけることができますが,先頭の1文字目は変えないようにしましょう.SPICE では1文字目がその素子がどのような素子なのかを表しているので,違う文字にすると混乱します.

1.2 ベース電流特性

まずはベース-エミッタ間電圧とベース電流の関係を求めましょう.ベース領域が p型,エミッタ領域が n型の pn接合でダイオードになっているので,ダイオードのような特性になるはずです.

Simulate → Edit Simulation Cmd からDC sweep を選び,VBE を 0 V から 5 V までスイープします.

VBEのスイープ設定

これを配置すると回路図はこうなります.(完成品)

ベース電流特性用に解析条件を設定

解析を実行し,ベース端子に流れる電流をプロットします.マウスカーソルがベース端子のあたりで電流クランプの形になったところでクリックします.マウスカーソルの位置によっては電圧プローブになるので,ちょっと微妙な位置合わせが必要ですが,カーソルの形が変わるのでカーソルの形をよく見ましょう.下のような特性が得られるはずです.

npnトランジスタのベース電流特性

VBE が 0.7 V あたりから電流が流れはじめ,そこから電流がいっきに増えるというダイオードの特性が見えました.流れる電流は控え目です.

1.3 コレクタ電流特性

次に,コレクタ-エミッタ電圧とコレクタ電流の関係を求めます.解析条件 (回路図上の ".dc VBE~")を右クリックして,スイープする電圧源を VBE から VCE に変更します.(完成品)

コレクタ電流特性解析用の設定

解析を実行し,コレクタ端子の電流をプロットすると下のような特性が得られます.

npnトランジスタのコレクタ電流特性

非線形ですね.ただダイオードとは違った折れ曲がり方ですが,これも直線の組み合わせで何とかなりそうな気がします.VCE が 0 V から 1.4 Vぐらいまでの間は原点 (0 V,0 A) を通って直線的に上がっていくのでこれはまさに抵抗です.カーソルを使って傾きを求めると 1.83 ぐらい,つまり 0.55 Ωぐらいの抵抗です.

ではVCE が 1.5 Vより上は? ほぼ水平線です.電圧-電流特性が水平線になる素子と言うと,端子間電圧に関わらず電流が一定なので電流源ですね.では抵抗と電流源がどういう特性になるか確認しましょう.0.53 Ωの抵抗と,2.4 A の電流源を VCE につないで解析します.(完成品)

抵抗,電流源と比較

R1に流れる電流,I1 に流れる電流をプロットしましょう.だいたい合ってますね.つまり,トランジスタは非線形素子とは言え抵抗か電流源として見ればよさそうな雰囲気です.

抵抗,電流源と比較

1.4 電流制御電流源

ベース端子から見るとダイオード,コレクタ端子から見ると抵抗か電流源,ということは分かりましたが,トランジスタの肝心なところはベース電流とコレクタ電流の関係にあります.通常,トランジスタは電流源になる領域で使いますが,ただの電流源ではなく電流制御電流源である,というところがポイントです.ベース電流とコレクタ電流の関係を調べるために下のような回路図を用意しましょう.ベース端子に電流源を接続し,DCスイープでベース電流を変化させます.電流源はコンポーネントの "current" です.(完成品)

ベース電流-コレクタ電流解析用回路

これを解析しコレクタ電流をプロットすると,下のようになります.

ベース電流-コレクタ電流特性

ベース電流の値によってコレクタ電流が大きく変わっていることが分かります.コレクタ電流は,端子間電圧 (VCE) を変えても変化しない (= 電流源である) ですが,ベース電流によって値を変える (制御する) ことができます.このような素子を電流制御電流源 (CCCS; Current-Controlled Current Source) と呼びます.

しかも,横軸と縦軸のスケールを見ると,ベース電流の変化に対してコレクタ電流ははるかに大きく変化することが分かります.例えばベース電流 3 mA でコレクタ電流は 0.3 A 流れているので,コレクタ電流はベース電流の100倍変化します (ベース電流-コレクタ電流の関係は非線形なので常に100倍ではないです.あくまでベース電流 3 mA近辺なら100倍).これが「増幅」の根源です.

1.5 再びコレクタ電流特性

コレクタ電流特性のところで,トランジスタが電流源 (か抵抗) で表現できるということを確認しましたが,これを電流制御電流源ということが分かるようにプロットしてみましょう.回路図は 1.3 で使ったものを使用します.

SPICEのDCスイープでは,主スイープ (グラフの横軸) に加えて,別のパラメータもスイープすることができます.解析条件を右クリックし,DC sweep で "2nd Source" を設定します.ここではベース電流を変えたいので,VBE を 2nd Source として設定します.スイープ範囲は 0 V~5 V,スイープの刻みは1 V にします.2nd Source の刻みを小さくすると,大量のトレースが表示されて見にくくなるので,2nd Source の刻みは適度に荒くしましょう.

2nd Source の設定

これを設定すると,回路図は下のようになります.".dc ~" の内容が変わっています.(完成品)

2nd Source 設定後の回路図

これを解析し,コレクタ電流をプロットすると下のように複数の結果が表示されます.

npnトランジスタのコレクタ電流特性

横軸は 1st Source である VCE,複数の曲線が下から VBE=0 V,1 V,2 V,3 V,4 V,5 V の特性です.ベース電流によって決まるある電流に達するまで抵抗として動作し,そこからは電流源としてはたらくということが分かります.

なお,2nd Source を設定すると1つのトレースが複数の曲線をもつわけですが,カーソルで値を読み取る場合はどうするか? ですが,カーソルを表示した状態でキーボードの↑↓キーで曲線間を移動できます.また,カーソル位置で右クリックすると 2nd Source の値を確認することができます.

2nd Source の情報を表示

2.pnpトランジスタの特性

pnpトランジスタは基本的には npn と同じような動作をするんですが,電圧と電流の方向が分かりにくいので間違えないようにしましょう.

2.1 エミッタをグラウンドにとった場合

npn トランジスタをそのまま pnp に置き換えた場合をやってみます.pnpトランジスタはとりあえずリストの一番上の 2N2907 にしておきます.(完成品)

pnpトランジスタのベース電流特性?

これをシミュレーションすると…

pnpトランジスタのベース電流特性?

途中で折れ曲がってはいるんですが,何か変です.コレクタ電流特性も取ってみましょう.(完成品)

pnpトランジスタのコレクタ電流特性?
pnpトランジスタのコレクタ電流特性?

こちらがダイオードっぽい特性になっています.これが pnpトランジスタの特性というわけではなく,これは電圧のかけかたを間違っています.上に出した2つの特性は,コレクタの p型・ベースの n型の間の pn接合がダイオードとしてはたらいている特性で,トランジスタとして動いているわけではありません.VBE 2.5 V + しきい値電圧 0.7 V で 3.2 V付近から電流が流れていることからもダイオードということが分かります.

npnトランジスタはエミッタ端子が最も低い電位にあり,ベース電位は pn接合が ON する程度 (~ 0.6 Vぐらい) 高く,コレクタ電位は (壊れない程度に) 十分に高い電位で動作します.
一方で pnp トランジスタではエミッタの電位が最も高く,ベース電位はエミッタより 0.6 V程度以上低く,コレクタはそれよりも十分に低くする必要があります.ということで,上の回路図のようにエミッタ電位を0 Vとした場合,ベース-エミッタ電圧,コレクタ-エミッタ電圧ともにマイナスの方向にかける必要があります.(完成品)

pnpトランジスタのベース電流特性

電圧源の電圧が2つともマイナス,解析条件も-5 Vから 0 Vへのスイープになっています.これを解析すると,

pnpトランジスタのベース電流特性

横軸,縦軸ともにマイナスのため一見するとおかしく見えますが,-0.7 Vあたりから電流が流れ始めるというダイオード特性になっています.電流がマイナスになっているのは,ベース端子に流れ込む電流を正としているからです.pnpトランジスタでは電流はベース端子から流れ出してくるので,符号はマイナスになります.

コレクタ電流も見てみましょう.(完成品)

pnpトランジスタのコレクタ電流特性
pnpトランジスタのコレクタ電流特性

これも軸が反転しているので分かりにくいですが,npnトランジスタと同じく -1.5 V付近まで抵抗,その先は電流源になっていることが分かります.

2.2 エミッタ端子を上にする

すでに述べたように,pnpトランジスタはエミッタの電位がもっとも高い電位にきます.そして回路図では一般的に上の方ほど電位は高いです.ということで,pnpトランジスタはほとんどの場合,エミッタ端子を上にして使います.というわけで,下図のような回路で評価すると分かりやすいかも知れません.電位の基準であるエミッタの電位を電圧源 VCC で 5 Vに設定し,VBE,VCE はエミッタ電位 (= VCC) からの電圧を取ります.電圧源の向きに注意しましょう.また,電圧0 Vの電圧源 VIB,VICを電流モニタとして挿入しています.電圧 0 Vの電圧源は短絡と同じことなので回路の動作に影響はしませんが,電流をプロットすることができるようになります.また,電圧源の向きによって電流のどちらの向きを正に取るかを変えることができます.ここでは電流の向きの正負を変えるために挿入しています.(完成品)

pnpトランジスタのベース電流特性評価回路2

この回路を解析し,(トランジスタのベース端子ではなく) 電圧源 VIB の電流をプロットすると下図のようになります.値は違いますが npnトランジスタのときと同じ絵が得られました.

pnpトランジスタのベース電流特性

同じくコレクタ電流特性を見ると,(完成品)

pnpトランジスタのコレクタ電流特性評価回路2
pnpトランジスタのコレクタ電流特性

これも npnトランジスタと同じようなグラフが得られます.

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