OpenMPW FAQ

OpenMPW についてよく知らないという人のために,よくある疑問点をまとめました.

OpenMPW関連

OpenMPW とは?

MPW = Multi Project Wafer,つまり1枚のウェハ上に複数の設計を載せるということです.シャトルサービスと言うこともあります.従来のLSI設計はNDA (秘密保持契約) を締結して PDK (Process Development Kit) を入手し,商用EDAツールを使って設計する必要がありましたが,PDKとEDAをオープンソースにしたのが大きな違いです.

費用は? 本当に無料なの? 条件は?

本当に無料です.条件として,設計データをすべて公開する必要があります.テープアウト時に,public な githubリポジトリの情報を入力する必要があります.(テープアウト後に private に変えるとかリポジトリ消すとかできますが,それをやるとどういう扱いを受けるのかは不明.) 一旦公知になるので,論文や知財を出したい場合は注意しましょう.また,有料の ChipIgnite というプログラムもあります.

必ず作ってもらえるの?

製造されるかどうかは抽選です.ただしこの抽選は全員が公平というわけではなく,「前回抽選で外れた」「期限より早く設計データを提出した」などによって当選確率が上がります.そのため,せっかく設計したのに抽選に外れ続けて作ってもらえない,ということは起こりにくくなっています.
有料の ChipIgnite はもちろん確実に製造してもらえます.

納期は?

テープアウトからファブアウトまで 2.5ヶ月,アセンブリに2ヶ月弱で約4.5ヶ月というのが標準のスケジュールです.ただし,OpenMPW-2から OpenMPW-6 ぐらいまでは様々なトラブルにより,大幅に納期が遅れました.現在それらのトラブルは解消されているので今後は標準スケジュール通りの納品が期待されます.

何が納品されるの?

製造されると,「測定ボード,チップが実装されたドーターボード複数,WCSPされたチップ数十個」が届きます.パッケージングや基板への実装をしなくても測定できますし,独自に実装したいならそれも可能です.
OpenMPW での試作はすべて Caravel というフレームに組み込まれます.Caravel は各種のIOとともに RISC-Vプロセッサが搭載されており,様々な制御が可能です.一方で,高周波信号の入出力は難しいと思われます.

たくさん会社名がでてくるんだけど?

SkyWater,GlobalFoundries : 製造工場.
efabless : OpenMPW/ChipIgnite を運営する会社.
Google : efabless に出資した.
ニュースで「Googleが」という言い方で報道されることが多かったですが,OpenMPW を運営しているのは efabless でそのスポンサーが Google です.

PDK関係

どんなプロセスが使える?

2023年現在で,SkyWater 130 nm,GlobalFoundries 180 nm です.2023年中に SkyWater 90 nm FDSOI が使えるようになる計画ですが,現時点では詳細は不明です.
なお,SkyWater 130 nm は電源電圧 1.8 V,最小チャネル長 150 nm なので 180 nm あたりのシュリンク版なんじゃないかと思います.また,GlobalFoundries 180 nm も MCU (automotive MicroController Unit) という信頼性重視のプロセスで,電源電圧 3.3 V,最小チャネル長 250 nm です.いわゆる一般にイメージされるプロセス (130 nm なら電源電圧 1.2 V・最小チャネル長 130nm,180 nm なら電源電圧 1.8 V・最小チャネル長 180 nm) とは異なるのでその点には注意が必要です.

どういう情報が含まれる?

テープアウトまでの設計フローを通すのに必要な情報は揃っています.デバイスモデル,スタンダードセル,セルライブラリ,DRC,LVSなど.ただし PDK の整備はデジタル設計先行で整備されているようで,アナログのフルカスタム設計について,LPEの精度や高周波特性がどの程度かは分かりませんし,設計用の Pcell なども整備は遅れ気味です.不満があるなら自分で作ってコミットしましょう.

情報は公開してもいいの?

全く問題ありません.gtihub の publicリポジトリで Apache 2.0 ライセンスで公開されています.商用を含めて使用・複製・再配布・改変が可能です.

EDAツール

どういうツールがある?

ツールはすべてオープンソースのツールです.設計フローの中心となるのは OpenLane (OpenROAD,Yosys など多数のツールからなるツールチェイン) で,例えフルカスタムのアナログ設計であっても Caravel と接続してテープアウトするためには OpenLane を通す必要があります.
アナログ設計では回路図エディタ xschem,回路シミュレータ ngspice・Xyce,レイアウトエディタ Klayout で十分に設計ができます.
電磁界解析は… FastHenry/FastCap かな…

商用ツールで設計はできる?

一応 SkyWater 130nmのドキュメントには商用ツール用のセクションはあるんですが,空っぽです.あまりすんなりとは動きません.例えば HSPICE でシミュレーションをするには,モデルファイルを一部書き換える必要があります.テクノロジファイルやDRCのルールファイルなど,簡単には変換できないような気がします.

とりあえずてっとり早く試したい

オープンソースのツールは複製・再配布が自由なので,いくつかのパッケージがあります.おすすめは IIC-OSIC-TOOLS で,Docker container に必要なツールと PDK が全部セットアップされた状態で配布されています.コンテナもってきて動かすだけ,アンインストールもコンテナ消すだけなので楽です.

注意点は?

ツールも PDK もオープンソースでガンガン開発が進んでいますので,うかつに最新版をもってくると問題が起こることがあります.まずは IIC-OSIC-TOOLS のような all-in-one のパッケージを使いましょう.

コミュニティ

open-source-silicon.dev

OpenMPW の公式コミュニティで,プラットフォームは Slack.巨大なコミュニティで,膨大な数のチャンネルがある.発言すれば efabless・Google の中の人やツールの作者,有名な教授やエキスパートたちがサクサクと答えてくれる.#japan-region に日本人コミュニティがある.

Tiny Tapeout

Tiny Tapeout は教育を目的としたプロジェクトで,チップを小さな領域に区切り,その区画ごとに試作費を払うことで非常に安く試作ができる.コミュニティのプラットフォームは Discord.Siliwiz など教育用ツールやチュートリアルが充実.

Zero to ASIC

オープンソースLSI界隈の有名人 Matt Venn による有料の教育コース.

Open-source EDA supporters

日本のコミュニティ,プラットフォームは Discord.OpenMPW に限らず様々な情報が交換されている.

MakeLSI

OpenMPW より前からオープンなIC設計をやっているコミュニティで,プラットフォームは Discord.

ISHI会

OpenMPW で異分野と連携していくことを目指して設立されたコミュニティ.プラットフォームは Discord.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?