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創作大賞を今年も諦めた話

 作家になりたいという夢を諦めきれず、悪あがきをしながら過ごす毎日。
 noteで開催される創作大賞に向けて、アイディアを書き溜めたり、プロットを作ったり、本や漫画を読んだりする日々。

 今年こそ創作大賞に参加しようと、前から温めていたプロットを見返してみた。うん。これはトレンドとはかけ離れているし、単に自分が読みたいと思っている話だから万人受けしないだろう。
 新たに思いついた内容は、人物像と簡単なエピソードは思いついた。ただプロットを作っていくうちに何度も行き詰まり、時間をおいてはまたプロットを作る。ブラッシュアップするためにまた時間を置く。それを繰り返すうちに、あっという間に締め切り日の前日を迎えた。

 本当に突然だった。登場人物の名前がどうしても決まらず、ずっと放置していたプロットを書いたノートを視界に入れた途端、ふっといくつか名前が浮かんできた。何を思ったか、姓名診断のサイトにアクセスし、思いついた名前を検索していき、ストーリーとも相性がいいと思える名前に出会うことができた。そこから作品のタイトルもいい感じに思い浮かび、その流れが全部言葉遊びのように思えて、急に楽しくなった。
 いくつか言葉の意味を調べていくうちに、小説のあらすじを書き出し、どんどん言葉があふれてきた勢いに任せて、ストーリーを書き始めっていった。
 あぁ、久しぶりに書くことが楽しい。仕事なんてなければ、と思いながら、いい感じに話がまとまったところでパソコンの画面を閉じ、仕事のパソコンを立ち上げた。

 仕事を終えてから、さて続きを書こうと朝に書いた内容を読み返してみた。どこもかしこも荒っぽいところだらけで、変な日本語だと思うところを直しながら続きを書こうと意気込む。こんなエピソードを入れてみよう。あんな会話はどうだろうかと思いを巡らしたのだけど、朝のような楽しい勢いは戻ってこなくて、もどかしい思いをしながら日本酒を呑む。
 プロットも何もない新しい話を書き始めた結果、つじつまが合っているかどうかを確認しながら書き進めること数時間。いつの間にか夢の世界へと旅立っていた。

 午前3時。喉の渇きと肌寒さで目が覚めた。つけっぱなしにしていたクーラーはあまり役に立っていなかったので切った。
 枕元に置いていたミネラルウォーターを一口飲む。次に毎日飲んでいるサプリメントを数粒取り出して口に含んだ。一緒に飲む薬と合わせて水で流し込む。まだ眠気が残る体は布団の海に沈み、意識をもう一度手放した。

 それから1時間ほどして目を覚ました。もう締め切り日になってしまった。
 立ち上げっぱなしだったパソコンの画面を復帰させ、どこまで書きおわったのかを確認する。まだ既定の半分にも満たない分量だ。
 ここからギアを上げるべく、BGMを決めることにした。作品のイメージを呼び起こしてくれるような曲を選曲していく。出来上がったプレイリストを軽く再生し、いくつか曲を入れ替えていく。やっとしっくりくるプレイリストが出来上がった。イヤホンを改めてつけなおし、プレイヤーの再生ボタンを押す。
 音楽に助けられながら、昨日の続きを書き進める。うん。この調子なら完成まで持っていけるかも。
 そんな期待は、小一時間で泡と消えた。

 思いつくままに書きだしたストーリーは予定した方向には向かわず、余計な言葉を消しては書き進め、足りない言葉に気付いては戻り、前の件とつじつまが合っているかどうか確認しては消し。そんな一進一退を繰り返すこと数時間。あと1時間ほどで仕事が始まる時間だった。
 今書いているエピソードが本当に必要な要素なのかもわからず、とりあえず浮かんだ勢いに任せてかけるとこまで書いてみた。
 時間が来てしまったので、もう一度さらっと読み返す。文字数は昨日から数千字増えた程度で規定には到底及ばない。この流れのまま、仕事を休んで書き続けようかと思った。でも今日は仕事の方でも締め切りがあるし、会議も入っていて休めない。自分が進めている案件の進捗報告も必要だ。
 後ろ髪を引かれる思いでパソコンの画面を閉じた。

 仕事中、書いている小説の先の展開がふと思い浮かんだ。メモを取ろうとしたが、会話の内容を書き留めるだけの時間はなかった。そんなことを繰り返すこと数回。
 進行具合が停滞していた案件の方向性がやっとはっきりしてきて、その作業に没頭していた。気が付いたら定時を迎えていた。作業はまだ残しているものがあり、そのどれもが明日に持ち越せないものばかりだった。

 定時を確認した時点でもう頭の中に小説を完成させるという意識はなかった。仕事を終えた後から締め切りギリギリまで頑張ったって、4時間程度では規定の文字数にはたどり着かない。それに中途半端に変な作品を応募したところで、誰にも読まれないだろうし、出して後悔するのは自分だ。

 1時間ほど残業して、空腹感を覚えながら仕事のパソコンを閉じた。

 それでも最後の悪あがきとばかりに、これまで書いたところをもう一度読み返しながら、おかしいと感じたところを直しては読み、また書き足しては読み、を繰り返して、新たに書き起こしたエピソードにやっとたどり着いた。そこから思いつく限り言葉を連ねてみたけど、どんどん本筋から話が離れていってしまう感覚がぬぐえず、一息つくために晩御飯を食べることにした。
 この時点で20時半。締め切りまであと2時間半を切っている。
 カップラーメンを食べながら、新たに書いた部分を読み、おかしいと感じた部分を直していった。食べ終えた空の容器をごみ箱に捨て、痛む腰をさすりながらパソコンの前に戻る。そこから一段落書き進めたところで、あともう少しで既定の半分までになったことに気付いた。

 もうタイムリミットだ。ここで諦めたほうがいい。
 これ以上思いつく限り書いたところで、間違いだらけの文章を連ねたへたくそな小説を世の中に公開することは屈辱以外の何物でもない。今書いている話は、こんな短時間で1話分を完成させるのは到底無理なものだった。出てくる登場人物が絡み合う導線を練ってからしか書けないものだ。

「しょうがない。募集部門の小説のジャンルには青春ものってなかったし、ハッシュタグがないってことはトレンドじゃないから、読まれない可能性のほうが高いだろうし」
 募集部門を勝手に言い訳に変換して、下書き保存のボタンと閉じるボタンをクリックした。

「ミステリー小説は好きなんだけど、自分が書くにはハードル高いし。伏線を考えるだけの知識もないしなー」
 そう言いながら最近購入したライトノベルを手に取ると、ぱらぱらと数ページめくっては本を閉じた。
 目と脳が疲労を訴えている。

 台所に置いてある一升瓶から徳利に注いだ日本酒を手に部屋に戻ると、今度はコミカライズされた漫画を手に取ってみた。
「こういう世界観は好きなんだけど、自分が書いたら二番煎じにしかならないしなー」
 もうやりたいことやろう。今年の創作大賞のことは忘れよう。

 そんな今の日時は2024年7月23日 23:20。
 創作大賞の締め切り時間まであと39分。

 小説部門で創作大賞に応募することを今年も諦めた。


※この作品はフィクション、ノンフィクションです。
 ここまでお読みくださったみなさまの感じたままでご判断ください。


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