ウィスキーとワインとジャズとクラシック(1)
バーで働いていると…バーに限りませんが…「カクテルって『めんどくさい』からいいや」とか、「ウィスキーって『難しい』から苦手」とか、「ワインって『わからない』んだよね」って言葉をよく聞きます。
まず何よりも料理人として思う事は、料理や飲み物の味は「理解する」物ではなく、「感じる」物であるという事です。
「美味しいか美味しくないか」は「好きか嫌いか」でしかありません。
にも関わらず「美味しいか美味しくないか」を正誤や善悪で判断する人が実に多い様に思います。
「これはこうあるべき」を押し付けるお店も少なくありませんが、全くもってポイントがズレていますし、ナンセンスでしかないと思っています。
最低限のマナーさえ守っていれば、あとはどんな楽しみ方をしようと個人の自由です。他人にとやかく言われる筋合いはありません。
では、「最低限のマナー」とはどんなものなのでしょうか。
実にシンプルです。
「人に不愉快な思いをさせない事」
これだけです。
食事を共にしている相手、他のテーブルのお客様、お店のスタッフ、それぞれに少しずつ気を使い、迷惑をかけない事です。
ただ、問題が一つあります。
「人によって感度が違う」
例えば、大きな声で喋る人を迷惑だと感じるかどうか。さらに言えばこの場合の「大きな声」とはどのくらいの声なのか。
これは明確な線が引かれている訳でもなければ、正解や間違いもありません。
お店のスタイルや、それを好むお客様がどんな感度でいるのか。それを感じるのもまた「感度」です。
その感度を磨く事は大切ですし、そこが「難しい」と言われる所以でもあります。はっきり言ってキリがないんですよね。だから難しいのでしょう。
さて、「難しい」お酒を好む人達はどんな人達なのでしょうか。
「難しい」お酒をどんな風に楽しんでいるのでしょうか。
「インテリ」と「ウンチク」
おれの中ではそんなイメージがあります。
もうすでに「ウザい」ですね…ぶっちゃけ「マジでウザい」ですね。
ここがポイントなんです。
実は「難しい」のではなく「ウザい」んです。
しかもワインにもウィスキーにもカクテルにも罪はありません。
ウンチクを偉そうに語って自分の価値観を押し付けている、ごく一部の人達が「ウザい」だけなんです。
しかし、「ウザい」人達にもその人達なりの楽しみ方があり、それを否定する事もまた出来ません。
では、その人達は何を語って喜んでいるのでしょうか。
「歴史」と「算数」
大きくこの二つに分けられます。
歴史と算数、もうすでに眠いですね…
そこでこうイメージしてみてください。
あなたの好きなあの人が休日返上で美味しい材料を探し、あなたの誕生日に心を込めて料理を作ってくれた。
休み時間を使って何かを調べて、
休みの日に早起きしてどこかに出かけて行くあの人。
浮気でもしているんじゃないか…
でも違った。
ちょっとでも疑っちゃってごめんね…
ありがとう。
これが「歴史」です。
どこの誰がどんな風に育てたお野菜なのか。
どんな思いで作られたハムなのか。
どんな苦労を重ねて釣り上げたお魚なのか。
そしてどんな経路で見つけ、手に入れたのか。
あなたに喜んでもらいたくて、嬉しそうに、楽しそうに話す大好きなあの人。
それがあの「ウザい」人達なんです。
どこの国の、どんな生活をしている人達が、どんなぶどうを育て、どんな思いを込めて作ったワインなのか。
それを語っているんですね。
そしてもう一つのキーワード「算数」。
算数と言っても足し算。それだけです。
引き算も掛け算も割り算も必要ありません。
小学校2年生くらいまでの算数がわかれば全く問題ありません。
甘いハチミツと酸っぱいレモンを足すと、甘酸っぱいハチミツレモンが出来ます。
以上、「算数」です。
簡単でしょ?
ぶどうにもいろんな種類があります。
赤いぶどう、紫のぶどう、緑のぶどう、大きいぶどうや小さいぶどう。
お酒を作る為の樽に使われる木にも香りがあります。
甘い香りの木、爽やかな香りの木、古い木、新しい木。
ぶどうの甘味、酸味、渋み、香りに木の香りを足し算していきます。
甘さ控えめのぶどうと、甘い香りの木の樽を足したとします。
そうすると、香りは甘くて口当たりも
良いのですが、口に含んで見ると甘ったるくなくてスッキリした飲み心地。
そんなワインができる訳ですね。
どんなブレンドをすればどんな味と香りになるのか。
それを語っているんですね。
ワインやウィスキーには何十年、何百年と言う歴史と足し算が積み重なっています。
さらに言えば、どんなぶどうを育てるのにどんな気候が必要なのか、と言った地理的な要素を含んできます。
そこまで紐解いていくと一気に奥が深まって来ますが、普通に楽しむ分にはシカトしていいと思います。
どうでしょうか?
歴史と算数。思ってたより簡単でしょ?
もし、バーやレストランでウィスキーやワインなど、自分の知らない世界を覗いてみたいと思ったら、お店の方に素直に話しかけてみてください。
質問のポイントとしては
「自分の好みを伝える事」
です。
「いつもはビールばっかり」とか「甘いカクテルしか飲まない」とか。
その上で勉強したい、試したい、そんな私にオススメのウィスキーをお願いします。
これで十分です。
知らない事は恥ずかしい事ではありません。
さて、実はこのワインやウィスキーが好きな人達に共通する事がもう一つあります。
「ジャズやクラシックが好き」
おしゃれなバーやレストランではジャズやクラシックが流れているイメージってありませんか?
ジャズやクラシックでも「歴史と算数」がよく語られるんです。
が、相も変わらず長くなってしまったので、その件に関してはまた改めて書いてみたいと思います。
写真はスコットランドのアイラ島で2005年に創業したウィスキー蒸留所「キルホーマン」のお酒。
10年、20年寝かせるのが当たり前のウィスキーの世界で、2005年に創業なんて赤ちゃんにも等しいくらい若い蒸留所です。
これから長い歴史と足し算を積み重ねていく中で、何度「キッコーマン」と呼ばれるのでしょうか…
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