あなたの風紀、ヤバないですか？
側頭部を刈り上げて
前頭部と頭頂部を伸ばして
ゴムでひとつに束ねる髪型
ガラ悪ぃなぁ〜（笑）
この髪型、流行ってるのか？
時々、地下鉄なんかで
原始人みたいな個性派あんちゃん
見かけたことはある
ところが
うちの病院のなかなかの権力者である
40半ばの男性看護師長が
こんな髪型をしているのだ
身長も超デカいが
それに輪をかけて体重もある
その姿はぱっと見、アクション映画に出てくる
ダウンタウンの荒くれ者のようだ
そんな彼のことを
下々の職員たちは
心の中で、こう思っている
あなたの風紀、乱れてませんか？
あなたの風紀、ヤバないですか？
おそらく全国一緒だと思うけど
医療職には一応の見た目に決まりがあって
まず何より、清潔であること
服はケイシと呼ばれるユニフォーム
靴と靴下は、基調は白または単色
髪の派手な染色はダメで長い人は束ねる
ピアスはダメ、許される装飾品は
エンゲージリングのみ
等々、誰に言われたわけでなく
有資格者なら当たり前のこととして
これらの決まりを認識しているハズだ
確かに、このちょんまげ師長は
髪の毛は染めてないし
ちゃんと結んでいる
規定は違反していないのだ
だが、なにかが、どこかが、、、
解せない
巨漢というルックスを
指摘するわけにもいかないこのご時世だが
あのナリで目の前に立たれると
えらい威圧感がある
看護師長ともなれば
患者家族や事業所など外部の人たちと
接見する機会が多いので
どう考えても
アウトだろ？
そう、誰もが思っているはずなのに
誰も、何も、言わない
入院してきたばかりの患者や
高齢の患者たちは
師長の頭を指さして
あれはナニ？
（理解が追いつかないんだと思う）
と、思わず口に出してしまうほどだ
他部所の俺ですら
何度も尋ねられたことがある
それに加えて、そのちょんまげ師長は
ポロシャツ型のユニフォームを着ている時があり
その際、エリを立てている
見たかないが、自前ですれ
と、おばさん看護師たちは
ますますざわめいてしまうのだ
そんなこんなで
そんなちょんまげ師長に
誰が最初に思いついたのか分からないが
いつの間にかあだ名がついていた
その名も
アイランド
ナツナツナツナツココナッツ
アイアイアイアイ
アイランド？？？
その風貌が南西諸島の原住民に見えたのか
エリ立てポロシャツが南国を感じさせたのか
それとも、頭の上の髪の毛が
小島に生えた一本ヤシに見えたのか
下々の者たちは、彼のことを
アイランドと呼び
しかも広く公用されてしまった
（ちょっとかわいそう）
風紀を守るために設立された
サービス向上委員会は
大して重要じゃない風紀違反には
細かく指導するくせに
このアイランドには何も言わない
下々の者たちは
徐々にその矛盾に不満をつのらせていた
アイアイアイアイ、、、モアナラニ
画伯、なんて美しい
そしてある日
下々の者たちは目を疑う日が来る
なんという衝撃的映像！
アイランドが
アイランドじゃなくなっている！
そう
あのアイランドのシンボルである
一本ヤシの木が
切り落とされているではないか
下々の者たちは
アイランドが！
アイランドが！
アイランドが
（いつしか愛着すら感じていたのだろう）
金◯恩になった！
いやぁぁぁぁぁぁあああああ
ヤバイヤバイヤバイヤバイ
あれまぢでヤバいって
あんなのが患者の家族の前に座ってたら
国際問題だよ
見た目に関してとやかく言うのは
良くないんだけど
あれはアウトでしょ
と言いながら
血相を変えて我が部所に入ってきたのは
久々の登場、看護師B子
心底遺憾です、と言った具合だ
俺もB子のざわめきようから
相当、似てるんだろうな
と、思った
ということで
俺はリハビリと称し
その金◯恩を拝みに病棟へ向かった
ガラス張りの詰め所内は明るく
ガラス越しから中を見渡せた
詰め所の中央に向かい合ったデスクが２つずつ
その奥、上座にドーンと鎮座するのが
彼の王座だ
窓ガラスを隔て
彼から見ると右斜め前方15m先に俺がいる
彼は、うずくまるように
ノートパソコンの影に隠れていた
まぁ隠れていると言っても
あの巨漢のほとんどが見えていて
見えないのは顔の部分だけだ
はよ顔あげぇい
俺は壁掛けのテレビを見ている患者に
声をかけるフリをしながら
チラチラ、そーしょきを見る
すると、ぬぅっと彼が顔を上げた
怨
怨怨怨
怨怨怨怨怨怨怨
怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨
ぬぅ〜
じゃーねー
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