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不足の女

コカコーラに
ポカリに
シーシーレモン、と

ペットボトルのジュースを
全校生徒分、650本
あと教師の分、50本
1本あたり78円で買ってくるお役目

同僚のS子は、まったく柄でもない
PTAの役員を担っている

今回は息子の学校祭で
PTAが飲食を出すことになり
役員9名それぞれ役目を
任されているらしいのだ

10人目は会長だ
会長の吉川は、その何倍もの仕事を
笑顔でこなしている

あの人は気をつけて、と
他のママさんから警告されているが
本当にヤバいなと感じている

なぜなら、今期のPTAは10名
うち吉川会長を筆頭に7名がやる気満々だ

より子どもたちに喜んでもらいたい
より子どもたちにいいものを提供したい
より子どもたちのために
務めていくべきだと考えている

それとは全くもって対照的なS子

S子は気持ちがよいほど

不足の女だ

他人に何かしてあげるなんてことは
考えたことがない

なぜなら
S子自身が、してもらってない
と、思い込んでいるからだ

愛がぜんぜん足りてない

これがS子の本質であり
高名な霊媒師に
せめて人に迷惑をかけないで、と言われ
ウルトラ憤慨して帰ってきたことがある

そのくらい
S子の心は不足の事態に陥っていた

それでも、子供ができて相当変わった
他人に与えざるを得ない状況になり
神さまがほんの少しだけ
母性という燻りを与えたのだ

もちろん、自分でもよくやっていると思う
息子も娘ものびのびと育っている

そんな発展途上のS子には
吉川会長以下とりまき達が

吉川会長:
おにぎり買ってきたから
味比べしてみましょう
(なんと自腹)
やっぱり〇〇食品さんだと思うわ
美味しいし、見た目もかわいい

とりまきA:
本当だ、おにぎりは
〇〇食品さんに頼みましょうよ
問題は具材各種80個しか
用意できないところね

とりまきB:
そうね、△△さんは大手だから
たくさん用意できるけれど
スーパーのおにぎりみたいで
ちょっと味気ないわね
〇〇食品さんは美味しそう
そうだ、豚汁も欲しいわね

とりまきC:
〇〇食品さんがいいと思う
できることなら
私たちが作ってあげたいくらいだわ
わぁぁぁそのポップ可愛い

と話しているのを間近で聞いていて
失神しそうになった

S子の心の声:
、、、△△さんでしょ
鮭80個って、取り合いになるだろ
650名よ

人により良く何かをしてあげたいと
思ったことがないS子にとっては
この7名の会話が
正気の沙汰とは思えなかったのだ

ていうか
もう19時回ってるんですけれど

何かがおかしい


翌日の職場、S子:

しまいに
かつ丼がどうのこうの言い出してたのよ
たったの10名で
そんなことできるわけないでしょう?

山ちゃん:

申し訳ないけれど
俺そういうのめちゃくちゃ好きだから
分かってやれない

俺なら
冷やしラーメンはじめました
の看板も出したいね

S子:

さ、さらに上を出してくるのね
言った私がバカだったわ

どうも、S子の不満は
7名の『偽善』めいた行為ではなく

自分に課せられる仕事の量が
多くなることが嫌なんだな
と分かった

やっぱりここでも
よそ様に与えたくない、という
不足の精神か

どこまでも、薄汚いブタ野郎だ(笑)

S子:

(自分のことは)
分かってる
私がどこまでも不足の精神で
権利主張が甚だしく
あなたから見たら卑しいケチな女だってこと
息子なんか私をメンヘラって呼ぶのよ

山ちゃん:

今の言葉だけでは
ちょっと足りないけれど
だいたい自分で言ってくれてありがとう
まさにその通りで、正確な分析だ

S子:

いいのよ
だから、シャトレーゼ係になる前に
ペットボトル係になったの
申し訳ないけれど
私にはこれしかできないって言ったら
7人大口あけてこっち見てたわ

コカコーラ
ポカリ
シーシーレモン
78円、これ以上、上も下もない

私はこれでいいの!

(笑)

不足の女、裏切らないS子
今日もありがとう

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