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Fラン東大生へ、外山合宿のすゝめ

Fラン東大生諸君。外山合宿に行け。

下のリンクから応募要項を読み、メールを送るのだ。夏休みの中の10日くらい別にどうということもないし、学生が自分で立てられるような予定もたかが知れている。

https://note.com/toyamakoichi/n/nf28fa981c2af

目次:
外山合宿へ行くべき理由
①運動史理解による現状理解
②勉強自体の面白さ
③生活による好感
④文理それぞれへのメリット
⑤行動力という最大の報酬
安全性について
最後に

と、かなり挑発的な書き方をしたが、外山恒一の定義を引けば、“Fラン”という言葉は、「本来の“低偏差値”的なニュアンスはあまりなく、単にポンコツとかゴミカスぐらいの意味」である。「東大をはじめとするFラン大」というコロケーションがあるように、Fラン大学とはこの国すべての大学だ。そうなると、"Fラン東大生"の意味もわかるだろう。ツイッター上の言説を信じれば、そういう自意識の東大生はたくさんいるはずだ。優秀な同級生、忙しい授業、誰も導いてくれない環境により、自らの長所を信じることができなくなった東大生。外山合宿はおまえたちを救う装置にもなり得る。また、東大生に限らず、自分を”Fラン”と感じるすべての諸君も応募してみると良いだろう。

おれはこの夏、外山合宿へ行ってきた。15.5期だ。平たい言葉で言えば、超よかった。おれは進振りで理転したが、自分の中の人文系の部分において自我をやっと確立したような気分だ。Fラン東大生を脱却できたかは知らないが、自主的な勉強をこれからも続けることになると思う。

この記事においては、おまえたちFラン東大生が外山合宿に行くべき理由に絞って書く。合宿自体の詳細は外山さんの要綱やら下に挙げるおれの同期のレポートを読んでほしい。


外山合宿に行くべき理由

Fラン東大生諸君が外山合宿に行くべき理由はいくつかある。

①運動史理解による現状理解

一つ目の理由は、現代史の精緻な理解がそのまま現状認識につながることだ。合宿では、戦後の左翼運動史を主に学ぶ。

おれのツイッターのタイムラインでは、性的少数者や男女差別の問題について激論が交わされている場面がよく見受けられる。別の話題から卒爾としてそういった話題につながり、遠くからでも見えるほどに議論の炎があかあかと燃え上がっているところを、おれは何度も目にしてきた。「ジェンダー論」という講義に千人以上の参加者が集まったことは、この議論への熱がソーシャルメディアの外でも高まっていることを示しているだろう。
しかし、諸君はなぜそういった少数者への差別是正が日本国内で盛んに議論されるようになったのか知っているか?平塚𝓣𝓗𝓤𝓝𝓓𝓔𝓡𝓑𝓘𝓡𝓓をあげるのも筋の良い答えではあるが、より近い時代に、さらに直接的な答えとなるできごとが存在する。その事件は日本の学生運動/左翼運動のひとつの画期であり、政治的な問題設定の質的変化を成し遂げる起爆剤ともなる。
楽しみを奪わないようこれ以上の言及は避けるが、外山合宿では、あるテキストにおけるハイライトのひとつとしてこの事件は大きく扱われる。日本のジェンダーフリーの歴史に関して論ずるうえで必須とまではいわないが、知っておけばより俯瞰的に考えられるようになることは間違いない。

合宿では、諸国での運動高揚を経て生まれたポストモダン思想についても学ぶ。現代思想の捉え方も、合宿で大きく変わるものの一つだ。
運動史を学んでいくと、ポストモダン思想に行き当たる。ポストモダン思想がフランスの68年革命のイデオロギーである以上、これは歴史の因果として必然ではあるのだが、この「運動理論」としてのポストモダン思想は日本ではほとんど受容されていない。これは大きな問題で、「器官なき身体」であれ何であれ、十全に意味をなさない空論となってしまいかねない。
この状況を、外山さんは「片手落ち」と表現していた。事実、おれの友人には現代思想系の人間が何人かいるが、オタクか創作家であり、政治に積極的な人間はいない。様子を見ていると、彼らはノンポリかリベラルであるようだ。
合宿では、現代思想に対して無知であったとしても、ポストモダン思想について基礎を固めたうえで学ぶことができるし、日本のアカデミアやそれに関連する本で既に学んだとしても新しい視点を手にすることができる。

②勉強自体の面白さ

外山合宿は先に述べた意義もあるが、勉強自体がとても面白い。もともと存在を知っていた政治の論点が歴史という線でつながっていくのはとても気持ちがよい。おまえたちはFランであれ東大生であるから、今までに一度は何かしらの形で勉強の楽しさを感じたことがあると思う。それを思い出すのだ。

そして列伝的な楽しみでいえば、劇画もかくやというほどの濃い運動家が何人も登場する。世界史でおなじみのマルクスやレーニン、スターリンはもちろん、世界史の教科書に書かれていなくとも革命家の心性に大きく影響を与えた革命家が多数扱われる。
「不屈」、「革命史上最大の個性」、「親切な機械」、等々。幾度となく投獄されながらも思想の大河に流れを作り出したイデオローグ、動乱の時代の先駆けとして革命の範を生き方で示す「悪霊」の名に聞えし者、親切であるからこそ裏切りを繰り返し陣営を転々とする太宰治の弟子。外山さんの語りの力もあるにしろ、強烈な個人が何人も登場し、そのたび記憶に焼き付いていく。運動そのものに興味の薄いおれのようなミーハーでも、こういった話を聞くだけで十分に楽しめるだろう。

また、外山邸には膨大な蔵書がある。授業の休み時間や、延泊してとった時間で読みふけるとよい。山本夜羽音というマルクス主義エロ漫画家にドハマりする者もいたし、絶版本をここぞとばかりに乱読する者もいた。映画もたくさんあるので、よくわからないフランス映画(『中国女』)を皆で(酩酊しながら!)観たこともあった。

③生活による交歓

生活面でいえば、普通の規模の一軒家に学生が15人も集まるわけだから、むろん毎日夜まで騒ぐ。参加者の中には遊び方を熟知した学生がひとりはいて、夜食なり無理のない飲み方なりを教え、ペースメイクしてくれるだろう。この合宿ならデカ愛さんとキュアロくんだったか。その中で議論が始まり、お互いの問題意識が鮮明になっていく。ラム酒を持ち込んでカクテルを作ったり、外山邸に多くある映画や音楽をかけたりする。交歓がある。より深くわかりあった同志ができる。深く分かり合えるし、創発的な刺激がガンガン入ってくるし、何より楽しい。
この合宿で自我がやっと芽生えた、と語る参加者もいたくらいだ。正のフィードバックループが働き、行動がどんどん変容していく。自ら行動することに意義を見出せるようになる。進振りや研究テーマ決定の後押しにもなるはずだ。おれの今のテーマも、その中で固まったものだ。

④文理それぞれへのメリット

文系理系それぞれに、この合宿に行く必要性はいくつか指摘できる。
文系ならば言うまでもない。日本語文献は日本人の学者を経由して作成されるが、文系の学者は研究途上で、少なくとも何かしらのイデオロギーの存在する地を踏むこととなる。社会科学系はもちろん、古ノルド語文献を訓詁するような文学者や人骨を解析する考古学者であってもそれは免れない。そのイデオロギーが何に属し、どのような歴史を経ているかを学ぶことは、それに対してどう振舞うかを判断する有力な材料となる。
また、議会の外の(あえて言えば、非主流派の)政治運動について学ぶことは、社会科学を学ぶ上で大きなアドバンテージになるだろう。内閣府の中だけが政治ではない。年長者が世代として何と立ち向かっていたかを俯瞰することで、その功罪やどう引き継ぐべきかを知れるだろう。
理系であってもこの合宿は間違いなく意義を持つ。単純にいま語られているイデオロギーや政治がわかるようになるだけではない。科学と政治活動はよくぶつかったりタッグを組んだりしているが、それを政治活動側からの理屈で理解できるようになるだろう。技術がどう使われ、党派の争いの中でどう消費されるかも。もちろん、政治活動に関心を持てるようになるという副次的な効用もある。

⑤行動力という最大の報酬

最後に、この合宿に参加して得られる最大の利得として、行動力を挙げたい。これはおれが政治に関心を持ちきれない者、そしておまえたちFラン東大生に合宿を勧める最大の理由だ。
外山合宿に来るような者は何かしら自分で活動をしている者が多い。サクラ荘のホリィ・センをはじめ、水サーの茂木フル、早稲田アナ研のクルス、自己啓発読書会のキュアロランバルトなど、思いつく人はたくさんいる。おそらく次回にもいるだろう。10日間彼らと同じ空気を吸い、考えを知ることで、動き方がわかってくるだろう。それに、全国有数の活動的な大学生との繋がりもできる。ここまで来たら自分で運動体を作ったり、幹部となることもできるようになるだろう。
自分で何かしらの運動体を動かすようになれば、Fラン東大生という自意識は霧消するはずだ。

安全性について

この合宿は人間を変えてしまうレベルの経験をもたらす点では非常にキケンな合宿だが、少なくともおれの代では望まぬ変化や心理的安全性の破壊はなかった。合宿の性格は参加者によって大きく変わるので言い切ることはできないが、そういうところは安全のはずだし、そうでなければ自ら合宿内で政治活動をすればよい。
合宿には必然的に左から右まで様々の思想の者がいるが、強制的にオルグされることはないはずだ。おれの代も共産党を何度も脱党している活動家から天皇主義右翼までいたが、そういうことはなかった。外山さんも学生風情を積極的にファシスト党へオルグすることはない。
また、生活形態としては基本的に一部屋5人の雑魚寝だが、女子部屋は男子の居住空間と離れた2階にある。不調であれば(なくても)部屋で寝ていても何も言われることはないし、断りを入れたうえで抜け出すのも十分にありだ。おれはそうして一日の休みを作り、進振りの第一段階を決める時間を取った。

最後に

Fラン東大生こそ外山合宿に行け。東大に行ったことで世界が変わったのと同じように、見える世界が変わってくるはずだ。

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