金色のコルダオクターヴプレイ記 天宮ルート感想
天宮は突出したピアノの才能を持つ儚げな雰囲気の美形。ピアノの技術は図抜けているが情緒に欠け、故に自らの感情を揺り動かすような体験(恋)を求めている、みたいなキャラだ。
こういうロボみたいな男が恋に落ちて変わっていくというシナリオは、鉄板だが萌える。
ただ、私はコルダ3時点では天宮の良さがよくわからなかった。いや、正解には「天宮の」ではなく、天宮の恋愛イベントの良さがよくわからなかったのだ。情緒に欠ける人形のような男が恋をして変わる展開は遙か1と2で見たし、前作の志水のシナリオとも少しかぶる。
雨の中でヒロインが男を待ち続けるエピソードも、具体的に「どこで」とは言えないがドラマや漫画で100回くらい見たことがある気がした。3の天宮について私は、天宮クラスタに刺される覚悟で言うが「よくあるパターンだな」と思ったのだ。
しかし、そんな私もコルダ4では「天宮ってめちゃくちゃいいな」と思い直した。天宮という男が「浮世離れした人」というエピソードがバンバン出てきて、それがことごとく良かったからだ。
クリスマスデートでプールに沈むスチルを出した男は、私の乙女ゲー歴の中でも彼だけだし、他のイベントも良かった。
3ではなんとなく、霞と薔薇の花びらを食って生きていそうなイメージしかなかった天宮が、4以降は完全に「霞は味噌汁にいれて、薔薇の花びらには醤油をかける」みたいなイメージに変化した(どんなだ)。
天宮が浮世離れしている事自体は最初から変わっていないのに、4によってそれがより具体的にイメージできるようになった(私はASをまだやってないので)。それに、「彼は変わっている」という描写の方向が面白いので、天宮への親しみが増した。
前置きが長くなったが、オクターヴでも「まあ、天宮なら仕方ない」というような、天宮のわけのわからん「らしさ」がわかるイベントばかりだったと思う。
そもそも、ヒロインとの再会直後から天宮(と志水)は、ハルモニアがしっくりきすぎている。それも、志水が「練習環境がいい」という理由でハルモニアに惹かれているのに対して、天宮は単純に「この場所が馴染み深い」と思っているのだ。
天宮は明らかに妖精サイドにいる。
妖精が絡むらしい函館天音を履修してない私がそう思うんだから、全ユーザーがそう思ったのではないだろうか。
天宮ルートは、小日向に惹かれている自分とハルモニアの居心地のよさに惹かれている自分との鬩ぎ合いという感じがした。
そこに、妖精の食べ物を摂り続けたら戻れなくなるという遠野物語的展開も加わってハラハラさせてくれる。本当に天宮が妖精になってハルモニア在住を決めてしまうのではないかと、小日向はかなり早い段階から心配している。
土浦特製激ウマシチューも食べずに音楽に没頭し、ハルモニア最高!となっている天宮を引き留めたのは小日向手製のスープと、小日向と「恋の続き」をするという約束だ。
土岐ルートでも思ったが、小日向の料理スキルは度々男を救う。
ただ、オクターヴは、時間軸としては3の後でもプレイヤーの体感としては4の後だから、毎回「恋をしよう」を切り口にされると「私は君と何回恋を始めたらその先に進めるのかね?」と思わないでもない。
ただそれを置いといても天宮ルートは良かった。
シリーズを通して培ってきた天宮像があるからこそ「彼がハルモニアに残りたがっているのもわかる」と感じられる上、それでもヒロインが彼にこちら側に戻ってきてほしいと願うことに、不自然なところがなかった。
試練の前に冥加が出てくるのもいい。現実の象徴みたいな冥加を出すことで妖精サイドの天宮と対比でき、天宮を引き留める冥加との間に彼らなりの絆を感じた。
妖精の魔法ではなく、人間らしい泥臭い手段で彼女の元にたどり着いた時、天宮は「人間として」彼女を求める自分に気づく。それも、元の世界が自分の居場所だと思うのではなく、彼女のいる場所こそが自分の居場所だと思うのが天宮らしいなと思った。
ラストで妖精の食べ物を勧められても、もう天宮はそれを口にしなかった。それは、「自分は妖精ではなく人間で、こちら側にはもう来ない」という決意を宣誓するかのように毅然としていたし、最後に船でハルモニアを離れる描写も、元の世界に戻るというよりはハルモニアとの別離という感じが強かった。
もしかしたら、天宮は幼い頃にモンドに来たことがあるのかもしれないと思った。天宮ならモンドへの扉が開きそうだし、だから天宮はここが「懐かしい」のではないだろうか。
あと、泥だらけになった天宮がすごく良かった。普段涼しい顔をしている男が必死に走ったり、その結果汚れて傷つくのってたまらんな…。普段夢女にならない私にさえそう思わせたのだから、天宮ルートは成功であろう。
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