夏空のモノローグ 浅浪晧攻略感想

※個人の感想ですよ

夏空攻略3人目は教師の浅浪晧。声がいい。
ひょうひょうとしていて生徒との距離が近く、話がわかるタイプの教師だ。担当教科は化学。
声がいい。
記憶を失ってしまった葵は学校に馴染めず1年生の時に保健室登校をしていたのだが、その時に勉強をみてくれていたのが浅浪だ。また、浅浪は科学部の顧問である。人見知りで人間不信状態の葵を科学部に入部させて居場所を作ってくれた浅浪は、葵にとって恩人である。
私がこれまで攻略した木野瀬ルートもカガハルルートも、葵は中盤から次第に彼らに惹かれていったのだが、浅浪ルートの場合はかなり早い段階から葵に恋心が芽生える。それは、一年間の保健室登校があればこそだろう。葵はそこですでに浅浪のことを「いい先生だな」と思っていて、恋する素地が出来ていた。
しかし、その浅浪は2学期から別の学校に専任教諭(いわゆる正職員)として採用されることが決まっている。浅浪は土岐島高校では非常勤講師だったわけで、それが専任になれるのだからめでたい話である。
しかし、浅浪が学校を去ることで彼を顧問とする科学部の廃部が決まってしまう。これに関しては葵が「仕方ないとわかっているけど、科学部が大事じゃないのかと言いたくなってしまう」みたいな事を考えているのだが、そんなに大事な科学部なら漫然と廃部になるのを待たずに、他の教師に顧問になってくれるようにもっと必死に頼み込んで来いよと毎回思う。
浅浪は全然悪くない。

そんな中、葵は科学部が無くなるのも嫌だけど、浅浪がいなくなる事自体が嫌だと思っている自分に気づく。急な別れが葵に恋心を自覚させたのかもしれない。
ループに入ってから浅浪と部室で過ごす葵は、ドキドキしたり軽くいなされてむくれたりと、年上の男の人に憧れるウブなJKそのもので可愛い。ときめく葵に対して、浅浪が色っぽいことを全然言わないのもすごくいい距離感である。最初から葵に惚れていた二人のルート後だけに、これは新鮮だった。
ただ葵は隠し事が下手なので、彼女に恋する男ども(カガハルと木野瀬)は敏感にその変化を感じている。例によってカガハルがコメディテイストで浅浪と葵の間に割り込んでみたり浅浪に嫉妬してみたりして、篠原や木野瀬に呆れらたり笑われたりする。しかしこっちはカガハルルートを終えた直後の身。カガハルの見せるジェラシーがマジもんだと知ってしまっているので、1ミリも笑えない。
それはともかく、カガハルが「教師が生徒に手を出すなんてっ!」と食ってかかった際、浅浪は「生徒に手を出すほど飢えちゃいない」と返す。
ここは覚えておこう。スクショしておくのもいい。
なぜなら浅浪はこの後、16歳のヒロイン相手に青少年保護育成条例の中の淫行条例に引っかかることなく、実に上手くエンディングまで辿り着くからだ。「現役教師と生徒」の恋愛ルートというだけで引いてしまうタイプのプレイヤーもそこは安心してほしい。

非常勤よりも正職員の方が給料も良く福利厚生もしっかりしているのは当たり前なので、浅浪の転任は他人に責められるようなことでは無いのだが、中途半端な時期だったせいか校内に噂が立つ。
「浅浪が給料のいい正職員になったのは、女に貢ぐ金が必要だから」という噂だ。それを聞いた葵はその真相が気になって気になって仕方がない。
実際、浅浪は放課後早めに帰ることが増えた。
科学部メンバーはその行動を「まさか噂の女のところに行くのでは…?」と考える。
そこでカガハルが尾行を提案。葵が浅浪に惹かれていることに気づいたカガハルにとっては女の存在が本当なら有り難いわけで「先生のあとをつけて確かめましょう!」となったわけだ。
葵は「そんなことするなんて駄目だよ」と窘めつつも全力では止めない。というか、自分もがっつり尾行に参加している。
貴様という女は。

結論としては貢ぐ女など存在しない。
浅浪が金を必要としている理由が女でなければ何なのか。この後の展開は、漫画や小説を読み漁っていれば一度ならず目にした事のあるものだ。
なにしろ、私がさっきまで読んでいた「金田一少年の事件簿(犯人たちのやつ)」には、身内の医療費のために殺人を犯す人間がなんと二人も出てくる。
浅浪ルートを進めると、案の定病院が出てきた。そして登場する、まだ小学校高学年くらいの入院着姿の男の子。
お、おう…。
あまりにも予想通りであり、何の驚きもなかったのでそれ以上の感想は特にないのだが、つまり浅浪は幼い弟の入院費、治療費のために正職員になったらしい。
いや、もし弟が入院していなくても28歳浅浪、正職員にはなれる時になっといた方がいい。

浅浪は葵に事情を話して「翔の友達になってやってほしい」と頼む。弟はずっと入院していて友達を作る機会がないから、それを葵に頼みたいと。
人選ミスだ。カガハルを呼べ。
そう思った。
実際、葵自身も「人見知りの自分が初対面の児童と友達になれるのかな」と不安がっている。
これまで私は葵についてかなりボロクソに書いているのだが、彼女のこういうところ、つまり己の弱さをよく知っている所と自分の欲求に素直な所と真面目な所は本当に良いと思っている。
不安に思いながらも葵は、大好きな浅浪先生からの頼みごと「先生の実弟と友人になる」というミッションに全力で取り組む事に。
普通ならここで、ずっと入院してる翔はそんなに身体が弱いのかなとか、一体何の病気なんだろうかなどの疑問が湧くと思うのだが、葵はそういう事を一切考えない。この段階で考えているのは、翔と友達になって先生を喜ばせたいという事のみ。
貴様という女は。
ただ、動機はともかく葵は基本的に真面目なので、翔の趣味や好みをきちんとリサーチして友達になることに成功する。もちろんループしてしまえば翔の記憶はリセットされてしまうのだが、何度も翔と友達になっているうちに葵はループの度によりスムーズに翔と親しくなれるようになる。それを見ている浅浪も嬉しそうだ。
葵は次第に、義務感からだけでなく翔と友達になること自体を楽しみはじめ、放課後の病室で翔と浅浪と3人で過ごす時間を心地良く感じるようになる。
ただ、ここに至っても葵は浅浪に翔の病気について何も尋ねない。気遣ってわざと尋ねないという描写はなかった。
しかし葵は冷たい女ではない。楽しい時間に浮かれているとはいえ、本来ならこんなに小さい子がずっと入院している事を全然疑問に思わないはずはないのだ。
だから私はこれが何らかの伏線だろうと思い、同時に一抹の不安を覚えた。
幼い弟妹の医療費のため金を欲しがるという、いつかどこかで100回くらい見た気がする話に続いて、またしてもよくある展開が続くんじゃなかろうな?という浅浪ルートのストーリーそのものに対する不安だ。
しかし、
「この子、不治の病でもうすぐ死んじゃうとかじゃないよね」
冗談半分でそんなことを言っていたら、なんと本当にそうだった。
そんな、嘘だろと思った。
もちろん「翔くんが不治の病だなんてそんな、嘘だろ」という意味では無い。「一度ならずこんなによくあるパターンを持ってくるなんてそんな、嘘だろ」という意味だ。
これまで色んなゲームをやってきたが、ここまでストーリーの先が読めてしまったのははっきり言ってこれが初めてだ。
全部のルートを木野瀬ルートのように驚きの展開にしろとは言わないが、カガハルルートと比べてもこれはちょっとあまりにも意外性がないと思う。
ただ、予想していてさえ子どもへの余命宣告という設定は重くて悲しい。
意外性のないシナリオと言ってしまえばそれまでだが、何度同じような話を目にしてもやっぱり泣けるからこそ、鉄板としていろんな場所で使われるストーリーなのだろうと思う。

ということで、実は(というか、やはりというか)翔は余命2年を宣告されている。
ループしている間は翔の病は進行しないが、ループが終了して「明日」が来てしまえば、確実に翔は死に一歩ずつ近づく。だからループが終わってほしくない、と浅浪は葵に吐露する。このシーンで、初めて浅浪は教師ではない素の顔を葵に見せたといえる。身内の余命の話など普通は生徒にはしないからだ。
浅浪が教師ではない自分を見せたのが恋愛とは無関係の部分であった事が、このルートを硬派なものにしていると思う。
なにしろ浅浪の「明日を望まない理由」は、これまで攻略した木野瀬とカガハルに比べて納得しかできない。前の二人は踏み出す先に失うものがあるかもしれないが、希望もまたあるかもしれない。いや、確実にあるだろう。
だが、浅浪はそうではない。
ループが止まれば、両親が亡くなって以来ずっと共にで生きてきたたった一人の身内を、「かもしれない」ではなく「必ず」失うのだ。
葵はこの頃にはすっかり翔のことも好きになっており、あんなに良い子が死んでしまうなんて酷いと世の理不尽に憤る。
実は葵は、翔の余命を知るまでは「ループしていると翔くんの病気は永遠に治らないけど、もしループが止まって明日が来たら病気が治る日が来る。それならループが止まるのもいいかもしれない」というようなことを言っているのだ。
あの葵が!こんなに前向きなことを!
それなのに、翔の病は治るどころかループが止まれば悪化の一途を辿ることを知ったのだ。葵が「やっぱりループは終わらない方がいい!」という気持ちに戻るのは仕方がない。

そんな状況の中、部長が「ループを止める方法がわかった。ループは残り7日」と告げるのだ。
これは葵が相当ゴネるに違いない。
そう思ったとおり、葵が荒れないわけがなかった。
このゲームには毎回、葵がループ終了を嫌がってグズるくだりがあるのだが、今回はそれがかなり激しい。
なぜか。
それまで見た2つのルートでは「葵がループを終えたくない理由」は、要するに彼女の自己都合だったのだが、今回はそこに「翔くんのため」「あんなに小さい子がかわいそう」「先生もかわいそう」という理由がくっついているからだ。
このループが終わればいたいけな少年が死に近づく、あんなに小さい子だぞ、それでもいいのかと同級生の女子に責め立てられて「上等だ」と返せる人間はそうそういない。
結局部長が折れて、折衷案を出す。
「自分たち同様、翔にもツリーの歌を聞かせる事で記憶を持ち越せるようにする。そうすればループが終わるまでの7日間、翔の記憶はリセットされずに自分たちと思い出を共有できる。ループは止められないが、それまで記憶を持ち越したまま7日間を過ごせるようにしよう」
と。
そ、そんなこと出来んの!?
とまずは驚いた。部長は(一人で)かなりツリーの事を調べて、しかも理解しているのではないか。
他の科学部メンバーがあまりにも科学部員としてポンコツなので、部長の凄さがいちいち際立つ。
翔が好きなことの一つに天体観測があるのだが、プラネットハンティング(未知の星を探すこと)に必要な道具も部長が用意してくれたし、みんなもっと部長をすげえと思えよ。

とにかく部長の活躍により7日間、翔は好きな事ややりたい事をして過ごす。ループしても記憶は残ったまま、しかも病は進行しない。
病気が悪化するからと思って、今まで諦めてきたことがすべて出来るのだ。翔は本当に楽しそうだ。
しかしそうなると、葵はますますループを終わらせたくないと考え出す。葵は、ループ継続を諦めきれずに再び部長のところに行って「ループを止めないで。明日にしないで」と訴える。「部長のように明日を迎える強さを持った人ばかりじゃない、弱い人のことも考えてくれ」と詰める。他に当たりどころがないのでとにかく部長を責める。
葵は「翔くんのため」「先生のため」といいつつ、自分のためにもループを止めたくないのだ。だから「弱い人」の中に自分も含めている。
だが、ここからの部長の説得がほんとにかっこよかった。浅浪ルートなのに今すぐ部長に乗り換えたくなったほどだ。
葵たちが「素晴らしい今日を終わらせたくない、だから明日は来ないで欲しい」と思うように「ひどい一日だったけど、明日にはいい事があるかもしれない。だから明日が来ればいい」と思っている人だっているのだ。明日は皆に平等に訪れるものでないといけない。
部長はそう諭す。
こういう場合、プレイヤーは普通ヒロインの主張を応援したくなるはずなのに、部長に圧倒的同意、ビタイチ葵を応援しようと思えないのが凄い。
結局、納得したのかどうか微妙な形で葵は引き下がるのだが、葵に明日に向かう覚悟をさせたのは浅浪と翔本人だった。
翔は自分の余命について気づいていて(やっぱりな!)、それでもなお「明日」に向き合おうとしている。浅浪もそうだ。このループの終わりを一番つらいと思っているのは翔であり、浅浪だ。
理不尽だの不公平だの、なんで翔がこんな目に遭うんだだのということは、葵に言われるまでもなく浅浪も翔もこれまでに葵の何十倍も何百倍も考えてきたはずだ。
病の当事者である翔やその身内の浅浪が「大丈夫だよ」と顔を上げているのだ。これで当事者でもない人間が泣きわめいているわけにはいかない。
ようやくループ終了を(なんとか)受け入れた葵は、翔と浅浪と一緒に星空を見上げる。
「明日も星が綺麗に見えるといいな」と「明日」の話をする。
そこにはきっとまだ発見されていない星がある。
その星に思いを馳せて星空を見ながら、翔は「僕が退院したら」という話をする。自分が退院するまでの間、葵と浅浪にはここで星を探して欲しい。見つけたらそれを教えて欲しい。その星に名前をつけよう。また3人で星を見よう。
余命2年(病名は明かされていない)の翔が「元気に」退院出来る日はおそらく来ない。
そしてその事を浅浪も翔本人も知っている。
それでも「明日」を迎えようとする翔の強さたるや。
これはもしかしたら晧ルートではなく翔ルートだったのかもしれない。
翔くんにならきっといい明日が来るよ!!
もしかしたら、なんか知らんけど劇的に病気が良くなるかもしれないじゃん!
「明日」を迎えてみないとその先は分からないんだ!
私がそう思った瞬間だった。
ゲーム画面に葵のモノローグ。
「奇跡は起こらない」
おいおいおいおい!!
余命宣告されてるし、そりゃまあそうなんだろうけどさ!
そんなバッサリいく?!
相変わらず葵はオブラートに包むなどという生易しい事はしない。
浅浪ルートは本当にラストまで想像どおりというか、どんでん返しのない、良く言えば安定感のある、悪く言えばありきたりなストーリーなのだが、最後の葵のモノローグだけは完全に予想を超えていた。

そして予想を超えていたことがもう一つある。
それは浅浪が葵に、告白を飛ばしていきなりプロポーズしたことだ。しかも弟同席のもとで。
「3人で家族にならないか」と。「嫁として」という言葉も飛び出す。
これはすごいと思った。
私も乙女ゲーマーのはしくれ。プロポーズされたことは何度もある。しかし家族同席のもと、それもその家族に「頑張れ」と背を押されながらプロポーズしてきた男は初めてだ。
しかしそれでテンションが下がったかといえばそんな事はない。むしろその誠実な姿勢が高評価である。
浅浪ルートは、乙女ゲームとしては甘さが少ないのかもしれない。しかしこのルートはシナリオ自体が重いのだ。明日以降、弟が死に近づくというのにラストだけ甘々だったら逆に萎える。最後まで翔をハブらなかったのが本当に良かったと思う。
それに、木野瀬やカガハルと違って浅浪はゲーム中で葵とキスもハグもしない。頬に触れて額をくっつけるシーンはあったが、それも色っぽいイベントではなく(なにしろ翔の話をしている途中だ)、どちらかといえば励ますためというニュアンスだった。
また、葵が浅浪にドキドキするイベントは沢山あるが、逆はない。だから、もしかしたら「浅浪がいつ葵に惹かれたのかわかりづらい」という意見もあるかもしれない。しかし、大事な弟と3人で過ごすうちに浅浪は「これからもこんな風に葵と翔と一緒にいたい」と思ったのだろうな、だからラストはプロポーズだったんだろうなと私は思った。
それに浅浪は教師だ。
覚えているだろうか。「生徒に手を出すほど飢えちゃいない」という彼のセリフを。
ゲーム中、確かに浅浪は教師の枠を超えた事、「手を出した」と認定されそうな事をしなかった。
「他校に転任したら兄ちゃんと彼女は教師と生徒の間柄じゃなくなる」と弟に指摘されて「その発想はなかったな」とか言い出した時には「正職員になって早々捕まりたいのか」と慄いたのだが、そのやり取りを除けば浅浪は思った以上にちゃんとした大人だった。
これまで私が攻略してきた教師キャラの中でも抜群の自制心とコンプライアンスだ。
なにしろ私は「現代日本が舞台で18歳以下の少女と大人の男(特に教師キャラ)が恋愛するルートには引っかかりを覚える呪い」にかかっている。これは加齢とともに強まり、どんなに素晴らしいキャラでもシナリオでも、ふとした時に「淫行」「懲戒免職」の文字が頭をよぎってしまうという恐ろしい呪いだ。
しかし、浅浪ルートではその呪いが発動しなかった。
それがなぜなのか考えてみた。
前述したように、恋愛どころじゃない重いストーリーだったことや、浅浪が恋愛面では教師の顔を貫いたためでもあるだろう。しかし、何よりもラストのプロポーズの威力が大きい。
青少年保護育成条例の中にある、結婚していない18歳以下の男女に対するわいせつ行為の規制(淫行条例)だが、実は「婚約中の男女、またはそれに準ずる真摯な交際の場合は処罰から除外される」という文言があるのだ。
浅浪エンディングの家族同席の元でのプロポーズはまさしくそれに当て嵌まる。
私と同じく教師×生徒のルートを避けたくなるタイプの人に、浅浪はおすすめである。

それはそうと、乙女ゲームをやった後に警視庁のホームページを見に行ったのはこれが初めてだ。

ツリーの謎はやはり全然わからなかったので、次は詳しそうな部長に行こうと思う。

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