ニル・アドミラリの天秤 星川翡翠攻略感想
※個人の感想ですよ
ニルアドミラリの天秤、攻略一人目は星川翡翠。
女の子顔の美少年で、潔癖で真面目な性格。オッドアイ、色素が薄い肌や髪(ボブ)、華奢な体格など、その道の好事家が飛びつきそうな外見だが、彼自身はそれを嫌悪している。
翡翠は置屋で育ち、母は遊女で父のことは知らない。ただ、置屋があったのがヨコハマの花街であること、またその容貌から翡翠は明らかにハーフであり、彼の父は外国人であると推測される(後にオランダ人だと判明する)。
ニルアドは架空の大正時代を舞台にしたファンタジーである。と言っても、無惨様や龍神の神子みたいに世界を滅ぼしたり救ったりするような派手な奴らが出てくるわけではない。
ニルアドの帝都には「稀モノ」と呼ばれる危険な本が出回っていて、それを調査回収する「フクロウ」と呼ばれる組織があるという設定だ。「稀モノ」は人間の精神に影響を与える、または実際にその本を開いた人に危険を及ぼしたりする。
特徴は手書きの和綴じ本であること。強い思念を持って書かれた本で、ネガティブな感情を喚起する作品、あるいは作者自身がそういう感情を持って書いたものである事が多い。人為的に稀モノを作り出す研究が闇で行われているものの、本来の稀モノは、その作者が「よっしゃ、稀モノを書くぞ!」と故意に書いたわけではなく、思い立っていきなり書けるわけでもないので、たとえ稀モノによって死に至った人がいたとしても作者に罪は問えない。
印刷技術の発達により手書きの和綴じ本そのものが少なくなっているし、手書きの和綴じ本が全て稀モノというわけではない。滅多にあるものではないし、見た目だけで「稀モノ」と判断はできない。それだけに、たまたまその本を手にした誰かが、いきなり被害にあうことになる。そこで、「フクロウ」が書店を虱潰しに捜索し怪しいと思われる本を回収、さらに店主たち頼んで「手書きの和綴じ本が入荷したら報せてくれ」と協力を頼んでいるというわけだ。地道な仕事でありかなり地味な部署であることがわかる。ヒロインのツグミは、その組織の一員として働くことになるのだ。
また、危険な稀モノを珍品として欲しがる金持ちも存在し、闇のオークションまで開かれている。稀モノを「フクロウ」より先に回収しオークションで売るわけだが、それを仕切っているのが四木沼喬。当然、フクロウとは敵対し「カラス」と呼ばれて警戒されている。
とりあえず、フクロウ(ヒロインがいる組織)vsカラスと考えておけば良い。
さて、ニルアドのヒロイン久世ツグミであるが、彼女は没落華族のお嬢様。堂上華族か大名華族かはわからないが、薙刀を習っていたというから元々は武家の大名華族なのかもしれない。
久世家の財政は火の車で、ツグミは家名を残すために裕福な平民との見合いを控えている。当のツグミは「知らない人に嫁ぐのはピンとこないけど、まあそういうもんだろ」くらいの雰囲気で、見合いに対してあまり悲壮感はない。このあたり、彼女がおっとりした本物のお嬢様という感じで好感が持てる。
ただ、ここで待ったをかけたのが彼女の弟ヒタキ。ヒタキは、大事な姉さんを平民にやるわけにはいかないの一点張り。ツグミ本人が「嫁に行くくらい気にすんなよ」と言ってるにも関わらず、「姉さんのバカッ!」と大喧嘩。
そんな一方的な仲違いの最中に、ヒタキは蔵書に紛れていた稀モノを手にとってしまう。ヒタキは自ら出火して大怪我。弟が燃えあがる様を間近で見てしまったツグミはその時のショックで、ある能力に目覚める。
それが、「稀モノと普通の本を見分ける能力」である。
地味。
だが、見た目は普通の本と変わらない稀モノをいちいち手に取らず、見ただけで判別出来る能力者は希少(他にもいることはいる)で、稀モノの回収が仕事のフクロウにとっては必要な人材である。
ということで、久世家に事情聴取と稀モノ回収に来たフクロウのメンバーにツグミはスカウトされる。
家計は火の車だから就職したいし、弟に怪我させた稀モノは憎いし、他に稀モノによる事件が起こっているのならそれを止めたいしで、ツグミはフクロウの一員になる。
フクロウの実動部隊は寮に入っているので、メンバーとはひとつ屋根の下で暮らしていることになる。
そのフクロウの一人が今回攻略した翡翠である。
このゲームは共通ルートが終わった時点で好きなキャラを選んでルートに入る一本釣り形式だ。
翡翠を選ぶと、彼とともに書店をパトロールして稀モノを探す流れになる。そのパトロールやそこで交わされる会話から翡翠のあれこれを知り、彼に同情したり励ましたりと交流を深めながらストーリーが進行する。
翡翠の生い立ち(花街育ち)や、容姿コンプレックス、何もないところに炎を発生させられる能力者であることなどが明らかになっていく。
花街で男女の愛憎を間近に見て育った翡翠は、色恋とそこから派生する行為を汚らわしく思っている。
行動をともにするうち翡翠は、優しくて控えめだが頑張り屋のツグミに惹かれていくのだが(ものすごい頻度で赤面する)、それを自覚するとともに「恋する自分はなんて汚らわしいんだ…」と自己嫌悪に陥っていく。
それに、翡翠が汚いと思っているのは「恋愛とそこから派生する感情、その果てに起こる行為」なので、「恋している自分が汚らわしい」だけでは済まない。恋愛というのは相手がいるからだ。翡翠の考え方だと自分だけでなく、その相手も「汚れている」となってしまう。
当然翡翠の相手はツグミ。
ツグミも翡翠の真っ直ぐなところや、異能に苦しみながらも前向きな姿を見て好きになっていく。しかし翡翠は、ツグミから自分に向けて恋の矢印が出始めるのを察知するやいなや「あなたは恋したら駄目だ」と言い出す。
何度も言うが翡翠は恋愛感情から生まれるあれこれを汚らわしいと思ってしまうので、たとえそれが自分の好きな相手から自分に向けての恋心であってもタブーなのだ。ヒロイン様から告白されかけても、
「両想いになったでーー!!ヤッター!!」
とはならず、
「恋なんてしたらあなたが汚れてしまうから僕に恋するなんてやめときなはれ」
となるのである。
なんたる面倒くささだ。
とはいえ、これが初恋の翡翠はもうツグミのことが好きで好きでしゃーないという感じ。無意識に嫉妬してむくれたり、壁ドンしたり、ツグミのリボンを拾ってそれをそのまま返さなかったりと徐々にエンジンをふかし始める。
物語はまだ中盤過ぎなのに、この段階でこんなになっちゃって君はこれからどうするんだ?などと余計な心配をしてしまう。
しまいには「他の男性があなたに触れるなんて許さない」と突然キスした後、「こんなの…最低だ!汚い…醜い」と言い捨てて走り去る翡翠。
その場に取り残されたツグミは「私は一体どうすればいいのだろう」と言うのだが、全くそのとおり。
どうすりゃいいんだよ。
お互いがお互いを好きなのは分かりきっている状態だが、翌日から翡翠が何事もなかったかのように振る舞っているため、ツグミもそれに合わせて過ごす。
そんな中、ツグミたちは書店主の一人からとある和綴じ本の話を聞く。その作者がヨコハマの遊女だという部分に翡翠が反応したことにツグミはすぐに気づく。
その本を書いた遊女はもしや母なのでは?と翡翠は思ったのだろう。
ツグミは翡翠のためにその本の内容を知ろうとする。
その本を買った人間は、稀モノの闇オークションを取り仕切る四木沼の妻、薔子だ。つまり敵側である。
ツグミは薔子に会って本の内容を聞くのだが、その中身は遊女の日記であり、翡翠がずっと探していたカワセミの話が出てくる。これは完全に翡翠の母が書いた本だと確信したツグミは、翡翠のためにその本を譲ってもらおうとするが果たされない。
薔子は薔子で事情があるのだ。
翡翠はツグミが自分のために危険を承知であれこれ尽くしてくれたと知り、彼女に自分の過去を語り始める。
そこでツグミは、翡翠の発火能力発現のきっかけを知る。翡翠は芸妓と間違えられて客に襲われそうになり、恐怖と怒りで能力が目覚めたのだ。その客を燃やしかけた時に翡翠の瞳は片方が赤くなって、今もオッドアイのままだ。
そこで得た異能力は殺傷力が高いこともあって翡翠は周囲から遠巻きにされ、しかも百舌山というマッドサイエンティストみたいなやつに目をつけられてしまう。百舌山教授は異能力の研究者であり、珍しい能力を持つ翡翠を調べたくて仕方ないのだ。
花街育ちで、女の子顔であるために男に襲われかけたこと、そこで発現した殺傷力の強い異能、その際に出来たオッドアイ、百舌山の研究対象にされたこと、その後で母が自分のもとを離れてしまったこと。
その全てを翡翠は「醜い」と思っている。
そしてその「醜い」者を生み出したのは「恋愛のはての行為」であると嫌悪しているのだと思う。
話を聞いたツグミは「翡翠は醜くもないし汚くもない」と訴える。恋して起こるあれこれが汚いというなら、自分も汚いのだと、あなたのことが好きだと自分から伝えるのだ。
私はネオロマンス育ちなので「告白するのはエンディング時」というのが刷り込まれていたのだが、エンディング前にヒロインから告白した上に押し倒すというのは新鮮だった。
しかもツグミはキスも自分からやっている。
ツグミの良いところは、世間知らずの華族令嬢という下地があるところだ。それがあるから、基本的には控えめなお嬢さんというキャラなのに、こういう事を自分からやってもキャラがブレた感じがしない。下手したら「お前、さっきまでのおとなしい設定はどうした?!」となってしまうシーンでも、ツグミみたいな世間知らずがやると、セックスの何たるかがよくわかってない感じがして逆に純な気がする。
押し倒された翡翠は即座に体勢を入れ替えた上、めちゃくちゃハァハァしながらツグミのボタンを外して、どうやらその場(温室のソファの上)でキメたようだ。
あんな窮屈そうな所でよく頑張ったな…!という感想を持った。
事に及ぶ際に「やったことはないけど、やり方は全てわかります」とか言う翡翠。「きっと上手にできます」って、クソ真面目な顔ですごいこと言うな、君は。
普段生真面目で堅物な翡翠であるから、このセリフはギャップがあっていい。翡翠が花街育ちである事も暗に示しているのだろう。だが、それなら「やったことはない」というセリフは無い方がいい。はっきり言わない方が「この子は実は花街でお姐さん相手に否応なく色々な経験したのかも」とか妄想できるからだ。
しかし「経験はない」ときっぱり童貞宣言してしまったことで、「翡翠の意に反した経験の豊富さ」を妄想する余地が消えてしまった。
それはちょっと勿体なかったかもしれない。
ニルアドは18禁ではないので、真っ最中のスチルがでたり真っ最中の喘ぎ声を聞かされることはない。だから、「まぁやったんだろうな」くらいの描写である。その後で出てくるスチルは事後のはずだが、二人はバッチリ服を着ている(着衣でやったのかもしれないが)。
終わった後で「僕はうまく出来ていましたか?」って、処女相手にお前は一体何を言ってるんだ、痛えに決まってるだろ、という気もしたが、不安になってつい聞いちゃったのかなと思えば、それも真面目な翡翠らしくて良かった。
いやあ、僕はね、あの温室に置いてあるソファは最初から怪しいと思ってたんですよ。緑の植物に囲まれたピンクの長椅子(クッション効いてそう)ですからね。やるならあそこだろうな、と思っていました。
と解説者みたいな話し方になった所で、翌日。
ちょっと気恥しそうだが、自分の事を(いろんな意味で)受け入れてくれたツグミにますます愛情を感じている様子の翡翠と、なんだかんだで幸せそうなツグミ。
パトロール中も互いのラブが隠しきれていない。
しかも、寮に帰ってからツグミの部屋で「浅ましくて自分が嫌になる」とか言いながらまたしても事に及ぶ翡翠。
昨日の今日でまたやるの?!しかも君はこれから仕事だろ!
翡翠は一旦受け入れて貰えたとわかったらグイグイ来るタイプらしい。避妊はちゃんとしろよと肩を叩いてやりたい気分だ。しかし攻略対象の中で一番真面目そうな翡翠でこれなら、他の奴らは一体どうなるのか。
さて、ラブにうっかり気を取られていたが、フクロウの仕事も山場を迎えている。稀モノを扱っている疑惑の闇オークションの尻尾を捕まえたのだ。稀モノを取引する現場を押さえる事ができたら逮捕できるし、そこの稀モノも回収できる。
タレコミのあった場所に踏み込み、フクロウたちは見事に現場を押さえる事に成功する。しかし、そこで翡翠は薔子から母親についての真実を聞かされる。
実は薔子は翡翠の母の女学校時代の親友で、彼女もまた母の消息を追っていたのだ。その結果は悲しいものだった。発火能力が発現したことで、マッドサイエンティスト百舌山が翡翠を研究材料として欲しがるようになった。それを知った翡翠の母は、血縁である自分が研究材料になるから息子には手出しするなと百舌山の元に行ったのである。
しかし、母に翡翠と同じ能力は発現しなかった。労咳を患っていた母は百舌山の元で残りの命を使い尽くすような実験の果てに亡くなったのだ。
百舌山による特殊能力の研究は、稀モノを人為的に作り出すところまで来ており、ナハティガル(オークション会場)にも出入りしていたことがわかる。
薔子が百舌山を毛嫌いしている描写が出てくるのは、翡翠の母の事があるからだ。
母のことを知った翡翠は能力を発動させ、逃げようとした百舌山を怒りに任せて焼き殺そうとする。
ここで、ツグミがそれを止めることが出来ればハッピーエンドになり、止められなかったらバッドエンドになる。第一章からのフラグ立てが大事なゲームなのだが、私はまんまとバッドエンドになって翡翠が燃えてしまった。
キスどころか、2回もやったのに!
死ぬなーーーーー!!
と思ってやり直し、ようやくハッピーエンドに。
ハッピーエンドの場合、百舌山は薔子に毒をもられて死ぬ。
薔子は翡翠に例の遊女の本(やはり翡翠の母が書いたもの)を贈り、本を開いた瞬間、一瞬だけだが翡翠に母からの愛のメッセージが届いて完。
ラストは、薔子から「あなたの母はあなたを愛していたし、父とも愛し合っていた」と告げられた翡翠が、海の向こうをツグミとともに眺めているシーンだ。
父が外国人であることや、自分の容姿を少しずつ肯定できるようになったのだな、とわかる前向きなエンディングである。
このゲームはシナリオがきちんとしているので、エロシーンはあってもなくても構わないと思った。だが、潔癖で真面目な美少年翡翠が耐えに耐えて、ついに「溢れてしまいました」とか言うエロシーンは見ていて楽しかった。
というか、翡翠ルートは例の特殊な恋愛観が下敷きになっているので、セックス(ツグミから誘う形)に至るまでが自然で良かったと思う。
翡翠の母についての手がかり、闇オークション、百舌山との確執など、全てが本やフクロウの仕事と絡めて回収されるので、エロに引きずられることなく本来のストーリーを楽しめた。
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