見出し画像

「アンジェリークルミナライズ」をプレイする男をそばで眺めてその様子について書いたレポ

※個人の感想です
※恋愛イベントのネタバレはしていないですが、何をネタバレと考えるかは個人の感覚によると思うので、自己判断でどうぞ。
※キャラをディスる意図はありません
※何でも許せる人向け


 帰省で弟に会った。
 数年前、彼に『下天の華』をプレイしてもらったところ、一般的乙女ゲーマーなら絶対にしないようなプレイの仕方、キャラへの向き合い方をしており、それが面白かったので、この度『アンジェリークルミナライズ』にも着手してもらうことにした次第である。
 彼には一度アンミナキャラの『ミリしら』をやらせてみたことがあるが、ゲームそのものには初めて触れるし、ミリしらで一瞬だけ見た男の顔など覚えていない。実質初見である。

 アンジェリークルミナライズ、通称『アンミナ』はコーエー初の、というか日本初の乙女ゲーム『アンジェリーク』シリーズ最新作であり、平成アンジェリークとは地続きのストーリーになっている。
 『アンジェリーク』シリーズは、女王が宇宙を治める異世界の話だ。プレイヤーは次代の女王となるべく、ライバルと競い、九人の『守護聖』の力を借りつつ女王候補として試験に臨むことになる。とはいっても乙女ゲーなので、ヒロインとなったプレイヤーは守護聖(全員イケメン)とよろしくやりつつ、世界を救う女王を目指すわけだ。
 ヒロインの年齢が17歳から25歳になったり、ヒロインやライバルの出身地が日本っぽかったりと細かい設定に変更はあるが『アンミナ』も、ストーリーの大きな流れは過去作と同じである。

 ソシャゲ全盛の中、『アンミナ』でアンジェリークシリーズに初めて触れたプレイヤーも多いと聞くが、我が弟はなんと『アンジェリークデュエット』『スイートアンジェ』をプレイしたことがある上(もちろん私がやらせたのだが)、前述のように『下天の華』でくのいちになった経験もある。
 とはいえ彼は特にオタクではないので、これまでプレイしてきたゲームはドラクエやFFなどのビッグタイトルばかり。ギャルゲー系はプレイどころか見たこともないようなタイプだ。ギャルゲーの女を落としたことはないくせに、オスカー様や信長様とエンディングまで行ってしまったのはどうかと思うのだが、そういう『普通の男』だからこそ乙女ゲーをプレイさせると輝くのかもしれない。

 
 前置きが長くなったが、まずはオープニングだ。仕事に疲れ、バーで一人飲みをしていたヒロインは「女王候補になりませんか?」と見ず知らずの怪しい男(イケメン)にスカウトされ、それを了承する契約書にサインし女王候補になる。
「おいおいおいおい」
 と驚く弟。
 言い忘れたが、彼は日常的に『契約書』の類を扱うカタい職に就いている。
「酔って契約書はやめとけよ……」
 と、ゲーム発売当時「こ、これは大人の女としてヤバいのでは……?」と多くのプレイヤーをザワつかせた部分に、彼もまた引っかかりを覚えたようだ。
 ゲーム発売から時間が経って感覚が麻痺していたが、発売当時の懸念(このヒロインは年齢のわりにかなり迂闊なのでは?)が蘇ってくる。もちろん受け止め方は人それぞれだろうし「ゲームなんだから気にならない」という人もいるだろうが、この契約書のシーンはネオロマンサーでもなく乙女ゲーマーでもない人にも「このヒロイン大丈夫か?」と思われてしまう可能性があるということだろう。

 過去作と『アンミナ』との大きな違いはヒロインの年齢であるが、弟には元々「乙女ゲームのヒロインといえば、だいたい17歳だよね」などという知識はない。何歳の女がヒロインだろうと構わぬようだし、そもそも彼は『アンジュ』というデフォルトヒロイン名ではプレイしなかった。
 一周目はまさかの本名プレイだったのである。
 さすがにここで本名をバラすのは気がひけるので、ここからは2周目に使った『ロベルト』という名前で彼を呼ぶ事とする(つまり彼は2周目もデフォルト名を使わなかった)。
 女王候補ロベルト誕生の瞬間である。
 ちなみにこれは彼が歴代最も愛したサッカー選手の名から取ったという。「『ジーコ』とどっちにしようか迷った」とのことだが、それはこの際どうでもいい。
 ヒロイン名でさえこの調子なので、これから彼が育てる大陸の名もデフォルトではない。『ミラン』と入力していた。おそらくACミランというサッカーのチーム名から取ったのだろうが、偶然にも守護聖の中には『ミラン』という名前のキャラがいる。どうやら、大陸に守護聖と同じ名前は付けられないらしく、いきなり「その名前はつけられません」というメッセージが出た。
 そうだったのか。結構やり込んでいるはずなのに初めて知った。
 ゲーム開始早々いきなり躓いたが、とりあえず大陸名を『ユベントス』とすることにより事なきを得た。

 大陸名が決まり、ここから女王候補ロベルトは、大陸『ユベントス』を育てていくことになる。ライバル候補のレイナ(美人のバリキャリ)と大陸の発展具合を競い合って女王を目指すのだ。

 ゲームの進め方や世界観は最初に執事サイラスやタイラーが説明してくれるのだが、それをしっかりと聞いた弟は「さっきの男たちのとこに行って力を借りて、ユベントス(←大陸)を発展させればいいわけだな」と、古参の女王候補として申し分のない理解の早さを見せる。もちろん、サイラスやタイラーを見ても「え〜? この人たちは攻略できないの〜?」などとは言わない。

 こうして彼の女王候補としての生活が始まったのである。

 前述通り、このゲームは守護聖の力を借りて自分の大陸を育成していくのだが、育成を依頼した守護聖には好感を持ってもらえる。「女王候補としてやる気があるな。いいぞ」と思ってもらえるからだろうか。だが育成は無限に依頼できるわけではなく、そもそも1日に行動できる回数は決まっている。だから、限りある行動力をどう使うか、つまり誰のところに行って何をするかは厳選しなければならないのだ。
 また、自分から守護聖の部屋に行かなくても向こうが勝手に来てくれる場合がある。ただこの場合は仕事ではなくデートの誘いなので、大陸を育成することは出来ない。
 真面目に仕事に行けば守護聖と親密になれるし大陸も育つ。デートに行けば守護聖と仕事以外の話もできるが大陸は育たない。仕事ばかりではつまらないが、デートばかりだと大陸が育たない。そのさじ加減を考えるのが楽しいゲームなのだ。

 しかし女王候補ロベルトときたら、毎日毎日クソ真面目に育成に勤しむだけでなんの恋愛ドラマも起こさない。
 朝起きて執事サイラスと話し、「その日に送った方が良いとされる力」を該当守護聖の執務室に行って「たくさん育成」してもらう。もしその守護聖が留守なら、ユエから順番に、在室している奴のところに育成を頼みに行く。その行動には「このキャラが気になるから執務室に行ってみよう」とか「彼と話してみたい」という気持ちは一切介在しない。
 また、前述したようにロベルトの元に守護聖がデート誘いに来てくれる場合があるのだが、彼は誰が来ても迷いなく全てを断るのである。「今日の育成予定に差し障りがあるから」。そうロベルトは話す。
 すごい。
 本当に一切の躊躇も容赦もなく守護聖を追い返す。
 誘いを断ったあともリセットなどせず、さっさと外に出て執務室にいる他の守護聖に育成を頼みに行く。
 すごい
 こんな時、多くのアンジェリーカーは嗜みとして事前にセーブし、誘いを断るくらいならリセットする人が多いだろう。なぜなら誘いを断ると「親密度が下がって嫌われちゃったり、ライバル候補のレイナにその男を取られちゃったりする」からだ。しかし、彼は「この女王候補ロベルトが男とイチャつくために飛空都市に来たと思っていたのかァーーーーッ!!」と、まるで岸辺露伴先生のような佇まいで、デートには見向きもせずに仕事三昧なのである。

 その結果、どうなったかわかるか?
 答えは「速攻でライバル候補レイナにミラン(守護聖の一人)を落とされ、ミランからの怒涛のプレゼント育成によりレイナの大陸の方が発展する」である。
 ロベルトでなくともこの理不尽さには「俺はこんなに真面目に育成してるのになんでだよォォォ!!!?」と叫びたくなることだろう。
 このゲームは、最初に入力する星座と血液型によって守護聖との相性は決まり、相性が高いと会いやすかったり親密になりやすかったりする。レイナの星座と血液型はデフォルトでミランとの相性が抜群に良いので、放っておくとまず間違いなくミランはレイナのものになってしまうのだ。
 クソ真面目に育成しかていなかったロベルトは、ここでようやく「これは大陸育成シミュレーションではなく乙女ゲーである」ということを思い出したようだ。
 そう。守護聖の野郎どもは、真面目に育成している女ではなく自分が好きになった女を露骨に贔屓してくる。頼まれてもいないのに好きな女の大陸に力をプレゼントしたり、嫌いな女の大陸育成を妨害したりするなど朝飯前だ。
 大陸の育成状況だけでなく「きちんと人間関係が築けているかどうか(守護聖の支持を取り付けられているか)」も女王試験の重要な審査項目になっているのである。……と言うと筋が通っているように見えるが、要するにここは、男といちゃつけばいちゃつくほど「コミュ力があって良き」と褒められる世界なのだ。
 だから真面目に育成するだけでなく、デートや会話などをして、九人いる守護聖のうちせめて半数はこちらにキープしておく必要がある。
「俺も誰かを落とさねえと……」
 愛するサッカーチームの名を冠したミランをライバルに奪われたロベルトの追撃がここから始まる。

 一体誰を狙いに行くのだろう。
 彼が読んでいる漫画の推しキャラは「饒舌よりも無口。大らかよりもストイック。可愛いよりもかっこいい。優しいというよりも強い。そして、なんか偉そう(実際に偉い場合が多い)」という傾向が見られる。彼が過去作では真っ先に光の守護聖ジュリアス様(守護聖首座。偉い)の執務室に行っていたことを、本人が忘れていても私は忘れていない。ちなみにドラゴンボールではベジータ、テニプリでは手塚、鬼滅では富岡さん、進撃の巨人ではミカサが好きである。
 「無口。かっこいい。強い。ストイック。なんか偉そう」。この傾向から導き出される守護聖はこの中に一人しかいない。
 そう。炎の守護聖シュリである。
 弟と同担?
 そう思ったが私は動揺を顔には出さなかった。

 そして案の定、翌日から彼は毎日シュリの執務室に通い始め『たくさん育成』をするようになったのである。というか、もはやシュリの部屋にしか行かない。シュリが留守なら、以前のように大陸の民に望まれている力をどっさり送る。シュリ以外に誘われても決して部屋から出ない。
 とりあえずお前がシュリ狙いなことは、(必要以上に)よくわかった。

 この調子で、ほとんど毎日シュリのところに行って育成(たくさん)→シュリが不在なら他の守護聖のとこに行って育成(たくさん)→シュリが誘いに来たらデート(それ以外は断固拒否)を繰り返すロベルト。「シュリは在室だけど、たまにはこっちのキャラの執務室に行ってみようかな」などというブレは一切起こさない。
 とにかくシュリ、シュリ、シュリである。
 重いよ〜〜〜、愛が重いよ〜〜〜。
 こうして無事にシュリの支持は取り付けたものの、そうなると彼の大陸『ユベントス』は炎の力が飽和状態になり、タイラーからは「同じ力ばかり送るなっつの」みたいな苦言の手紙が届く。
 ゲーム開始直後は、どの守護聖の部屋に行ってもわりとすぐに恋愛1段階目のイベントが起きるし、公園や森の湖でもイベントが起きたりするのだが、逆に言うとそれを最後にロベルトに放置されている守護聖が何人か現れる。不在時以外はシュリとしか会わないのだから当たり前である。
 放置しすぎると、ヴァージルですらヒロインに対して「執務室に来るならもっと時間を選んで来てくれませんかね」みたいな迷惑顔を向けるのである。私はこんな冷たいヴァージルを初めて見たのだが、もちろん彼はシュリ以外眼中にないので全く気にしていない。
 シュリ一人に対する愛がとにかく重いさそり座の女王候補ロベルトではあるが、それでも女王候補としての生活は相変わらず真面目そのもの。シュリ以外の平日デートの誘いは全て断り、挨拶しただけで親密度が上がると気づいてからは毎日公園や湖で守護聖たちに挨拶回りをし、そのあとは仕事に精を出しているのだ。正直、彼は私のX(旧ツイッター)フォロワーの誰よりも勤勉な女王候補である。
 また、わりと不在がちなシュリのせいで、結果として色んな人の執務室に行き、力を一気に送ることになるため、大陸は(かなり偏ってはいるものの)順調に育ち、ロベルトは中間審査にことごとく勝利していく。
 このやり方では難易度『難しい』での勝利はかなり厳しいだろうが、今回は難易度『普通』なので問題ない。ちなみに彼は土曜日の大陸視察には必ずレイナを伴う。なんと、いつの間にかライバル候補との友情まで育んでいるではないか。
 今回のプレイで、レイナはミランやヴァージルと仲良しなのだが、彼はそのあたりを完全に放置している。「推しは別にいるけど、レイナには一人たりとも攻略対象を渡すのが嫌だ。全員ワイのもんや〜〜〜!」という狭き心を持っているプレイヤーが多い中、ロベルトの心は実におおらかである。
 再三言うが、彼はミランやヴァージルに限らず、基本的にシュリ以外を全員放置している。だが、アンミナでは親密度がある程度になると、指定の場所を訪れただけでイベントが起きて親密度が上がる。だから真面目に育成や挨拶をしていれば、元々の相性が高い守護聖とはそれなりに仲良くなれるのだ。そこが『下天の華』などの、攻略対象一本釣り型の乙女ゲームとは違うところだ。

 かくしてシュリ、ゼノ、カナタがロベルト派。ミラン、ヴァージルがレイナ派。残りが中立といった感じになっていく。
 彼はセーブはしてもほとんどリセットしないし、「今日は誰のところに行こうかな」などとは考えない(基本はシュリ、レイナ。この二人がいなければユエから順番に回るだけ)。また、日の曜日の青空面談でのチャットも迷わず上から順に会話を選ぶので、ものすごくサクサク進む。疾きこと風のごとしとは言うものの、武田信玄でも「ちょっと早すぎないか?」と苦言を呈しそうなほど、女王候補ロベルトは迷いなく素早く動くのである。
 「どれにするか、誰にするか、何をするか悩む」というのはこのゲームを楽しむための大事な要素なんだなぁと思わずにはいられない。

 しかし中間審査に勝ち続けると、1日に行動できる力が少しずつ増える。そうなると、シュリとレイナだけを相手にしているだけでは行動力を持て余すようになる。
 これによりロベルトはついに重い腰を上げて、シュリ以外の男の誘いを受け入れる気になったのだった。
 だが、この時点でシュリとロベルトの仲はすでに恋愛段階5段階目くらいになっており、他の男が付け入る隙などないように見える。
 一体誰を?と思って眺めていたところ、彼が部屋に招き入れたのは水の守護聖カナタ。
 いらっしゃいませ、カナタく〜〜〜ん!!
 前述の弟の好みとはかけ離れているカナタだが、彼を選んだ理由は「こいつが一番普通っぽいと思ったから」らしい。
 カナタは急速なサクリアの高まりから例外的なほど強引な手段で守護聖になった元DKである。「普通の男子高校生が望みもしないのに守護聖に選ばれ、家族や友人と引き離されてしまった」という背景を持つのだが、弟は当然、カナタの過去など全く知らずにゲームを始めた。
 カナタのことを何も知らない状態で抱いた「普通っぽい」という印象は、かなり的を射ているといえる。
 っていうか、シュリと話している時よりカナタといる時の方がなんとなく楽しそうなんですけど、ロベルト。

 そう。ロベルトは、シュリのところに通い詰めている割に、彼との恋愛イベントには一切ときめいてはいないのだ。当たり前だがキャラとの恋愛には全然興味がないからだ。
 最初は手厳しいシュリが次第にこちらに落ちてきてちょっと強引かつストレートなセリフにドキドキする〜〜!などとは思っていない。
 「気に入っているキャラであっても恋愛イベントにはときめかない」。
 『下天の華』の時にも思ったのだが、やはりこれは一般的乙女ゲーマーと大きく違う点だ。

 彼が既婚男性だからかどうかはわからないが、少なくともロベルトは「このキャラが俺に落ちてきたらどんな風になるんだろう、ワクワク」とは思っていないようだ。
 彼が守護聖のストーリーで面白いと思うポイントは、「このキャラがどんな恋愛を見せてくれるのか」ではないのだ。どちらかというと「恋愛を抜いたストーリー」を楽しんでいる。シュリのストーリーは過去話からヒロインに惹かれていくシーンがわりと甘めなので、彼にはあまり響かなかったのかもしれない。

 一方カナタだが、彼のストーリーは恋愛要素がガツンと来るよりも先に、家族や故郷との離別やカナタ自身の成長を軸に展開していくので、彼との恋愛に興味がないロベルトであっても楽しめたのかもしれない。
 残念ながら外見と言動がロベルトの好みから外れていたため今回はほとんどスルーされてしまったゼノだが、もしゼノを攻略していたら、彼は案外ゼノとのストーリーを楽しめたのではないかと思う。

 あと、見ていて思ったのだが、彼はたまに「俺だったらこうする」というようなことを言う。だが、それは「俺がこのヒロインなら」という意味ではなく「俺がこの守護聖なら」という意味なのだ。
 これについては説明がすごく難しい。守護聖に自己投影しているわけではないからだ。それも、常にこうなわけではないし、多分感覚的なものなのだが、憑依ではなく守護聖の友達ポジション的思考に近い。
 カナタを例に挙げると少しはわかりやすいかもしれない。
 カナタは17歳の男子高校生で、ヒロインは25歳のOL。それを知ったほとんどのプレイヤーは「年の差8歳の男子高校生が彼女の恋の相手か」と思っただろう。しかし、弟の場合は「年の差8歳のOLが彼の恋の相手か」というような捉え方をする。
 25歳のOLと恋愛するんじゃなくお前が25歳のOLなんだよ!という話であるし、本人もそれはわかっているのだが、やはりつい男性キャラの方に気持ちが寄るのかもしれない。
 念の為言っておくが、彼は守護聖に自己投影してアンジュやレイナを攻略したいわけではない。ごく自然に男性キャラに同調する場面があるのだ(ほんとに説明が難しい)。二次創作のネタ出ししているときならともかく、一般的乙女ゲープレイヤーが初めてこのゲームをやった時にはこういう視点は持たないと思う。
 設定上、カナタには特に共感しやすかったのかもしれない。なぜなら、彼もカナタと同様に男子高校生だった時代があるからだ。我々のような女性プレイヤーは、25歳の社会人だったことはあっても、17歳の男子高校生だったことはない。だが、弟にはその経験がある。これは我々が絶対に持ち得ない経験である。
 しかも彼の身長はカナタとほぼ同じ、体型もあんな感じで、DK時代は陸上部所属、ゲームや漫画も好きで友だちもわりと多く家族仲もそこそこ良く、きょうだいがいる。成績はともかく、体育祭でも球技大会でも特に困らず、普通に楽しく高校生活を謳歌したタイプである。
 彼は、私を含めたどんな女性プレイヤーよりもカナタの気持ちが身近に感じられ、だからこそストーリーが沁みたのではないかと思う。彼がシュリルートよりもカナタルートを楽しんだのは納得である。

 結論から言うと、一周目はシュリと最良エンディングを迎えた。むしろあれだけ押しまくったシュリ以外の誰と恋仲になるというのだ。彼は、私の見ている前で堂々とシュリからの告白を受けきってみせたのである。
 こうして女王候補ロベルトは女王の座と恋人を手にしただけではなく、レイナを女王補佐官に据えることにも成功した。おそらくこの場合、レイナの恋人はミランであろう(ロベルトとミランの親密度は20しかなかった)。結果としてみんなで幸せになれたというか「こういう二次創作っていいよね!」というような大団円を迎えたのである。
 2周目はカナタとなかなか良いところまで行ったのだが、残念ながら時間がなくてエンディングまではたどり着けなかった。
 カナタ、シュリ以外の他の守護聖たちについてだが、ほんとに「仕事以外では会っていない」としか言いようがない。彼は、他の守護聖のことは特に好きにも嫌いにもならなかったと思う。水晶玉も覗かない。むしろ守護聖よりもタイラーが好きかもしれない。
 よって他の守護聖との特筆すべきイベントは特に無い。しかし、よりによってヴァージルが、なぜか3日連続でロベルトの部屋をピンポンするという事案が起こったのはプレイ中の良き思い出といえる。
 また、ゲーム画面を覗き込んだ妹(我々は3人きょうだいなのだ)が「この黒い子(多分ノア)のところに行ってよ」とリクしたにも関わらず、「駄目だ。今日はロレのところに行く日だ」と断っていたのだが、ロレンツォのことを「ロレ」って略す人、あんまり見たことないなと思った。

 恋愛シーンに興味がなくても、大陸の育成自体は面白かったようだし、特にポットラックパーティーは楽しかったようだ。彼の人生で、これまでにサイラスがお題で挙げたようなシチュエーションの多くに遭遇したことがないからだろう。これまで起こしたどの恋愛イベントの選択肢よりも真剣にポットラックの食べ物を選んでいた。

 ネオロマは乙女ゲーなので恋愛要素は切り離せないが、『下天の華』はそれを排除してもストーリーが面白く(それにコンパクト)、アンミナを含めたアンジェリークシリーズは恋愛要素を排除しても育成シミュレーションを楽しめることがわかった。
 彼の性格とプレイスタイルを考慮すると、シミュレーションという点では『金色のコルダ(無印)』もイケるような気がする。コンプ欲がある男なので『スイートアンジェ』のレシピ集めを楽しめたように、楽譜を集めるのではないだろうか。
 コルダをやった場合、おそらく彼の推しは月森蓮だと予想する。コルダ3なら間違いなく冥加玲士。
 どちらに転んでもヴァイオリンロマンスが起きてしまうが、彼がデフォルトのヒロイン名でプレイしないのは確実である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?