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遙かなる時空の中で7 天野五月攻略感想

※個人の感想です
※ネタバレを含みますので、ご自身の判断でお読みください
 
 遙か7攻略二人目は天野五月。
 ヒロイン天野七緒の兄だ。
 兄妹といっても、七緒は7つの時に異世界からやって来て天野家に保護された過去があるので、五月は義理の兄。その事を当時八歳の五月は知っているが、保護されるまでの記憶(異世界の生まれで、織田信長の娘で、龍神の神子だという全て)を封じられた七緒は、五月のことを血の繋がった兄だと思っている。
七緒の養い手となった天野家は『星の一族』という龍神の神子を守る一族の家系で、ほとんどが異能(予知夢を見たり占いができたりする)を持っている。
 その一族の血を継いだ五月は強い霊感を持ち、結界を張ったり式神を飛ばしたり傷を治したり(!?)という術を使う。物腰柔らかく、優しく、冗談も通じるタイプで親しみやすい。頭もいいのだが、霊障のせいで受験に失敗するなど、なんとなく不憫なところがある。
 また、彼がヒロイン七緒を守りたいという気持ちはゲーム開始時点で誰よりも強い。星の一族として、八葉として、さらには兄としての情まで加わるのだから、ヒロインに向ける激重感情は歴代八葉トップクラスだと思う。
 ただ、五月が優しいだけの男ではないということは冒頭からすぐにわかる。
 五月は七緒を出来るだけ危険から遠ざけたいと思っているので、神子であることを思い出してほしくないし、当然七緒を異世界に行かせたくもない。言葉は悪いが、異世界の民の平穏より七緒個人の身の安全を優先させそうなのが五月なのだ。
 だから七緒の記憶が戻るきっかけになりそうな異世界からの来訪者たちには七緒と接触してほしくない。たとえ怪我をしていようとも家に上げたくないのだ。七緒の身を守りたい五月は、時に七緒自身の意思すら無視して行動するし、隠し事はもちろん、堂々と嘘もつく。
 優しい顔と言動に惑わされるが、五月が相当頑固で、エゴイストでもある事がこの冒頭だけでよく分かる。

 しかし、そんな五月の妨害(妨害)にも関わらず、神子の力と記憶を取り戻した七緒は「異世界に行って向こうの人々を救いたい」と自分の使命に目覚める。
 七緒が一歩も譲らない上、向こうの穢れがこちらにも影響を及ぼしているのは確かなので、五月は「仕方なしに」としか言いようがない顔で七緒たちとともに異世界へ。
 だが、怨霊があふれる異世界の状況に心を痛めつつも、五月はやっぱり「民が気の毒」というよりは「とっとと終わらせてさっさと七緒をここから遠ざけたい!」という気持ちが強いようにみえる。
 これは一見七緒の安全ためのように見えるが(もちろんそういう気持ちもあるのだが)、基本的には全て「自分がそうしてほしいから」という、五月の利己心から来ている行動だ。そしてそのエゴを五月は自分でもわかっている。

 さて、日本史に詳しく、この時代の入り組んだ人間関係や利害関係も理解していて、星の一族と神子についても既知、さらに陰陽の技も使える五月に色々解説してもらいながら、七緒は龍脈を正してこの世界の気を整えるためにあちこち回っては怨霊の浄化を繰り返す。
 こちらの世界は、呪詛や地上に蔓延る負の感情で龍脈が穢されると怨霊が湧くシステムなのだが、一度湧いた怨霊を封印して浄化できるのは七緒のみ。
 だが行く先々で怨霊は湧いてくるし、もうキリがないから日本中を一発で浄化しようぜということになり、七緒たちは富士登山に至る。

 共通ルートの旅の初期、五月と七緒はほんとに仲のいい兄妹そのものだ。遠慮なく物を言い合って、幼い頃の思い出に笑って、血は繋がっていなくても互いを家族として思い合っていることがわかる。
 とはいえ二人の間の空気は、あくまで兄妹としての親しさなので、ここから本当にこいつらは恋に落ちるのか?と疑問に思いながら進めることに。

 この『兄妹』の関係が変わるきっかけになるのが五月の双子の兄『三鶴』の存在と、七緒の実兄『信忠(の怨霊)』だ。
 特に三鶴。
 この旅の間に、五月には実は三鶴という双子の兄がいたこと、その兄は七緒と入れ替わる形で異世界に繋がる龍穴に消えてしまったこと、その兄の手がかりを五月が密かに探していることが判明する。
 何かに付けて自分より優秀だった三鶴に、五月は幼い頃からコンプレックスと憧れが混じった複雑な感情を抱いている。しかも三鶴が龍穴に消えたのは五月をかばってのこと。その負い目もあり、五月は「消えたのが優秀な三鶴じゃなく自分だったら良かったんじゃないか」と思って生きてきたのだ。五月がやたらと卑屈なのはそれが一因である。
 「消えたのが三鶴じゃなくて自分だったら良かったんだ」という言葉は、本来なら三鶴が消えたその時に発せられるはずであり、それに対して両親が「そんなことないよ」と繰り返し言ってくれるはずだ。だが、『星の一族』である天野家の特殊な環境はそれを許さなかったのではないかと思う。三鶴の行方不明には七緒の登場が関わっているので、家庭内でその事を大っぴらに話すことは出来なかったのだと思う。普通の家庭であれば、大事な我が子が急に消えてしまったら、親はどうにかして取り戻そうとするだろうし、その話題が家庭内で一切出ないなどということはあり得ない。 正直、親にとっては見ず知らずの女児と、消えてしまった我が子の行方とでは重要度が比べ物にならないと思うのだ。小学二年生くらいの息子が、どんな場所かもわからぬ異世界で運良く生き延びている可能性のほうが低い。親なら死ぬほど心配するだろう。
 だが五月の両親は、七緒の記憶が戻らないように、実子の消失について話さないことを徹底した(夫婦で話し合いはしただろうが)。とにかくなにがなんでも神子を守るという、星の一族の血のなせる業だとしか言いようがないが、両親は息子(三鶴)の喪失を嘆くより先に七緒を優先するかのような行動をとっているのだ。
 七緒の記憶を封じ、五月には「この子はお前の妹だ」と言い聞かせる。さらに星の一族と龍神の神子の話をして、五月を七緒の兄兼見守り役に据える。
 この状態では、五月が両親に「三鶴より俺がいなくなったほうが良かったのでは?」などという問いを発して、心ゆくまで慰めてもらうことは出来なかったのでないかと思う。両親はこの地に逃れてきた龍神の神子のケアに全力を注ぐあまり、眼の前で兄を失った幼い五月のメンタルケアを怠ったように私には見えた。
 その結果五月は、何でもできるわりに謙虚というか自信がないというか、「三鶴に比べたら自分なんて……」と、思い出の中の兄と自分とを永遠に比べ、「俺には無理だよ」と何事も諦めるのが早い男になった。
 しかし「もし三鶴がここにいたら、八葉になったのは三鶴だろうし、俺は代打」と抜かす五月に七緒は「二度とそんな事言うな」と一喝。あなたが兄でよかったと言われた五月は、たぶん三鶴が消えて以来初めて「俺はここにいて良かったんだ」と思えたんじゃないだろうか。
 何度も言うが、このイベントで七緒が五月にかけた言葉は全て、普通なら両親がかけるべき言葉だ。だが、前述のような事情があったため、今に至るまで五月はそれを言ってもらえないまま成長したのだろう。  だがこの件により、自己の存在を初めて肯定してもらった五月は物事を簡単には諦めない粘り強さを手にし、本格的に七緒に惹かれていく。

 自分と七緒に血の繋がりがないことをはじめから知っているせいか、五月からは『家族』に恋してしまったという葛藤も戸惑いも全く感じない。元々、向こうでも少しは七緒にドキッとした瞬間があったのかもしれない。

 そして、五月が七緒に惹かれ出したあたりで、武蔵ルートで私が不思議に思っていた「神子であるはずの七緒はなぜ白龍を呼べないのか。なぜ黒龍の神子の技である招霊を使えるのか」という部分のヒントが出てくる。
 喉が異様に乾く七緒の様子を見たあやめが、龍になった娘の民話に照らすシーンである。「とある地方の伝承では、娘が願いを叶えるためにお告げのあった泉の水を飲むが、飲んでも飲んでも喉が乾き、それを飲み続けたところやがて龍になった」という話だ(このあたりで勘のいいプレイヤーは「七緒ってもしや…」と思ったのではないだろうか)。

 七緒の正体が明かされつつある中、天野兄妹の間では互いへの気持ちが少しずつ変化していく。五月は前述したように三鶴の話以降、そして七緒は、実兄の信忠(の怨霊)を封印した夜以降、急激に五月を男として意識しだす。
 信忠と五月。はからずも同じ『兄』が自分の前に並んだことで、七緒は信忠に向ける気持ちと、五月に向ける気持ちが自分の中で違うことに気づいたのかもしれない。
 しかし、水筒の回し飲みを恥ずかしがったりはするが、七緒はまだ「あれ?なんか調子狂うな。なんでだろ」と思っている段階だ。一方、五月は「お兄ちゃんじゃなく名前で呼んで」とか言っているあたり、七緒をもう妹としては見ていない。
 そんな状態で五月との個別ルートが始まるのだ。

 富士で日本全土の龍脈を正したはずなのに、再び怨霊が湧いているとの知らせを受け、七緒たちは佐和山城に向かうことに。佐和山にはこれから起こる関ヶ原の主役の一人、石田三成がいる。
 行ってみると三成は不在だったが、池には小さな白龍がいた。幼い龍神が七緒のことを「神子」ではなく「あねさま」と呼ぶのを聞いた五月は険しい顔。
 富士登山の前後から見始めた夢が現実味を帯びてきたからだ。
 星の一族の力は神子の力と呼応するので、五行の力が整い七緒の力が強まれば、五月の力も強まる道理だ。
 歴代の星の一族がそうだったように、霊力が強くなった五月もまた、夢で未来を視るようになる。
 五月はその夢と、七緒の様子、佐和山城の池にいた小さな龍の様子を考えて、七緒が神子ではなく白龍そのものだと気づく。
 五月が視た未来とは『白龍に戻った七緒が天に還ってしまうこと』である。今は何らかの事情で人の姿になっている七緒だが、本性が龍神なら、なにかのきっかけで龍に戻って天に還ってしまうに違いない。七緒が龍神だと確信するに従って、五月は夢が近く現実になるのではと恐れる。そして、絶対に七緒を龍に戻したくない、天に還らせてなるものかという気持ちが、五月を極端な行動に走らせる。
 五月は、天女の羽衣を隠すことにためらいがないタイプの男。すでに七緒への気持ちを自覚しているので、七緒が龍に戻り、天に還るのは絶対に嫌なのだ。
 そこで五月が取った行動は「七緒に浄化の力を使わせないこと」。浄化の力は龍神の力だ。歴代の白龍の神子はその力を白龍から借り受ける形で使っていたのかもしれない。その力を使えば使うほど、七緒が龍神としての自分を取り戻してしまうと五月は考える。
 しかし、七緒が浄化しないことには怨霊はいなくならない。七緒の本性が龍神なら、神子以上に「龍脈を正す」という使命に燃えるのは当たり前だ。歴代神子たちと比べても七緒は、とにかく「私がやらなきゃ!」「もっと浄化しなきゃ!」「私が救わなきゃ!」というがむしゃらな部分が目立つ。使命に盲目的ですらあるのが不思議だなと思っていたのだが、彼女が龍神と聞いて納得である。
 七緒は怨霊を浄化したい。穢れを祓って、苦しむ人々を救いたいし、その力が自分にしか無いこともわかっている。
 しかし、五月はその力を使わせたくない。その理由を知らない七緒は五月に反発するが、それに対して五月は七緒を結界に閉じ込めて外に出さないという方法を取る。
 おいおいおいおい。
 冒頭からうすうす気づいてはいたけどすごいぞ、この人。
 しかし、七緒の力は五月の想定を上回り、結界越しでも浄化の力を外に届けてしまうほどになっている。
 これはいよいよ龍神になってしまう、と焦った五月の行動はさらにエスカレート。七緒を騙す形で龍穴を通り令和の世に戻ると、そこに置き去りにして外から龍穴を塞ぎ、七緒を閉じ込め異世界に戻ってこれないようにする。
 五月、貴様という男は。
 まさか自ルートでヒロインを2回も監禁してのけるとは。
 理由も知らされずに置いていかれた七緒だが、龍穴などものともせずに異世界に戻る。遙か3では、まだ子どもの白龍(おそらく七緒の前の白龍)がしびれを切らして神子を迎えに日本にやってきているので、七緒が龍神ならそれができるのも納得である。逆鱗も持っている。
 だが、この時点でも七緒はまだ自分が人間ではないとは気づいていない。五月が秘密にしているからだ。五月の良くないところは、当事者の七緒をとにかく蚊帳の外に置こうとすることだと思う。
 七緒はもっと怒っていい。

 さて、七緒が戻ってくると異世界の情勢は緊迫している。自宅で過ごした一晩のうちに、異世界では時間が流れていて、もう関ヶ原決戦の前哨戦が始まっている。五月はというと、西軍の軍配者として織田秀信の元にいた。
 史実通りであれば岐阜城は落城するのだが、五月の奮戦により落城を免れている。令和の関ヶ原関連書籍を読み込んでいる五月には東軍の動きが前もって分かるのだから、それも当たり前だ。
 しかしそうやって未来を捻じ曲げることを嫌がっていたはずの五月がなぜ戦に介入しているのか。
 答えは簡単だ。何度も言うように五月の動機のほとんどは『七緒』だからだ。五月が冷徹に軍配を振るうのは、秀信のためでも西軍のためでもない。
 五月は西軍方の佐和山に小さな白龍がいることを知っている。彼は七緒の次の代の白龍である。ということはあちらの白龍にさっさと成長してもらえば、七緒はお役御免になって人に戻れる。
 ではどうしたらこの白龍を七緒の代わりにできるのか。それを探るためには佐和山(西軍の城)に出入りする必要があり、そのためには西軍の重要なポジションにいなくてはならない。だから彼は西軍の軍配者になったのだ。もし小さな白龍が東軍の城にいたら、彼は迷わず東軍の軍配者になっただろう。
 すごい。
 もし自分の正体を知った七緒が「私は白龍に戻って天に還りたい!」とか言い出しちゃったらどうするつもりだったんだろ、この人。
 と思わなくもないが、これは五月ルートなのでそうはならない。
 結局、無尽蔵に湧き出す怨霊を浄化するために七緒は力を発動。五月の夢どおり龍に戻ってしまう。人間であった頃の記憶を自分の名前ごと失くした七緒だが、五月が持たせてくれたお守りと懸命の呼びかけのお陰で自分の名と記憶を取り戻し、人の子として地上に戻ってくる。
 ここでようやく七緒も五月のことを「この人は私にとって特別なんだ」と恋を自覚、天から舞い戻った七緒を五月が抱きしめてめでたしめでたし!
 遙か1、遙か2ならこれは完全にエンディング一つ前のスチル。
 しかし五月ルートはまだ終わらない。

 というか、ここまでで相当長い。
 一体ここまで読んでくれた奴がどれだけいるのか。

 七緒は人に戻れたし、五月と想いも通じ合った。
 だが、関ヶ原はまだ終わっておらず怨霊もうじゃうじゃいる。五月は小牧山で七緒の招霊の力(本来は黒龍の神子の力)で、怨霊を一箇所に集めて一気に殲滅しようという作戦に出る。
 その戦い中、同じく小牧山にいた石田三成が助太刀に現れる。佐和山に出入りしていたわりに、五月はそれまで三成と顔を合わせる機会がなかったのだが、三成の顔を見たとたんに五月はそれが生き別れた双子の兄だと気づく。
 ただし、二つの世界の時の流れは同じではないので、兄の三鶴は五月よりもかなり歳上になっているし、二卵性なのでそっくりという感じはしない。
 三成と協力して怨霊は浄化したものの、その後、小早川の裏切りで西軍は敗北。三成は捕縛される。
 敗軍の将である三成がこの後どうなるのかは、五月でなくともわかる。実兄を見殺しに出来ない五月は七緒とともに三成奪還に向かう。
 七緒の龍の力で三鶴を奪還した二人は元の世界に戻り、そのまま三鶴を匿うことに。佐和山城の平島が怨霊騒ぎの黒幕だと知り、それを止めるために七緒と五月は異世界に戻って平島と対決することになる。

 武蔵ルートと同じく、平島は豊臣でもなく徳川でもなく足利を再興しようとして怨霊を使っているのだが、今回は手元に白龍がいるのでさらに危険。平島は、西軍も東軍も全部この世からなくしてまっさらにするという「進撃の巨人」地ならし方式で、足利を再興しようとしているのだ。
 当然そんなやつを野放しにはできないので、七緒と八葉はみんなで平島を倒し怨霊を一掃。敗れた平島は全ての責任を取って、三成こと三鶴の代わりに東軍に捕縛されることを選ぶ。
 三鶴はといえば、世話になった豊臣の危機に自分だけ安穏と過ごすことを良しとせず、七緒の背中から逆鱗を拝借して、向こうに戻ってしまうのだった。
 な、七緒の背中から逆鱗を!?
 どどどどどうやって!!
 寝てるすきに七緒にそんなことしたら、隣室のセコムが黙ってないんじゃないか?
 セコムと七緒がぐっすり眠ってたとしても、さすがに背中から鱗を剥がされたら気づくのでないか?
 鱗って取っても痛くはないのか?
 本筋とは別のところで疑問符の嵐である。

 そしてラスト、元の世界に戻った五月と七緒は兄妹ではなく恋人同士として仲良く過ごしているようだ。
 五月は浪人生だったので大学に入学するとなると二人は同級生となる。イチャイチャとしか言いようのないハッピーキャンパスライフのスチルで物語は終わる。 
 武蔵ルートの後にやったせいかもしれないが、五月ルートはとにかく盛りだくさんのルートだったなあという印象だ。
 最初にこのルートをやったユーザーは、あの長い共通ルートの後で一気に色々知らされて脳の容量を使い切ってないか? 大丈夫か?

 種族の差さえも乗り越えた二人なので幸せそうで良かったなーとは思うのだが、私が二人の両親なら、海外から帰ってきて息子と娘がこの状態になってたら頭を抱える。
 最初から五月にだけではなく七緒や周りにも、天野家と七緒に血の繋がりがないこと、なくても大事な家族であることを言ってあるならともかく、「本当の兄妹だからね」と言い聞かせていた二人が、自分たちの不在の間にこの状態になってるって、親としてはどういう気持ちなんだろう。
 ご近所や同級生、氏子の皆さんにはなんて言ったんだろう。
 それとも星の一族の考え方だと、そういう感情を超越して「息子と神子(実は龍神様)が結ばれるのは良きこと」なのだろうか。
 血の繋がりがないと最初から知っていた五月はともかく、七緒の方は五月をずっと本当の兄だと思ってきたわけで、そんな相手をすぐに男として好きになれるもんなのかなとどうしても思ってしまう。
 年子の兄貴がいるプレイヤーのみなさんは、いくら普段から仲が良くても、つい最近まで血が繋がってると思ってた兄貴に星空の下でバックハグされたらときめく? 「キモーーッ!!」って、そのまま背負投げしたくならない?
 そればかりは実際に兄がいない私にはわからない感情である。
 それとも七緒みたいに本性が龍神だと、そのへんの忌避感情はあんまり無いのだろうか。

 私みたいに「でもこいつ、この前まで兄だったからな」と思ってしまう筋力の弱い乙女ゲーマーのためにも、せめて七緒を『妹』ではなく『何らかの事情で引き取ったイトコ』くらいのポジションにしてほしかった。義理でもなんでも兄と妹(普段は兄さん呼びの)が恋人になるシナリオというのは、ユーザーを選ぶと思うのだ。前半が完全に「仲良し兄妹」の域を出ないだけに、その後の急展開に戸惑う。その点イトコ(しかも義理の)なら、兄妹よりは苦手感がかなり下がる。
 もしくは七緒も最初から自分たちを『義理の兄妹』だと知っている方が良かったと思う。「親戚から引き取った娘」とか「事故にあって生き残った七緒を引き取った」とか、いくらでも話を作れるではないか。少なくともいきなり7歳の実子が増えたと言ってまわるよりは、氏子の皆さんにも不自然ではない。

 あとは三鶴だ。
 平島が三成の代わりに首を差し出したとしても、あの状態で、城代程度の地位で三成の代わりになれるとは思えない。向こうに戻ったとしても三鶴の未来が明るいわけがないのだが、華々しく登場したわりに三鶴の存在はエンディング後、「そのへんはもう置いといて」感がすごい。
 三鶴推しの方々には申し訳ないが、三鶴と生き別れのエピソードってそんなに必要だったかなと思った。

 自分がリアル高校生くらいでこのルートをやってたらまた違うのかもしれないが、上記のような『恋愛成就以外の部分』が気になりすぎてエンディングのハッピースチルに集中出来なかったというのが、正直な感想だ。
 七緒のためと言いつつ、実は利己主義を貫く五月のキャラは面白いし、シナリオ的にはドラマティックかつ盛りだくさんのルートなのだが、ストーリーのメインを張れる程のでかい設定が多すぎる。
 なにしろ、妹として接してきたはずの女の子をいつしか……とか、恋した女の子が実は龍神でしたとか、生き別れの兄が実は石田三成で……とか、どれか一つでも充分過ぎるほど強い設定が三つもあるのた。五月ルートは、仮にもラスボスである平島の足利再興など、もはやどうでも良くなるほどの過積載だ。
 特に、前述したように三鶴の話は無くても困らないと思った。それをストーリーにちょい足しするよりは、「俺の義妹が実は異世界の龍神だった件」をもうちょい丁寧にやって欲しかったと思う。
 七緒が白龍ということは、遙か3で攻略対象になっているあの白龍は代替わりしてもうこの世にはいないということ?とか、白龍の対になる黒龍はどこ行ったんだろ?とか、黒龍の神子は?とか、そもそも龍神である七緒が何で信長の娘として生まれたのか?(当時は信長の側が一番安全で力を発揮しやすかったからかな?)とかが全然わからなかったからだ。
 それとも、これから他のルートをやったらわかるのだろうか。

 最後になるが、富士登山の途中であやめが話してくれる「とある地方に伝わる話」の中の、水を飲んで龍になった娘がその後どうなったか。
 実は近くの潟に住む龍と結ばれることになる。男龍は、龍になった娘が住む湖に通い、そこで一緒に暮らすようになるのだ。
 二柱の龍神が暮らすこの湖は冬でも凍らない。
 伝承にある『龍になった娘』は、恋をしてちゃんと幸せになれたのだ。
 七緒のように。
 龍の娘が住む秋田の田沢湖は、龍神が暮らすにふさわしい日本で一番深い湖である。


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