金色のコルダAS神南 榊大地攻略感想

※個人の感想ですよ〜

AS神南攻略4人目は榊大地。
榊大地といえばイケメン、長身、医者の息子で裕福な家庭出身、医大を目指せるほど賢く、性格もいい。おそらくスポーツもできる。コルダ名物普通科所属の演奏者で、星奏に限れば一人だけ制服デザインが違うという美味しい立ち位置のキャラだ。
榊は、何不自由ない環境で育っているキャラにありがちな家族との軋轢もなく、他の男子生徒に妬まれてクラスでハブられている様子もない。また、勘違いしたストーカー女に刺された、ということもない。
欠点らしい欠点のない男、それが榊だ。
しかも彼は私たちが想像できる範囲の「持てる者」なのである。つまり、程よい。
例えば、経済力があるとはいえ、東金家のようにスケールがでかすぎて笑いが起きてしまうような金持ちではない。学力についても、凄すぎて逆に頭がおかしいというレベルではない。全てが平均よりかなり上だが、常軌を逸してはいないのが榊大地だと私は思う。
こんなに程よく何でもできて、性格の捻れがない男は乙女ゲームでめったに出会えない。これには凄腕の夢女でなくとも「いい物件だ」と飛び付きたくなる。
そんな完全無欠の榊だが、そのルートもやはり完全無欠かと言われたらそうは思わない。
ここで、毎回感想を読んでくださる貴重な数人に注意喚起だ。ここから先は自己責任で閲覧をお願いしたい。私が榊というキャラを悪く言うことは無いが(実際誉めまくっている)、榊のシナリオについてはこれからごちゃごちゃ言うからだ。榊に関する事ではビタイチ否定を目にしたくない、それを目にした瞬間「個人の感想です」と注意書きがあるにも関わらず文句を言わずにはいられない方はここで退避して欲しい。

さて、榊は上記のように持てる者であり、ひねくれてもいないし家庭に問題もなく、コンプレックスもなく過去の失恋を引きずってもいないキャラなので、彼のシナリオはシリーズ通して山場が無くあっさりしている印象だ。申し訳ないが、コルダ3、4、オクターヴの全ての榊シナリオは見返さない限りどんなストーリーだったか全然思い出せない。
多分、榊というキャラでストーリーを作るのはものすごく難しいのだと思う。
ネオロマに限らず乙女ゲーの攻略対象は、家庭問題、コンプレックス、つらい過去の大体三つのうちのどれかで悩んでいたり苦しんでいたりする。そんな状態の攻略対象をヒロインが精神的に救い、それがシナリオの柱になることが多い。
しかし榊にはそれが無い。救われないといけないほど彼は弱っていないし悩んでいないからだ。
とはいえ、榊のように全てを持っているキャラには鉄板のシナリオがある。
「自分は今まで、全てを投げ出して夢中になった経験が無い」ことへの気づきや、「がむしゃらに何かに打ち込んだことがあったかな」という自問自答である。そして、夢中になれる何かを持っていてまっしぐらに努力する存在を眩しく思い始める。これが榊に限らず「持てる者」の鉄板シナリオである(個人の感想です)。

今まで努力はしてきたけどそれほどまでに真剣だった事があっただろうか、俺もそんな風に真っ直ぐに何かを成してみたい。
星奏オケ部に入った榊はそう思うようになる。
オッケー、いい流れだ。
しかし、残念ながら榊にその気持ちを与えたのはヒロイン小日向ではない。
律だ。
つまり、榊はヒロインに出会う前にすでに眩しい存在に出会い、人生観を変えられてしまっているのだ。
律よそれは本来ヒロインの役目だ、と思うのだがもちろん律は悪くない。
このように、ヒロインに出会う前に乙女ゲー鉄板シナリオを済ませてしまった榊なので、ヒロインをメインにしてそこからさらに盛り上げるストーリーを作り出すのは大変だ。だから榊ルートは大きな流れというより、毎回単発で甘いイベントを重ねていくようなイメージがあるのだと思う。

それでも構わない方も大勢いるだろうが、私は基本的にヒロインと攻略対象のストーリーを少女漫画を読むように楽しむタイプのプレイヤーなので、ストーリー上の大きな流れや「あ、彼はここでヒロインを好きになったんだな」と納得できるイベントがないとあまり印象に残らないのだ。
それまでクリアしたAS以外の榊ルートは、いつどうしてヒロインを好きになったのかよくわからなかった。
なぜなら榊は最初から優しいし、恋に落ちたとはっきり分かるようなイベントが起きないからだ。コルダ3は特にそうで、いつの間にどうして彼に惚れられたのかよくわからなかった。まさかモモ(飼い犬)に似てたからじゃないよね?と思ったほどだ。

ではASではどうだったか(前置きが長いよ)。
ASにおいても最初の方は、特に理由のない榊からの奢りが小日向を襲い、何かよくわからんまま優しくされ、律の音楽とその向き合い方に多大な影響を受けた話をされ、正直「またか…」と思いかけた。他のルート感想でも書いたが、私はヒロインからのアクションが特にないまま惚れられる展開が嫌いだ。
しかしASの榊ルートはここから意外な展開を見せる。榊の同級生で星奏オケ部の碓氷が登場するからだ。
榊と親しげで美人な碓氷の登場により、話は俄然面白くなる。小日向が碓氷を恋のライバルと見なすような選択肢も出てきて、私は榊ルート史上最高に身を乗り出した。
しかもここから榊は「神南に潜入して調べたいことがある」などと言い出すのだ。他校生が校内に入るのはまずいから、成り行きとはいえ小日向に片棒を担がせることを承知で巻き込む辺り、いつもの当たり障りない榊ルートとは違う。
お互い気に食わない仲が悪いでお馴染みの土岐に神南の制服を借りるイベントや、神南制服バージョン榊のスチルなどプレイヤーに対するサービスも満載だ。土岐と絡んでいる榊は年相応の顔を見せてくれるので、問答無用で好感度が上がる。
そこまでして神南に潜入した榊は律の怪我に碓氷が関わっている、もっと言えば彼女が下手人だと疑っており、それを確かめにきたのだ。
名探偵榊は「真実はいつも一つ!」と状況証拠と証言を手にし颯爽と帰還するが、当の律から「その件についてはもう詮索するな」と言われてしまう。
私は律ルートを先にやっており、彼が怪我で失ったものと絶望、そしてそこから立ち上がろうとする意志を目の当たりにしている。だからどうしても「ようやく気持ちの整理がついたんだから、もうそっとしといたれや」と思わずにいられなかったが、自己満足だと分かっていても榊が犯人探しと弾劾をしたい気持ちもわかる。
結局、衝動的に律を階段からつき落としたのはやはり碓氷であり、動機は「自分達のオケ部を見捨てて留学する律に絶望した」みたいなわけのわからんものだった。しかも、律が留学するというのは碓氷の勘違いであり、彼女の行動は全くの無意味。というか、律は勘違いによって将来を奪われたのか。
それに彼女も榊も「事故の真相は」などと言っているが、これは事故ではなく完全に事件である。
このストーリーはかなでが星奏に所属している正史では絶対に起きないことだ(同部から障害致傷の犯人が出たら星奏オケ部は大会どころではない)。ASだからこそ、思いきったストーリーに出来たのだと思う。
毎回、特別何にもせずに勝手に好かれて告白されている印象の榊ルートの中で、ASは格段にヒロインの活躍の場があるのも良かった。かなでがいなかったら榊は神南に潜入できないからだ。榊は榊で、律と幼馴染みポジションのかなでを可愛がりつつも、随所で彼女が本当に信頼に値するか試している風なのもいい。
ただ、勿体無いのはやはり碓氷とのやり取りだ。動機を説明されればされるほど「なるほど、わからん」となるし、そのよくわからん動機を軸に「自分と榊は似ている。律が留学すると知ったら、榊もそうするであろう」などと言われても、「??そうか??」とこちらは疑問符の迷宮をさ迷う羽目になる。文脈と碓氷の行動からして「そうする」というのは「階段から落としたくなる」という意味に取れるからだ。
碓氷の動機にこっちがついていけない。というか「自分にも碓氷と似た部分があるかも」と落ち込む榊を慰めている間にも、律が気の毒で仕方ないのである。
このルートは「碓氷と同じ穴のムジナだ」とぶつけられた榊に対して、かなでが慰めたり否定したりする流れを作りたかったのだと思うが、中心にいるのはやっぱり律なのだ。
榊ルートはやはり律からは離れられないらしい。しかしまあ、この友情に厚いところもまた榊の良さである。

碓氷の件についていまいち腑に落ちない部分もあった榊ルートではあるが、他のタイトルのシナリオより断然心に残ったし、何よりifであることを上手く使ったASならではの面白いシナリオだったと思う。
それに他校生小日向から見た榊は、同部の先輩だった榊より断然胡散臭くていい。何度も「みんなにそんな甘い言葉を言ってんのか」みたいな選択肢が出てくることからも、小日向が彼にいきなりは心を開けない事がわかって面白い。
榊にも「軽いって思われるかもしれないけど」とその自覚があることがわかる。
朗らかに会話しつつも2人の距離の縮まり方がジリジリしていて、私はASの大かながシリーズ中では一番好きだと思った。

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