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遙かなる時空の中で7 真田幸村攻略感想

※ネタバレを含みます
※個人の感想です


 いよいよ攻略八人目、ラストは真田幸村である。
 額に巻いた真田紐っぽい組紐、六文銭、赤ベースの衣装、槍。彼はいかにも『真田幸村』らしい真田幸村だ。爽やかで真っすぐで、もちろん強い。色んなゲームや漫画に出てくる『真田幸村』の良いイメージそのままの好青年といった様子。
 さらにそこに、「家族思い」「人質として育った過去」「若い時にかぶいていた」などのスパイスが加わる。幸村の持つ王道のかっこよさは、まさにセンターの風格である。
 オトメイト作品ほどではないが、ネオロマンス作品にも「ヴァイオリンロマンス」とか「首座は光の守護聖」とか「本能寺といえば織田信長」とかがあり、「センター」と認識されるキャラは存在する。遙かシリーズの場合は、幸村(と五月)のポジション『青龍』がそれに当たると思われる。パッケージイラストでは文字通りセンターにいるし、最初に七緒と出会うのも幸村だ。また、『天の青龍』は、物語全体におけるデカいネタバレを背負っている場合が多い(特に3以降)。
 私は自分が攻略するまではネタバレを一切踏みたくないタイプなので、幸村がセンターポジションにいることを考慮して攻略はラストに持ってきた。
 結果から言うと、ラストにして良かったと思う。もちろんガツンと最初に幸村を攻略してもいいだろうが、それをやったプレイヤーは大丈夫だったのだろうか。その後に平常心で他のキャラを攻略できたのかが気になるところだ。

 幸村は最初から七緒のことを大事に姫扱いしてくれるし、八葉の役目にも協力的なので、こちらとしては実に助かる。クセ強めの白虎二人の相手をした後だけになおさらだ。
 幸村は登場時からずっと変わらず優しいので、共通ルートの七緒はごく普通に彼を「かっこいい」「優しい」と思い、恋に落ちた感じがするし、幸村の方も健気に頑張る七緒に対して最初から好感を抱いていたように思う。
 恋愛面に関しての幸村は、身分とか立場とか小難しいことはあんまり考えずに自分の気持ちを素直に七緒に伝えているし、七緒の方も感じの良い若者からの素直な愛情にときめいている印象だ。
 幸村は照れ屋ではないがからかわれれば赤面するし、強引ではないのだが推しが弱いわけではない。グイグイ攻められるポテンシャルを持っているが、七緒を怯えさせるようなことはしない。しかも、七緒が褒めて欲しい時や黙ってそばにいて欲しい時などのタイミングを見誤らずに、その時の最適解を叩き出す。
 この男、やりおる。
 そりゃ七緒もときめいちゃうだろうなと思った。
 共通ルートでは、幸村が里人に慕われるほのぼのした様子、兄にからかわれて照れる兄弟間の仲の良さ、花に心を癒やされたという幸村のために七緒がネモフィラの種を渡すなど、心温まるイベントが続く。
しかし。

「しかし、これが悲劇の幕開けだったのです」

 共通ルートの最後にこのようなナレーションを勝手に挿入したくなるのが幸村の個別ルート後半である。
 共通ルートと個別ルートの前半がほのぼのしているだけに、なおさら後半の展開がキツいのだ。

 共通ルートのラスト、幸村の方はバッチリ七緒に惹かれているが七緒はいまいち恋心を自覚していない様子である。「恋愛の進展が控えめだな」と感じたのだが、よく考えたらそれは幸村ルートの前に兼続ルートをやったせいだろう。他が控えめなのではなく、兼続だけが飛ばし過ぎなのだ。

 富士山で浄化を行ったのに、また怨霊がわいたり龍脈が乱れたりするのはこれまでと同じ。攻略八人目ともなるとこちらも慣れたものだ。
 今回のラスボスはカピタンである。
 大阪では、カピタンとその仲間が魔法陣で南蛮怨霊を呼び出し人を襲わせ、程よいところでそれを退治したふりをし、自分の信奉者を増やすということを繰り返していた。庶民だけでなく、豪商やさらには大阪城の淀殿や三成にまで食い込もうとしているところを幸村と七緒が防ぐ。

 カピタンの逆恨みを恐れた幸村は、五月たちとともに七緒を連れて上田に戻ることに。
 綺麗な着物を着てスマホで写真を撮ったり、兄にからかわれたりとここでも七緒と幸村は、しばらくほのぼのと過ごすのだが、徳川による会津征伐を機に事態は一気に不穏になる。
 会津征伐は直江状に端を発したもので、関ヶ原の戦いのきっかけになったといわれる。関ヶ原で三成と家康が直接ぶつかってる間に、地方各地でも両陣営が戦っているのだが、真田の上田合戦もその一つだ。幸村は『犬伏の別れ』で袂を分った兄とここで戦い、徳川方についた兄の真意を知る。そこで兄の選択を認めはするのだが、それでも自分の『義』は譲らない。
 『義』というのは、私欲を捨て道理に従うこと、正しい道のことだ。上田に行く前に幸村は、三成から淀殿と秀頼のことを託されているので、友へ義、また、亡くなった弟への義を貫こうと思えば絶対に徳川には下れないのである。
 そして史実通り、真田は上田合戦に勝利するのだが、西軍大将の三成が敗れたため上田城を明け渡すことになる。

 ここから先の展開は言ってみれば関ヶ原の敗戦処理であるし、幸村にとって悲しいことばかりが起きる。
 石田三成は処刑、弟の墓がある寺は焼け、昌幸と幸村は九度山に蟄居。さらに、幸村は『七緒は神子ではなく、龍神そのもの』という事実を知ることになる。
 この、七緒=龍神という事実がはっきり示されるのは幸村と五月のルートのみ。力を使いすぎて龍神に戻ってしまうと、七緒はもう人間だった頃の自分のことも心を通わせた幸村のことを忘れてしまう。
 想いを通わせた女が人間じゃないだけならともかく、もう元に戻れないとなると、双方にとってかなりキツい。
 七緒だって好きな男のことを忘れたいはずはないが、龍神の使命はこの世に安寧をもたらすことで、この国を守ることだ。自分が何度倒れても、力を使いすぎたらまずいとわかっていても七緒が怨霊を封印し続けるのは、龍の本能みたいなものなのだと思う。
 五月ルートでは、七緒が龍神に戻るのをなんとしてでも防ぎたい五月が、なんとかして七緒に龍神の力を使わせないようにする。「七緒だって人間のままでいたいんだから」と、七緒を軟禁したり令和の世に置き去りにしたりするのだ(改めて考えてもすごいな君は)。
 一方、幸村はといえば最初こそ五月と同じように七緒に力を使わせたくないと考えるが、七緒の気持ちを聞いて態度を変える。「それが彼女の意志なら、それを優先させるべき」と七緒が龍神の力を使うことを肯定するのだ。たとえその結果、彼女が龍神に戻り、自分のことを忘れてしまったとしてもそれを是と考える。
 幸村は多分、龍神の力を使って乱世を鎮めることが七緒の『義』だと思ったんじゃないだろうか。義を重んじる幸村が、七緒の決意を尊重するのは当たり前なのかもしれない。
 この件(七緒に力を使わせるかどうか)について五月と幸村が意見を戦わせる場面があるのだが、どっちの気持ちも間違いではないだけに、二人の考え方の違いが面白かった。
 五月は七緒の意思に反してでも彼女に憎まれてでも、彼女に龍神の力を使わせないようにした。龍神の力を使わせてまで龍脈を正すことは、七緒一人を犠牲にするひどいやり方だと考えるからだ。
 だが、幸村は七緒がやりたい事、やらなくてはならない事を優先させようとした。龍神の力を使うことは七緒が望んでいることであり、それを邪魔してはならないと考えるからだ。
 結果、五月は人間の女の子となった七緒をこちらの世界に留まらせることに成功する。しかし幸村はといえば、五月が危惧したように人間としての七緒を失ってしまうのだ。


 この国を手に入れたい→政権に近づこうとする→八葉と七緒により失敗→まずはこの国を加護する龍神を穢して守りを弱めよう!
 というカピタン式チャートにはいまいち無理があるというか、目的(日本征服)までの遠回りが過ぎると思うのだが、ともかくカピタンが竹生島で日本を守る黒龍に人血が混じった土をぶっかけて穢していることがわかる。
 片割れである黒龍を穢されたから、白龍である七緒も弱って人の形を取り続けるのが難しくなっているのだ。ということは、カピタンを倒して黒龍をの穢れを除けばよいのだが、その過程で七緒に力を使わせたら彼女は龍に戻ってしまうかもしれない。
 そんな状況の中、幸村と七緒は結婚の約束を交わす。お互いのことが大好きだから家族になりたいというシンプルな言葉は、見ているこちらを優しい気持ちにさせる美しい告白だ。二人の願いは『想いのかけら』として結晶し、それを幸村が持つことに。

 竹生島では無事にカピタンを倒すのだが、そのあとが問題で、日本を支える心柱が崩れかけるという自体に直面する。心柱が崩れたら日本は沈む。だがその心柱を新たに作るには龍神の力が必要で、それを成すには七緒は龍神に戻らなくてはならない。そして、一度龍神に戻れば人の世のことは忘れ、人の力が及ばない神域で暮らすことになるのだ。つまりもう幸村とは一緒にいられない。
 だが、七緒は龍神の力を振るうことを即決する。迷いを見せなかったのはやはり彼女の本性が龍神だからだろう。そして、その選択をしてのける七緒のことを幸村は好きになったのだ。
 龍に戻った七緒は「きっと幸村さんのことを忘れてしまう」と怯えるのだが、幸村は笑顔である。七緒が自分のことを忘れない、一度忘れてもきっと思い出してくれると信じているからだ。『甲賀三郎と春日姫』の民話がここで生きてくる。龍になった三郎は、自分を思い続けてくれた春日姫の事をちゃんと思い出すからだ。
 そして、幸村はいずれ必ず来る再会の日の道しるべとして、『想いのかけら』を七緒に渡す。「自分はまだこちらでやることがあるが、それを終えたらあなたの元へと導いて欲しい」と言う幸村に「ずっと待っている。その時には私の名前を呼んでほしい」と七緒。
 恋仲になっても、ゲーム内で幸村はずっと彼女のことを「姫」と呼んでいるのだが、まさかそれがラストの伏線になっているとは思わなかった。「七緒」という名前は彼女が人間の娘だったことを思い出すための一つの鍵なのだが、最後の最後に名前呼びを持ってきたのが本当に素晴らしいと思う。

 ここからは関ヶ原の後の話になる。ほとんどのキャラは関ヶ原の戦い直後あたりでエンディングを迎える。八葉が解散した後もしばらく(数年)エンディングにたどり着けないのは宗矩と幸村だけだ。
 とはいえ、宗矩と幸村では関ヶ原後の展開が全く違う。勝者側の宗矩は七緒を失ったあとも順に出世し、その後で人間の娘として戻ってきた彼女と結ばれる。
 しかし敗者側の幸村は斜陽の豊臣を支え、決死の戦いに臨むのだ。「淀殿と秀頼様を守る」と三成と約束していたからだ。幸村がなすべきことは、そばに七緒がいてもいなくても変わらない。それが幸村の「義」だからだ。
 大坂城を守ろうと奮戦した幸村は、炎上する大坂城を見て絶望する。あの炎の中では淀殿と秀頼が助からないと思ったからだ。
 このあたりから、もう私の中ではずっとBGMに森田童子が流れている。

 しかし、そこに雨が降る。
 雨が炎の勢いを弱め、淀殿と秀頼に落ち延びる猶予を与えたことに気づいた幸村は、その温かな雨が龍神の慈雨だと知る。 
 この世で「義」を果たした幸村を、七緒が迎えに来てくれたのだと。そして、幸村は満足のうちに死を迎える。

 マジかよ。

 そう思ったが、どうやらマジだ。
 幸村の死後、八葉がそれぞれ彼について語るシーンがつながっていく。そして兄信之は、幸村と七緒が植えたネモフィラの前に立つ。
 そして最後。気づくと幸村はネモフィラ咲き乱れる美しい神域にいて、そこで七緒の姿を探す。そしてゲーム開始以来初めて、彼は七緒の名前を呼ぶのだ。
 その呼びかけに七緒が応え、二人は再会を果たす。そして、これからはずっと一緒だと、永遠だと、家族になるのだと抱きしめ合う。

 エンディングを見終ってしばし呆然である。
 たしかに二人は永遠に結ばれた。神域で幸せになった。でも人間としての二人の肉体はもう存在していないのだ。
 ハッピーエンドなのかバッドエンドなのかも解釈が分かれそうだが、「私、幸村推しになりそう〜〜! どんなストーリーなのか楽しみ!」と、うきうきしながらルートに飛び込んだプレイヤーの情緒がぶっ壊れたことだけはわかる。
 しかもそれをSNS上で叫びたくとも、壮大なネタバレ(七緒が龍神であり、幸村は死ぬ)を含むだけに、ダイレクトに叫ぶことは許されない。ワンクッションおかずに出来ることといえば、せいぜい「幸村ルートやばい」「幸村ルート無理」と呟くことくらいだ。
 私はゲーム発売当初のみなさんのツイートを知らないが(ネタバレを恐れてキャラ名や作品名をとにかくミュートしてたから)、おそらく、ひたち海浜公園のネモフィラをRPしてから「幸村……」と呟いた者もいただろうと思う。私もこれからどんな顔で、ひたち海浜公園ネモフィラ満開のニュースを見たらいいのかわからないし、ネモフィラ畑で涙ぐんでいるやつを見かけたら「幸村推しの方かな…」と思ってしまいそうだ。
 龍神と人間の恋、この国を守るという約定を果たす龍神の姿、敗者側から見た関ヶ原、戦国時代の美学そのものみたいな幸村というキャラ、ラストに七緒が発する「遥かな時空を越えて」というセリフでのゲームタイトルの回収。
 ハピエンなのかバドエンなのか、攻略対象が亡くなる話が良いか悪いかなどはおいといて、私は制作スタッフがこの話をなんとしてでも書きたかったんだろうなと思ったし、このストーリーを書きたくて7作目を作ったんじゃないかとすら思った。
 幸村ルートは、満を持して戦国を舞台に持ってきた遙かシリーズ第7作目にふさわしいストーリーだったと思う。せっかく遙か7を購入したのに幸村ルートをやっていない人は、もったいないので今すぐやってほしい。幸村が推しキャラかどうかなど関係ない。

 ただ、やはり幸村ルートはラストにやった方がいいと思う。というのも、ストーリーの最後の方で残りの八葉が順番に出てくるのだが、その時の五月と大和の服装で、彼らが異世界に残留するのか帰還するのかがわかってしまうし、なぜ阿国が幸村の死に様にちょっと刺々しいのかなどの小さなひっかかりが残ってしまうからだ。こういう部分は、他のキャラのルートを事前に見ているとすんなりわかる。

 遙か7真田幸村ルートは、おそらくこれから何年経とうとも、はるなな新規勢に「幸村ルートどうでした?」と尋ねられた古参が「すごくいいよ! あ、でも……いやなんでもない。すごくいいけど、いやぁ……」と言葉を濁し、目を泳がせることになるだろう。
 発売してから約15年も経つ遙か4の葛城忍人がそれを証明している。

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