夏空のモノローグ 篠原涼太攻略感想
※個人の感想です
夏空攻略5人目は後輩の篠原。
無口なタイプの読書家で、部内の冷静なツッコミ役。篠原は科学部のメンバーの中では唯一、ヒロイン葵と距離を置いているように見える。
この科学部、部長は元々フレンドリー、顧問は葵の元専任教師、木野瀬とカガハルは葵に恋心を抱いている。篠原以外の全員に葵は最初から好意を抱かれているわけだ。だからというわけじゃないだろうが、葵は篠原のそっけなさが気にかかる。他の面々と騒いでいる時はいいが、部室で篠原と二人きりになるととたんに会話に詰まってしまう。
篠原は無言で居ることが苦にならないタイプだが、葵は沈黙に耐えられないタイプらしい。
無言状態を気まずく思う葵は、静かに読書に勤しんでいる篠原にやたらと話しかけては面倒くさそうな対応をされる。相手は気まずいと思っていないのだし、本読んでんだから放っといたれやと思うのだが、葵は止まらない。
無理にでも会話するのを良かれと思うのか、単に沈黙が続くと居心地が悪いからなのか篠原に構って、結果無視されたり冷たくあしらわれたりするので、ついに軽い言い争いになる。
放っといたれや(2回目)。
その言い争いの現場に遭遇した科学部メンバーが、まあ簡単に言えば「お前ら二人が仲悪いと部の空気も悪くなるから仲直りしとけ」みたいな事を言い出して、篠原と葵を「仲良し作戦」なるもので親しくさせようとする。
他のルートでは、抜け駆けして葵と仲良くなろうとするヤツは許さんマンだったはずの木野瀬、カガハル、顧問、お前ら一体どうしたの?
とにかく、(なぜか)他のメンバーにめちゃくちゃ背中を押されて篠原と二人で放課後を過ごしたり下校を共にすることになる葵。
当たり前だがこの段階では二人にまだ恋愛感情はない。
二人は部員たちの言うとおり、律儀に一緒に下校したり放課後の時間を共にするわけだが、過ごす時間が増えたことで葵は口数の少ない篠原と一緒にいる事に慣れてくる。ポツポツとした会話も気にならなくなり、その穏やかな時間を心地よく感じ始める。
しかし、一緒にいる時間が増えた事で葵は篠原の言動に少し引っかかりを覚えるようになる。
篠原は同じタイトルの本を何度も読んでいたり、前と同じような会話を繰り返したり、前回のループで行った場所を覚えていなかったりする。
それは最初、小さな違和感に過ぎないのだが、図書館で篠原の中学時代の友人と会った事で一気に表面化する。
その友人は葵に「自分は篠原と友達ではいられなかった。あいつは一人で生きていくべき人間なんだ」と言う。
いきなり出てきて何言ってんだこいつ、訳わからん、となる葵。その後すぐに篠原がやってきてそれ以上の事は聞けなかったのだが、去り際に同級生が放った「それ(今は友達関係を解消していること)すら忘れたのか」というセリフといい、酷いことを言われても妙に納得した様子の篠原の態度といい葵が気にするには充分な条件だ。
他のルートでもそうだが、葵は気になったら尾行も辞さない女だし、篠原からは「先輩はその野次馬根性を何とかした方がいいと思いますよ」とまで言われている。
ということで、葵が篠原を注視すると、やはり前回のループと同じ会話や行動を繰り返している。
日を改めてもう一度、例の同級生と接触を図った葵は、篠原が実は若年性健忘症のような状態であることを知る。
中学時代まではそれでも「物忘れが多いな」くらいの状態だったのだが、中3で事故に遭い頭を打ったことで一気に症状が進行してしまったらしい。それまで蓄積した記憶(日常生活とかの)はあるのだが、事故後に新しく起きた出来事や人の顔(いわゆるエピソード記憶)が覚えられないのだ。
全部覚えていないなら諦めもつくのかもしれないが、覚えていられたりいられなかったり、それは篠原自身にもコントロール出来ない。印象深く大事な事だからといって忘れないというわけではないのだ。
篠原の友人は篠原がその障害を持っている事を知っていて友人関係になったのだが、事故後に進んだ病状の深刻さにはついていけなかった。何度も繰り返される同じ会話に毎回毎回「また覚えてないのか…」と、がっくりくることに耐えられず、自分との思い出を忘れてしまう篠原に苛立つが、当の篠原は忘れたことも忘れている。
そんな状態の人間とは関係を築けないと、友人は篠原から離れたらしい。友人は友人で、篠原から大事な会話を覚えてもらえない事に傷ついたのだろう。
にしても「あいつは一人で生きていくべき人間」という言い草と、初対面の葵にそう告げる無神経さに驚く。葵に忠告したいなら「あいつと深く付き合うと傷つくかもしれない」くらいにとどめておけば良かったのに、一度でも親友と呼んだ相手に対してその言い方はない。
そいつの発言のせいで、このルートの発端になる大事なシーンが台無しだ。「無意識に親友すら傷つけてしまう篠原の病気の悲しさ」よりも「友達は選んだ方がいいのでは?」みたいなイベントになってしまったのが残念である。
この時点で葵は篠原と、部でも一緒、下校中も放課後もずっと一緒に過ごしており、時にはデートのようなこともしている。このルートでは、この二人がいつ恋に落ちたのかはっきり分かるようなイベントは無く、一緒に過ごすうちにいつの間にか惹かれたんだなという感じ。
惹かれ合っただけではなく、二人はお互いに告白してなんと恋人同士になる。乙女ゲームは、エンディング直前に告白か、エンディングそのものが告白シーンになっている場合が多いのでこれは新鮮。
翌日、初めてできた彼氏にドッキドキの葵は「これからどんな顔で篠原くんに会ったらいいの?きゃー!」と思いながら部室に行くのだが、なんと篠原は告白したことも恋人になったことも忘れていた。
新しい記憶を蓄積できない篠原と深く付き合うという事はこういう事だ。ショックを受ける葵は、篠原の友人が「関係を築けない」と言っていた意味を心底思い知ることになったのだ。
しかし葵は直接篠原の口からも病気の事実を聞かされている。
病気がバレないように人から距離を取って生活している事、常に持ち歩いている手帳には日々の出来事がびっしり書き込まれている事、病気を周囲に悟られないように、手帳を読み返しては記憶があるように振る舞っていた事などを知ったのだ。さらにあと3年くらいで、篠原は今以上に病状が深刻になり、新しい出来事はほとんど記憶できなくなる事が判明する。
中学時代の諸々から、篠原は「一人で生きていくんだ」と心を決めてはいるが、やはり人との繋がりは恋しく、それ故に高校に進学したし、科学部を辞めることはできなかったとの事。
ループの間は「大事なことを忘れてしまった」という喪失感がなくなっているので、ループ中は病状が抑えられているのではないかと篠原は推測している。
それを聞いた葵は、このループ中に絶対に忘れられない思い出を篠原と一緒に作るぞ!と息巻く。篠原の手帳が落ちていたのでそれを読み(読むなよ)、篠原の苦悩を知り、ますますその思いを強めていく。
しかしここで、やはり来た、部長によるループ終了宣告。
今回は、自分がループを終わらせたくないだけでなく、彼氏の病状進行がループ中は抑えられていると聞かされている葵。
この展開では今回もまたうちの葵が荒れますよ〜!準備はいいですか〜?
と自分に言い聞かせてから、私は画面をタップした。
何度も言うが、私はこのループ終了宣言の時に葵が部長を責めるシーンが嫌いなのだ。おそらくループを終了させる側に心情が寄ってしまうため、葵の訴えに「甘えてんじゃねえ!」としか思えないからだろう。
案の定部長に食ってかかる葵だが、なんと部長は篠原の病気に気づいていたらしい。
どれだけ天才なの?!
しかも「実はループ中も病状は進行している」との事。
え?
そうなの?
なんで?
顧問の弟はループ中、病気の進行が止まってたらしいよ!
それとも記憶に関する病気だけはループ中も進行するの?
わっかんねえ〜〜!!
まあよくはわからんが、部長がそう言うなら病気は進行しているんだろうさ(私は大きく振りかぶってサジを投げた)。
ということで、ループしようがしまいが篠原の状態は悪くなるだけだ。葵は残りの7日間を篠原と共に思い切り楽しく過ごし、せめて忘れられないような思い出を作ろうとする。
ループ最後の日に葵は、篠原にもう一度告白。
篠原が忘れてしまっても自分は全部覚えている、篠原が忘れた会話は何度でも繰り返して話をする、ずっと側にいる、不幸なんかにはならない、あなたは一人じゃない、二人で生きていこう!と訴え、篠原はその気持ちを受け入れてキスする。
「この瞬間だけは忘れたくない」と篠原は言うのだが、それでも忘れてしまうかもしれないのが切ない部分だろう。
ツリーの描写は最後まで出てこず、葵と篠原が一緒にいるシーンがエンディングになっている。
重い。
死人も出てないのにこんな救いが無いエンディングはなかなか無い。
夜の海辺で切なく美しいキスシーンでロマンチックに締めてはいるが、葵が言っていることから曖昧さを抜くと要するに「一生あなたの介護しながら生きていきます」という事だ。
美しい装飾をとったら一気に現実感しかなくなったが、そういうことには間違いない。
最後にちらっと篠原が一度忘れた事を思い出すという描写があり、それが微かな希望になってはいるが、それにしても淡すぎる希望だ。
どうすんだ、これから。
いや、重い設定も救いがないエンディングも私は嫌ではないのだが、このシナリオは重い以上にツッコミどころが多い。
そもそも「一人で生きていく」と繰り返す篠原だが、君を産み育てた両親の存在は?
大学病院クラスの病気で、きちんと診察を受けてるんだからネグレクトってわけでは無いだろう。未成年だし、両親立ち会いのもとで病気の説明があったはずだ。にもかかわらず、両親の存在が希薄すぎる。お前は絶対「一人きり」ではないと言いたくなる。
それと、やはり病気についての説明がぼんやりしている。ただでさえプレイヤーにとっては難解な記憶障害を下敷きにしたルートなのだから、篠原が何を覚えていられて何を覚えていられないのか、葵がちゃんと学ぶシーンが欲しかった。
もし『博士が愛した数式(8時間しか記憶を維持出来ない博士と主人公との交流を描いた名作)』みたいにしたかったのなら、「思い出が記憶できない」などと曖昧なことを言わずに「事故以来、新しく起きた出来事を記憶できない(事が多い)」と言ってくれた方がわかり易かった。
あと、近い将来介護が必要な人間と添い遂げたいというなら、葵と篠原の間にもっとしっかりした絆を描いてほしかったと思う。
それこそ、過去に葵と篠原が運命的に出会っていたとか、切っても切れない繋がりがあったとか、これから迎えるだろう困難にこの二人なら立ち向かえるという説得力のある関係性を示してほしかったと思う。
過去を失った葵と、未来が無い篠原はよく似ている!お互いに親近感!というだけでは弱い。
他のルートなら普通に惹かれるのも自然な様子でいいが、このルートにおいては「大丈夫?!これから大変だよ?!」となる。
せめてゲーム中、葵には記憶障害について猛勉強して理解を深めて欲しかった。
そういうの無しで「ずっと一緒にいる」だけでは、さすがに覚悟が足りないのでは?と思ってしまう。
メンバー中、唯一ヒロインに塩対応の篠原のキャラは良かったのだが、将来がやたらと不安になるラストが残念。
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