夏空のモノローグ 加賀陽攻略感想

攻略二人目は加賀陽。
あまりにも「カガハル」という呼び名に慣れすぎて本名が思い出せなかったため、とりあえず名前の漢字を調べるところから始めた。

カガハルはヒロイン葵の1学年下。
「先輩、先輩」と子犬のように葵を慕う明るい男だ。だが女の子みたいな容姿ではないためか、年下キャラであっても「可愛らしいショタ」という感じはしない。
このゲームは過去の回想以外ほとんど科学部メンバーだけで完結しているため、普段のカガハルが科学部員以外とどう接しているのかは謎だが、彼はなんとなく友達が多くてコミュ力が高そうなタイプだと思う(同級生の女の子と挨拶を交わすシーンから見ても)。
少なくとも葵のように、科学部だけがホームで、そこ以外の場所では死んだ魚の目をして日々をやり過ごしているというわけではなさそうだ。
カガハルの雰囲気は金色のコルダASの水嶋新やGS3のニーナに近い。つまりきちんと葵を「先輩」と呼び、丁寧語ではあってもフレンドリーで、時々うっかりタメ語になる。これ以上態度が砕けすぎると「無礼」にカテゴライズされて好感度が下がってしまうところだが、カガハル(とAS新やニーナ)は絶妙なラインでそれを回避している。やはりチャラそうなキャラの丁寧語は、それだけでちゃんとして見えるしギャップ的な魅力も獲得できる。

ゲーム開始数分でカガハルは「先輩好きです」「可愛い」を連発してくるのだが、これはカガハルが入部してから変わらぬ習慣(習慣?)であるらしく、葵はそれを冗談だと思って聞き流している。
心の底から好きだと言っているのに、意中の相手に本気にしてもらえないのは、明るくて軽い言動のキャラあるあると言っていい。
カガハルがしょっちゅう容姿を褒めているし、木野瀬に一目惚れされるくらいだから(木野瀬ルート)、葵は公式で「美人」という設定なのだ思う。だからプレイヤーたる私も「なるほど、可愛いんだな」とは認識しているが、もしカガハルが美人という理由のみで葵を好きになったのなら乙女ゲー男子として失格だ。だから、カガハルがここまで葵を好きなのには必ず理由がある。しかも、その理由をはっきり言わないで「好き」だけを伝えているのだから、カガハルルートはそこが肝なのだろう。
そう思いながらゲームを進めた。

木野瀬ルートと同じく、ループの秘密を解き明かそうと(一人で)頑張る部長の発案に「やれやれだぜ」という態度で付き合う部員たちという構図で話は進む。
ルートに入るため出来るだけカガハルが絡んでいそうなイベントを選んでいたのだが、これが見事に同じ系統。隙あらば「先輩が好き好き」言い続けるカガハルにツッコむ他部員たち、そんなカガハルをスルーする葵、「そんなあ、本気なのにぃ!!」と大げさにがっかりするカガハルというパターンが、肝試しやラジオ放送イベントでも繰り返される。
「その流れはもういい」とカガハルルートのストーリー展開に不安を覚え始めた頃、ようやくデカいイベントが起こるのだ。

例によってぼんやり授業を受けていた葵は、うっかり居眠りをした罰として旧校舎の備品の片付けを教師に言い渡される。
しかし、きちんと片付けてもループが起きたらどうせ元通りになるだけだとわかっているので、やる気は出ない。ただ葵は基本的に真面目なので、適当とはいえ一応片付けはする。
美術室に向かったところ、葵はそこで描きかけの油絵を見つける。美しい絵に心惹かれ、次のループの時もその絵を見に美術室に行くのだが、そこで葵はその絵が前に見た時とは微妙に違っているとこに気づく。
ループの中で「7月29日」に変化を与えることができるのは、記憶を持ち越している者だけだ。そんな存在が科学部員と綿森以外にもいた事に驚く葵は、その絵の描き手を突き止めようとする。
ルートに入ってるんだから、まあそれがカガハルである事はプレイヤーにはすぐに分かるし、カガハルも葵に見つかったことで特に困った様子はない。葵は度々美術室に来て、絵に向き合うカガハルと過ごすようになる。葵はいつものおちゃらけたカガハルとは違う、真剣な顔でキャンバスに向かうカガハルに知らず知らず惹かれていくのだが、そうなるとカガハルが描いている絵のモデルが気になりだす。「これは自分の大事な人です」という照れくさそうなカガハルの言葉にモヤモヤする葵。
モヤモヤも何も、キャンバスの絵は常にゲーム画面に見えている。「どう考えてもその絵のモデルは葵だろ!」とプレイヤーの10人中15人が思ったことだろう。
もしカガハルがキュビズムに憧れていて「俺も「泣く女」みたいなすげーの描いたる!」と思って描いた絵ならともかく、ほとんど葵のキャラデザそのまんまなのだ(ぼやけてはいるものの)。ピカソとまではいかなくとも、もっと葵と似ても似つかない絵にしておくとか、そもそも絵をゲーム画面に出さないでほしかったと思う。
葵がその絵のモデルに嫉妬してしまい、カガハルへの恋心を強めたり、カガハルが執着しているその絵を破こうとしたり、そんな自分の醜さや弱さを突きつけられて落ち込んだりする流れはとてもいい。
こういうタイプのヒロインが好きかどうかはプレイヤーの好みの問題だが、葵の悩み方が人間くさくてリアルなのは、感情描写が丁寧になされるノベルゲームならではだと思う。
しかし葵がモデルに嫉妬することで起きるあれこれは、モデルが自分だと葵本人が気づいていないという前提があってこそだ。事実、葵はカガハルに教えてもらうまで気づいておらず、ネタバレされてもなお「私、こんなに綺麗じゃないよ」などと言っている。
なのに実際のその絵は「お前な…普通気づくだろ…」と脱力するほど葵と同じ顔だ。
プレイヤー側に「どう見ても葵がモデルの絵」が見えていることで、自分がその絵のモデルだと全く気づかない葵に対して「まんまお前じゃないか。なぜ気づかない」と思ってしまうのが残念だったと思う。返す返すもその絵をプレイヤーに見せたのはアカンかった。

さて、カガハルに対して恋心を自覚した葵だが、そこでなんと自分から告白しにいく。ある程度の勝算があっての行動とはいえ、これで私は葵をかなり見直した。葵はとにかくぬるま湯から出たくないタイプで、前にも後ろにも進みたくない。だから自分にとって全てが優しいループの中にいたいのだ。
しかし、好きな男にわざわざ告白しにいくなんてかなりの勇気だ。なにしろ、それをしたら関係が壊れてぬるま湯から出てしまうかもしれない。
思いは伝えられなくても今まで通り、カガハルに冗談でも(と葵は誤解している)「好き好き」言われて、「もう!いつもそうなんだから」「本気なんですって」ってキャッキャしてる方が楽しいに決まっているのだが、葵は白黒はっきりさせる道を選んだわけだ。
しかし、意を決した告白は冗談だと思われてスルーされてしまう。真剣な告白も「俺に付き合ってそんなこと言ってくれるなんて先輩は優しいなあ!」と笑顔で返されてしまい、葵は途方に暮れる。
たが、やっぱりその状態が心地良いのも事実で、宙ぶらりんながらも葵はループの中でそれなりに楽しく過ごす。
そこで、木野瀬ルート同様、唐突に部長から告げられるループ終了の知らせ。木野瀬ルートではループの終わりが嫌すぎて相当ジタバタした葵だが、今回はそれ以上にジタバタする。何しろ、カガハルはループさえなければ海外に留学して絵の勉強をするはずだったと聞かされていたからだ。あれだけ絵がうまいのだからそれも当然と思う一方、留学期間は5年間で、つまりループの終わりはカガハルとの別れに直結していると知る。そのショックもあって、最後のループまであと一週間しかないのに葵は家から出なくなり、その間科学部員には連絡もしない。
相変わらず、他のメンバーがどんなに心配するだろうとかカガハルが気にするだろうとか、全く考えていないのが葵らしい。
だが、先生や木野瀬やカガハル本人に背中を押されて葵はようやく顔を上げる。
カガハルに呼び出され、彼の過去の話として留学に至った経緯や、どれだけカガハルが葵に救われたか、葵のことが大事かを聞くことになる。
幼い頃にネグレクトに近い扱いを受けていたカガハルは、絵画コンクールで賞をとり、それがきっかけでようやく両親に目を向けてもらえるようになる。
両親を喜ばせたい一心で描き続けた絵はぐんぐん上達し、カガハルは「賞をとれる絵」なら得意中の得意という状態に。留学も決まるが、そこでカガハルは利き手を負傷し、以前のような繊細なタッチの絵が描けなくなる。その頃にはもう両親との仲も良好になっていたが、信頼している人に背を向けられる悲しみはずっと覚えている。絵に惹かれて集まってきた人たちがみんな自分から離れていくのではないかと、カガハルは怯える。だから、留学を取り消されてもなお絵にしがみついて描き続けるが、やはり以前と同じようにはいかない。
もうやめよう、これで最後にしようと思って向かった公園で、カガハルは記憶喪失前の葵に出会ったのだ。
最後と決めてスケブに描いた絵はひどい出来。やはり絵はもうやめるべきだと改めて思い、これまで描いた受賞作をその場で燃やそうとするカガハル(都市公園法や消防法違反の恐れあり)。
それを通りすがりの葵が止めるのである。といっても「あの…法律に違反してますよ」と止めたわけではなく、そんなすごい絵を燃やすなんて勿体ない、と言ってくれる。控えめながらも粘る葵に根負けしたカガハルは「そんなに言うなら好きな絵をやるから持っていけ」と言うのだが、葵が選んだのはカガハルがさっきまで描いていた絵。カガハルがド下手クソだと思った絵だ。しかし葵は「絵が描きたい気持ちが一番伝わってきて、綺麗」だと、受賞歴のある絵ではなくそのスケッチを欲しがったのだ。
その言葉でカガハルは、最初の動機はともかく自分が絵を描き続けてきたのは紛れもなく絵が好きだからだと気づく。そこからまた絵を続け、現在、再び留学話が出るほど評価されるところまできたのである。
一年前にカガハルは葵に「また絵を描いたら見せる」と約束し、葵の制服を頼りに土岐島高校を探して入学したのだ。
自分の人生を変えてくれ、救ってくれ、絵が好きだという気持ちに気づかせてくれた女の子にカガハルはずっと恋していた。だから、カガハルが葵に「好き好き」「先輩は素晴らしい」と言っているのは冗談でもなんでもないのだ。
冗談に紛らわせたのは、留学が決まった身で真剣告白して、もし上手くいってもどうせ離れてしまう。それなら冗談だと受け取られた方がいい、と思ったかららしい。冗談っぽくしていればいつか自分の気持ちも冗談になるかも、と思ったせいでもある。葵からの告白をスルーした理由は、留学で遠恋になることが決まっているから、葵を悲しませないようにとの配慮からだ。
だが、ループ終了少し前ようやく腹を割ってお互い本気の告白をし、カガハルは完成した絵を葵に渡す。ループがあるので「明日」には絵はまた元通りになってしまうのだが、葵は確かにそれを受け取る。一年前の約束は果たされたのだ。

木野瀬ルートでも書いたが、葵は「記憶喪失前の自分」が嫌いだ。前の自分と今の自分は違うものだと考えている。だから前の自分を望む人間、前の自分を覚えている人間に忌避感情を抱いている。
カガハルが好きになったのは「前の葵」であり、絵のモデルも厳密には「前の葵」である。一度木野瀬ルートを経験した身としては「これは今回も葵が荒れるぞ」と身構えた。しかし、思っていたほどではなかった。
最初こそ反発するものの、カガハルの絵に描かれた「葵」の幸せな顔を見た葵は「こんな笑顔の持ち主の延長線上に自分がいる。それは素敵な事だ」と、おそらく初めて「記憶喪失前の葵」も同じく自分なのだと認めた。それを認められたことで、葵はさらにその先に踏み出す勇気を持つ。もちろん、カガハルが今の自分を前の自分と同じように肯定してくれたからでもある。
「一年前の葵」に恋しているという点はカガハルも木野瀬も同じなのだが、カガハルは木野瀬と違って「以前の葵」の事はほとんど何も知らない。接触したのは一度だけだ。だからこそ、葵は木野瀬ルートほど「前の自分」へ悪感情を向けずに済み、前の自分に恋したカガハルに反発しなかったのかもしれない。
最終日、ループを終えて明日を迎える気持ちになったのはいいが、肝心の告白の返事はいまいちすっきりしていない。お互い好きではあるがその先のことは何も話していない状態だ。
そこで「留学が終わって戻ってくるまで5年間待ってるって言いに行け」と木野瀬が背中を押してくれる。
このルート、木野瀬が恋愛相談に駆り出されるパターンが複数回ある。
再三言うが、こっちは木野瀬ルートを先に終えた身だ。あの号泣を見ているだけに、これはまさに鬼の所業(多分このあと木野瀬は例のバス停に向かった)。
木野瀬よ申し訳ねえ。うちの葵が本当にすまねえ。
そう詫びながらカガハルの元へ。
葵は木野瀬のアドバイス通りに気持ちを伝えて、これからは遠恋だけど大丈夫!
ということで、カガハルルートは完。

いやー、ツリーとか全く関係なかった。木野瀬ルート以上に何もかもが謎のまま、謎に迫る気配すら無いカガハルルート。
木野瀬の後だけに、カガハルルートはごく普通の学園乙女ゲームという感じだった。留学による遠恋にしてもコルダの月森や王崎を見ているせいか「留学の何が問題なんだろう」とキョトンとしてしまった。
ただ、前の自分を忌避し続け最後に至ってもそこはあんまり変わらなかった木野瀬ルートの葵よりも、カガハルルートの葵の方が前の自分を受け入れて前に進もうとしている分、これから先幸せになれそうな気がする。

ところで、葵は「科学部が居心地がいいのは、前の自分を知らない人ばかりだから」みたいな事を言っているのだが、木野瀬、カガハルともにバッチリ「前の葵」を知っていた。
これで先生も篠原も「前の葵」を知っていたらどうしよう。
葵は偏見を持たずにクラスメイトとも仲良くしたほうがいいのではないかと思わずにはいられない。

そして、結局前回挙げた疑問点は何も解決されなかったのだが、普通に考えてあんな変な建物を国家が放置しておく意味がわからない。
一夜にしてできたのは謎だが、国の研究施設とか宇宙からの電波受信装置とかそんな感じなんだろうか。
とりあえず、カガハルよりは何か知ってるかもしれないし、次は年長者たる先生にいってみようかな。

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