金色のコルダAS横浜天音 天宮静攻略感想

※個人の感想ですよ

天音攻略2人目は天宮。
自分の演奏に足りない物を得るための手段として、見ず知らずの女に「恋をしよう」ともちかけることでお馴染みの天宮だが、コルダ3から一貫してその流れは変わらない。
天宮は天才的な技術を持つピアニストだが、その演奏は聴衆の心に響かない。天宮自身に感情の揺れが少ないから、感情を演奏に反映させて観客の気持ちに訴えることが出来ないのだ。
そこで手っ取り早く激情、つまり喜怒哀楽すべてを体験できる手段として、師匠のアレクセイに勧められたのが「恋をすること」。
演技力を上げたい姫川亜弓(ガラスの仮面はいいぞ)が同じことをやっていたが、亜弓さんみたいに自分で思い付いたことならともかく、「先生が言っていたから」という理由で恋をしようとするあたりに天宮の闇を感じる。
天宮は感情に乏しいという設定だが、その設定には彼の外見がすごく貢献していると思う。天宮は無印の志水をもっと大人っぽくして天パを直した、みたいな顔をしている。要するに色素の薄い綺麗な顔で、美形揃いのコルダ界でも特別感がある。
もしも、「僕(俺)と恋してみない?」と初対面でいきなり言ってくるのが天宮以外の顔をしていたらどうだろう。いくらイケメンであってもこちらは「すわ、不審者か」と身構えるのではないか。
だが、コルダ界一二を争う浮世離れした美形に、浮世離れした天音の校舎で「♪トゥインコートゥインコーリィルスタァ」と近づかれたら、不審を通り越して興味がわく。コルダ3では校舎ではなく街角で声をかけられた後に「恋をしよう」と言われたのだが、それはそれで天宮のぶっ飛びぶりが強調されていて良かった。
天宮は言ってしまえば自分の目的のために小日向を利用するつもりなのだが、事前にはっきり「僕の目的のために恋人になって」と頼んでくるので、こちらとしては「私を利用するなんてひどい」という怒りは湧かず、「こ、この人は変人や…」と思うところからスタートする。居合わせた響也の「こいつはヤベえ」という評価は的確である。

天宮ルートは人形のような男が恋をすることで人間らしい感情と自分の音楽に足りなかったものを得て、しかしそのせいで恋した人と離れなければならなくなる、というストーリーである。
コルダ3でもASでも天宮が恋をして人形から人間になるのがルートの柱だったが、ASは、3で語り尽くせなかった部分(天宮の生い立ちや性格)を補強してきたという印象だ。
小日向が星奏生徒として登場するコルダ3の方が、他校生である天宮はよりミステリアスな存在だった。だが天宮と同じ学校の生徒になれるASでは、天宮のバックグラウンドが3よりよくわかる。日常を一緒に過ごせる共通イベントが増える分ミステリアス度は下がるが、かといって天宮のイメージは損なわれていない。「美形の変人」というイメージを壊さないままキャラが補強されたように思う。
少なくとも私は、3(PS2版)の発売時点では天宮が自分の顔にイカを張り付けてくるキャラだとは思わなかったし、もんじゃをミックスさせたり闇鍋を楽しむとも思わなかった。だから当時の感想には、天宮について「決して悪くないがキャラが弱い」みたいな事を書いたと思う。だがAS以降はそこがきっちりと補完されている。
萩尾望都の漫画に出てくる吸血鬼(雰囲気で伝わって欲しい)みたいに薔薇の花びらだけ食べて生きていそうなのがコルダ3の天宮、薔薇の花びらに味噌を付けて食べていそうなのがAS以降の天宮という気がする。
こういう肉付けは、下手をするとキャラ変したようになって萎えてしまうのだが、天宮の場合はイメージを崩さずキャラを補強するのに成功している。

天宮は小日向に恋人関係(仮)を持ちかけてきた後、律儀にデートスポットに足を運んだりコンサートに招待したり、登下校に誘ったりとなかなかのやる気を見せる。恋人らしいこととは何なのかと、ちゃんと事前にググってきた感じがして好感がもてる。
事あるごとに「実験だよ」と前置きする天宮だが、恋人っぽい行動を共にしているうちに、知らず知らず小日向といる事を楽しみ始める。
ところで、私は天宮との会話では常に「今にも恋に落ちそうだ」とか「ぜひデートしよう」のような、恋愛実験に前のめりなセリフを選択していた。そしてその度、天宮に「こういう時どんな顔をすればいいのかわからないの」みたいな顔をされてきた。
しかし、招待されたコンサートで天宮に花束を渡したあたりから風向きが変わりはじめる。
今までは天宮の投げたボールに対して、10回バットを振ったら10回空振りしていた感じの小日向だが、コンサート後は10回中4回くらいは天宮をドキッとさせることが出来るようになる。
決定的になるのは天宮が風邪を引くイベントだ。電話で微かな異変に気づいた小日向が天宮の部屋に行くと、彼は熱を出していた。寝込んだ天宮の髪に小日向が触れ、天宮は小日向がそばにいることにほっとしてドキドキしている自分に気づくのだ。
この「髪に触れる」という行為への反応は、天宮が小日向に向ける気持ちのバロメーターの役割を果たしていると思う。実験開始直後は小日向の髪に触っても「完全に無」だった天宮が、惹かれ始めたあたりにはちょっとドキッとし、恋した後は小日向にやり返されてドキドキしたり楽しくなって笑い出すなど、恋人らしいイチャラブが展開する。
こちらとしては「あの天宮がついに…」と目頭が熱くなる。
天宮の変化は音楽にも表れ、以前は人の気持ちを動かせなかった演奏が、恋によって輝くようになる。しかし、天宮が自分に足りなかったものを手にしたことで、アレクセイが、一度は見限った天宮を再び手元に呼びたいと言い出すのだ。
元々天宮は幼い頃から「先生とピアノと僕、時々冥加」みたいな世界で生きてきた人間だ。アレクセイの存在は天宮にとって大きい。師匠であり、親のような男なのだ。尊崇しているのとはまた違うが、アレクセイは天宮にとって反発することなど思いもよらない、しても仕方ないという絶対的な壁である。アレクセイに「ここに残りなサイ」と言われればリラの家に残り、「恋が必要デス」と言われれば「確かに」と実行する。天宮は単に感情と顔だけが人形じみているわけではない。天宮は「アレクセイの」人形なのだ。
変化した天宮の演奏を聴いたアレクセイは、横浜から函館に天宮を転入させ、自分のオケに入れようと考える。それだけ天宮のピアノが素晴らしかったのだろう。
天宮は諦めと共に函館転入を受け入れる。小日向と離れることに悩みながらも、アレクセイに従うのだ。わざと小日向を遠ざけた天宮が感情を露にするセリフ「君にだけは嫌われたくない…!」にはとりあえず、いいね100回押しておきたい。
しかし函館どころか、天宮をいきなり海外に連れ出そうとするアレクセイ。御影からそれを知らされた小日向は「そんなこと聞いてねえよ!」と空港に向かい、天宮を引き止める。
天宮は小日向の気持ち応え、ついにアレクセイと決別するのだ。
「でもさー、アレクセイに反発したら、彼に忖度した音楽業界から天宮が閉め出されることになるんじゃないかと心配になるわ~~大丈夫~?」とか思っていたら、
ほんとにそうなった。
だが忖度はともかく、アレクセイ自身はその件で天宮に恨みや憎しみを抱いたわけではなさそうである。どちらかというと面白がっている感じで、上手くすれば「セイの音楽を私はステージで聴きたいデス」とまた何事もなかったかのように言い出しそうな様子だ。
アレクセイは天宮とは別の意味で人間くささがない。全てが音楽の良し悪しを基準に回っているところ、音楽のためなら何でもやりそうなところがアレクセイにはある。しかも悪意どころか、「これはあなたの音楽をより良くするために必要なことで、その祝福を受けられるあなたは特別な存在なのです」とあくまで(彼にとっての)善意、ヴェルタースオリジナル理論を展開させてくるので始末におえない。そしてそれはなんとなくリリ(音楽の妖精)を思い起こさせる。

天宮ルートは、天宮が今後アレクセイに「またセイの演奏を聴きたい」「一緒にオケがやりたい」と言わせられるようなピアニストになるだろう、と想像出来る終わり方をしている。
天宮ルートはストーリーの柱もしっかりしているし、恋愛イベントも面白い。お互いいつどうして恋に落ちたのかもよく解る。さらに小日向がヒロインらしい活躍を見せるのもいい(私は何もしないヒロインがいつの間にか惚れられている展開が嫌いだ)。
ただひとつ、コンクールで天宮の演奏を聴いたアレクセイから天宮に何らかのアクションがあったかどうか。それが最後まで気になった。
アレクセイは「セイが巣立つのを寂しく思う」というような事は言っていたが、「これからまたコンサートに出て欲しい。クラシック業界関係者にはちゃんと言っておきマス」みたいな具体的なことは言っていなかった。
正直、それがはっきりしないと、これから天宮の生きていく手段が断たれたままになるんじゃないかと不安である。
天宮が音楽以外の職業で生きていけるとは思えない。養ってくれる小日向をアパートで待ちながら、きらきら星を口ずさんで欲しくはない。
締め出されそうになっているクラシック界に天宮は、ちゃんと復帰できるんだよね?ね?どこかにそういうシナリオがあるんだよね?
と、天宮を心配する気持ちに突き動かされて、その旨をフォロワーさんに問いただしたところ、そういうシナリオは今のところ無いらしい。
だが、天宮推しフォロワーさんは「天宮は天才だから大丈夫」と天宮の今後について全く心配している様子がなかった。それはあまりにも「当然だろ?」といった佇まいであったので、私も「せやな」と胸を撫で下ろせたのだった。

あと、天宮の将来とは関係ないが個人的に天宮と冥加の関係性が好きだ。天宮にはある日突然アレクセイのお気に入りの座を冥加に奪われたという過去がある。もしかしたらその時、天宮の感情は生まれて初めて揺れたのかもしれない。だが、ハードな幼年時代を過ごした幼馴染みのわりに、2人は何かあれば「天宮らしいな」「冥加らしいね」と互いを理解していて、ドライではあるが仲は悪くない。
また天宮が恋について語るイベントで「憎しみなのか恋なのかわからなくなるほどの執着」と言ったのは、もしや小日向に対する冥加の事なのかなと思うと一層萌える天宮ルートだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?