金色のコルダオクターヴプレイ記 新ルート感想

新は女の子に対して軽くチャラく接してくるタイプだが、そういうタイプには珍しいことに目立ったギャップを持たない。
かろうじて探せるギャップは、偏差値が宮城県トップクラスの男子校(おそらく近年共学になった二高あたりがモデル)に通っていることくらいだ。
乙女ゲーの軽い系といえば、「実は」暗い過去やキツめの身内を持っていたり、「実は」女の子以外に命をかけるような対象があったり、「実は」熊野水軍の頭領だったりする。
しかし、新は3からずーっとそういうの無しでギャップに頼ることなくやってきた男だ。
新が実は理数系がめちゃくちゃ得意だとか、実は暗黒面を持っているとか、実は全部計算ずくだとかは、たまに二次創作で見かけるが公式設定には存在しない(ただし明確に否定もされていないので、実に創作しがいのあるキャラだ)。
新はひたすら明るく、軽く、感情が豊かで、自分の欲求に素直で、そしてとにかく小日向のことが大好きだ。
ギャップを持たないところは、七海とよく似ている。そして、七海や新のようにひたすら「らしさ」を貫きそれを全うすることは、我々に萌えをもたらすのである。

このルートは、新の根本的に寂しがりやで甘えたがりなところに端を発する。
オクターヴは3の直後だから、新と小日向は想いが通じていても現実に戻れば遠距離恋愛確定である。
新はそれが寂しいが、その分、小日向と同じ学校で過ごせるハルモニアの生活を満喫している様子。しかしそこからの展開が新ならではだ。
現実に戻った暁には、近々共学化する予定の至誠館に転入して欲しいと小日向を誘うのである。
な、何を言ってるんだ、君は?
しかも自分がこっちに来るならともかく、ヒロイン様に転入してこいとは…!
と私はちょっと本気でびっくりしてしまった。
まずもってこいつは、小日向がなんのために長野から横浜にまで来たのか全く考えていない。長野から横浜に来て、さらに好きな男がいるという理由で仙台に転校って、小日向の親御さんでなくとも「なんで?」となるだろう。
私も響也と土浦に完全同意である。
しかし呆れると同時に、新ならそう考えちゃうだろうなとも思った。
小日向の気持ちを考えていないというよりも、小日向のことがとにかく大好きで、「自分は◯◯したい」「◯◯して欲しい」という自分の欲求に素直すぎるのが新という男なのだ。
これは、他のシリーズに出てくる軽い系キャラには絶対に出来ないことだ。一度でも「実は有能」みたいなギャップをさらしてしまったら、こんな身も世もなくヒロインに甘えられない。というか、軽い系に限らず他のネオロマキャラに新と同じ行動は無理である。
だから、新のルートの良さは「これ、どっかで見たことあるな」とならないところだ。
こんなことを発想して、しかも口に出すコルダ男子は新くらいしかいないんだから当たり前である。そしてそれが許されるのも、憎めないのも新ならではだ。
新はネオロマの中で最高峰の愛されキャラなのだ。これは、「暗い過去」みたいなギャップなしを貫いて新というキャラを作り上げてきたルビパの功績だろう。
新は土浦に、まずは小日向がどうしたいかを考えろと至極真っ当なことを言われた後で、月日のデュエットを目にする。
私もまさかこれが月日と同時攻略ルートだとは思わなかったが、この二人は現実に戻れば仙台-横浜間どころではない遠距離恋愛である。それでも、その演奏から二人が物理的な距離をものともしない強い音楽の絆で繋がっていると知った後で、新は、相手の姿は見えるのに触れられないという試練を受ける。
遠恋を暗喩したようなこの試練は、小日向がはっきりと自分の意思を示しながらも、二人の絆を確認できたことで乗り越えられる。
新のルートは、新だけでなく小日向も一緒に悩んだり考えたりしているところがとてもいい。ベタではあるが、魔法島ならではの魔法グッズも出てくる。
そしてこのルートの一番良いところは、3のエンディングと繋がっているところだと思う。3でも新は遠距離を不安に思っていたからだ。
そこからこのオクターヴで問題に決着がついたわけだから、プレイヤーたる私としては実にスッキリした。

ただ、エンディングのスチルはプラットホームじゃない方がよかったと思う。
これは本当に超個人的な理由なのだが、私は実家に帰る際、東北新幹線を使って仙台まで行く。つまり私の脳は、仙台-大宮間往復の新幹線と乗車券+横浜までの乗車券のおおよその合計金額を即座に弾き出してしまうのだ。
高校生にはなかなか厳しい金額であり、これこそが二次創作の際に彼らを会わせるのに苦労する点である。
プラットホームでお出迎えというエンディングが、リアルな遠恋っぼくていいと思う反面、エンディングはあんまり現実(交通費)を思い出すような場所じゃない方が良かったなあとも思ったのだ。

新と小日向は、次に会うときはどっちかの地元じゃなくて、中間の福島辺りでデートしてみたらいいんじゃないだろうか。それならお互い交通費は半額でいい。
何より、新はウインドウショッピングにストレスを感じない稀有な男だし、新とならどこに行っても楽しそうだ。

最後に、ルートのシナリオとは関係ない話だが、新を演じている岸尾氏がめちゃくちゃ楽しそうだなあとすごく印象に残った。
乙女ゲーマーにあるまじきことかもしれないが、私はキャラクターの声に特別興味がなく、当然フルボイスの良さもよくわからない。セリフは読み終えたら飛ばすのが普通だし、声優さんの名前もフルネームでは答えられそうにない。
しかし、今回、新(と加地)のセリフは途中で飛ばさずにちゃんと聞いた。二人とも私の最推しではないにも関わらずである。
つまり、セリフを飛ばそうとする手を止めるほど、新のしゃべり方は良かったのだった。

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