金色のコルダオクターヴプレイ記 吉羅理事長ルート感想
このルートでまず注目すべきは理事長の外見だろう。推しかどうかに関係なく、オクターヴのキャラビジュアルが公開された時に一番反響があったのは、間違いなく三十路コンビの若返りだと思う(あと、でかくなったリリ)。
衛藤や王崎にも年齢操作があったが、10歳以上の若返りを果たした大人組のインパクトには勝てない。
爽やかイケメンと化した金やんに対して、理事長はちっさいオジマンディアスというか、ちっさい志波勝己というか、まあとにかくちっさくなっていた。
その上、見た目はDK頭脳は理事長なので、理事長の一人称「私」や「◯◯したまえ」というしゃべり方は変わっていない。それまで理事長への興味が薄かったユーザーも、これには胸がざわついたのではないだろうか。
理事長はあの外見になることで、オクターヴにおいては「ギャップ」という武器を手にしたのだ。
ただ、理事長のイベントはかなり重い。高校時代まで若返ったと聞いてある程度予想はしていたが、やはり想像通りのヘビーな展開である。何しろ私はこの時点ですでに冥加ルートをクリアしており、「今生では切れない運命の糸だが、その相手が死んだ時には切れる」みたいな話を理事長自身の口から聞かされているのだ。
運命の糸といってもそれは恋愛関係だけを指すものではなく「魂の繋がり」的な意味だ。理事長にとってのそういう相手は、亡くなった姉の美夜である。
吉羅は妖精が作った学院の創立者の直系で、物心がついた頃からファータが見えた。片方の目で妖精の世界を、もう片方では人間の世界を見ていたと言っていたから、幼い頃ならともかく思春期には戸惑っただろうし悩んだだろう。
その感情を共有できたのは、彼と同じ立場にいた姉だけだったんだろうと思う。だが、その姉は音楽に全てを捧げて亡くなった。
理事長は、音楽が嫌いだから音楽から離れたわけではなく、音楽との付き合い方を考え直さないと自分も姉と同じ運命をたどる事がわかったから離れたのだろう。
しかし、ハルモニアで得た若い身体に次第に精神が引きずられ、音楽や魔法との距離の取り方がわからなくなっていく、というのが理事長ルートの流れである。
揚げ物を食べて「胃がもたれない!」と追加で頼んでみたり、鐘楼に登って「息がきれない、身体が軽~い!」と、若さを満喫するご機嫌な理事長を最初こそ微笑ましく見ていた日野だが、段々とこれはヤバい(悪い意味で)と思い始める。ファータと、もっと言えば彼らが愛する音楽に、寝食忘れてのめり込んでいく理事長の変化に気づいたからだ。
思えばこのゲームでは、端々に「妖精ってちょっとおかしくないか?」という描写が出てくる。
妖精は怖い。というか、彼らの物の考え方が怖い。
それを証明するように理事長ルートでは、初っ端から日野が「勝手に踊り出す赤い靴」を履く羽目に。そんな物騒なものを履かせたくせに、それを笑って済ませるファータ、マジ怖い。
それまで私は、リリたちファータはちょっとワガママなとこもあるけど基本的には憎めない可愛い奴らという認識だった。しかし、オクターヴで妖精の世界に放り込まれてみると、彼らの論理はやはり人外さんのそれだと解る。
例えば理事長の姉が亡くなった時、ファータたちは下手したら「亡くなったのは気の毒だが、最後の時まで音楽と共にあったのだから、あの者はきっと幸せだったのだ~」くらいは言っていそうだ。勿論これは私の妄想にすぎないが、ありえそうなところが怖い。
上手く伝えられないのがもどかしいが、人間とファータには倫理観のずれがあり、つまりこれが人外さんの怖さである。
それを理事長はよく知っている。
何度も音楽に溺れかけながらも、なんとか自分と音楽との適正距離を思い出し、理事長は「こちら側」に戻ってくる。そして、音楽を人間らしく愛していけるように、音楽を愛することが不幸な結果にならないように、これから生徒を導いていきたい、そんな学校にしたいと経営者らしい抱負を述べる。エンディングでは、理事長室にて日野を待つ大人の理事長が出てくる。
このルートはスイートな恋愛というより、理事長が自分で色々な事に片をつけた話という感じがした。ただ、今まで攻略した中ではこの理事長ルートが一番「キャラの新たな情報、新たな一面」が出ていたと思う。
高校生の理事長が意外と大食漢だったり、背が低かったことを気にしてそうなことがわかったり(これは共通ルートだけど)、当時どんな雰囲気の高校生だったのかが伝わってくる。姉や音楽との関係についても、今までのシリーズよりもう一段階詳しく聞けた。
つまりこのルートは、日野による膝枕や肩貸しなどがありつつも、理事長の魅力をもっと知って欲しい!というテイストだったように思う。
恋愛についてだが、コルダの教師陣の乙女ゲーらしからぬわきまえぶりはいつものことだし、私はその淡白さが好きだ。ただ、せっかく一夜の夢、高校生の姿になったのだから、「現実世界なら一発で懲戒免職」くらい甘いイベントがあっても面白かったのではないかと思う。
私は寝食忘れて何かに没頭したことはないし、妖精や幽霊などが見えて苦しんだこともない。だから理事長に共感できる立場にはないと言える。だが、理事長があの旨そうなアランチーニを食べて「腹にもたれるから、こういうのは何個も食べられない年齢だ」みたいなことを言う場面では「せやな、わかる」と全力で頷いたのだった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?