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「夢職人と忘れじの黒い妖精」をおすすめしたい(ネタバレなし)

※個人の感想です。
※「ネタバレなし」と書きましたが、人によって「ネタバレ」だと思う基準は様々なので、一切の情報を入れたくない方は自己判断でどうぞ
※これは7章配信前の記事です


 「夢職人と忘れじの黒い妖精」通称「ゆめくろ」をプレイし始めた。
 私のTwitter乙女ゲーアカウントで「面白い」と好評だったこと、友人が怒涛の勢いでハマった様子を見ていたこと、たまたま流れてきたスチルに描かれたキャラがド好みだったことなどを加味して「いっちょ始めるか!」となったのだ。

 私は今メインストーリー(第六章まで。七章以降は未配信)を終えたところだが、シナリオがすごく面白かった。
 ダウンロードを迷っている方の参考になればと思い、この記事を書いている。

 ゆめくろは、ヒロインが登場キャラクターと恋愛的な意味で親しくなる、いわゆる乙女ゲーム系統のソシャゲである。
物語の舞台は、「夢」を原動力として人々が生きる世界。「夢を糧にする世界」などというと薄ぼんやりしているが、「人々の思いや意志が強い力を持つ世界」という事である。なんというか、説明すればするほどますますぼんやりするのだが、つまり「ゆめくろ」は現代日本が舞台なのではなく、ファンタジー世界の物語なのだということがわかればいい。     
 この世界では、自身の「夢」を強い意志で実現している人間は「マイスター」と呼ばれる。そしてこのマイスターたちがヒロインの相手役となる。

 乙女ゲーの要素がある以上、キャラのビジュアルは非常に大事であるが、「ゆめくろ」のキャラデザが嫌いという人はあまりいないのではないかと思う。立ち絵もスチルもとても綺麗だ。
 キャラビジュアルも性格もバラエティに富んでいて、ショタ系美少年から機械油の匂いがしそうな渋い男、果ては獣人まで幅広く取り揃えられている。
 また、私は声優に詳しくないしあんまり興味もないので重要視していないが、CVは今をときめく若手人気声優、ベテランのイケボ声優、さらには狩野英孝まで揃っており、声の魅力からキャラにハマる人もいるようだ。
 ビジュアルと声だけでなく、キャラクターの性格もすごくいい。推しじゃなくても、色んなキャラのストーリーが読みたくなるのはそれぞれが魅力的だからだろう。
またマイスターに加えて、ヒロインたちと協力関係になる黒妖精たちもたくさん登場する。これだけ多種多様な男どもが雁首揃えているのだから、好みにうるさいプレイヤーでも一人くらいは「苦しゅうない」と思えるキャラに出会えるだろう。
 ガチャで引き当てたキャラのレベルを上げたりアイテムを集めるなど条件がそろうと、彼らの過去話やヒロインとの仲が深まった状態のストーリーを読むことができる。

 そのストーリーについてだが、物語の大きな流れとしてメインストーリーがあり、そこからイベントストーリーやキャラクター個人のストーリーが枝葉のように伸びる。とりあえずメインストーリーをクリアしたら大体の流れやメインキャラについてはわかるようになっているし、メインストーリーはごく普通に進めれば、ガチャやアイテムなどは関係なしに全部読むことができる。
 前述のように、ヒロインの相手は「マイスター」と呼ばれる、何らかの分野のスペシャリストである。それは例えば、料理人だったり歌手だったり、エンジニア、医者、ディーラーだったりする。ありとあらゆるマイスターがいて、自分の専門と近いマイスター同士で組合ギルドを結成しているのだ。例えば、料理人のいるギルドにはソムリエやパティシエがいたり、歌手と舞台俳優と演出家のマイスターが同じギルドにいたりする。
 さらに、ここで活きてくるのが「ファンタジー」という設定だ。現代にもありそうなギルドに加えて、騎士のギルドや魔術魔法のギルド、冒険野郎たちのギルドなどもあるのがファンタジー世界の楽しいところである。
 同じギルド内のキャラクター同士は会話や絡みも多いので、キャラクター単体でも推せるがギルドまるごと箱推しというユーザーも多いと思う。
 ギルド同士で交流があったりもするので、恋愛を抜きにしたキャラクター同士の関係が好きだという人もいるだろう。

 ヒロインはエマ。おそらく二十代前半。
 エマはマイスターではなく、マイスターを支える「ギルドキーパー」という仕事に就いている。
 ギルドに属するマイスターたちは自身の夢を叶えるために動いているのだが、その結果として、人類全体にとっても有益な成果を上げてくる。だからこそ、この世界ではマイスターがその他大勢の民から「すげえ奴ら」だと認められているのだ。そして、マイスターの能力から得られるものが有益だからこそ、ギルドには「連盟」という後ろ盾がつく。連盟はギルドに、彼らが必要とする資金や物資などを提供する。その代わりにギルドが得た有益な成果は連盟を通して人類全体のために使われる。基本的にはだいたいそんな流れなのではないかと思う。
 そこで実際に資金を集めたり、必要な物資を調達したりする役目を担うのがギルドキーパーである。
 エマはそのギルドキーパーなので、様々なギルド(様々なマイスター)と知り合っていても不自然ではないし、良い設定だなと思う。
 エマの夢は凄腕のギルドキーパーだった祖母のようになること(ここでエマには両親がいないことが明かされる)。メインストーリーは、エマがギルドキーパーとして日々頑張っているところからスタートする。

 ある日、エマが担当していたマイスターの一人が突然暴れだすという事件が起きる。「月渡り」というギルドの助けで、その場は収まるのだが、周りを巻き込んで大きな被害を出してしまう。
 上司が言うには、実はそういう暴走事件が世界中で起きているとのこと。そして、その原因は「黒妖精」にあるらしいとわかる。
 黒妖精を使役したり、それに準じたものを使ったりして人為的に混乱を起こしている組織があること、エマにはなぜかその黒妖精を浄化したり従えたりする力があること、死んだと思われていたエマの両親が実は存命であることなどが次々に明かされる。
 エマは黒妖精による暴走を止めるため、そして事態の鍵となっているらしい自分の出生を知るために、「月渡り」のマイスターたちと旅に出る。その旅先で様々な出会いと発見がある、というのがメインストーリーのおおまかな流れである。
 エマの向かう国ごとに雰囲気がガラリと変わるし、そこで起きている問題も様々だ。読みやすくコンパクトにまとまっているにも関わらず、コンシューマーでもなかなかないほどしっかりしたシナリオで、メインストーリーだけでも充分楽しめた。黒妖精を使ってなにか企んでいる組織がエマたちの「敵」であるが、そこにも色々なドラマがあるようだし、敵とエマとの関係も魅力的で、早く続きが読みたくなる。 

 こういう乙女ゲーム系において、ヒロインはある意味男キャラ以上に大事だ。私はヒロインに自己投影しない分、彼女たちを見る目はかなり厳しい方だ。人格がはっきりしたヒロインはユーザーの好悪が分かれやすいと思うのだが、エマは有人格ヒロインのわりにクセがない。
 無邪気で素直ではあるが天然ぽややんな女ではないし、これだけイケメンに囲まれて動じないわりに人の気持ちに鈍感なわけでもない。かと言って「出てくる男はみんな抱く」という男前ヒロインというわけでもない。有能だがキツい性格ではないし、料理含めて家事もこなすがそれを主張しすぎない。とにかく絶妙なのだ。
 エマは、私がプレイしてきた有人格タイプの乙女ゲーヒロインの中で、間違いなく好きヒロイン上位3人に入る。
 なぜなのかなと考えたのだが、おそらくエマがとにかく仕事人間なのが大きいのではないかと思う。物語の中のエマには男とキャッキャするよりもずっと大事な夢がある。立派なギルドキーパーになりたいというその夢がブレないから、マイスターと親密になっても、「すわ恋愛か!」という雰囲気にならないのだ。
 エマを取り囲むマイスターたちが彼女に向ける感情も態度も優しい。しかし、キャラストを進行させて恋愛状態にならないかぎり、その態度はあくまでも大事なギルドキーパーに対するものに留まっている。そもそも男が大事な存在に向ける感情は恋愛感情だけではないだろう。友情や尊敬や信頼や応援したい気持ちなど、様々なはずだ。乙女ゲーといえども、そのあたりの感情をまるっと端折って「エマに恋してるから」にしてしまうと、折角のストーリーが安っぽくなる。出てくるキャラが男ばかりなのに、逆ハーレムっぽさやオタサーの姫っぽさがないのは、エマにもマイスターたちにも「恋」より先にまずは「自分の夢」という意識があるからではないかと思う。 

 長々説明したように、ヒロイン含めてキャラがいい、ストーリーがいい。ファンタジー世界の話なので、ヒロインたちがいくら旅しようとも「移動にかかる交通費はどっからでてきた?」みたいな、中途半端にリアルに引き戻されることもない。
 戦闘はあるがコツコツやれば勝てないことはなく、もし勝てないようならしばらくレベル上げに勤しめばいいし、それはドラクエとかと同じだろう。
 気になる点といえば、エマ以外の若い女が一切登場しないことくらいだ。モブ以外の若い女が本当に登場しない。マイスターもギルドキーパーも、男しか出てこない。いないことはないのだろうが、一切気配がないので、この世界の若い女はマジでエマだけなのではと思ってしまうほどだ。
 乙女ゲーなので気持ちはわかるが、それにしてもやりすぎな気がするので、せめてエマの上司を女にすべきだったのではないかと思う。プレイヤーはヒロインの恋愛の他、意外と女同士の友情を見るのも好きなのでエマにも女の同僚がほしいところだ。
 それ以外は、コンシューマー含めた乙女ゲーの中でもかなりの良ゲーだと思う。
 

 ただ、それでも万人に「今すぐやろうぜ!」と勧めきれないのは、これがソシャゲだからだ。ゆめくろに限ったことではないのだが、たとえ良ゲーであってもソシャゲシステムそのものが苦手な人にはやはり勧めづらいのである。
 なぜならコンシューマーならストーリーはそのソフト一本で完結している。しかし、最初に書いたようにゆめくろはまだ六章までしか出ていない。いくら続きが読みたくてもこの世に存在しないのだ。考えたくはないが、続きが出る前にサービス終了したソシャゲなどいくらでもある。だから、いくらシナリオが面白くてもキャラが良くても、完結したストーリーをまとめて読みたいというタイプの人向きではないのだ。
 また、いくら「このキャラに惚れた!」と思っても、そのキャラのカードをガチャで引けなければ彼とのストーリーは永遠に始まらない。もしレア度の高いキャラに一目惚れしてしまったら、あとはお察しであるし、同じキャラでもイベント限定カードはその時に引けないと復刻を待たなくてはならない。ましてや、「全キャラのストーリーを全部読みたい!」となると相当きついだろう。
 人気のソシャゲFGOなどは、目当てのキャラカードを一枚でも引けたら、ほぼ全てのストーリーを読むことができる。しかし、ゆめくろの場合はそのキャラに纏わる全てのストーリーは、一枚カードを引いただけでは全部は読めない。レベルをあげ、必要とするピースを揃えないといけないのだ。コツコツとマップを周回してピースを集めれば何とかなるキャラならいい。大阪城の地下をひたすら掘ることができる人なら大丈夫だろう。しかし周回ではなく、カードを重ねないとレベルが上がらないキャラもいる。キャラによってレベル上げの条件が違うのだ。レベルが上がらないとキャラのストーリーは読めない。

 まあ課金すればだいたいのことは解決できるが、それが嫌だという人もいるだろう。コンシューマーなら購入時に支払えばそれで終わりだが(追加コンテンツがあとから出たりもするが)、いくらでも追加イベントと追加カードが出てくるソシャゲの課金に終わりはないからだ。

 ただ、これらはゆめくろを勧められない理由というよりもソシャゲそのものを勧められない理由である。
 乙女ゲーが好きで、ソシャゲも楽しめるタイプの人にはぜひともゆめくろを勧めたいという気持ちにブレはない。
 なにより基本的にタダなのだから、ちょっとやってみても損にはならない。
 試しにちょっとだけ、ちょっとだけやってみてはいかがだろうか。
 沼に浸かりながら待っている。

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