ニル・アドミラリの天秤 隠由鷹攻略感想

※個人の感想です。
良いことはほとんど書いてないので、このルート全肯定したい方は自己責任でどうぞ

ニルアド、ラストは隠由鷹。
このルートはちょっと特殊で、先に攻略した尾崎ルートから分岐していく。
選択肢で尾崎にいい顔をすれば尾崎エンド、あくまでも隠に寄り添えば隠エンドになる。
といっても隠と恋愛した感じは全くない。ツグミが彼に惚れた描写もなく、隠から向けられる感情も恋とまではいかない。そうなると当たり前だがセックスもしない。
じゃあ何をやったんだよと問われたら、2回もマーマレードを作ったよ!と答える。いや、もちろんそれだけではないが、作るのに手間暇かかるマーマレードをツグミが自分のためだけに作ってくれた、という事が隠にとっては結構重要なのだ。
尾崎ルートからの分岐なので、自ら稀モノを書いて人間を焼身自殺に追い込む「炎の怪人」の正体が隠であることは動かない。だだ、尾崎ルートとでは犯罪にいたる動機が違う。
尾崎ルートでの隠は「炎はいいぞ」に加えて、自分が書いた稀モノが他人にどれほどの影響を与えられるのか知りたいとはた迷惑な事を語っていた。また、その正体が見破られかけるとその相手を躊躇いなく葬っているし、追い詰められると最後はヤケクソになってヒタキとツグミを道連れにしようとする。火事で家族を失ったという過去があっても、隠に同情心は全くわかなかった。
しかし隠ルートでは、火事で家族を失った隠が「母親は炎の中にいる、そこに自分も行きたいから炎に執着している」と描かれる。尾崎ルートでは炎に興奮していた隠だが、こちらでは炎に苦しんでいる描写が強い。火事の悪夢に苛まされる隠が寝付くまでツグミが寄り添うシーンや、隠の精神が時々子どものように不安定になるシーンが追加されている。
にしても、自分にとって都合の悪い新聞記者や百舌山に手を下しているのは間違いないので「隠さんは仕方くやってしまったんや…!彼を許したって!」とは思えない。
いくら「隠さんにも事情が…」などと言われても、隠が故意に書いた稀モノのせいで恋した人を失いかけた小瑠璃、妹を失った尾崎、夫を失った朱鷺宮にはそれで許せるものではないだろう。そもそも許していいことでもない。
隠の書いた本が自分の弟を自殺に追い込んだとわかってもなお、隠に対して同情的なツグミに私がいい加減イライラしてきたあたりで、法学部の鵜飼が非常にいい事を言って株を上げてくる。そんな大変な事情があるなら法廷でちゃんと話して法で裁いてもらえ、と。
鵜飼の言葉に「ほんそれ」と頷いたツグミは、隠の良心に賭けて話をしに行く。ツグミは隠から納得できる理由を聞かせてもらいたかったのだろうし、深く反省して自首してほしかったのだろうと思う。

尾崎ルートではここで説得に失敗、その後ヤケクソになった隠がヒタキを誘拐して、ツグミともども焼き殺そうとする。ちなみに私はバドエンでまんまと燃やされた。
だがこれは隠ルートである。
私は、きっとここで「自分を信じ抜いてくれたツグミに報いて隠が改心して自首」という流れになるんだろうと予想していた。
しかし違った。隠はヒタキを誘拐し、彼に油をぶっかけてマッチを掲げていた。しかも図書館の地下に爆薬を仕掛けて一般人の巻き添えも辞さない構え。
尾崎ルートの時よりひどい。
おいおい。誰だよこいつが改心するとか思ったやつは。
ただし、外部の建物にヒタキを監禁して警察が即座に出てきた尾崎ルートと違い、今回はフクロウ本部の地下通路でそれが起こった(あんなところで炎に巻かれて、みんなよく助かったなと思う)。
ということは、すぐには表沙汰にならない。銃を構えた朱鷺宮に援護されたツグミがもう一度隠を説得、今度は何とか隠が話を聞き入れる。
「燃やせば母のところに行けると思った。炎の中にしか帰る場所がない。そこに帰りたかった」と動機らしきものを語る隠に、ツグミが「そんなことをしては駄目、いくら燃やしても家族のところには帰れない」と真っ当なことを言い、「私があなたの帰る場所になる」と誠心誠意伝えたのだ。
ツグミに「君は赦してくれるのか?」と尋ねる隠に「ツグミより先に、まずはお前のせいで夫を失った朱鷺宮に赦しを請え」と思ったし、朱鷺宮はよくその銃を隠にぶっ放さなかったなと思った。
隠は、一緒に暮らしていた頃からヒタキとツグミの姉弟を「清らかで優しく温かいもの」の象徴のように見ていたらしい。だからこの二人は隠にとって特別なのだ。
この二人にはいつまでも清らかでいてほしいというのが隠の(勝手な)考えだ。百歩譲ってこの考えを肯定しても、だからって「清らかなまま一緒に炎の中に帰ろう」じゃねえよ、と思う。一人で密かに帰ればいいじゃないか。心中しようとすな。
だが、ツグミは自分の大事なものの中には隠も入っていること、ずっと待っている事を伝え、ラストは裁判を控えた隠以外が勢揃いする日常描写で終わる。

正直、イマイチなルートだったと思う。
一つは大団円を尾崎ルートですでに堪能している事、もう一つは私がツグミのようには隠に寄り添えなかったというのが大きい。
犯罪者である事自体は変わらないのだが、隠ルートでの彼は「過去のトラウマによって犯罪に走った悲しい人」として扱われている。
隠のための専用ルートだからそれはいいのだが、新聞記者に稀モノを送りつけた事と百舌山に読ませた事から、隠が「炎の中にいる母恋しさ」だけで一連の事件を起こしたわけじゃ無いだろ?とどうしても思う。隠の悲しい生い立ちが事件の動機になっているとするなら、証拠隠滅のために百舌山に手を下すエピソードは削るべきだったと思う。
ただ、それを無くしてしまうと、ナハティガル撲滅や、新聞社と警察とフクロウが連携する流れが消えて大団円とはならなくなってしまうので、難しいところだったのだろう。

また、このルートではツグミが隠に恋愛感情を抱いたというシーンが無い。私はどうせなら、そこをもう少しはっきり入れてほしかったと思う。隠に恋する描写や心底愛した描写が無いと、ツグミにとって隠は、ただの放っておけないお兄さん(昔馴染み)のままなのだ。だからツグミが「隠が出所してくるのをずっと待つ」と言うシーンが、いまいちピンとこなかった。
家族でもなく恋愛相手でもない、小さい頃に自分のうちに下宿していた年上男性(しかも自分の弟が彼のせいで2回も殺されかけている)のためにそこまで?とどうしても思ってしまうからだ。説得力にかける。
また、ツグミが尾崎の気持ちにはっきりNOを突きつけるシーンも無い。なんとなく告白の答えを保留しといた感じなので、ツグミは隠の出所前に尾崎の情熱に流されてそっちとくっつく可能性もある。
そうなると、出所したばかりの隠が尾崎に油をかける展開が待っていそうで怖い。
あと隠の刑が軽くなりそうなのが解せない。
その影響を分かっていながら稀モノを書いたことが犯罪にあたらないのは仕方が無い。また稀モノは犯罪の証拠にならないと何度も出てくる。
だが、フクロウ本部の地下に火を放ったことと、図書館の部分に爆弾を仕掛けたことはどう考えてもヤバい。この部分をスルーして「罪が軽くなりそうだ」と締めるのはいくらなんでも…と思った。
このゲームは、尾崎ルートで「ニル・アドミラリの天秤(完)」となって美しいエンディングを迎えているので、隠ルートが好きな人には申し訳ないが、絶対に入れなければいけないストーリーではないと思った。どうせなら尾崎ルートとは思い切り変えて、記者と百舌山に手を下す前に隠を改心させ、徐々に真人間にする話にした方が良かったのではないか。
尾崎ルートを半端にしたようなストーリーをわざわざ入れるくらいなら燕野ルート作ってくれよ、というのが正直な感想である。

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