夏空のモノローグ 綿森楓攻略感想

※個人の感想です

夏空のモノローグ、キャラ別感想もいよいよラスト。トリは綿森楓。
これは私が「ラストはやっぱり綿森でキマりやな」と思ったからではなく、攻略制限のため綿森ルートはラストと決まっているからだ。それもこちらからのアクション無しに殆ど強制的にルートに入る。ここからは襟を正して攻略せよということだろう。
それもそのはずで、5人を攻略してもツリーとループについては殆ど何もわかっていないのだ。
ツリーやループに関して、綿森ルートに入る前に判っていた事といえば、

1.ツリーは時間を操れる(タイムマシンになりえる)
2.あるタイミングで星々の微弱な電波を拾った「歌」を流すとツリーを起動させる事ができる場合がある
3.ツリー発動の際には発光現象が起きる
4.それらを発見したのは沢野井部長の父である
5.ツリーは人に忌避感情を持たせる(精神に影響を与える)
6.ツリーの発光現象に居合わせたら、科学部メンバーと同様にループ内で記憶が持ち越せるようになる
7.7月29日のループはツリーと歌の関連性、さらに葵とツリーに何らかの関係があると気づいた部長が意図的に起こしたものである

それくらいだろうか。
肝心のツリーの材質や誰がどのようにして何のために作ったのかという謎は残ったままだった。

これまで綿森は他を攻略している時にもちょいちょい出てきては、葵に対して「「また」会えたね」とか「あの時の君はこうだったね」みたいな意味深発言を繰り返している。
ループ内で同じ行動をとっていない事から、彼は科学部以外で唯一ループ中の記憶を持ち越している事がわかる。
私は遙か3を嗜んでいるので、綿森がリズ先生みたいに時間を自在に巡れるアイテムもしくはそういう特殊能力を持った人なんじゃないかなと思っていた。また、綿森が葵にのみ接触しているのは、葵がループそのものに何か関わっているせいではないかとも(沢野井ルートでそれらしいセリフが出てきたので)。
こういう部分も含めて、きっと綿森ルートでは残った謎が徐々に解かれていくんだろうなと思った。
しかし綿森ときたら、ルートに入ってすぐ「実はこのループは葵が起こしている」「一日のループの外側に実は一年のループがあり、我々はこの一年をずっと繰り返している」と喋り出したのだ。
謎の答えを焦らされるのだろうという予想に反して、ルート突入後わずか10分でいきなりループの解答編が始まった。
さらに「ツリーはもう限界でそろそろ壊れるかもしれない」などと言われる始末。
展開の早さに早くも振り落とされそうだが、とりあえず落ち着こう。誰が取り乱しているのかは知らないがとにかく落ち着いてほしい。

葵達はずっと7月29日を繰り返していた訳だが(これは沢野井が意図的に起こしたループ)、その一日ループを解消して「明日」が来た時点で、実は即座にまた一年前に戻っていたということらしい。一年ループの中では科学部メンバーもモブと同じく記憶がリセットされる。
しかも、この一年ループは人間たちが気づかないうちにもう何千回も繰り返されている。この世界の人々は何も知らないまま、同じ一年を何度も何度も生きていることになる。
綿森はそういう事を道端ですらすら説明してくれるのだが、何度も彼に会っている私達プレイヤーと違って、葵はこのループで綿森に出会うのは初めて。「いきなり出てきてなんやこいつ」みたいな対応になるのも無理はない。イケメンじゃなかったら通報しているところだ。
しかも「君が「明日」を拒んでいるから「明日」が来ない、ループの原因は君だ。君が明日を望めばループは終わる」と言われて「ですよね」と素直に受け入れられるわけがない。
記憶上は初対面の綿森にいきなり、お前がループの原因だといわれて困惑する葵だが、「明日を拒んでいる」という部分にはバッチリ心当たりがある。
綿森は何千回も繰り返した一年ループの中で、葵の心が少しずつ成長する過程を見守ってきた。葵が「明日」を受け入れられる心境になってきたと判断した綿森は、今回初めてネタバレを含む接触を試みたとのことだ。
すごい。
何がすごいって、一年を何千回、ということは数千年分ものループを繰り返さないと明日に向き合おうと思えなかった葵が凄い。

葵は自分がループの原因だとか明日を拒んでいるとか、そういう都合の悪そうな部分を端折って、綿森の事を科学部メンバーに相談する。
こうして、科学部による綿森の捜索が始まる。綿森との接触はループ解消に繋がるかもしれないので、心の底では葵はそれほど乗り気ではないのだが、部員たちの邪魔はしない。ループ解消は嫌だが、仲間はずれも嫌だし、綿森の話もやはり気になるからだ。しかも葵は、乗り気でなかったはずの綿森探しもなんだかんだで真面目にこなす。
私は葵の度を越した甘党ぶりや大食漢設定を1ミリも魅力的に感じないし可愛いとも思わないが、こんなふうに乗り気じゃない事でも生真面目に頑張ってしまう所はすごくキュートだと思っている。

結局、葵だけが綿森との接触に成功する。綿森には科学部が自分を探していることなどお見通しなのだ。
ツリーとループの真実を詳しく知りたいなら僕に付いておいでと言う綿森に対して「それは別に知らなくていい」と思いつつも「でもいつも悲しげな綿森さんの事は知りたい」と彼に付いていく葵。
お前はほんとに自分に正直だな。
そこで綿森が案内した場所はツリー研究所。沢野井ルートでお世話になった場所だが、それは私達がプレイヤーだから知っている事であり、当然葵は知らない。
いや、本当は葵も「知っている」のだが沢野井エンディングの後で一年前にループしてしまった葵はそれを「忘れてしまっている」。
綿森はこの施設のこと、私財を投じてツリーを研究した沢野井父の話をし、ツリーは人間が作り出したものだと話す。
んなわけねえだろ、ツリーは一夜にして出現したんやぞ、誰がどうやって作ったんだ?と葵。
綿森はツリーを作り出したのは自分だと答える。
お、お前か〜〜。
しかも彼は、ツリーの出現方法とか材質とか、私が疑問に思う全てへの説明を「奇跡」で済ませたのだ。

綿森は説明の過程で、量子力学だのコペンハーゲン解釈だの「ありえないと思えるような可能性を選択的に現実に収縮」だのと小難しい事を言うのだが、要は「奇跡によってツリーが出現した」という事だ。
これには葵も「お、おう…?」みたいな反応である。
ここでどうして「奇跡」などというものが出てくるのかといえば、30年前にその「奇跡」を意図的に引き起こす能力を大真面目に研究していた研究所が土岐島にあったからだ。ツリー研究所ができる前、同じ場所にあった施設がそれだ。
ツリー研究以上に国の予算が下りないような気がする研究だが、とにかくそこに研究所は存在し、「奇跡」研究所はあらゆる「奇跡」を実現させる事に成功する。奇跡を意図的に起こせる人間を手に入れたからだ。
その人間というのが綿森である。
幼い頃から実験のため薬物投与や監禁拘束を繰り返されていた綿森は、成長するにつれて研究者たちが望む以上の能力を操れるようになる。
彼は「観測者」と称しているが、要は自分が望んだ事象を好きに引き起こせるという無敵の超能力者だ。
サイコロの目から7を出したり、鍵を開けたり無線機を壊したりは朝飯前で、彼が「その可能性」を望めば人類を消し飛ばす事さえできるかもしれないらしい。些細なことから大きなことまでとにかく何でも、綿森は自分の思い通りの出来事を起こせる。
突如出現した謎のツリーは、超能力者である綿森が「明日なんて見たくねえ」と望んだために「なら、時間を操れる巨大な円筒を出しときますか」と出現したものだったのだ。
つまり、「奇跡」を自在に操れる超能力者綿森が奇跡を起こしてパパっと作り出した物体がツリーなのである。
とりあえず私が真面目にツリーの材質や構造について考えた時間を返してほしい。

しかしさすがの綿森も、時間を捻じ曲げるような「奇跡」を起こしたせいで大きな反動を受ける。
ツリーを出現させたはいいが、その時の時間の歪みにに囚われてしまい、そこから抜けられないまま30年、ツリーとともに眠ったような状態になる。
出現させた綿森の手に負えないままツリーは沈黙してしまったのだ。
もう〜!!自分で面倒を見られないならツリーなんて作るんじゃありません!
が、30年後、偶然にもツリーと(つまりそれを作った綿森と)ばっちり波長の合う葵がツリーの前にやってくる。
木野瀬との待ち合わせ場所がツリー前だったからだ。
その時の葵はうきうきしている。相思相愛の彼から告白を待つばかりという状況で、その木野瀬から呼び出されたからだ。
晴天のもと、もうすぐ彼がやってくる。幸せな気分の葵は「今日がこのまま終わらなきゃいいのにな」と思う。
そのささやかな、誰もが考えそうな願いは、偶然にも綿森の「明日が来なければいい」という願いとリンクする。綿森の願いと葵の願いは混同された上、ツリーとシンクロしてしまい、「なら今日を終わらないようにしてやんよ」とばかりにツリーがループを発動する。
そこから世界はこの一年を繰り返すようになったのだ。
ただし、超能力者の綿森でさえ持て余す時間の歪みであるから、その負荷がまともにかかった葵は一回目のループでそれまでの記憶を失った。
綿森の代わりとして、葵は自覚なくツリーを動かしていたわけだ。ツリーの発動権は綿森から葵に移ってしまったのである。
ということで、発動者たる葵が「明日」を望まない限りループは解消しないという。(29日のループも実は葵が明日を何とか受け入れたから解消したのだが、心底明日を望んだわけではないから一年ループの方は解消しなかった)
そうでなくともツリーはそろそろ限界で、壊れたらもう世界に明日は来ないらしい。
ツリーが壊れる前に、ループを終わらせるためにぜひとも「明日」を望んでほしい、自分の願いに巻き込んでしまってごめんやで、と綿森。
ほんとにな。

ツリーが壊れたら明日が来ない!バンザイ!
と葵は一瞬思うのだが、いや待て、私が明日を望まないのと同じくらい強く明日を望んでいる人たちだっているかもしれない、と思い直す。
よう気づいたな〜〜!!
これは私達がこれまで攻略してきたルートで、葵が何度も葛藤しつつ明日を迎えた経験が活きているためだ。
葵は綿森に自分から「明日を受け入れたい」と申し出る。
綿森はずっと葵のその言葉を、ループを終わらせるためのその言葉を待っていたのだった。

それでもすぱっとループを終える覚悟は出来ない葵は、自分が何に引っかかって明日を迎えたくないのか、その原因を潰していこうと考える。
まずは、今日という日を満喫し足りないのが原因なのでは?と言うことで綿森をナビにして「今日」を楽しむことに。
解決策がいきなり軽い。
案の定、綿森と一日デートしたところで「さて、じゃあこれから明日に行きますか!」とはならない(当たり前だ)。
葵が明日を望まないのは、明日が来たら科学部が無くなるからだ。ではなぜ科学部が無くなるのが嫌なのかといえば、そこは葵が唯一の居場所だと思っている場所だからだ。ではなぜそこにしか居場所がないと感じているのかといえば、母を避けているからだし科学部以外に友人がいないからだ。
そう結論した葵はその2つの問題に取り組み、母と話し合い、教室ではクラスメイトに声をかける。その結果、些細なことから始まった母とのすれ違いは解消され、葵は母と夕飯を作り「明日」からは毎日一緒にご飯を食べようねと約束する。勇気を出して話しかけたクラスメイトとは友人になれそうな気配である。葵が勇気を出したことで人間関係が動いたのだ。
幸せな気分で「明日の約束が楽しみだなあ」と思う葵だが、一晩経てばループでまた同じ日が始まってしまう。仲直りしたはずの母との約束も、友人になれそうなクラスメイトとの約束も全てリセットされてしまうのだ。
葵は初めて「明日」が来なかったことを残念に思う。そのことを綿森に伝えると、葵が望めばすぐにでもループは解消されると綿森は喜ぶ。
しかし、残念ながらこのままの記憶を保ったままで7月30日を迎えるのではなく、記憶をリセットしてから、改めて最初のループ地点に戻ることになるらしい。こうして綿森と話していることももちろん記憶には残らない。
ループを無くしたら時間の流れは正常に戻るが、どんな一年になるかは誰にもわからないし、もうやり直しは効かない。
千回以上のループの中には、葵が学校に行かずに過ごした一年もあれば、学校には行ったが科学部には入らなかった一年もある。葵はどのループでも、必ず科学部に入部して楽しくやっていたわけではないのだ。
綿森が観察した結果によれば、葵が科学部に入るのは10回に一回ほどで必ずしも高い確率ではない。
科学部に入部しない明日が来るかもしれない、それでも明日を望むか?と問われた葵は悩むが、それでも自分から明日を望むと答える。
忘れてはいても今までの一日ループ終了で芽生えた「明日」への希望が蓄積され、また今回自分が一歩踏み出したことで変わった関係を目の当たりにしたからだろう。葵は綿森の言うように少しずつ強くなり、明日を迎える準備をする。
ループ終了までの7日間、綿森も加わった科学部はみんなで楽しく過ごす。この後は、記憶を持ち越さないまま一年前に戻るわけで、そこからこの部室に全員が集合できるかは10分の1の確率だ。部員たちは、記憶がリセットされても全員がまたこの科学部に入部する事を信じて明日に乾杯する。
しかし、いよいよループ終了の時間が迫る頃、一年ループが終わると綿森の存在が消えるかもしれないという話が出てくる。
綿森がツリーとほぼ同化していること、だからこそ外部からツリーを発動できず葵の登場まで沈黙していたことは何度も語られている。「明日なんて来なければ良い」という願いから始まったループが止まるということは、その願いのためだけに出現したツリーがもう必要とされないことを意味する。ツリー≒綿森であるからして、明日は来ていい→ループが止まる→ツリーいらん≒綿森いらんということになるのだと思う、多分。
こんな土壇場でそんな事言ってうちの葵を惑わせるなよと思うが、ここで「それでもループを止める」「止めたくない」という選択肢が出る。
私はループを止めたいので必要以上にさくっと選んだのだが、「止めたくない」を選んだらもしやバッドエンドになるのだろうか。

さて、葵の決断により無事にツリーは発動して、世界は一年前に戻る。ループのない、リセット不可能な世界が始まったのだ。
一年前の葵はやはり記憶を失い一旦は心を閉ざしていたが、母と話し合ったのだろう、高校2年生の7月29日時点では関係が修復され母子の仲は良好の様子だ。
学校では同じ趣味の女友達と楽しくおしゃべりをしている。そして、科学部。
葵は科学部に入っている。他のメンバーも誰も欠けていない。みんな、科学部に入る明日を選び10分の1の確率でここに集結していたのだ。
もちろん彼らには何の記憶も残っていない。ただ時々部室でのやり取りを「前にもこんなことがあったんじゃないか」とデジャヴに襲われるくらいだ。
明日で科学部は廃部になる事が決まっている。最後にツリーを見に行こうツリーの歌を聞かせようと沢野井が言う。
そう、ここで「科学部の無い明日を望まなかった葵」はツリーと共鳴して一日ループを作り出すのだ。沢野井が「自分の研究時間捻出のために」一日ループを作ろうとするからだ。それを私達は何度も見てきた。
しかし、今回は沢野井が歌を流してもツリーは発動しない。
葵は「科学部が無くなるのはいやだけど」と言う。寂しそうだし悲しそうだ。しかし前みたいな切実さ、「科学部が無かったら生きていけない」という切羽詰まった感情はもう無い。科学部の他にも自分の居場所をちゃんと見つけたからだろう。
だから、ツリーは共鳴しない。
一日ループは起こらなかったのだ。
日付は変わり、当たり前のように7月30日がやってくる。そこにいるみんなはごく普通に明日、ではなく「今日」を迎える。
周回プレイの度に繰り返された「明日はきっといい日だ」ではなく「今日はきっといい日だ」という葵のモノローグでゲームの幕が下りる。

良かった良かった。
このルートの何が良かったかって、葵の成長と母子の和解と、女友達獲得で葵のオタサーの姫感が薄まった事だ。綿森ルートは彼との恋愛よりも、物語の真相部分に比重が置かれているので、恋愛面はあんまり印象に残っていない。
葵は明らかに綿森に惹かれていたが、綿森ルートは他のルートのようにはっきりと恋人同士になったり両想いになったりするシーンは無い。
綿森はもはや「人外」に近いキャラで、その生い立ちのせいか能力のせいか、あんまり感情が動かないタイプの男だ。こういうキャラが恋によって人間らしい感情を獲得するという流れは、鉄板で萌えるストーリーである。それだけに、シナリオに恋愛らしさが少ないのは乙女ゲームとしてちょっと勿体なかったかなと思う(硬派だとも言えるけど)。
あと、なぜ綿森は消えずに土岐島の3年生として転入しているのか気になり、ラストはそこがいまいちスッキリしなかった。
綿森はループが終わったら消えるんじゃなかったのか。
それともツリーが壊れたら消えるのか。
それに綿森も他の人間たち同様に記憶を失っているようなのだが、例のなんでもあり能力はどうなったんだろうか。
もし彼がまだ超能力を持っているのなら、戸籍とかその他諸々の疑問はすべて「奇跡」で済むのだが、それが無いとなるとどうやって?となってしまう。
それとも記憶は失っても能力は使えるのか、あるいは失った記憶は一年分(綿森にとってはループ数千回分)ってことなのか。
綿森が消えずに大団円はいいのだが、どうせならそこをきっちり教えてもらいたかったなと思う。

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