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遙かなる時空の中で7 宮本武蔵攻略感想

※個人の感想です。
※ネタバレを含みますので、未攻略の方はご自身の判断でお読み下さい。

 遙かシリーズ5年ぶりの新作、『遙かなる時空の中で7』の舞台は戦国時代末期。
 といっても時間遡行をするのではない。遙かシリーズは歴史ものではなく『日本に似た場所』が舞台になっている、いわゆる「異世界トリップもの」なのだ。
 ヒロインは現代日本から異世界に召喚され、『龍神の神子』としてその世界を救う。細かいところを省くと、これが遙かシリーズ全てに共通する流れである(ただし遙か4だけはヒロインの立ち位置が特殊)。
 神子が呼ばれるのは毎回同じ世界の同じ国なのだが、時代はナンバリングによって違う。そして今回は戦国末期。我らの日本でいえば、あと一年後に『関ヶ原の戦い』が起こる時期だ。

 今回のヒロインは天野七緒。彼女はこれまでの神子たちのように、令和の日本から時空を越えて異世界にやってくるのだが、実は本来彼女は異世界の生まれ。遙か7では、ヒロインが自分の生まれた異世界に「戻る」というパターンであり、これは遙か4以来だ。

 七緒は織田信長の娘として生まれ、『神子』として育てられてきた。しかし、本能寺焼き討ちの時にこちらの世界に逃され、神子であり信長の娘であるという記憶を失ったまま成長する。
 幼い七緒を実の娘のように育てたのが天野家の皆さんなのだが、天野家は『星の一族』という龍神の神子を守る一族の家系で、ほとんどが異能(予知夢を見たり占いができたりする)を持っている。星の一族は遙か2のあたりからすでに現代日本と異世界のどちらにも関わっているという描写がされているが、今回もそうだ。七緒の記憶を封じて普通の娘として育てることができたのも、七緒が怨霊や霊力などの不思議に対してそれほど戸惑っていないのも、『天野家』という特別な場所に保護されたからだろう。
 七緒が異世界から天野家の敷地に逃れたのはたまたまではなく、『星の一族』と『神子』という特別な繋がりゆえである。

 信長の娘である七緒(なお姫)は記憶を封じられたまますくすく育つが、その間に彼女の故郷である異世界はいよいよ混沌としてくる(あちらの世界は気が乱れると普通に怨霊が出てきて人を襲う)。そしてそれに呼応して、現代日本にも穢れの影響が出始める。七緒は神子の力と記憶を少しずつ取り戻し、迷い込んできた異世界の人間に出会ったことによってついに事態が動く、という流れである。
 異世界の穢れを鎮め、龍脈を正常に戻し、地上に流れる気を整える。それが使命であると理解した七緒は、いまだ乱世にある生まれ故郷に戻り、神子として行動し始めるのだ。
 歴代白龍の神子は、穢れに弱いと言われており、そんな神子を守るために『八葉』が選ばれる。この八葉たちが攻略対象となる。

 一周目なので前置きが長くなったが、最初に攻略したのは宮本武蔵。
 私はいつもプレイ一周目を、公式も攻略サイトもゲーム内の攻略情報も人様の感想も二次創作も出来るものはすべてミュートして、全く何も見ずに進めるので、武蔵を狙ったというよりは気づけば武蔵のルートに乗っていた感じだ。

 『宮本武蔵』といえば、いろんな媒体で取り上げられているので、なんとなく、『生き様がフリーダムでやたらと強い二刀流の髭面』というイメージを持っている人が多い気がする。だが、こちらの武蔵は素直でまっすぐな元気いっぱいの少年キャラである。
 歴史上の人物のイメージ破壊は、ネオロマに限らずゲームにおいてはよくあることだしそれが楽しみでもある。だがこの武蔵は、なんと『宮本武蔵』を形作る最大の要素『剣豪(剣の達人)』を持たないキャラなのである。達人どころか弱いのだ。これには驚いた。
 なにしろ彼は試合で一度も勝ったことがなく、他の八葉はおろかヒロインにまで負ける。これで武蔵が剣を習い始めたばかりだったり、「オレ、なかなか本気になれないんだよね」とか言うスカした野郎なら弱いのもわかる。しかし、武蔵は幼少期から剣を習っており、誰よりも練習熱心で剣が好き。なのに誰にも勝てないのだ。
 つらい。
 そして、そこに追い打ちをかけるのが武蔵の対である佐々木大和の存在だ。『宮本武蔵』といえば、ライバルは『佐々木小次郎』。なので、大和が佐々木小次郎ポジションなのだろうと思う。『佐々木小次郎』は生年も出身も姓名も不詳なので、異世界人を当てはめやすい。
 大和には天賦の剣才があり、これまで剣を持ったこともなかったのに、コツを飲み込むやいなやメキメキと上達していく。しかも彼は武蔵と違って、(少なくとも表面上は)アツくならない令和のDKだ。
 幼い頃から剣が好きで、ずっと強くなりたくて、一生懸命修行していたけど一向に強くなれない男が、つい最近剣を始めたばかりの人間にあっさり負ける。
 つらい。
 これで「クソッ」とならない人間の方がおかしい。
 だから私は「きっと武蔵はこの後、涙をこらえてなんでもないふりをするんだろうな」と思ったのだが、微妙に違った。
 武蔵はもちろん悔しくてたまらないのだが、なんと彼は「走ったらすっきりする」のだ。ヒロインからの励ましなどなくても、メシを食って寝たら元気いっぱいである。
 メンタルが強すぎる。
 幼い頃から努力し続けて全然試合に勝てなくても、それが原因で父に冷たくされても、才能の残酷さを大和にまざまざと見せつけられても、武蔵は剣術が好きなままだし、強くなりたいと思い続けている。
 その状態に慣れてしまったのかと思えばつらいが、武蔵本人には「我慢して耐えて」とか「無理して笑って」とか、そういう悲壮感が無いのだ。かといって、ただ明るいだけではない。武蔵は、自分の不甲斐なさや未熟さをちゃんと受け入れている。ただ、悔しがり方がものすごく健全というか、不甲斐なさを認めた上で「自分はこれから強くなる」と、自分自身の未来を信じているのだ。ヒロインが武蔵を励ましに行って、逆に励まされるシーンが何度かあるのはそのためだと思う。
 私だって、もし悔しがる松岡修造あたりを励ましに行ったら、逆に励まされて帰ってきそうな気がするので、七緒の気持ちは何となく分かる。
 武蔵は七緒の励ましなどなくても自力で立ち直れるのだが、かといって七緒を必要としないわけではない。七緒の笑顔に元気をもらっているときっぱり言ってくれるし、実際そうなのだろう。武蔵は嘘をつかない。
 嘘ではないとわかるから心に響くのだし、武蔵のように自力でメンタルを立て直せる男に「あなたがいてくれると力が湧いてくる」と、笑顔全開で言われて嬉しくないわけがない。ものすごく頑張ってる男に「姫様は頑張っててすごい!」と言われて励まされないわけがない。
 七緒は少しずつ武蔵に惹かれていく。

 このように武蔵は最初から最後まで一貫して「強くなりたい」と言い続けているのだが、父親が鍛練に付き合ってくれなくなってからは、ほとんど我流で稽古をしている。
 「練習は嘘をつかないって言葉があるけど、間違った練習はをいくら続けてもだめ」というようなことをダルビッシュだったか誰だったかが言ってたような気がするが、武蔵はまさにそれなのでは……。私(と長政)がそう思ったタイミングで、武蔵は剣の指導をしてくれる師匠と出会う。
 また、師匠の言葉と七緒からの叱咤によって、武蔵は「父を超える剣豪になる!」という目標を持つ。正直、それでもまだ目標設定がぼんやりしているなとは思ったが、以前の「大剣豪にオレはなる!」よりはよほどいい。剣を教えてくれる第三者(師匠)と、具体的な目標、それから武蔵の得意な努力が揃ったあたりで、七緒も神子として乱れた龍脈を正すことに成功。八葉は一旦解散となり、武蔵は修行の旅に出る。

 ここまでが6章で、7章以降は6章のラストで選んだ相手との個別ルートになる。この時点で武蔵はまだ七緒の事を女の子として意識はしていない様子だが、七緒は「もしや私は武蔵くんのことが好きなのかな」とすでに自覚がある状態だ。
 攻略対象よりも先にはっきりヒロインから矢印が出ているカップリングは、わりと珍しいのではないだろうか。

 そんなこんなで数ヶ月。地上の穢れによって乱れた龍脈は七緒が富士登山までして正したはずなのに、京ではまた穢れが蔓延し始める。この世界の穢れとは病とほとんど同じ扱いだから、放っておくと人がバタバタ倒れる。ヤバい術者にかかれば、穢れを人為的に撒き散らすことが可能という恐ろしさだ。ウイルスをばら撒くようなものであるが、病気と違って薬はない。
 これでは、穢れをばら撒く力があるヤベー奴が一人二人現れるたびに龍脈が乱れて世が乱れるのも当たり前という気がする。穢れを祓う能力がある神子がわりと短いスパンで呼び出されるのはそのためかもしれんと思った。

 とりあえず、穢れで人が倒れているのは京。ということで七緒たちは京に向かう。
 龍穴を通って京近郊の山の中にたどり着くと、そこにいたのは秋も深まる時期に裸で滝行をしている赤毛の男。おっと、これは間違いなく私たちの知る武蔵。そう思ったが、再会した武蔵は服装や髪型がモデルチェンジしていた。コンシューマーの乙女ゲーで、本編中に目に見えて髪型や体型が変わることはあまりない気がするが、この演出は成長過程にある武蔵らしくてよかったと思う。
 七緒たちと武蔵は合流して、穢れを祓いつつその大本(穢れをばら撒いてる人や呪具)を見つけようとする。その過程で武蔵は例の剣術師匠に再会することになる。
 このように武蔵ルートのストーリーは、関ヶ原合戦直前にもかかわらず、各勢力同士の争いとあまり関わってこない。それは武蔵がそういう権力の奪い合いの外にいるキャラだからだと思う。遙か7の武蔵は長政の近習なので、どの勢力に属するのかということに武蔵自身の意思はあんまり関係しないのだ。そういうことを決断するのは主人の長政なので、武蔵が「西と東、どっちがいいですかね?」と悩むことはないのである。

 しかし、そういう「外」にいる奴ほど実は真実に一番近かったりする。
 他のルートではどうなのかわからないが、武蔵ルートのキーマンは武蔵の剣術の師匠。記憶を失っていた師匠の正体は足利輝義であり、しかも彼は人間ではなく怨霊だったのだ。
 呪具の術者が揃うと、生きている人と見分けがつかない状態で怨霊を呼び出すことが出来るのだが、義輝はそうやって呼び出された怨霊らしい。京の穢れは義輝のおまけみたいなものだ。だが、義輝自身は術の過程で自分が何者なのか忘れて、京の穢れに心を痛めている。武蔵は出会ってからこれまで義輝が怨霊だと気づかないま慕っていたのだ。慕っているどころか、武蔵はこの怨霊と「姫様のことが好きです」「それは恋情なのか?」みたいな話までしている。この時の「恋とは?」という問答によって、武蔵は少しずつ七緒への気持ちをようやく自覚し始めるので、義輝はある意味二人のキューピッドみたいなものである。
 霊力の強い五月やあやめあたりならすぐに義輝が怨霊だとわかったかもしれないが、それまではストーリー上うまく対峙が回避されていた。だが、七緒と会って自分の名を耳にしたことで、ついに義輝は自分が何者なのかを思い出す。
 『足利義輝』は、信長によって息の根を止められた室町幕府の13代将軍だ。自分の名を取り戻した義輝は、自分を殺した一族ではなく、あくまで『足利幕府の息の根を止めた織田』に恨みを向ける。しかし元凶の織田信長がいないので、その娘である七緒にその憎しみが向けられたのだ。というか、怨霊化してしまうと理性が吹き飛ぶので、義輝は自身の負の感情を利用された形だ。つまり元凶は、義輝を呼び出した術者、平島義近である。彼は関ヶ原に集結した二大勢力を、義輝という力のある怨霊を使ってまとめて排除しようとしている。その後で足利の世を再び!というのが平島の目的である。

 この時代の面白いところは、足利、織田、豊臣、と政権を担ってきた勢力がまだそれぞれ生き残っているところだ。誰が誰と組んで誰と戦うかによって、一発逆転で政権を取れる可能性がまだ残っている時期なのだ。私たちは「最終的に勝つのが徳川」だとわかっているが、同時代人はどこの勢力が勝ち残るのか固唾をのんで見守っていたと思う。
 私は『平島義近』が実在の人物なのかどうかを知らないのだが、『平島』というからには足利の分家だろうし、本人も「縁者」と言っている。もしかしたら義輝の次に将軍になった『足利義親(義栄)』がモデルなのかもしれない。
 まあとにかく、足利縁者の平島は足利復権を目論んで、武蔵の師匠の義輝を利用しようとしている。しかも平島が撒き散らした穢れで苦しんでる人たちがいる。当然、七緒は平島を止めたい。
 義輝が自分の意志で民を虐げることはないと信じる武蔵は、七緒たちとともに義輝(と平島)を止めに関ヶ原の松尾山に向かう。

 松尾山は各陣営の布陣がはっきりわかる関ヶ原の絶景ポイントだ(とタモリさんが言ってた)。史実では西軍を裏切ることになる小早川秀秋が陣を張っている場所でもある。つまり松尾山は、戦局を見ながら裏切ったり怨霊をけしかけたりするにはぴったりの場所なのだ。

 輝義を媒介に、松尾山にはどんどん怨霊が集まるのだが、武蔵は仲間の手を借りながら義輝と対峙する。八葉が立場を超えて協力するところ、特に朱雀の対である大和と武蔵のやり取りは胸アツだ。
 怨霊化していた義輝は武蔵との一騎打ちにより鎮められ、武蔵はというと、元の穏やかなイケメンに戻った義輝に「オレは姫様が好きです!」と謎の報告。
 これには義輝も困惑、かと思いきや、「さらに励め、武蔵」とのこと。
 も〜〜!! お前らほんと似合いの師弟だよ!!
 義輝じゃなくて七緒本人に告ろうぜ!と全プレイヤーと大和が突っ込んだところで義輝公は浄化される。
 関ヶ原で流れた血の穢れを元に平島が呼び出した外道神もみんなで倒し、その呪詛返しにあった平島は戦闘続行不可に。
 武蔵は散々大暴れした平島のことも否定しないし解き放とうとする。おいおいこんなやべー奴をお咎め無しで野に放とうとすな、と思ったので、平島にちゃんと裁きを受けさせようと言った長政のフォローはよかった。少なくとも私からの好感度が上がった。よし、次の次くらいにはお前を攻略しよう。
 
 ラスト、武蔵は自分の夢(日の本一の剣)を叶えるために武者修行に向かうことに。師匠に報告してしまうくらい七緒の事が大好きな武蔵だが、異世界から来た七緒を気づかってこちらの世界に引き止めることはしない。「オレに付いてきてください」とも言ってくれない。
 もう二度と会えなくなっても、令和の世に帰ることこそが七緒の幸せだと思っているから、武蔵は七緒に「自分のそばにいてほしい」などとは言えないのだ。
 実際に令和の時代に行って快適さを知って、そこを『桃源郷』だと言っている武蔵なので、なおさら七緒をそこに帰してあげなくてはと思ったのだろう。
 しかし七緒はといえば、元の世界に帰れなくなっても武蔵のそばにいたいのである。五月の後押しもあって七緒はこちらの世界に残ることを決意。武蔵を追いかけて「私の話を聞け〜〜〜!!」と自分の思いを伝え、想いが通じ合った二人はともに旅立つことになる。
 これからも二人で笑い合って、支え合って、想い合って生きていくんだろうなと思えるような、最後まで爽やかなストーリーだった。

 個人的に、武蔵ルートは七緒の方からぐいぐい行くところがすごくいいと思う。エンディングで「姫様」呼びを「七緒って呼んで」と変更させたり、自ら武蔵にガシッと抱きつくところなど、「自分から動かないと武蔵とは一生先に進まないかもしれん」と七緒が思ったのかどうかは知らないが、タジタジしているけど嬉しそうな武蔵も積極的な七緒もすごく可愛いと思った。

 そして私は、武蔵が火属性の八葉だというところも好きだ。七緒は本能寺以来火が苦手だからだ。火属性の術を使う武蔵は、彼女を守りたいのに「姫様を怖がらせたくない」と近づくのをためらうシーンがある。それがいいなーと思う。

 さらには「身分差」。長政の従者にすぎない武蔵と、織田家の姫で淀殿のいとこでもある七緒とではれっきとした身分差がある。武蔵が七緒からの恋心に気づかないのは、彼がそういうことに疎くて鈍感なせいでもあるが、「七緒のような身分の人が自分のことを好きになる」という発想がないからだ。令和の世から来た七緒は気にしなくても、武蔵の方は気にするのである。武蔵ルートでは『身分差』ゆえのじれったさも楽しめると思う。

 最後になるが(まだあるのかよ)、七緒を守る形で二刀流に切り替わるところや、武蔵に絵心があるところ、大和と『巌流島』で戦う約束をするところなど、ご本家『宮本武蔵』っぽい部分がちょこちょこ入っているのも面白かった。
 武蔵ルートで足利義輝をラスボスに据えたのも、もしかしたら「宮本武蔵が足利義輝の遺児と交流した」という史実を踏まえてのことかもしれない。
 長い修行の旅の後、強くなった武蔵が義輝の遺児と出会う。
 そういうことがこの武蔵にも起きたらいいなと思うのだ。

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