夏空のモノローグ 全体のまとめと感想
※前置きです。
私はゲームをクリアしたら毎回キャラ別感想の他に全体の感想を書くのですが、良かったなと思った部分だけでなく、ここは好きじゃなかったな、私には合わなかったなという部分も万遍なく書いてます。
これは「夏空」に限った事ではないのですが、感想やまとめなら全肯定してくれないとダメ、作品を少しでも悪く言われたくないという方は退避するか、自己責任でどうぞ。
個人の感想です。
夏空のモノローグは乙女ゲームには珍しく、「科学」「SF」の要素があるゲームである。歴史モチーフの乙女ゲームは数多くあるがSF要素有りは珍しい。
攻略対象は6人で、コンプするには丁度いい数だと思う。それも、親しみやすいタイプの教師、ぶっきらぼうな同級生、天才上級生(メガネ)、クールな下級生、軽くて明るい下級生、物語のキーマンである謎の美形、と押さえる所をきっちり押さえたラインナップである。
シナリオはそれぞれ長いが、軽快な既読スキップ機能があるので、2周目以降はサクサク進めることができる。途中セーブも可能だし、何よりスマホのコンシューマーゲームなので手が空いたときに少しずつでも進めることが出来るのはとても良かった。
ストーリー自体はかなり硬派だ。
もちろん乙女ゲームなので恋愛要素はあるのだが(エンディングでキスはするし)、ときめきや萌えよりもストーリーに重きを置いていると感じた。
メインストーリーの他にも細かいイベントストーリーがあり、クリア後はそれぞれのキャラの過去やその後を読むことができる。「夏空」は、このお値段で遊べるゲームとしてはかなりボリュームがあって充実した内容のソフトだと思う。やりこみ型のゲームではないのだが、ストーリーが込み入っているので、プレイする度に違う発見が出来そうだ。
しかし正直に言えば、万人に対して「これはいいですよ!」と全力でおすすめできる乙女ゲームではないと思った。
なぜか。
まずは「夏空」が完全なノベルゲームだからだ。
ミニゲームや戦闘、あるいはパラメータを上げたり選択肢によって対象の好感度を上げたりといったゲーム性が一切ない。狙ったキャラが出てきそうなイベントを選択していくだけで、いつの間にかそのキャラのルートに入るし、分岐の時にはオートセーブがかかる。プレイヤーはシナリオをタップして読むだけである。
本当に「ノベル」なのだ。
だから、乙女ゲームであってもゲーム性が欲しい方や、ときメモ、アンジェリーク、コルダ無印のようなコツコツ好感度を上げないと先に進まない恋愛シミュレーションを求めている人におすすめできるゲームではない。
これはシナリオがいいとか悪いとかいう問題ではなく、求めるものが違いすぎるという意味だ。
恋愛シミュレーションをやりたい人に、ノベルゲームである「夏空」を勧めても高評価にはならないだろうという話である。
また「ノベル」だからといって、もともと小説が好きでどんなジャンルでもよく読むという人におすすめかといえばそうではない。なぜなら小説が好きな人というのは、恋愛話が読みたければノベルゲームのシナリオではなく恋愛小説を読むからだ。
むしろ「夏空」は、こういう機会でもなければ恋愛小説や恋愛漫画など読まない人や、小説は好きだけどいつも読んでるジャンルがミステリとかホラーとかに偏りがちな人の方が新鮮な気持ちで楽しめるのではないかと思った。
あと、ヒロイン=自分で、普段からデフォルト名ではなく自分の名前で攻略する、いわゆる夢女タイプのプレイヤー向きのゲームではない気がする。
「夏空」はモノローグという形式ゆえに、ヒロインの葵に存在感がありすぎるからだ。
私は元々自分をヒロインに投影しないタイプのプレイヤーなので、ヒロインがどんな女でも構わない。葵と攻略対象の恋愛を見守っていればそれで満足だ。
だが、夢女タイプの場合、これだけはっきりした人格のヒロインだと、自己投影して攻略対象×自分で妄想するのはかなりキツいのではないだろうか。
他の乙女ゲームの場合、デフォルト名すら存在しないときメモは別格としても、ヒロインはそれほどはっきりした個性を持たされていない。CDやイベントやコミカライズによって人格がはっきりしているような気がするだけで、ゲーム内に限れば葵ほどの有人格ヒロインはそうそういないのだ。
夢女タイプのプレイヤーは、葵に自分をどこまで憑依しきれるかが肝だし、デフォルト名タイプのプレイヤーは、葵というヒロインを愛せるかどうか、せめて嫌いにならないかどうかが肝だと思う。
これは葵がヒロインとしてダメだとかそういう事ではない。これだけはっきりした個性のヒロインなので、どうしても好き嫌いが出てしまうだろうという話なのだ。
かく言う私も、葵がループ停止宣言でごねる度に「黙れ!」と苛立った。しかし私が苦手なこのイベントを「葵の気持ちが切ない、泣ける」と判断する人だって必ずいるのだ。
つまり、有人格ヒロインのリスクはそこにある。
また、どうして科学部にイケメン男性部員しかいない設定にしてしまったのだろうか。
葵の事情は重々承知だが、科学部に男性しかいない事によって、彼女が「科学部だけが拠り所」と嘆く度に、その境遇への同情よりも先に「オタサーの姫は逆ハーから出たくないんだな…」などとと思ってしまうのだ。
だから、私は科学部に葵以外の女の子を一人入れてほしかったなと思う。科学部=葵の居場所であるなら、そこに葵を心配してくれる優しい女友達を入れることで葵のオタサーの姫っぽさが無くなる上、葵が科学部に拘る理由も増えたはずだ。共学のくせに男女比がおかしい事が返す返すも残念である。
だが逆に言うと、逆ハーが大好きでそれを求めている人には「夏空」をおすすめできるという事だ。
最後に超個人的な残念ポイントを記す。
これは本当に私の好みの問題なのでスルーしてほしいのだが、キャラデザの話だ。
といってもこの絵柄が嫌だとかそういう話ではない。
ゲーム内で語られる木野瀬の容姿と、そのキャラデザが乖離しすぎだと思う。
木野瀬は事あるごとに「ヤクザみたいな怖い顔」「子どもが泣くほど怖い」「動物も逃げ出す」「睨まないで〜→睨んでねえよ」と強面をいじられるが、どれだけ彼を眺めても全然怖い顔をしていない。傷もなければ眉も剃り落としていない。普通に爽やかでかっこいいスポーツマン顔である。
だから、怖い顔と弄られるドタバタコメディ部分がことごとく滑って笑えず、むしろいたたまれなかった。
木野瀬には、せめて桜井琥一(ときメモGS3)みたいに眉が半分無いとか、火積(コルダ3)みたいにでかい傷をつけて欲しかったと思う。
以上の理由で私は「夏空」を万人に激推しできるゲームではないと思った。しかし、個性の強い有人格のヒロインをある程度受け入れられる人、ゲーム性は無くてもいいと思っている人、乙女ゲームであっても硬派なシナリオを求めている人なら、きっと「夏空」の豊富なミニイベントと凝った構成のシナリオを楽しめるだろう。
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