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リモートワークゆえの郊外拡張モデルに違和感あるんだけど。

先日、仕事関係で見たウェビナーは、いわゆる予想モデル(Forecast Model)を得意としている会社がやっていたもので、この度のパンデミックがどのようにこの先、人の住む場所だとか、交通手段に何を選ぶかなどに影響し、それらの情報をもとに、今後の交通量の分布(?)トレンドを予想する、というようなものだった。

この会社のウェビナーだけじゃなく、外出自粛令が出て以来、自宅からでも十分仕事ができるということが証明された今、毎日仕事場へ通勤しなくていいのではないか、そうすると交通量が減るし、通勤のストレスも減るし、大気汚染は減るし、いいことづくめだから、これからはますますリモートワークが増えるでしょう という予想は何度も聞いた。そして通勤をしなくていい勤務状況になるんだから、仕事場の近くに住む必要はないので、生活費の安い郊外の人口が増加することが見通される、という予想も何度も聞いた。

そうなんだろうか? というか、えぇ、ちょっと待って!そんな予想をしちゃっていいんですか?!とかなり戸惑ってしまう。 

だいたい、都市計画の仕事をしたい、と思って大学院に行った2005年頃、都市計画や未来計画の分野では今までの郊外拡張型の成長の仕方ではサステイナブルではない!という考えが主流だった。実際、今までの 成人した個人は自分の車で移動する というモデルのもとではある程度経済的に余裕ができれば家の値段も安く、治安も学校区も良い郊外に家を買い、そこから自分の車で通勤する、というのが大概の生活スタイルだった。

でも、そんなことを40-50年もやってきたら、道路は常に渋滞してるし、交通事故はアメリカで人が死ぬ原因の#3だし、いくら排ガス規制があるとはいっても大気汚染はあるし、さらには地球温暖化なんて深刻な状況までも作りだして、それに郊外の一軒家というのはご近所付き合いを促進しないデザインになっていて云々(住んでる人の性格ちゃう?とも思うが)、それに新しい家を建てる為に未開の地が切り開かれて自然破壊につながり、と散々ろくなことが無いので、今もう一度都市部に人口が集まるように(人が住むように)足りないものを足してアーバンライフが快適になるようにといろいろやってきたのが都市計画じゃないの。

ロサンゼルスのことしか言及できないけど(ここ20+年すんでるのがここだから)、大学院卒業後についた初めての都市計画の仕事場はロサンゼルスのダウンタウンだった。2007年。初めてロサンゼルスに移ってきた年(1998年)に比べると人がいる感じはしたけど、仕事が終わる5-6時を過ぎると閑散としていて、それこそゴミくずが風に舞っていく、というわびしい風景だった。仕事の後に同僚と一杯飲みに行く、といってもそれらしきバーって数個、かあるいはホテルのロビーにあるようなバーぐらい。みんな必然的に常連になる、というような。2008年には金融破綻からきた経済ショックでさらにダウンタウンはすたれるのかしら、と思われたけど、どっこい建築ラッシュがあったり(こういうのは数年前から建築の計画していたので、今更破産しない限りは遂行するのだそうだ)、家賃が安くなっているのをチャンスと見て廃れていた建物を改築してレストランやバーにする投資家なんかもたくさんいた。そうこうしているうちにダウンタウンには新しい高層のアパートがばんばん立ち、スーパーマーケットもいくつも入り、レストランやバーがたくさんできて、2011年までにははしごして回れるぐらいバーがあった。2011年に自分に息子が生まれて、それまでの飲み歩きが皆無になったので覚えている。

もちろん2007年から2011年のたったの4-5年でそんなに大変化を成し遂げたのは、それよりきっと10年ぐらい前からダウンタウンの活性化、とかいってやってきたおかげだ。今日思いついて明日実現するようなもんではないから。そうやって長年少しづつ築いてきたものが、パンデミックなんかが起きちゃって、国全体で人々の生活習慣が変わり、そしてリモートワークできるから郊外に移り住む人が増えるでしょうって予想。やるせないのだ。

リモートワークについてもかなり複雑な心境だ。リモートワークは散々以前から交通渋滞を緩和する政策としてうたわれてきた。2007年に仕事を始めた時にすでに、なんでそんなに政策として進めるんですか?と聞いたら、勉強不足だと指摘された。それぐらい以前からお役所やリサーチャーはリモートワークを推していたわけだ。でも、雇用者のほうが(これはお役所も含めてだけど)リモートワークだと目が届かないからどう管理していいかわからない(というか信用できないってことだよね)、実際に生身の人間と会って話をするほうがスムーズにいく(それはかなりある)、設備を整える為に回す投資資金が不足ぎみ、とかいろいろな理由でなかなか踏み切らなかったのだ。それがパンデミックになるとほとんどの人がリモートワークになっちゃった。それこそ一夜明けると、ぐらいのスピードで。自分の命や健康が危ない、となると実行に移るの早いってことか。だったら車を毎日運転するのも全国トップ3の理由で死ぬ確率に自分の命をさらしてるってことじゃん、と思う。パンデミックみたいに 今まさに目の前に! って危機感には太刀打ちできないのか。その辺もなんか、みんな現金だよな、と思って斜に構えてしまう。なんにしても、こんなにさっさと国レベルでリモートワークになるんだったらさっさと前からやってりゃよかったじゃないの、と思ってしまう。

なんかね、自分の中でしっくりこないものがあるのよ。今までさんざん人口密度を都市部に集めて、バス電車などの公共交通網を充実させて、都市部での生活スタイルを効率的にすることで、郊外型の開発を避け、自然を守るなんてことをうたってきた人達が、全員ではないけど、手のひらを返したように、今回のパンデミックで起こった人の行動から検証するに、これからはさらに郊外にすむ人が増え、なんて気軽に言っちゃうの。そしてこれは完全に私の懐疑論だけど、そういうシナリオを作ってモデル分析とかやってると、シナリオが現実になるんじゃん、と思う。もうちょっと責任を持って、というかそんな気軽に郊外拡張ケースの予想の話をするのはやめてよ、と思っているのだ。


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