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カミーユ・アンロ個展@NEW MUSEUMが最高だった話

恵比寿映像祭でも展示されてたフランスの女性アーティスト、カミーユ・アンロ(Camille Henrot 1978年生)の個展がNEW MUSEUMで行われてました。これがもうすんばらしかったので細かく紹介します。

まず、カミーユさんがどれだけぶっとんだ人なのかというのは映像"Grosse Fatigue"を見ていただきたい。このエンベッドしたドキュメントでチラチラ見られます。"Grosse Fatigue"は2014年のホール・アース・カタログというか、インターネットと宇宙と人間と動物、すべてがヒップホップのビートに乗って渾然一体となる最高な映像です。スミソニアン博物館で撮影したんだそう。

1.「 Jewels from the Personal Collection of Princess Salimah Aga Khan」

この作品、世界的な超絶セレブである「サリマー・アガ・カーン」というお姫様のジュエリーコレクションがクリスティーズに出品された時のリストの上に、押し花が貼り付けられている。このオークションは1995年にジュネーブのリッチモンド・ホテルで行われたもので、リストはファクシミリで送られていたそう。

リストには「どんな宝石で、何カラットで、おいくらか」という情報が綴られていて、その上に可憐な花々がぺたぺたと貼り付けられている。

ここで、サリマ―さんがどんな方だったのか、をご説明。インド生まれの王妃サリマ―さまはすさまじいセレブ。イスラム教イスマーイール派の分派ニザール派のイマーム(指導者)で政治家のカリーム・アガ・カーンの元夫人。結婚するまではファッションモデルの仕事に就いていた美貌の持ち主。結婚後はヨーロッパの上流階級に属してフランスで暮らし、夏はサルディニア、冬はサンモリッツで過ごす生活。王妃は当時の社交界のスターであっただけでなく、芸術とジュエリーを心から愛し、生涯を通じて見事なジュエリーコレクションを所有していました。とのこと。

こんなの。すげーな。( Van Cleef & Arpelswebサイトより

1995年に離婚してから、王妃はプレゼントされたジュエリーを売り、そのお金をもとに人道奉仕活動をしているそうです。

で、この押し花。これらはカミーユさんがニューヨークで最もリッチなエリアといわれるアッパー・イースト・サイドの植木から盗んだ花たちで作ったもの。彼女が花を失敬している様子は学生カメラマンによってスナップされ、リストに貼ってあります。

ロラン・バルトは「花とはあらゆる無用でラグジュアリーなもののシンボルだ」と言いました。宝石もまた同じく贅沢の象徴であり、「心を豊かにする」という効用はあれど、そのままでは役に立たないもの。そして都会に植えられている花は、飾りであると共に、その場所の階級を表すために使われているもの。カミーユさんはこの階級の壁を超えて植物を取りに行き、宝石のリストの上に貼り付けている。「宝石」も「花」も、典型的な女性性の象徴とされるもの。「富の象徴」であり「ステータス・シンボル」であるこれらが、女性性と必ず結びつけて語られることを考えさせられます。

2. 生花やってました「Is it possible to be a revolutionary and like flowers?」

カミーユさんは以前日本に来た際に「魂を慰める(console the soul)」生け花に魅せられ、先生について習ったのだそう。その腕前を存分に活かした前衛生け花の作品が素晴らしかったです。

コンセプトは「図書館をまるごと生け花に変えてしまう」こと。名著をそれはそれは自由にイメージした生け花が並んでいます。発想のスタートは、生け花に使われる花が、その形と花言葉によって選ばれること。

それぞれの花の名前の通名・ラテン名から喚起されるイメージから構成されています。その名前は、花たちが商業的な目的で改良されたり、薬理的な意味や、たどってきた歴史を示すもの。植民地をテーマにした本であれば椰子の木の枝と上を向いたチューリップを使い、「消費物へのフェティシズム」という本であれば、「フリーダム」という名の薔薇と、3種類のカーネーションで表現されます。どの生け花も、とってもチャーミング。

「ドン・ファンの教え」カルロス・カスタネダ

「サモアの思春期」

「人間不平等起源論」ジャン・ジャック・ルソー

「植民地主義論」エメ・セゼール

「夜の果てへの旅」L=F・セリーヌ

「ポスト・エキゾティシズム」アントワーヌ・ヴォロディーヌ

なんだっけ..読めない..→ 「T.A.Z.」ハキム・ベイとよしずみゆいさんに教えてもらいました!


などなど、カミーユさんは何をやっても最高のアーティストでした。今後の作品も大変楽しみであります。




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