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ロズタリア大陸2作目『その5』

「さて、それじゃ改めて詳しく話を聞かせて貰おうかな??」
どこか物々しさと同時にその場で斬り殺されても文句はいえない雰囲気を放っていた謁見の間とは違い、レイフは城の二階にある要人と重要な話をする執務室に、シェドとシャールヴィの二人を通したのだった。
そうして開口一番、レイフは先程の様子の感想を伝えたのだった。

「いや、まぁ……アーシュからは事前に、近い内に僕のところに自称賢者が元王太子を連れてやってくるんじゃないか?とは聞いていたけどね……?
まさか昔のこと、母上の事を廃太子となったから!って事情もあるかもしれないけど、謝ってくれるとは思わなかったよ」
縄を解かれ、座り心地良い総本革のソファーの向かいを薦められ、腰かけたシャールヴィは思っていた事を改めて表明する。
「廃太子……まぁ、昔に比べて立場的に身軽になった!というのもあるが、たぶん俺は機会があればやっぱり直接、貴方に父の無礼を謝っていた。と思う」
「その後の政務官達の苦労とか考えずに?」
レイフがその対応は統治者として【アリ】なのか?シャールヴィに疑問を投げかける。
真っ直ぐ瞳を見据えて自身の考えをドキッパリと告げる。
「あぁ、理由はどうあれ父が侮辱したのは【事実】だ。
まぁ、息子の俺が仮に謝罪した!としても、言った本人がまだ生きていた場合、台無しにする可能性があっただろうから、なんとも言えないがな」
そうして、統治者以前に人間として【素直に育った】人柄を打ち明ける。
「そもそも相手を怒らせるつもりがなくても、激怒させた!と理解した瞬間、どんな立場であれ、すぐに『謝罪』して撤回するのが女神の下で暮らしている人間として、あるべき生活態度だと俺は思っている」
樫の木で作られた長机テーブル に置かれた冷たい飲み物で喉を潤しつつ、レイフは納得する。
「なるほど。
だから開口一番、あの言葉だったのか……
ちなみにその信念や思想って側にいる少年、賢者の入れ知恵?」
話を振られてシェドは、レイフの隣に座って腕組ながら、自分を睨み続けているアーシュに対して申し訳なさげな表情で、レイフの推測を否定する。
「私の人柄や手口などは、既に公国駐在中の彼女を通して聞き及んでいらっしゃると思います」
「あぁ、なるほどね……」
そんなバカな事をしても、すぐに看過され断罪される。
頭に軽く腕を組んだアーシュがシェドのやり口をレイフとシャールヴィに説明する。
「こいつ、自分が思い描く目的達成のために手段選ばねぇトコあるけどクラヴィスの野郎みてぇな小賢しい事はしねぇよ」
そしてソファの後ろで警護を兼ねて、姿勢良く立ち、静かに成り行きを見守っている補佐官の男性フィンに振り向いて、魔道都市在籍時代に経験した試練の塔の内容を思い出させる。
「ガキん頃、三十階で賢者シェヘラウィードと共闘したの憶えてるよな?」
アーシュ同様、白く長いローブをきちんと皺ひとつなく身綺麗に着用している金髪の青年フィンが、言われて当時受けた試練を思いだす。
「あぁ!
言われてみれば、確かにそうでしたね!!」
優秀な魔道師は最高五十階まである高い塔の中を巡り登る事で、自身が保有している魔術、智力、咄嗟の機転など『試験』という形で他の魔道師に証明してみせる制度、運用をしているのだった。
現在、魔道都市を運用している評議会の議長として就任中のアーシュはわずか十二歳で『試練の塔』を単独踏破、攻略してみせたのだった。

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