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ロズタリア大陸2作目『その32』

『大騒動の後始末』

すったもんだの大騒動から数日後、学術都市を始め、工芸、商業、芸術……全ての都市から【検証チーム】や事件の全容解明すべく【犯罪捜査】の専門家達が続々と医療都市に転移して、大公家の屋敷中をくまなく捜査していた。

中継時には気がつかなかったが、屋敷には蘇生実験用の巨大な地下空間があった。そこには大きな円筒状のガラスの中には、魔道薬に浸された無名の赤子や、臓器部分だけ保管されていたり……
タチアナ妃を蘇生すべく、前段階実験として選ばれた者達の残骸が至るところに『失敗作』として転がり落ちていた。

「これは……思っていた以上に深刻ですね……」
後始末的に来訪、アーシュ達と合流しにきたフィンが予想以上の光景を目撃して、眉間に険しく皺を寄せて一人ごちる。
アーシュが腰に手をやり、協定持ちかけて運用始まってから密かに準備している規模や実験結果だと推測する。
「当主の野郎、あたしらに黙って地下に研究所を作っていたくせぇな……」
ここまで念入りに秘密裏にやられてしまうと、流石に定期訪問や報告書だけでは見抜けなかった。今後、魔道都市で間違いなく糾弾されるだろう展開をフィンが懸念する。
「性善説に基づいた協定内容、活動ですからねぇ~……
根底から覆えされてしまいました。
評議会には、その線で弁論しようと思っています」
バツが悪そうにアーシュが謝罪する。
「悪りぃ……よろしく頼むよ」
フィンが柔和な笑みで造作なさげに回答する。
「いいえ、構いませんよ?
いつもの事ですから」
それに……と付け加える。
「そろそろ、いい加減、奴らと決着つけるべき……
僕にとっても決して悪い展開じゃないんですよ」
凍てついた眼差しで覚悟を告げる様子に、隣にいたアーシュが思わず身震いする。
『こいつ……ガチギレさせた時が怖ぇ~んだよなぁ~……』
どんな手で魑魅魍魎、老獪な評議会議員達を黙らせる?あるいは思うように転がしていくのか??
予想もつかないアーシュは淡々と事後処理的に作業を行い続けている学術都市など検証チーム調査員に協力すべく、補佐官から離れたのだった。

一方、その頃……叔父の悪事を露見させたものの、完全に政治的な後見人を失ってしまったシャールヴィ元王太子は、一旦帰国の途につくコンシュテール公国の近衛達に声をかけられ、寝泊まりしている宿舎に身を寄せていた。
摩訶不思議な聖剣の扱い方など、自分なりに会得したコツや技能を惜しみ無く、教え乞う近衛達に伝授しているのだった。

誠実さを示した事で、ある程度『信用出来る』と当主や政務官達から判断されたのだろう。
政治的な思惑等もあり、週末など休日の夜は、シュテンベイル城の晩餐に呼ばれ、どんな手口に引っ掛かって賭博で負け続けていたのか?
遊戯室でレイドルフ大公や側近の兵士相手にカードゲームや麻雀など、他の兄弟や使用人が見守る中、冷やかし気味に解説を受けていた。
「あ"ぁ"~!?」
そんな簡単な手口だったのか!?
シャールヴィが頭を抱え、絶叫する。
手札のすり替えや、見物客を装った背後の人物は大抵、同席者と共犯(グル)で揃った牌の状況など教えていた。など、実践交えて教えて貰っていた。
机を挟んで向かいのソファに座っているレイフは、シャールヴィの様子を心底、愉快そうに答える。
「アーシュから道中のやり取りは大体、聞いてたけどシャル、君ってホント騙されやすいんだね……」
愛称で呼びあえる程度には親密な関係となっていた。
そうして、レイフの隣に座っている金髪の女性が新婚時代、被害にあったのを明かす。
「そもそも子供時代から散々、訓練して手札を自在に操る!って少しズルイと思うの……!」
少女時代はそんなインチキする人物と交流がなかった。不満げに当時を思い出して、夫であるレイフの頬をむにむに軽く引っ張る。
イカサマの手口など教えられて、いかに自分が未熟だったのか?
思い知ったシャールヴィが、ガックリした様子で肩を落とし絶望する。
「確かに妃殿下の言うように、俺の側にも騙そうと近づいてくる奴は、王太子時代はいなかったな。
政治的な思惑は別にして、な……」
側近として仕え続けてくれていたアレクシスなども自分同様の良いトコのお坊っちゃま。見抜く以前の問題だったのかもしれない。
賭け事はもう二度とやらない!!
固く心の中で誓ったのだった。

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